第百六十四話・遠慮会釈に飴も鞭も?(お土産と手土産の違い?)
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はい。
ラナパーナ王国から戻って来ました。
帰って来たら、夜の九時。
向こうでは、まだ昼下がり。
時差が八時間もあると、感覚が狂うよね?
「て、撤収、急いで帰宅だ‼︎」
「オトヤン頼む、魔力が高い分、速度は速いだろ‼︎」
「この距離なら、誤差なんて一分もないわ‼︎ あ、新山さんは送るから」
「ありがとう‼︎」
「……いきなり戻って来て、寸劇を楽しむのは構わぬが……ほれ、お前が留守の間に、北海道の知事とやらが訪ねてきおったぞ?」
そう笑いながら、手紙を渡してくれる白桃姫。
いや、寸劇じゃなくてガチ。
手紙はありがとう。
「知事からの手紙? なんじゃらほい?」
「さあな。地下鉄の復興がどうとか」
「よくわからないけど、また来るわ、今日はありがとうな」
「妾は何もしていないがな」
簡単に挨拶を終えて、新山さんを送り届ける。
俺が連れ回したものだから、ちゃんと頭を下げて謝ったよ。
三人で頭を下げたので、今度から遅くなる時はちゃんと連絡するようにって新山さんが言い含められておしまい。
祐太郎は、おじさんが東京の議員会館に出ずっぱりなので、今はメイドさんと警護員だけなのでセーフ。
俺?
しっかりと怒られましたよ。
でもまあ、これは仕方がないことなので、速やかに怒られることにしました。
そのあとは、少しやらないとならないことがあるので、黙々とデスクワーク。
鏡刻界の文字と日本語の早見表を作らないとならないんだよ。
………
……
…
翌朝。
早めに登校してから、俺はのんびりと織田たちがやってくるのを待つ。
いつもなら勝手に絡んでくる織田だけど、俺との魔法関連の話は禁止されているからなぁ。
すぐに織田が友達と登校して、俺にも軽く手をあげる。
「よお、おはようさん」
「おはよう。今日もいい天気だな」
「そうだな。向こうもいい天気だったぞ」
──ゴドッ
空間収納から織田用の魔導書を取り出し、机の上に置く。
「織田のアドバイスが良いヒントになった。ミスティさんとルンバさん、フリューゲルも元気だったぞ」
──ガタッ!
俺の言葉に反応して立ち上がる織田。
「そ、そうか、元気だったか」
「まあな、いきなりお前がいなくなって少し心配していたらしい。こっちは女王陛下から、お前のラナパーナ王国の身分証明証だそうだ」
──ゴドッ
今度は小さな箱を一つ。
こっちは例の『銀板』が収められている。
それを受け取って、すぐに織田は箱を開いて中身を取り出す。
「どうやって使うんだ?」
「血を一滴。よくあるラノベだ」
「そうか……痛っ‼︎」
織田はネームプレートの針で指を刺すと、血を一滴落とした。
──ジワァァァッ
すると、ゆっくりと顔写真のようなものが浮かび上がり、織田のステータスが表示される。
うん、予想通り鏡刻界のコモン文字だね。向こうの共通語。
「……畜生、読めない」
「まあ、そうだろうよ……そこで、文字の対列早見表な、今回は助かったよ」
ここで取り出しましたるは、昨晩作った文字早見表。鏡刻界のコモン文字は、アルファベットのような配列になっていて、ローマ字のような組み合わせにより言葉を繋ぐ。
だから、対応表さえ作って仕舞えば、織田でも読み書きは覚えられる。
逆にこれがないと、せっかくの魔導書も読むことはできない。
「そうか、まあ、今度、俺もラナパーナ王国に連れて行ってくれないか? 親の許可は取ってくるから」
「許可さえあれば、別に構わんよ。俺よりも先に向こうに行ったお前ならな」
「乙葉ぁ、それなら俺たちもだ」
「「我ら織田家臣団は、織田っちと共にある‼︎」」
「その通りだ‼︎」
