第百六十九話・袒裼裸裎‼︎ 鳴かずば雉も撃たれまい(賽は投げられた。結果は?)
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はい。
祐太郎が異世界から戻ってきて、三日が経過した。
昨日から新山さんが落ち込んでいるのだが、それはまあ、俺たちではどうしようもない。
とりあえず、励まさねば‼︎
「……でも、これってあんまりですよね?」
「うん、まあ。とりあえず、身分証を持って、称号が変わるように念じてみたら?」
「はい、そうします‼︎ う〜ん、変われ,変われ〜」
祐太郎に言われて、俺と新山さんは身分証の称号欄を見たんだよ。
職業と身分が表示されているっていうから、確認も兼ねて見てみたんだけど。
まあ、こんな感じで俺は予想通りだったよ。
『職業:大賢者/魔導の勇者』
『身分:異邦人/勇者』
これはまあ、納得だったんだけどさ。
問題は新山さん。
『職業:聖女/癒しの勇者』
『身分:異邦人/勇者』
これを見た瞬間に、俺と祐太郎二人で、思わず両肩をポンって叩いてしまったよ。
「……癒しの勇者……ふぁぁぁぁぁ」
「いやいや、新山さんは聖女だから、そっちアピールで行こうじゃないか‼︎」
「明日になったら、きっといいことがあるよ。癒しっていう表現は、ヒーラーとしては最高の職業だと思うよ‼︎」
「はい……前向きに検討します」
ああっ、新山さんがシオシオになっている。
俺的には好きなんだけどなぁ、ダークヒーローだからね。
でも、女性の立場で考えてみると、イメージがエロくなってしまうらしい。
まあ……俺は嫌いじゃないよ、癒しの勇者。
いかにもダークだよね。
そんなこんなで落ち込んでいた新山さんだけど、寝る前に懸命に神に祈っていたお陰で、翌朝には無事に変化していたそうです。
『職業:聖女/慈愛の勇者』
『身分:異邦人/勇者』
「……癒しの女神シャルディ、私の我儘を聞き入れて頂いて、ありがとうございます。さあ、乙葉くん、築地くん、異世界に行きますよ‼︎」
「うん、行くのは放課後ね。まだ朝だからさ」
「そうそう。まだ気が早すぎるから」
まあ、元気になったからヨシ。
放課後になったら、ラナパーナ王国に向かって、最後の調整を行わなくてはならないからね。
………
……
…
「しっかし、相変わらず簡単に鏡刻界に向かうものじゃなぁ」
ラナパーナ王国に向かうため、妖魔特区の水晶柱へとやってくる。
どこで噂話を聞いてきたのか、妖魔特区入り口ゲートには、大勢の報道関係者が集まっているじゃないか。
「KHK放送ですが、異世界に向かうと聞きました。もし宜しければ、取材として同行したいのですが」
「大日放送です。取材同行の許可はもらってありますので、是非ともお願いします」
「旭日放送です。異世界に行くと聞きましたので、準備をしてきました」
うん。
同行のお願いならまだ理解できるよ?
許可をもらったから?
誰から?
そして旭日放送、手前は何を考えている?
準備?
