第百六十七話・目指せ洽覧深識、何人寄ったら文殊の知恵?(作戦開始のその前に)
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俺のとんでも作戦の説明から二日後。
特戦自衛隊は包囲網を拡大し、次の作戦のための準備を始める。
そして騎士団は、魔法師団による結界が張り巡らされ、自衛隊のグレネード対策も開始。
結界の中で体を休め、次の抵抗戦のための意欲を高めている。
二日前の攻防戦では、その責任追及のために急遽国憲民進党本部での会議も行われたものの、燐訪総理代理は表に出ることなく、終始、官房長官が弁明を行い続けていた。
記者の中には、俺たち高校生チームに助力を求めたのかという追及もあったものの、未成年にそのようなことはできないと矛先を切り替えながら、この後の作戦で被害者を取り返すとも話をしている。
………
……
…
「……ざ、在庫切れ……」
この二日間は、魔法の絨毯と魔法の箒、魔法のスノーボード、魔法の自転車を作って疲れ切ったわ。
因みに今回は、市販用タイプということもイメージしたので最高速はリミッターを設けて、バイクと同じくらいに設定した。
搭乗者の魔力量に比例して、最高速度が上がるようにしたので、頑張って修行してね。
ちなみに代価については、あらかじめ新山さんに説明をお願いし、各種買取可能物品での納品にして貰った。
それで材料費を賄って、俺が作った廉価版の『空飛ぶシリーズ』。しっかりと登録用の書類を貰ってきて、製作者のところに俺の名前とハンコも押した。
これがないと、『魔導具による飛行免許』のナンバープレートが交付されないんだよ。
免許については、先輩たちは二輪免許を持っていたので、実技講習と追加の学科講習のみ、リナちゃんと沙那さんは手稲の運転免許試験場に行かないとならない。
「……オトヤン、大丈夫か?」
「魔石がない。あと、ミスリルの値段が上がっていた。マヨネーズを12ケース納品して欲しいって依頼があってだな、なんでマヨネーズなのか理解に苦しむ。飲むのか?」
「飲むわけないよ? マヨネーズは調味料だよ?」
うん、新山さん。
世の中には、マヨネーズを飲む人もいるんだよ、信じられないだろうけど。
「そ、それで、完成したのか?」
「私たちの魔導具。ほら、魔法もここまで成長したよ?」
──ブゥン
高遠先輩と美馬先輩が、指先に魔力を集めて灯した。さすがは魔力値が高いだけあって、見事である。
その後ろでは、リナちゃんが魔力玉でお手玉しているし、沙那さんは体内に『魔力ジェネレーター』を追加搭載してもらったらしく、両手に魔力を集めている。
「見事だわ。ということで、こちらが商品です。持ち運びが大変だと思うので、収納バッグも作ったので、どうぞ。これも予算内ですから」
肩掛けバッグを全員に手渡し、しっかりと盗難防止用の魂登録を行なっておく。
それを手渡して、登録用書類も渡すと、先輩たちは速攻で帰宅、今日中に登録を終わらせてくる気らしい。
リナちゃんと沙那さんは収納バッグを前にグヌヌ状態、免許がないと乗っちゃダメだからね。
「さて、俺たちはどうするかだよなぁ」
「オトヤン、この前の話で、フリューゲルさんたちにも助言をもらってきたらいいんじゃないか?」
「あ、私は夕方から、家族で出かけますので、今日は同行できません。したかったけど」
「まあ、それは構わないと思うよ……急ぎなんとかしないと、騎士たちもかなり知識を身につけているからさ」
──ピッ
部室内のモニターをつけて、YouTubeに切り替える。
ちょうどライブニュースが流れているので、そこに切り替えると、ターミナル周辺を結界で包み込み、そこで体を休めている騎士たちの姿が映し出されていた。
「完っ壁に、篭城戦のようになっているなあ」
「魔法以外で破壊不可能な結界だろうなぁ。あれって、どんな、術式なんだろう?」
魔導書を取り出して、それらしいものを探してみるのだが、該当する魔法がない。