「まあ、俺は好奇心だけだな」
「おれは、まあ……」
最後は明智だな。
まあ、そこまでいうのなら、考えておくよ。
お前たちの魔力量さえ、クリアできたらな。
………
……
…
放課後。
俺と祐太郎、新山さんは、白桃姫の元に向かう。
瀬川先輩に渡す魔導書の件もあるし、なによりも俺たちが学んだ技について、白桃姫にアドバイスをもらうためでもある。
「これが、情報解析用の魔導書ですの?」
「はい。乙葉くんが貰って来てくれました。まだ開いてもいませんので、どうぞ」
「ありがとうございます。乙葉たちも、色々と頑張っていてくれたようで」
「まあ、な。一番頑張ったのはオトヤンで、俺は護衛みたいなものだよ」
「そんなことないと思うがなぁ」
そんな感じで話を続ける。
そして瀬川先輩からも、報告があったらしい。
「例の転移術式ですが、残念ですが深淵の書庫であちこち調べてみたのですけれど、流石に文献やデータベースには完全なものは残っていませんでした」
「完全な? と言うことは、研究中であるとか、一部が失われてしまっているとかですか?」
「ええ。各国の対妖魔機関では、やはり転移術式についての研究は行われています。さすがにプロテクトがきついので深層までは潜り込むことはできませんでしたけれど、ある程度の情報は入手しましたわ。深淵の書庫発動‼︎」
──ブゥン
俺たちの目の前に深淵の書庫が発生する。
そして瀬川先輩の命令で球形だった深淵の書庫が、黒板のように一枚に広がる。
そこに、先輩が調べたらしいデータが次々と表示されている。
「ほうほう、これは古代魔族の転移術式じゃな。失われた碑文、『天翔鬼』一族の秘匿術式じゃよ。こっちは……げっ、勇者召喚術式ではないか‼︎」
白桃姫が一つ一つ説明してくれる。
さすがは地元の魔族だけあって、かなり詳しく説明をしてくれるのだが。
「……トータル12の術式、どれも半端な組み込み。解析したものを自分なりに組み替えたのじゃな」
「それじゃあ、オリジナルではないということか」
「うむ。実に半端な……いや、半端故に、これは面白いものが作れるかもしれぬな。乙葉や、妾がこれを解析して、新たな転移術式を作り上げるぞ」
「マジかよ。そんなことができるのか?」
「いかにも。妾は空間術式のエリートじゃよ?」
そういえば、転移門についても詳しかったよな。
ターミナルの書き換えも行なっていたし、これは白桃姫に任せても構わないんじゃないか?
そう思って祐太郎と新山さん、瀬川先輩の方を見ると、俺の意思が伝わったらしくてみんなが頷いている。
「それではお任せします。それと先輩、ジェラールは見つかりましたか?」
「アメリカのとある州の刑務所ね。詐欺で捕まって、半年は出られないわよ」
「は?」
「はぁ?」
「えええ?」
「なんでも、いつもの調子で魔導具を売っていたらしいのですけど、それがうまく起動しなかったらしくて、詐欺師ということで捕まったそうで好き」
さ、最悪だな。
まあ、売っていた商品を考えると、一般人では制御できないどころか、起動もしないんだろうなぁ。
「それは流石に、俺たちじゃ何もできないか」
「そうですね。ジェラールさんの助力は、諦めた方が良さそうです」
「そうだよなぁ。それじゃあジェラールの方は終了で。これで転移術式の件と、ジェラールの件はおしまい。あとはなんだっけ?」
「オトヤン、昨日の魔導書のことじゃないのか?」
「そうそう。みんなは一応見たんだよね?」
さすがに全てを見たわけではないが、新しい力を手に入れることはできたのかもしれない。
俺は魔導書に目を通して、中身を俺の魔導書に移すことだけは終わっている。
そして新山さんと祐太郎は、まだ半分程度しか解析が終わっていないらしい。