「……はい、一切合切お断りします。なんで取材に行けると思っているんですか?」
「我々は、正しい情報を国民に届ける義務がある、まだ君たちは分からないだろうけど、そういうことなのだよ?」
「はぁ……オトヤン、新山さん、こんな奴ら無視していくぞ。取材に行きたいなら勝手に行けばいいさ。俺たちが連れていく道理もなければ、奴らの安全を保障する必要もないからな」
「そうだな。という事ですので、行きたければお勝手にどうぞ」
「それでは失礼します」
軽く挨拶をしてから、俺たちは札幌テレビ城まで移動する。
しっかし、ここって、来るたびに増改築されているんだよなぁ。
付近の崩れたビル群の廃材を集めてきて、綺麗な石垣を形成しているし。
なんというか、実に前衛的だよなぁ。
「ほう、今日は随分と大勢じゃないか?」
「……はぁ、やっぱりこうなりましたか」
すでに白桃姫と瀬川先輩は、水晶柱の手前で待っていた。
そして俺たちの後ろからは、ゾロゾロと報道関係者がついてきている。
「そこの者たちよ、一体誰の許可を貰って、この大通り一丁目領に入ってきているのじゃ?」
少しだけ真顔で、白桃姫が報道関係者に睨みを効かせる。
「誰にって、ここは公共区画じゃないですか?」
「違うな。この大通り一丁目区画は、我がピク・ラティエ領じゃぞ? しっかりと北海道の知事とやらから貸与されておる‼︎」
──バッ‼︎
素早く懐から書類を取り出す白桃姫。
それを見た報道関係者は、後ろに下がってヒソヒソと話をしている。
「あの、我々はですね、乙葉浩介くん達が異世界に向かうということで同行するためにやってきました」
「そうなのか?」
「さぁ? 俺たちはとっとと行きますので」
──シュッ
空間収納から鍵を取り出すと、いつもより魔力を込めていく。
そして水晶柱に鍵を突き刺すと、詠唱を開始する。
「限定解放……必要魔力100。転移門オープン……解放‼︎」
──カチィン
鍵を回して扉を開く。
その向こうには、異世界が広がっている。
「そんじゃ行きますか」
「じゃあな」
「みなさん、それでは失礼します」
「ではでは」
俺たちは魔術研究会メンバーが扉を越えると、報道関係者が慌てて走り出す。
そして開いている扉に飛び込もうとして、見えない壁に阻まれた。
『お、乙葉くん、我々は通れないのだが‼︎』
『早く通れるようにしたまえ‼︎』
「いや、異世界の扉って、魔力が100以上ないと来れないの、知らないのですか?」
「取材先の情報ぐらい、先に調べておけよな」
「それでは、失礼しますわ」
──ガヂィン
振り向いて鍵を回す。
これで扉は消滅したので、あとは王城へと向かうだけ……って、ここは何処?
「街道だねぇ」
「あちらに街が見えますよ?」
「築地くんが以前来た時は、この場所だったのですか?」
「い、いや、俺が来た時は、まだ町の中だったけど」
「ふぅん。水晶柱の開く座標が、少しずつだけどズレているんだろうなぁ」
以前白桃姫から聞いた、二つの世界の軌道。
これの距離が離れ始めているので、段々とターミナルの開く場所がズレ始めていると予測できる。
「まあ、方角はあっちだし、あの王城見えるからさ。王都正門を通らないとならないんだろうけど、俺たちには身分証があるから」
「今回は、私もそれをもらう必要がありますからね」
「そういうこと。なので、ここからの道案内は、ユータロにお任せしますわ」
各々が魔法の絨毯と魔法の箒を取り出し、のんびりと街道を進む。
こういう時、以前作ったものの、使うことなく死蔵されているゴーレムホースを使うという手もあるけどさ、あれもこっちの交渉材料に使えるからさ。
「しっかし、長閑だなあ」
「本当ですね。そのうち時間がいっぱい取れたら、こっちの世界で旅をするのも良いですよね?」
「単位さえ取れれば、私は問題ありませんわ」
「でもさ、こういうのんびりした時って、いきなり盗『言うなオトヤン』族って、おおう、フラグか」
危ねぇ危ねぇ。
フラグが成立するところだったよ。
そんなこんなで30分ほど安全運転で飛んでいくと、王都正門まで辿り着いた。
俺たち三人が身分証を出して提示し、瀬川先輩については俺たちが保証人になることで正門を突破。
何人かの商人が、俺たちの乗っている箒や絨毯を売って欲しいと話を持ちかけてきたけど、丁寧にお断りして。
