第百六十八話・挙措失当? 大吉は凶に還るかもしれない(テンプレートは忘れない)
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週日曜日と火曜日、金曜日を目安に頑張っています。
一方。
異世界・鏡刻界にたどり着いた祐太郎はというと。
王都・王城前街道に出るはずが、実に微妙な場所に出現していた。
「……見事なまでに、座標が狂っているなぁ」
街の中、商店街と言う感じの場所。
左右にはさまざまな商店が並び、大勢の人々が行き来している。
道幅はそれほど狭くもなく、乗合馬車三台分よりも少し広い程度。
「さて、王城はどっちの方向だ?」
街道の前後を確認するように見渡すが、それらしい大きな建物が見当たらない。
と言うよりも、この辺りの建物が大きすぎるので、影になっている可能性もある。
──ドン
そんな感じでキョロキョロしているものだから、地元の人間ではないとあっさりバレるわけで、そうなるとタチの悪いチンピラや犯罪者たちがカモにするために近づくのは、異世界ラノベのお約束。
まあ、わざとぶつかってくるわな。
「邪魔だ、隅っこを歩きな‼︎」
「あ、これは失礼。ついでに懐を探ったようだが、あいにくと何も持っていなくてな」
ガッチリとチンピラの腕を掴む祐太郎。
すると、建物の物陰から、やはり禄でもなさそうな男たちが姿を表すわけで。
「おうおう、なんだにいちゃんよ。お前、俺たちにイチャモンつけようって言うのか?」
「これは、おとしまえをつけてもらわないとならないよなぁ」
「旅人か? それとも流れの冒険者か?」
「冒険者ではないなぁ。登録もしていないし、する気もないし」
「そうか。まあ、珍しい服を着ているようだから、それで勘弁してやるよっ‼︎」
「この辺りじゃ見ない、上等の服を着ているみたいだし。地方貴族の跡取りか何かか?」
──ガギッ‼︎
素早く殴りかかってくる男たちだが、全てを詠春拳で受け流し、相手のバランスを崩して顔面スレスレに拳を叩き込む。
腕を背中に回されて固めてやったので、チンピラたちも抵抗できる状態ではなかった。
「い、イテェ、なんだこいつ、変な技を使いやがって‼︎」
「変な技って……ただの護身術の延長だ。それよりも、誰でもいいから騎士団なり自警団なり、呼んできてくれるか?」
「お、おう、任せろ‼︎」
祐太郎とチンピラの喧嘩を見ていた野次馬の一人が、慌てて走っていった。
その間に、祐太郎は闘気錬成をおこなうと鞭のように変化させ、チンピラたちを次々としばき倒す。
闘気鞭の副次効果により、チンピラたちの運動中枢を一時的に麻痺させた。
「闘気縛鎖……と、これで動けないだろう?」
「な、なんだ、体が痺れて動けない」
「貴様ぁ、何をしやがった‼︎」
「俺たちを誰だと思っていやがる‼︎ この界隈を取り仕切っているマクファーソン一家だぞ‼︎」
「知らんわ……と、来たか」
人混みをかき分けながろ、二人の騎士が駆けつけてくる。だが、祐太郎たちの様子を見て、思わず苦笑いしてしまっていた。
「このチンピラに襲われた。処分してくれるか?」
「いや、それはできないな。こいつらはマクファーソン一家のものだ、迂闊なことをしたら報復があってだな……」
「それよりもお前こそ何者だ、ことと次第では、貴様を捕らえなくてはならない」
「はぁ? ここの騎士はあれか? 地元のチンピラと癒着しているのか?」
「き、貴様、我ら騎士を侮辱するのか‼︎」
いきなり抜剣して身構えた騎士。
そして俺の後ろでは、チンピラたちがニヤニヤと笑っている。
「騎士さんよぉ、どう見ても俺たちが被害者だよな?」
「そいつをぶち込んでくれ。ああ、賠償金はたんまりと支払ってもらうからな」
「あとでマクファーソンさんにも報告しないとなりませんからね」
ヘッヘッヘっと笑うチンピラ。
そして目の前では、明らかに敵対意思を示している二人の騎士。
「いやぁ。面倒だから、もういいわ。そこの騎士、すまないがラーラ・ルンバさんを呼んできてくれるか?」
「な、なに?」
「ルンバ卿の知り合いだと?」
祐太郎がラーラ・ルンバの名前を出した瞬間、騎士たちの様子が豹変した。
さっきまではチンピラの仲間のような素振りだったが、いきなり態度が軟化する。
「まあな。ほら、これが俺の身分証だ。そう言うことだから、すぐに、ここに、呼んできてもらえるか?」
ルーンブレスレットから王城発行の身分証を取り出して提示したら、突然二人の騎士は納刀して姿勢を正し、敬礼した。
「少々お待ちください‼︎」
「このチンピラたちは、こちらで処分しておきます‼︎」
「大変失礼しました‼︎」
突然、騎士達の態度が豹変する。
そしてチンピラたちをつれていこうとしたんだが、また裏で何かされても面倒だからなぁ。