「闘気関係は、かなり難易度が高い。あの魔導書に残っていた技の全てが実践的で、それでいて修得難易度が高すぎる気がする」
「私のは、特殊すぎました……神聖魔法でも、神の加護についての記述が多すぎたのと、『神威貸与』という魔法についてだけ、覚えられました」
「神威貸与? それって何?」
「はい、神様にお祈りして、少しだけ力を貸してくれる技です。祈りの時間が長いので、戦闘などでは使えませんけれど」
「いや、それって凄いから」
聞けば聞くほどに、凄い技を学びまくっている二人。
その点、俺はのんびりとしたものだよ。
地水火風光闇、この六つの属性魔法でも、俺が使っているのは中級程度でしかなく、あの魔導書になっていたのは『複合魔術』と『融合魔術』。
これがあれば、さらに魔法の幅が広がるってものですよ。
「ふぅん。皆さん楽しそうでなによりですわね。今度、鏡刻界に向かうときは、私もご一緒したいですね」
「スケジュールが合えば、いつでも」
「それなら、妾も行きたいぞ。観光がてらに妾の王国を案内してやろうぞ」
「白桃姫の本国?」
「いかにも。魔族の大陸階位でいうなら、妾は侯爵位でしかないが。こうみえても怠惰の氏族を束ねる女王じゃからな」
「「「「……女王(さま? !!!!)」」」」
これは驚いた。
はースッポンスッポンって感じだね。
「なんじゃ? 知らぬのか。魔人王配下の術 十二魔将でも、妾たちトップセブン、大罪の称号持ちはな、それぞれが国を持っておる。今は国の政ごとは宰相に任せてあるが、たまには顔を出さないとならぬじゃろうなぁ」
「あの、帰ってそのまま向こうに残るという選択肢は?」
「乙葉や。この魔力玉がある限り、妾は帰ることなどせぬわ。それこそ王位を返還して、魔人王フォート・ノーマに引退宣言したいくらいじゃよ」
「そのレベルかぁ……」
そういえば、白桃姫って十二魔将でもかなり上なんだよなぁ。すっかり仲が良くなっちまったので、忘れていたよ。
それなら、あの話を聞いてみるのも今がチャンスなのかも知れないなぁ。
「ちなみに……白桃姫は、初代魔人王配下について、何か思うところがあるか?」
「なんじゃ、ヤブカラボーに。妾は隠しポケットに凶器など持っておらんぞ」
「それはマスクド・ヤブカラボーな。なんでそんなものまで知っているんだよ?」
「なんじゃ、なんならモンガーダンスでも踊って見せようか?」
「白桃姫とユータロ、脱線しまくりだぁ」
全く、変な知識を身につけたなぁ。
「まあ、話は戻すが、今ので確信したわ。築地、そなたに体術を教えたのは、初代八魔将のチャンドラじゃな?」
──ギクッ‼︎
「な、なんの話だか……」
「乙葉や、そなたの魔力の練り込み、魔導体術の癖がある。羅睺じゃな?」
「は、はぁ?」
「こうなると瀬川と小春も関与していると考えた方が良いのう……こっちにいるのじゃな、初代八魔将が」
目を細めて、俺たちをみる白桃姫。
いや、その目はガチだよな。
「い、イエスって言ったらどうする?」
「その言葉で、もうイエスっていっているようなものじゃ。本当に腹芸が下手くそじゃな。妾はフォート・ノーマの十二魔将の中でも穏健派じゃよ。怠惰なものでな」
「本当に?」
「うむ。このカシオミニを賭けても良いぞ」
「だから、どこからそんなネタを持ってくるんだよ‼︎」
「まあ、白桃姫がそういうのなら。あとは先方にも聞いておくわ」
「別に、馴れ合う気はない。不干渉のままで構わぬ」
あら、意外とあっさり。
「現行妖魔王の十二魔将がいいというのなら……」
「まあ、あっちサイドにも連絡はしておくけど」
「白桃姫さんって、懐が広いのですね」
「ふん。この妖魔特区には羅刹が住んでおるのじゃぞ? 大抵のことには、驚かんわ」
笑いながら魔力玉を取り出して齧り付く白桃姫。
あ、そういうレベルの話か。
それならもう一つ、聞いても良いよね?
