第百六十話・暗雲低迷、知らぬ顔の燐訪(まさかの解散、俺は旅に出る?)
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鷹川幸夫総理大臣が辞職した。
表向きの理由は病気治療となっているが、俺は真実を知っている。
まあ、知っていても公表する気もないし、これはしてはいけないと思っている。
それよりも朝のテレビ中継では、国会議事堂周辺の様子が映し出されている。
水晶柱を、ぐるりと囲むように守りに入ったフェルナンド聖王国の騎士100名。
そして距離を置いて、騎士たちを包囲している陸上の即応機動連隊および特戦群らレンジャー部隊。
どこをどうみても、いつ、戦闘に突入するかわからない状況である。
「うわぁ。どうするんだろ、これは」
「浩介は、手伝いには行かないのか?」
「いやいや、なんであの戦場に俺が行かないとならないんだよ。親父も大概だなぁ」
長閑な朝食付きタイム。
今回の件では、俺のところには連絡は来ていない。
恐らく第六課が止めているのだろうという予測と、鷹川総理の辞任で国会自体が空転しているからだろう。
こういう場合、防衛省がどう動くのかわからない。
──ピッピッ
お!臨時ニュースが来た。
鷹川幸夫元総理大臣の辞職により、日本国憲法第七十条規定により、内閣総辞職が決定したと……。
「ほほう、内閣法は適応しなかったのか」
「ん?親父?それはなんだ?」
「総理大臣が病気その他で公務が取れなくなった場合は、内閣法第九条に基づき、内閣総理大臣臨時代行っていうのが設置されるんだ」
さらに詳しく聞いてみると、その内閣法九条というのは、具体的にはこんな感じらしい。
『内閣総理大臣に事故のあるとき、又は内閣総理大臣が欠けたときは、その予め指定する国務大臣が、臨時に、内閣総理大臣の職務を行う』
これって、病気や怪我が治ったら、また戻ってきますよっていうアピールでもあるらしく、今回のように内閣総辞職となると、『もし治療が終わっても、戻りませんよ』と言っているようなものらしい。
「……なるほどなぁ」
「それで、四十日後に衆議院選挙が行われるが、それまでは総理大臣代行が存在しないので、ここで内閣法九条が生きる。確か、代行権限を持っているのが燐訪議員だから、四十日間は燐訪内閣となるのか」
「……うわぁ、面倒くさい」
つまり、今の自衛隊の統治権は燐訪議員が持っているということになるので……。
この自衛隊の包囲網も、いつ解除されるかわからないということか。
「……しかし、水晶柱を使った転移術式とは、また面倒なものを使っているんだなぁ」
「何か知っているのか、親父は」
「大規模越境術式を使うことで、一度に百人程度の人間なら、あっちとこっちの世界を行き来させられるはずだが」
「それだ‼︎」
そうだよ、それを使って送り返せばいいんだよ。
さすがは親父だ、元陰陽府でヘキサグラムの第一人者。その術式を俺が使えばいいんだよ。
「親父、その術式を教えてくれるか、俺が使って、あいつらを送還する‼︎」
「ない」
「ん?」
「今は存在しない。失われた秘術だし、あれは日本の術式ではない。どちらかと言うとチベット密教系だ」
「なんだ、マジかぁ……」
とっとと飯を食って、今で魔導書を開いてみる。
うん、やっぱり新しく追加された術式はない。
カナン魔導商会で魔導書やスクロールの追加がないか調べてみたけれど、それすら皆無。
「とほほ。これは参った。何か方法はないものかなぁ……」
「こればっかりは、俺は協力できないからな。お前もいっぱしの魔術師なら、その辺りは自分で考えてみろ」
「術式を探す方法かぁ……」
頭が痛くなる事案だわ。
まあ、とりあえずは学校に行って、祐太郎や新山さんにも相談してみるか。
………
……
…
そんなこんなで学校。
「オトヤン、なんだか難しい顔をしているなぁ。何があった?」
「ん〜。魔法を探している」
「魔法?」
「そ。とある魔法を」
「インデックス?」
「なんで俺が禁書目録を探さないとならないんだよ、いや、あれは欲しい。歩く教会は、確かに欲しい……いや、そうじゃなくて」
親父の話してきた転移魔法術式。
それをなんとか手に入れたいところなのだが、俺の知る限りでは魔法を手に入れる方法なんてわからない。
