第百六十六話・重見天日、目から竜の鱗(果報は寝て待て?)
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永田町付近での、騎士団との攻防が再開した。
特戦自衛隊もグレネードランチャーなどにより応酬、一方のフェルデナント騎士団も回復魔法による治療も開始、さらに魔法兵団の反撃もあり、両者ともに消耗戦となっている。
結果として騎士団側の損害は十五名が特戦自衛隊によって捕縛されたが、特戦自衛隊も四十名以上の隊員が騎士団によって連れ去られてしまう。
さらに放水車三台が破壊され、実被害的には特戦自衛隊の敗北となり、戦線は一気に後退した。
「うわぁ、こりゃまたたまげた門左衛門」
晩飯を食べてから、居間でのんびりとニュースを見ていると、夕方の国家議事堂前攻防戦の様子が映し出されている。
しかも、後方待機していた即応機動連隊を映して、『仲間の窮地にも動かない自衛官』『これが日本の守りの要なのか?』とか変なテロップを告げて煽っている。
「命令がないと動けないんだけどさ、これってどうなんだろう?」
【Twitter:指揮系統が乱れているんだよ】
【Twitter:あの政府がクソすぎるんだ‼︎】
【Twitter:はやく元の国民自由党政権に戻せ】
あー、ライブでTwitterのコメント載せてるけど、的確な意見が飛び交って面白いわ。
『一部不穏当な意見が流れたのを、お詫びします』
ってコメントが入って、Twitter表示が消えたわ。
「……うん、マスコミは相変わらずだなぁ」
「それはどうでも良いが、浩介は動かないのか?」
「まあ、第六課からの連絡はないからなぁ。何でもかんでも、俺たちが動くのって違うと思わない? 親父はどう思う?」
「力を持つものの義務と責務の問題だな。法的義務や責務はない。が、それを成すことができるものがなさなかったことにより起こる悲劇について、お前たちは耐え切る精神を持っているのか?」
「具体的に教えてくれないと、わからないんだけど?」
ちょっと難しい。
もっと簡単に。
「お前たちが前に出て戦っていたら、もっと早く解決できたとか、言い始める輩は存在する。そこに、これはあくまでも例なんだが。死者が出た場合の遺族の恨みが飛んでくる可能性もある」
「俺が守らなかったから死んだとか?」
「まあな。理不尽な怒りの矛先っていうのは、得てして強く突き刺さるものだよ」
「いや、この前の争いだってさ、新山さんがしっかりと回復してくれていたぞ」
「第六課サイドの治療班はな……別棟の特戦自衛隊サイドの治療施設では、死者が出ている。目に見えないところでの被害だから、お前たちには知らされていないだけだ。むしろ、半分は救えたんだから、結果的には良かったのかもしれないがね」
え?
いや、ニュースでは、そんなことは話していないけど。
「そ、それじゃあ親父は、この戦闘に飛び込んで、助けてこいっていうのか?」
「いや、そうじゃなくてな。なんというか……出し惜しみ、違うな……間接的にでも、人を助ける道があるんじゃないかと。たしかにお前たちは、お前たちを好き勝手に使おうとする相手には反発するが、それを踏まえて協力できる部分はあるんじゃないのかと思ってね」
「それをいうのなら、魔族にも協力してもらえれば良いじゃないか。政治家だって、魔族を仲間にしている奴らもいるんだろ?」
「まあな。それを表に出さないのが悪い例だ。それに、表に出たくない魔族も存在するし、魔族は人間とは違う死生観を持っているから、協力的ではない」
気がつくと、俺は立ち上がっていた。
ふう、落ち着け俺。
親父の話も理解できるし、全てを俺にやれって言っているわけではない。
一度座り直して、深呼吸。
よし、酸素が回ってきたので、これで落ち着ける。
「……親父なら、どう解決する?」
「アメリゴのヘキサグラムに応援要請。横須賀の米軍基地から派遣してもらうのが、一番早いな。あそこには機械化兵士が4名ほど待機している」
「ま、待ってくれ。そこでアメリゴなのか? 俺に前に出ろとか言わないのか?」
「自分の息子を、最前線に送り出すなんて発想はない。あと、付け加えるなら、お前は後方で魔導具を作って供給してくれるだけで良いと思っている」
あ、ああ、そうだよな。
それも早い決断だけど、今の日本政府がそれを受け入れるはずがないよなぁ。
「あとは……そうだなぁ。蛇の道は蛇って言葉もある。俺にはそれを成すための方法も手段もないが、浩介なら、何かわかるんじゃないのか?」
「なんだよ、それは?」
「いや、本当にアイデアだけなんだけどな、実は、こういうこともできたらすごいなぁというか」
そうして俺にアドバイスをくれた親父。
いや、目から鱗ってこういうことを言うんだなあって、驚いていたわ。
それなら、俺の役割は騎士を捕縛してからの転送だけだから、直接戦う必要もない。
それどころか、これが成功したら、とんでもないことになるんじゃなないのか?