「そんじゃ、もう一つ教えてくれるか? 黒狼焔鬼って知っているか?」
──ブーッ‼︎
あ、吹き出した。
そこまでの存在なのか?
「知っているもなにも、二代目魔人王の腹心、伯狼雹鬼の兄じゃな。『動の伯狼、静の黒狼、静動兼ねた銀狼』と言われておって、恐れられておるぞ」
「そこまで凄いのかよ」
「うむ。魔大陸でも伯狼雹鬼と黒狼焔鬼は殺し屋として恐れられておったなぁ。呪いの術式のエキスパート、魂の破壊者、いろんな噂が後を経たぬが、最も恐ろしいのはな」
──ゴクッ
ここまでの説明でも、かなりヤバいことが理解できる。
そして、白桃姫は新山さんをチラッと見て、覚悟を決めたらしい顔つきで話を続けた。
「単体転移能力保持者。しかも、次元を超える」
「なんだよそれは。チートもいいところじゃないか」
「そうですわね。いくら魔族といっても、そんなことが可能なのですの?」
「う、うむ。二人とも、『ファザーダーク』の加護持ちじゃ」
「……うわぁ」
嫌な名前を聞いたわ。
しかし、そんな奴が日本政府の懐近くに紛れていただなんて、信じたくもないよなぁ。
「ファザーダークって、私を騙していた」
「うむ、破壊神の残滓とやらじゃな。我ら魔族の神の一つでもあるのじゃから、加護程度なら持っていてもおかしくはないのじゃが。それがなぜ、こちらの世界で暗躍してあるのか、さっぱりわからぬ」
「日本政府に食い込んで、何かをしようとしているのか? 可能性はなんだろう?」
「ファザーダークは混沌。ゆえに、この世界に混沌をもたらそうとしているのか、あるいは何かあるのか」
「もう、今の日本政府は十分に混沌としているが」
思わず突っ込んだよ。
でも、これ以上は推測の域を出ないということなので、この話はおしまい。
問題は、黒狼焔鬼の話を、井川さんにも説明するべきか否か。
彼女の両親は、伯狼雹鬼に殺されている。
その復讐のために、当初は妖魔全てを憎んでいた。
それが、俺たちとつきあうようになって、凝り固まっていた既成概念が溶けていったんだよ。
そんなところに、伯狼雹鬼の情報を持っているかもしれない相手を教えると、一体どうなることか。
あれ?
ここまで銀狼嵐鬼の名前が出てこない。
「白桃姫、銀狼嵐鬼って、そんなに怖くないのか?」
「まさか。やつが一番厄介じゃよ。時代がもう少し早ければ、二代目魔人王は銀狼嵐鬼になっていたと思う」
「そこまでかよ」
「うむ。資質は全ての魔族を凌駕する。ただ、穏やかな性格でな……第二次大侵攻の折に、こっちの世界に逃げてな……以後、消息不明じゃよ」
そりゃまた、なんとも。
まあ、それで害をなさないのなら、それでいいわ。
「うん、この件はここでおしまいにしよう」
「俺たちは、別に構わないが」
「乙葉くんの話ぶりだと、何かある様子ですわね」
「まあ、あるけど、これは他人のプライベートな部分だから、おいそれとはいえなくてすまん」
「それは構わないわ。その人にとっては、すごく大切なことなのでしょうから」
仲間たちの物分かりがよろしすぎて、堪らない。
それじゃあ、気分一新で、話の続きに戻りますか。
ええっと、どこからだっけ?
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
・今回のわかりづらいネタ
マカロ◯ほうれん荘
the・モモ◯ロウ
動◯のお医者さん