プロテクション系でもなければ、結界系とも思えない。それ以外に、俺の知らない魔法があったとは。
「う〜ん、わからないよなぁ。ユータロ、あれって闘気系?」
「いや、闘気ではあそこまで大きなものは作れないな。どっちかっていうと、新山さんの管轄じゃないのか?」
「え? 私ですか?」
そう話を振られて、新山さんもジーッと画面の向こうの結界を睨みつける。
俺の天啓眼で確認したいところだけど、近くまで行かないとならないからなぁ。
「うーん。ひょっとしたら、神聖魔法の、『神の見えざる壁』かもしれません」
「それって?」
「魔法のプロテクションフィールドと同じだそうですが、神の加護によるものだそうです。私はプロテクションフィールドがわからないので、そう説明されたとしか言えませんけど」
あー、範囲型防御壁のことか。
なんて簡単な、それでいて単純に強いものを。
あれは強度的にはかなりのもので、注ぎ込む魔力を調節して強度と持続時間を調節できるだけでなく、トンネルみたいに出入り口も作れるんだよ。
「そういうことかぁ。神威の壁で守っていて、出入り口も自在に作れる……え? まてよ?」
そうか。
魔力によって強度が変更できて持続力もあげられる。出入り口も作れるということはだ、この魔法で結界装置を新たに作り出せば、妖魔特区内の隔離区画も作れるんじゃないか?
「どうしたオトヤン?」
「乙葉先輩、大丈夫? お父さんが何かひらめいた感じと同じ雰囲気なんだけど」
「え、何かあったの?」
「もぐもぐもぐもぐ……」
おおおお、心配してくれるのは祐太郎と新山さんか。そして沙那さん、そんなに俺って、マッド錬金術師な雰囲気満載? リナちゃんはまあ、いつものペースというか、だんだんとわかってきたわ。
「例の結界だよ、そうだよ、プロテクションを強化して永続化、魔導具によって外部から作り出す。必要魔力は、あの膨大な魔力が溢れている妖魔特区の大気から抽出、これだよ‼︎ ちょっと開発してくる」
「待て待て、それなら、白桃姫のところで頼むわ。俺がオトヤンの代わりに、姫さんとフリューゲルに話を通してくるから」
「時間短縮か。それで、俺がターミナル経由で扉を開けばいいんだな?」
「二時間後に、もう一度開けてくれればいいから」
「よっしゃ、そんじゃあ移動開始と行きますか」
話はと終わった。
いや、最近はとんとん拍子て話が進んで、いい傾向だよなぁ。
もう少しの辛抱だから、特戦自衛隊の方々は頑張ってください。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
──ガチャン
早速、魔法の箒で移動開始。
リナちゃんと沙那さんは、妖魔特区内で飛行訓練をするらしいので、一緒に移動。
そして真っ直ぐに白桃姫のもとに向かうと、一気に状況を説明して、ターミナルを開く。
「よっし、これでいけるわ」
「ユータロ、サンプルで魔法の箒と魔法の絨毯を持っていってくれ。時間が足りないからミスティ魔導商会に行けるかわからないけど、余裕があったら事情を説明して買取可能か聞いてきてくれ」
「うむ。そんじゃ行ってくるわ‼︎」
──ブゥン
笑顔で異世界に向かった祐太郎。
まあ、大丈夫だろう、祐太郎だし。
勇者の加護持ちだから、問題ないよね。
「さて、それじゃあ魔術式の構築から開始しますか」
──パン
軽く両手を叩いて気合を入れると、指先に魔力を込めて空中に呪文式を構築する。
新山さんから聞いた『神の見えざる手』の術式を展開して、そこに『フィールドプロテクション』を重ねる。
重複部分の分離と修復、神に問いかける部分は問いかけ先の名称変更。
強度増幅と持続時間の自動延長、さらに魔力吸収回路も組み込み、必要に応じて扉を生成する術式は忘れない。
──ゴゥゥゥゥゥゥ
指先でいくつもの術式を組み上げては、立体構造に積層化していく。
円柱状に伸びた術式を、繰り返すために捻り込み、前後の結合。まるでメビウスの輪のような立体術式が出来上がった。