「あ〜、済まないけど、こいつらはルンバさんに直接渡すから、そのままにしておいてくれるか?」
「「「はいっ‼︎ 了解しました」」」
「「「「「なんだと‼︎」」」」
ゲェッと気まずそうな顔をするチンピラだけど、悪いが容赦する気はないんでね。
そのまましばらく待っていたら、馬に乗ったルンバが部下を連れてやってきた。
「ほう、高位の魔闘家が俺を呼んでいたと聞いたので、まさかとは思ったが。確かツキジ卿だったかな?こいつらは?」
「俺に絡んできたチンピラで、マクファーソン一家の若い奴ららしいんだが」
──ニイッ
俺が説明すると、ルンバさんは鬼の首を討ったかのような笑みを浮かべる。
「そうかそうか、そう言うことか。これは色々と面白いことになったなぁ。本部詰所まで連行しろ‼︎」
ルンバの掛け声で、騎士達は一斉にチンピラを連れていく。
「君たちも、連絡ご苦労であったな」
「あ、ルンバさん、そいつらはマクファーソンと裏でつるんでますよ。報復が怖いかどうか知らないけど、俺を捕まえようとしましたから」
「「「あ」」」
「よし、こいつらも連行だ。素直についてくるよな?」
ルンバが睨みつけると、騎士達も頷いて腰の剣を騎士達に手渡す。
「さて、ツキジ卿は私についてきてくれるか? 今頃、王城に出した使いも到着しているはずだからな」
「そうっすね。それじゃあ、ついていきますわ」
──シンンッ
ルーンブレスレットから魔法の箒を取り出すと、俺はルンバさんの後ろをのんびりと飛んでいく。
街ゆく人たちは俺を見て驚いているけど、まあ、今だけは優越感に浸るとしよう。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
後ろから商人のような人たちがついてきて、俺の乗っている魔法の箒について聞いているが、適当に相槌を打って誤魔化しておく。
そして王城に到着すると、真っ直ぐに謁見室まで案内されたんだが。
すでにマリア女王とフリューゲルさんが、ソワソワしながら待っていた。
「ツキジ卿、よくぞ参られました」
「私たちは、異世界の勇者を、歓迎する」
「え、本気で勇者認定なの?」
「当然。ツキジに渡した身分証にも、勇者の紋章とジョブが浮かび上がっているはず」
まじか‼︎
慌てて身分証を取り出して確認したが、たしかに俺のジョブが変わっていた。
『職業:魔闘家/闘気の勇者』
『身分:異邦人/勇者』
待て、これってステータスも変わっているのか?
慌てて確認したら、同じ表示が浮かび上がっている。
そっか、身分も勇者なのか。
「それで、今日はどのような用事?」
「オトヤン達と話し合ったのですが、実はですね」
ここからは、オトヤン達との話し合いで決まったことを連絡した。
ミスティ魔導商会や冒険者ギルドにも協力を求めたいところなので、その旨を伝えたのだが。
「ふむ、フェルデナント聖王国の騎士達を捕縛し、この国に送り出すということか」
「はい。そのために力を貸して欲しいのです」
「フリューゲルよ、どう思う?」
「ん……冒険者ギルドへ依頼を出すのは、王家で出せば問題はない。ただ、現地人であるツキジ卿とオトハ卿はどうするの?」
「どうするのと言いますと?」
ちょっと考える。
ああ、俺たちは戦闘に参加しないのかっていう事か。
全て任せて、最後だけ転移のために顔を出すのも、確かに違うよな。
侵略者が鏡刻界の人間たちであっても、俺たちの世界の問題だからな。
それに、第六課として参加するのなら、燐訪総理代理も何も文句は言えないだろうさ。
「俺たちも参加しますよ。さすがに、何もかも任せるというのは、筋が違いますからね」
「そうしてくれると助かる。こっちに連れて帰ってきたら、記憶を操作してこっそりとフェルナンド聖王国に送り返す」
「はぁ、そんなこともできるのか……って、魔族の陣内も、同じ能力を持っていたらな」
「魔族に知り合いがいるのか?」
「ええ。今回、ここと俺たちの世界を結ぶ水晶柱の管理人みたいな魔族がいますよ。現十二魔将の、白桃姫……怠惰のピク・ラティエだったかな?」
そう説明すると、女王もフリューゲルも、頭を抱えそうになる。
「魔大陸の、侯爵女王。まさか君たちに、怠惰の氏族の知り合いがいるとは……」
「あら? そうなりますと、もう大侵攻が起こったのですか?」
「いえいえ、実はですね,カクカクシカジカということがありまして」
掻い摘んで説明し,転移門はオトヤンが再封印したことも伝えた。
「ん……やっぱりオトハ卿は、桁違い」
「それじゃあ、今回の協力の件は、ラナパーナ王国王家が協力を約束します。そうね、四日、待ってくれるかしら?」
「それじゃあ四日後に、もう一度来ますよ。そうそう、これをミスティ魔導商会に卸して、それで報酬を支払うってできますか?」
──ゴトッ
ルーンブレスレットから魔法の箒と魔法の絨毯を取り出して、フリューゲルに手渡す。