「そんじゃ、高度を上げていきますか‼︎」
すぐさま高度を上げると、王城へと一直線‼︎
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「なぜだ、どうして俺たちはここを通ることができないんだ‼︎」
「いつもいつも、あのガキどもばっかり面白い体験をしやがって」
「小柳さん、あなたが異世界に行けるかもって情報をくれたのに、話がちがうじゃないですか‼︎」
乙葉たちが異世界に向かってから。
白桃姫と彼女の配下の魔族により、報道関係者は全員、大通り一丁目区画から出されてしまう。
なお、外からカメラを回す程度は許可してもらったので、あちこちでカメラを設置して巨大水晶柱を映しているところである。
その場所に、国憲民進党の小柳真二郎がふらりとやってきて、ここで何が起こったのかようやく事情を理解したようである。
「はぁ? 話が違うも何も、私は行けるって話した覚えはありませんよ。『いけるかも』ですし、皆さんはちゃんと彼らと交渉しましたか?」
いくら魔法が使えるとはいえ、相手は未成年。
上手くまるめこんで、同行できれば程度でやってきたのであって、何処の放送局も交渉などしていない。
「いや、しかしだな」
「しかしも、カカシもありませんよ。なんでこう、手順を飛ばすのですか。その辺り理解できませんよ」
堂々と告げてから、小柳は大通り一丁目区画に足を踏み込む。
すると、入り口に立っていた魔族が小柳に近寄って。
「許可は受けてますか?」
「ええ。こちらを」
小柳が懐から出したカード。
それを確認すると、魔族が小柳に頭を下げる。
「では、こちらへどうぞ」
「え? こ、小柳さん、ここに入る許可をどうやって?」
「どうにもこうにも、蛇の道は蛇ですよ。それでは」
「同行させてください‼︎」
「いや、ウチが同行する‼︎」
「旭日放送は黙っていろ‼︎」
なんやかんやと騒がしいが、そんな喧騒は無視して、小柳は入っていった。
………
……
…
「なんじゃ、またお前か。ここに来る許可は、誰からもらったのじゃ?」
「こちらです」
そう告げつつ、先程提示したカードを白桃姫に見せる。
「ブレインジャッカー。ああ、二代目魔人王の配下の魔族か。この紋章を出すということは、魔族としての正式な客として扱ってやろう」
小柳がブレインジャッカーこと人魔・陣内から受け取ったカードは、魔族が発行する身分証。
爵位持ち貴族が発行する、自分の魔力を込めて書き込んだ『貴族家紋章』と、客として扱ってほしいという一筆が認められている。
「ありがとうございます。それで、本日伺ったのは、他ではありません。白桃姫さまから、乙葉浩介たちに『異世界へ向かう門』を開くようにお願いして欲しかったのですよ」
「……その話か。本来なら、その話が出た時点で叩き出すところじゃが。ブレインジャッカーは、なんと申しておった?」
「まずは、異世界が本当に存在するという証明をと。向こうの世界での交渉その他はまだ早すぎると。その上で、私自身が、今回の選挙での『異世界政策』の目玉として使いたいと」
解散総選挙を見越して、小柳も色々な手を打ち始めている。
まずは、自分が生き残るため。
ぶっちゃけると、彼にとって政党など必要はない。
あの国会議事堂攻防戦の折、彼は特設本部で燐訪を間近に見ていたのである。
その結果、彼は、離党届を出す準備を始めている。
もう、国憲民進党は終わりだと。
「ふむ。貴様はあれか? 築地晋太郎とは敵対するものか?」
「まあ、以前はそういう組織に参加していましたが、今は中立ですね。寧ろ、魔族とは共存共栄できたらなぁと、考えています」
その話を聞いている最中、白桃姫はじっと小柳を観察している。
(思考誘導の癖もない、洗脳反応もなしか。まあ、妾たちの敵にならぬのなら、別に拒絶する必要はあるまい)
彼は危険ではない。
正々堂々と、しっかりと手順を踏んでやってきたのである。
「考慮しておこう。領内の魔族に通達。このものの出入りは自由とする」
その言葉を聞いた側近魔族が、頭を下げてさがる。
小柳真二郎は、議員としては数少ない『白桃姫の信用』を得ることができたのである。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。