「うわぁ、白桃姫さんから連絡を受けて駆けつけたのですが、またとんでもないものを作りましたわね」
魔法の箒で飛んできたらしい瀬川先輩が、俺の横に立って深淵の書庫を発動した。
「あ、先輩、ちわっす」
「はい。こんばんは。それよりも、白桃姫さんから聞いた話では、まさかこんなことになっているとは思いませんでしたわよ」
「まあ、思いついたのがチャット前ですから」
「それにしても、白桃姫さん、ここにラナパーナ王国の冒険者たちがやって来ても大丈夫なのですか?」
「フリューゲルとかいうエルフとは違い、何食っても大丈夫なのが冒険者じゃからなぁ」
うわ、とんでもない偏見。
まるで冒険者が強面で豪快で、愚直すぎて好きな女性をなかなか誘えなさそうなイメージじゃないか。
しかも冒険者やっている裏では、街でハンバーガーショップやの店長をやっていそうな。
まあ、そんな偏見は置いておくとして。
「これで完成?」
「まあ、そんな感じです」
「二箇所の誤りがありますわ」
──ブゥン
深淵の書庫を展開して、指定場所を指さされた。
「おあ、これはまずい、こんなところに落とし穴が」
「ええ。どう修正したらいいかわかりませんので、そこはお任せしますわ」
「了解です、一旦、記憶水晶球に記憶……同時に魔導書に書き込んで……再展開‼︎」
──シュゥゥゥゥ
立体複合魔法陣を開き直し、修正。
そして再度の結合により、どうにか形にはできた。
「さて、こんな魔法陣を魔導具に収めるには……ですよねぇ」
いかん、残高が足りないのと、魔晶石の在庫がない。これはどうにかしないとならないんだが、鏡刻界に魔晶石は売っていないかなぁ。
「白桃姫、鏡刻界に魔晶石ってあるか?」
「マナライン上にある遺跡や鉱脈から出るやつか? あるぞよ?」
「ナイス。明日にでも買ってきて、魔導具を作ってみるか。それで実験できたら、明後日に作戦開始と行きたいところだよなぁ」
「ふむ、ちょっと待っておれ」
俺が告げると、白桃姫が水晶柱に手を添え、何かを呟いている。
魔族式詠唱法で、人間では発生できないあれ。
それを唱えつつ、白桃姫が何か頷いている。
「フェルデナント聖王国も、国会議事堂前とやらのターミナルと接続するのは諦めているようじゃな。あちらから流し込んでなくてはならない魔力を感じない」
「ほう、それはいい感じだな」
「その代わり、別の場所に水晶柱を作り出そうとしておるなぁ。よくもまあ、そんなに大量の魔力を集められておるなぁ」
「へ? つまり、また新しいやつを作り出すってこと?」
「いかにも。流石に、ここからはまだ干渉できぬから、完成して開く頃にはどうにかできるかもしれぬが……これでは、いつまで経っても堂々巡りじゃなあ」
流石にそれはまずい。
どうにかして元を断たないとならないということかよ。それって、どうやって?
「でも白桃姫さん。そこまで大規模なものを、何度も作り続けられるのですか?」
「いや、流石に魔力を補えきれぬじゃろう。だから、次の大規模侵攻があったとするのなら、そこが奴らの侵攻の最後じゃと思う。それ以上の魔力を補うとなると、まさに禁忌に手を染めかねぬからな」
それって、嫌な予感しかしないんだけどさ。
「あの、それってまさかとは思うけどさ」
「生贄じゃなぁ。それも膨大な魔力を持つものを」
「ハイエルフとか?」
「それと魔族。奴らはそこまで愚かではないが、魔大陸侵攻などしたら、フェルデナント聖王国は滅亡するぞ?」
「怖いわ……まあ、そうならないことを祈るしかないか」
あとは野となれ山となれ。
祐太郎との約束の時間までは、魔導具の中でも先に作れるものだけをコツコツと作ることにする。
それを量産化して、一丁分の配置を行うとなると、どう考えても俺の魔力が枯渇しそうだわ。
とにかく、祐太郎よ、うまく話をまとめてきてくれ……頼むぞ、我が竹馬の友よ。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
・今回のわかりづらいネタ
機○戦士Zガ○ダム