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
翌日。
速やかに高校に向かう前に、我が家に朝から議員がやってまいりましたが。
朝8時、家から出るところだったんだよ?
「おはようございます。日本国内閣府から派遣されました、小柳真二郎と申します。本日は、異世界対策委員会のメンバーとして伺いました」
「え、あ、あの、へ? 議事堂前の騎士の対策依頼じゃなく?」
「あんなのは、自衛隊に任せれば良いんですよ。そのために防衛費支払っているんですから」
うわぁ、この人って国憲民進党の議員だよね?
自衛隊は肯定派なのか。
「え? 自衛隊はアリ?」
「当然です。国を守るための組織ですよ? 今となっては日本の敵は海外だけではなく異世界であると考えています。そこで私たち国憲民進党は、異世界と文化交流を推進したいと思っています」
「は、はぁ……積もる話がとんでもないような気がしますが、それで、俺に何をさせたいわけ?」
「国家議事堂前の水晶柱。それを開けるようにしてもらいたいのです‼︎ あとは我が日本国の代表団が異世界に向かい、今回の騒動も平和的解決します‼︎」
いや、それは無理だわ。
捕まるのが目に見えているし、危険極まりないんだよ?
水晶柱が開いたら、確実に向こうからの進軍待ったなしじゃないか‼︎
なんで話し合いで平和的解決が出来るって信じているんだよ‼︎
「そ。それはお断りします。異世界に向かって話し合いだなんて、危険極まりない行為です。相手は侵略者なのですよ? 捕まって捕虜にされて、命と引き換えにとか話を振ってきたら、日本国は屈する可能性が高いじゃないですか?」
「ふぅむ。君は、私たち政治家の実力を見誤っていますね。確かに武力はありませんが、私たちには言葉があります。それが通用しない存在などいないと考えていますから」
「……この話は聞かなかったことにします。俺に断られたと報告しても構いません」
キッパリと言いきった。
だって、協力なんかできないよ。
これがラナパーナ王国とかなら、まだ一考の余地はあったよ? でも、あのターミナルの向こう側、侵略軍の本国ってフェルデナント聖王国じゃないか。
絶対無理、諦めて。
「了解です。では私は戻ることにします。お時間を取らせて、申し訳ありませんでした」
頭を下げて謝罪すると、小柳議員は待たせていた車へと戻っていく。
へ? 引き下がるの?食い下がらないの?
ここは、いつもくる議員なら食いついてでも話さないレベルだと思ったんだけど。
「あ、はい、お気をつけて」
「では失礼します……」
──ブゥゥゥゥウン
あ、本当に帰った。
一体、あの議員さんは何者なんだろう?
小柳議員って、確か二世議員だよな。
父親がやり手の国会議員で、ライオンみたいな人。
「おーとーやーん‼︎ 遅刻するぞ‼︎」
「ああぁ! 今行く、光かハヤテか音かっていうぐらいの速度で」
「光速エスパー?」
「ちっがうから、ジョーニアスだから」
「あ〜」
わかるだけすごい、ナイス祐太郎。
そんなこんなで学校に向かったよ、もう昨晩の親父との話もあるから、色々と相談したいところだよ。
………
……
…
学校に到着して、静かに授業を受けて。
いつまた、電話で呼び出しを受けるかって不安だったけどさ、何事もなく放課後になったよ。
実に平和だった。
「ということで、第十五回『これからどうするか、フェルデナント騎士団対策会議』を始めます」
「え? もう十五回もやりました?」
「お約束だな、ちなみにオトヤン、今日はフルメンバーなんだが、本気か?」
「え?」
ふと室内を見渡す。
俺、祐太郎、新山さん、俺。
沙那さん、リナちゃん、高遠先輩、美馬先輩。
もう一度、俺、祐太郎、新山さん、俺。
「うわぁぁぁ、先輩方、今日は此方なのですか?」
「新入部員の顔も見たかったし、後輩の育成は別のメンバーが始めてくれたからね」
「同じく。だから、魔法を教えてもらいに来た、約束ね」
あ、そこに帰結しますか。
「まあ、それならそれで、先輩たちには魔法の修練をレクチャーします。沙那さんもそっちに参加して構いませんよ」
「そうね。私の場合は、アイアンメイデンが主兵装になりますから、大規模作戦になりますよね」
「リナちゃんは、会議に参加します‼︎ 今日はチョコレートパフェがいいです‼︎」
「残念、うちの近所のフルーツ大福だ。北海道産の美味しいバナナが入っているやつもあります」
──ドサッ
あらかじめ買い込んでおいた、大量のフルーツ大福。これとほうじ茶で、のんびりと話し合いを始めましょうか。
「まず、昨日の夜に親父と話したことを説明しますが……」
そう前提を置いて話を開始。
そして、親父なりの考え、俺の意見、それぞれをぶつけて話し合った結果。
その中でも、可能なもの、不可能なものなどを羅列して、時系列的に説明を加えていく。
「……ヘキサグラムが活動するには、日本政府からの要請がないと難しいですが、そこは安保条約を盾にすれば難しくないと思います!」
リナちゃんが、意見を出してきた。
え? 食いしん坊キャラクターだよね?