親父に頼んで陰陽府やヘキサグラムにつてをあたってもらいたいところではあるが、朝の様子だと、それも難しい、というか断られているからなぁ。
「瀬川先輩の深淵の書庫では、探さないのですか?」
「ん、新山さんナイス。ちょいと聞いてみますか」
すぐにLINEで連絡をとってみるけれど、大学生の朝は忙しいからなぁ。
『ピッ……時間の合間に、調べてみますね』
「さーせん……と」
「お、そうだオトヤン、あの魔導商人なら何か知っているんじゃないのか?」
「ジェラールか‼︎」
いた、居ましたよ、魔法について知っていそうな、金次第でなんでもやりそうな人。
いや、もうそう言うイメージしかないんだよ、あのひとは。
「ユータロ、連絡先わかるか?」
「まさか。オトヤンこそ、連絡先を聞いてないのか?」
「そもそもスマホを持っていなさそうなんだよなぁ……まあ、新山さんでもわからないだろうからなぁ」
「あの、それも瀬川先輩に尋ねてみるとか?」
「それだ‼︎ 先輩、追加でジェラールを探してくれませんか……と、送信‼︎」
『ピッ……時間の合間に、確認してみますわ』
「助かります……と」
これで希望は見えた。
うまく手に入ったらいいんだけれど、今の俺たちには、これ以外に何も方法はないだろうからなぁ。
………
……
…
「織田っち、乙葉達が魔法を探しているんだってさ」
友人の松永が、乙葉たちの話を聞いてきたらしい。
俺は、親父とお袋から、乙葉との必要以上の接触が禁じられているんだよ。
今までも、手品の道具を買うのに小遣い前借りしたり無断でバイトしたりしてて、結構怒られたことがあるんだけど。
高校に入ってからもバイトは続けていたけれど、乙葉が魔法使いになってからは、どうしても魔法を使えるようになりたくて、必死に乙葉に頼み込んだんだよ。
ラノベとかも読んで研究したりして、学業が疎かになってしまったことは悪かったと思っている。
けど、あの日、乙葉が異世界に召喚されそうになった時は、これはチャンスだと飛び込んじまったんだよ。
まあ、結果として魔法は覚えたし、異世界帰りという称号も手に入れた。
けど、親父たちがこれには猛反発。
二年と三年の定期試験で赤点を取ったら、俺は九州の叔父さんの家に引っ越しすることになった。
ついでに、魔法関係で乙葉と話をするのも禁止されたからさ。
「ふん。勝手にやっていろ。俺は、中間試験の準備で忙しいんだ」
ノートを取り出して、メモを書く。
確か、王都の魔導商会で……名前は。
そうだ、ミスティ魔導商会の主人で、ミスティ・バルディオさんだ。
あの場所に向かう地図は……確か、こんな感じだったよな。
ついでに俺が世話になったラーラ・ルンバさんのことも書いておいて。
「松永、わりぃ」
「乙葉に渡せばいいんだな?」
「頼むわ。魔法絡みだから、俺は直接話ができない。なんだか珍しく困っているから、これを渡してきてくれ」
「ああ。無報酬で人助けとは、織田らしからぬというか、なんというか」
「うっせぇ。高校卒業したら、魔法を教えろって伝えておいてくれ」
はいはいってから返事をして、松永が乙葉のところに向かった。
ふん、こういう時こそ、俺の経験がモノを言うんだ。悪いが、俺は、お前よりも先に異世界にいった、いわば異世界先輩なんだからな。
………
……
…
「乙葉、お手紙だ、あっちの黒山羊さんから」
「その黒山羊さんは織田か。読まずに食べていいか?」
「まあ、読めって。お礼は、卒業したら魔法を教えろってさ」
「なんだそりゃ? 織田はなんで手紙で……ああ、そういう事か」
「ユータロは鋭いなぁ。俺との接触禁止だったはずだからな」
「乙葉、築地、それは少しちがう。織田っちが禁止されているのは、魔法関係の話はするなっていう事らしい。まあ、話し始めたらポロって出ると思うから、自粛しているんだとさ」
「そういう事か」
そのまま手紙を開いて中身を確認すると、空間収納から魔法回復薬を二本取り出して、松永に預ける。
「これは情報料。魔力回復薬だって渡してくれるか? 織田のマギカスパルなら、一本で十分回復するからって伝えてくれ」
「へぇ、価値のある情報って事か」
「ああ、こんな抜け道、あいつしか思いつかないだろうさ」
これは一本取られた。
もしもこの作戦が成功したなら、改めて織田にはお礼をする必要があるなぁ。