すると、彼女も女王もキョトンとした顔になっている。
「上質なタペストリー?」
「それと、普通の箒….まさか?」
すぐさまフリューゲルが二つを鑑定したらしく、震えながら絨毯を広げて上に乗る。
──ス〜ッ
そしてゆっくりと絨毯が浮かび上がった時,女王も目を丸くし、口をパクパクと開いている。
「そ、そんな、嘘でしょ? 失われた魔術が、こんなところで」
「わかった、ミスティには回さない、私が買い取る」
「だめよフリューゲル、王家が二つとも買い取ります‼︎」
「ダメ。宮廷魔導士の、私のもの」
「あ〜、オトヤンに追加で作って貰いますよ。それで良いですか?」
「「作って?」」
あ、やっべ。
余計なことを言った気がする。
「これは、オトハ卿が作ったのか?」
「ここだけの話な。でも、素材が足りないとか言っていたような」
「何が足りない?」
待て待て、そこで食いつくな。
ええっと、確か、魔晶石がいつも足りないんだよな。魔石も少ないと言っていたし。
「魔石と魔晶石が必要でして」
「今、持ってくる」
そう告げて、フリューゲルが一旦、席を立つ。
さて、それまで待っていましょうかと思ったんだけど,女王が俺のルーンブレスレットをじっと見ている。
「ん? これかどうかしましたか?」
「先ほど、そのブレスレットから魔導具を出しましたよね? それはひょっとしてアイテムBOXですか?」
「ええ。因みにこれは、オトヤンが作ったものではないので、そこは期待しないでください」
「そうですか。それは残念です」
ガッカリした顔の女王。
本当はオトヤンが作ったんだけど、そこまで教える義理はない。
そして少し経ったとき、フリューゲルが大きな箱が乗っている魔法の台車をス〜ッと押してきた。
空中に浮かんでいるのか、これは凄いなぁ。
「これは、オトハ卿に渡して欲しい。魔石と魔晶石を30個ずつ、純魔晶石を8つ、魔導結晶体が2つある」
「はいはい。そんじゃ、箒と絨毯をあと一つずつ作って貰ってきたらいいんだな?」
「「二つずつ」」
「あ、イエッサ。そんじゃ、そろそろ扉が開くので、今日はこれで失礼します。ギルドの件、宜しくお願いします」
「ええ。四日後までには準備をしておきますので」
「箒と絨毯、楽しみに、待っている」
これで今日の話し合いは終了。
あとはオトヤンのゲートが開くのを待って、札幌に帰るだけだな。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
約束の時間が来たので、水晶柱に鍵を差し込み、扉を開く。
──ガチャッ
「よっ、定刻通りだな」
「アラームを仕掛けておいたから、問題はない。それで、話し合いはどうだった?」
まずは状況報告を受ける。
そこで、四日後までには準備を終えてくれるという話になったことを聞いて、思わずガッツポーズだよ。
「それでな、魔法の箒と魔法の絨毯を、あとニセット欲しいって……」
「ん〜、キッツイなぁ。ミスリルとかはまとめ買いしてあるんだけど、魔晶石がさ」
──ゴトッ
そう話していると、祐太郎が木箱を取り出して、俺の目の前に置いた。
「これは?」
「フリューゲルから、オトヤンにだってさ」
「へぇ……って、うわぁぁぉ、マジかぁ」
箱いっぱいの魔石と魔晶石、純結晶まであるじゃないか。それに、見たことのない綺麗な石まで入っているし。
「ほうほう、また珍しいものを持ってきたのじゃな」
「「知っているのか雷電‼︎」」
「妾は白桃姫じゃよ? それとも、はわわ〜、お母さんって呼んでもいいのよって言って欲しいのかや?」
いや、それぐらいはわかっているけどさ、ここはなんというか、そう言わないとならないような気がしてね。
しかも白桃姫の返しは、俺も祐太郎もわからん。
なんだろ、気になるのだが。
「まあ、ええわ。こいつは魔導結晶体と言ってな、妾たち魔大陸の工匠が、喉から手が出るほど欲するものじゃよ」
「ふぅん。何に使うんだ?」
「ズバリ、飛行船じゃよ‼︎ この魔導結晶体一つで、魔石一万個分の出力と、魔晶石6500個分のキャパシティを持っておる」
「……は?」
やばい、一瞬だけ思考が止まった。
そんな凄いものを、俺が貰っていいのか?
「なあユータロ、これは俺がもらっていいのか?」
「オトヤン、俺たち用の飛行船が作れるぞ‼︎」
「あ、ユータロの中では、貰うことは確定なのか。そんじゃ、ありがたく貰って、作業を再開しますか、明日から」
もうね、日が暮れてきてさ。
そろそろ帰宅タイムなのよ。
そんなこんなで、明日はここで結界発生装置の改良版の作成を続行。
他のメンバーにも、何かするのか聞いておかないとならないよね。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
・今回のわかりづらいネタ
魁、◯塾