「その安全保障条約で、ヘキサグラムは動かないよ。あっちは民間組織だから」
「ですから、アメリゴ軍の嘱託活動家として派遣するという手があります。ヘキサグラムはモントール文書に批准している国際民間軍事会社のライセンスを持っています」
「ええっと、リナちゃん、もっと掻い摘んで説明してくれる?」
新山さんがパンクした。
すると、後方支援がとんでもないところから飛んできた。
「モントール文書っていうのは、民間軍事会社に国際法を遵守させるためのもので、乙葉たちにわかりやすく説明すると、ヘルシングやヨルムンガルドだと言えばわかるか?」
ここで美馬先輩の助言。
そして一発で理解したよ。
「あ〜、エルサルバドルのランチャー使いか。オトヤン、俺も理解できた」
「つまり、ヘキサグラムはそっち方面でも活動可能なため、依頼として正式にアメリカから受けられた場合、日本での活動は安保条約を盾に動けるっていうことか」
──コクコク
四つめの大福を食べながら、頷くリナちゃん。
いや、予想外に驚いたわ。
「その線だと、アメリゴからの打診を日本政府が受け入れる必要があるよなぁ。燐訪総理代理が、それを受け入れるはずはないよなぁ」
「あの人は、プライドの塊ですからね」
「それでオトヤン、親父さんの案っていうのは?」
「そこな、これは俺たちがどうこうできる問題じゃないんだけど、俺たちでないとできない事案」
──カカカカカカッ‼︎
ホワイトボードに殴り書き。
「俺が急ぎ、妖魔特区内の一丁分の区間を結界で隔離します。そこに騎士たちを転移します」
「それは、この前の話だよな。俺たちが最前列で戦闘しないとならない奴。手数が足りない上に、新山さんまで前に出さないとならないから、危険だって話だよなぁ」
「そこで、別の人たちに戦ってもらう」
「特戦自衛隊にか?」
「即応機動連隊?」
「まっさか。これは、予想外だよ?」
さらに書き込んだ内容に、誰しもが絶句した。
「ラナパーナ王国冒険者ギルド。そこに依頼として、フェルデナント騎士団を捕縛もしくは拘束してもらう。移動手段は妖魔特区内の大ターミナル経由、俺たちの転移魔法で国会議事堂前に。可能なら、捕縛した騎士団はラナパーナ王国に連れ帰ってもらって、向こうで監視してもらう」
そう、親父の話はこれ。
『異世界からきたのなら、異世界の人間に頼めば?』
全くその通りだよ。
こっちの人間ではレベル差がありすぎて、化学兵器に頼らないとならない。
でも、先日の戦闘では、その対策を魔法によって行われてしまっている。
それならば、対応策はこれしかない。
「いや、流石にそれは……ありなの?」
「フィジカルのレベル差を補える。装備はこっちのものを使って底上げすれば可能。いや、その手は予想外だったわ」
「そう、何もかも俺たちでだなんて言わない。力を貸してくれる相手には、頭を下げるぐらいはするよ」
「待って乙葉くん、冒険者ギルドに依頼を出すのなら、代価はどうするの?」
──ニィッ
思わず笑う。
代価は、作ればいい。
──ドサッ
空間収納から取り出しましたる、魔法の箒と魔法の絨毯の山。
これをミスティ魔導商会に買い取ってもらい、その代金で冒険者を雇う。
すると、沙那さんやリナちゃん、有馬先輩に高遠先輩も、箒と絨毯を見てうっとりとしている。
「なあ乙葉、これって買えるのか?」
「私は絨毯が欲しい。値段を教えてくれると助かる」
「リナちゃんは箒じゃなく、空飛ぶスノーボードが欲しいです」
「わ、私は自転車が飛んだら……いえ、ごめんなさい」
うわぁ、こうなるとは予想外。
だから、この話し合いは一時中断して、箒と絨毯の値段についての説明、免許のこと、そして納品にかかる時間について説明したよ。
でも、希望は見えてきたよ、俺ができる最大限の、俺が直接手を出さない方法が。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
・今回のわかりずらいネタ
the、ウルト○マン
光速エスパー
岡崎○育