そして松永はポーション二本持って織田の元に向かう。
あ、驚いているようだが、軽く手を振っておしまいにするよ。俺が反応しすぎても、あいつが油断して話を始める可能性もあるからなぁ。
「それでオトヤン、織田の手紙の内容は?」
「いや、本当に予想外だったわ。こっちの世界で探すのが難しい魔法なら、本場で探せばいいって事」
「え、それって……フリューゲルさんのところに行くの?」
「善は急げだ。今日の放課後、俺は、異世界鏡刻界に行ってくる」
「ふむ、オトヤン、おやつはいくらまでだ?」
「私も行きます、日帰りですよね?」
ですよね〜。
俺が行くといって、二人が行かないはずがない。
先輩も誘って行くとしますか。
「当然。場所は織田のメモに書いてあるので、話を通すのは早いはず。まあ、先にフリューゲルさんにも聞いてみるけどさ」
「でも、大規模転移術式なんて存在していたら、フリューゲルさんたちはわかっていると思うし、国家機密でもない限りは、あのフェルデナント聖王国も使っているはずですよね?」
そこなんだよ、新山さん。
「まあね。けど、口伝とか、王家の伝説とかになるとその限りではない。聞くだけ聞いてみるさ」
あとは放課後を待つばかり。
いやぁ、ワクワクしてきた。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「失態ね……」
国権民進党本部、幹事長室では、燐訪が目の上に蒸しタオルを乗せて、ソファーで横になっている。
「今回の内閣総辞職は、燐訪さんの所為ではありません。あの鷹川の暴走と、それを止められなかった会派の責任です」
「国権民進党の代表は私です。あの鷹川が、そこまでおかしくなっていただなんて、想像もしていませんでしたから」
医者の診断では、心神喪失状態。
精神的疾患の疑いがあるものの、その原因も治療方法も不明。
そして、魔法の可能性もあり得るということだから、始末に負えないわ。
これが野党の、国民自由党の策だとしたら、すぐにでも証拠を集めて突きつけてやるところですけれど、まだそれらしい報告結果は出ていない。
「主治医の診断書、第一秘書官の報告と聞き取り調査、全て怪しい部分はありません」
「そうなると、偽造や捏造も不可能ね。まあいいわ、正々堂々と選挙に臨むことにしましょう。国民自由党の陣内に仕事を依頼して貰えるかしら?」
「すでに、内閣総辞職の時点で、断られています。今回は、正々堂々といきましょうと」
使えない妖魔ね。
これだから、盟約に縛られている妖魔は嫌いなのよ。
「仕方ないわね。それじゃあ『拝み屋』は? あそこも思考誘導を使える妖魔がいるわよね?」
「本社が移転してまして。それに、地元の仕事が忙しいからと、やはり断りの連絡が」
「……北海道の有馬重工はどうなのよ? 小澤さんがあそこに仕事を依頼していたわよね?」
「……あそこは、乙葉浩介の関係者です」
「それじゃあ、どこか人を操れる妖魔を探しなさい。今のうちの支持率をしっているかしら?」
内閣総辞職の時点での支持率は10%を切っている。
以前は思考誘導と、私が借り受けている人心掌握術を使って、56.8%まで引き上げられた。
けれど、ここ最近、私たちが政権を取ってから支持率はどんどん低下。異世界からの侵略者たちを退けた時など、支持率は5%を切っていた。
それをマスコミを使って誘導していたけれど、もう限界。
「10%を切ったと、伺っています」
「そうね。その通りよ……それじゃあ今、私たちが選挙をしたらどうなるかもわかるわよね?」
「全面敗北です……それを躱す為にも、人々の気持ちをつかむ政策を掲げる必要があるのでは?」
「……難しいわね。今なら、何を叫んでも国民自由党の追従でしかないわ。やっぱり、異世界政策しかないわね」
そう告げると、燐訪は何かを思いついたかのように笑顔になる。
「ここは任せるわ、出かけてきます」
「それでしたら警護を付けます」
「必要ないわ。常に、私の近くには妖魔が一人、ついてますから」
──ゾクッ
その言葉に秘書官は身震いする。
ここまで妖魔を使い込む議員など、みたことも聞いたこともなかったから。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。