第十六話・牛に引かれて好機到来(億万長者に、俺はなる‼︎)
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週火曜日と金曜日を目安に頑張っています。
高校生活最初の一学期が終わった。
俺にとっては、この数ヶ月間は実に刺激的だった。
なんと言っても異世界転生一歩手前まで行けたこと、女神との出会い、チートな加護を貰った事、そして現代に帰ってきた事。
普通の高校生では体験できないような出来事の連続だった。
チートアイテムで勉強も楽勝モードなんだけど、ハイエースで攫われたこともあるから兎に角目立たないように努めないとならない。
え?
何故かって?
異世界系チートを貰ったラノベの先人たちと同じ轍を踏まないためさ。
チートを貰った先人たちはやり過ぎたんだよ。
まあ、その辺俺は、自制心があるし慎重だから大丈夫さ。
俺もそう思っていた時期があったんだよなぁ。
………
……
…
一学期終業式。
何事もなく無事に終わり、受け取った通知表もまあ悪くない。
これで8月下旬までは自由が確定、去年までの夏休み補習で涙を流した俺よグッバイ。
あとは部室でみんなと夏休みについての打ち合わせが待っていた。
「みんな集まったようなので、夏休みの文学部の部活動について説明するとしようかな」
珍しく美馬先輩と高遠先輩も部室にいる。
女子四人、男子二人、見方によっては両手に花状態。
実に良いぜこの環境。
気分だけはリア充の仲間入り、気分だけな。
「オトヤン、そろそろ妄想から帰ってこい」
「おっと失礼」
どうやら俺はにやけていたらしい。
「顧問の先生とも相談したのですけど、部活動については、三日前までに顧問に部室の使用申請をする事で部室は開放してもらえる事になりましたわ。
時間は午後1時から午後5時までなので、希望者は予め私のLINESかboyaitterのDMで連絡をくれると助かります」
「私は毎日体育館にいるから、私に連絡してくれても良いわよ。その時は私から顧問に連絡してあげるから。アドレスならあとで教えてあげるね」
「同じく。夏季強化練習なので、私も音楽室にいる」
流石は先輩たち、夏休みを謳歌している。
まあ、俺は特に予定もないし、8月になったら東京のコミックマーケットに行くので部活にはそれほど参加できない。
「ユータロ、俺たちはどうする?」
「東京に行くのは七日だから、それまでは自由で良いんじゃないか?」
「今年はギリギリ前乗りじゃなく観光目的でもあるからなぁ。それなら、三日で宿題終わらせるか。三日あれば終わるだろうさ」
「まあな。しかし、去年まで最終日近くになって俺のを写していたオトヤンとは思えぬ‼︎ このチート野郎が」
「女関係ならお前の方がチートだろうが」
「なにおう、魔導商会で魔法の薬を買えるんだろ? 惚れ薬とか超強力媚薬とか買ったら食べ放題じゃないかよ‼︎」
──ゴホン
ボソボソと小声で話していると、高遠先輩が咳払いをした。
「はじめての夏休みですから、あまり羽目を外さないようにね。羽目を外し過ぎて学校に来れなくなった生徒が二年連続で出ているぐらいだからね」
「はぁ、設立三年目の新設校としては珍しいですね。そんなに羽目を外すものなのですか?」
「ん~。まあ、いろいろとやらかす奴は多いからさ。うちの高校って先輩にあたる人がいないじゃない。OBとかOGとか、卒業生がいない時点で喧嘩に巻き込まれても庇ってくれる人がいないのよ」
ふむふむ。
つまり町中で喧嘩になっても、有名な先輩がいたりするとそこで歯止めになったりするのが通例だけど、うちにはそういうのがないので喧嘩になって相手がとんでもない先輩を連れてきたら大ごとになる、ってところか。
「まあ、自重します。俺はこの前も絡まれましたから」
「うんうん。オトヤンは要注意だな」
「そうね。乙葉君は気を付けたほうがいいわね。いろんな意味で目立ちやすいから」
祐太郎と瀬川先輩、あんまりです。
そして新山さんまで笑っている、ひどいや。
「では、本日はこれでおしまいにしましょう。あとは大掃除をして解散ということで」
「じゃあ、私は体育館に戻るわ」
「私も音楽室に‥‥」
――ガシッ
そんな話し合いだけで逃げるだなんて、瀬川先輩が逃がすわけない。
「まあまあ。美馬さんも高遠さんも、折角だから、お掃除していきましょ?」
「「 はい‥‥ 」」
ということで、楽しい掃除タイムでその日の部活はおしまい。
明日から平和な夏休みだ!!
〇 〇 〇 〇 〇
夏休みも三日あれば宿題終わるよね。
そして親父たちも先日、海外から休暇を貰って帰ってきた。
今日は銀行に付き合ってもらって、ロト6の換金をしに向かった。
「‥‥しかし、浩介が宝くじ当てるとはなぁ。一体いくら当てたんだ?」
「まあ、そこそこに、かなり? なんとなく?」
車の中で尋ねてくる親父だけど、俺は笑ってごまかした。
「それにさ、当選金は一万円以上は銀行にいかないと交換できないからね。もう電話であらかじめ連絡してあるし、身分証明もマイナンバーカードあるから大丈夫だよ」
「そうか。まあ、何事も経験だからいいか。あまり無駄遣いするなよ?」
「うーん。無駄遣いしたい」
「今言ったばかりだろうが‥‥困ったやつだ。自分の小遣いになるんだからほどほどにな」
よし言質とった。
そのまま銀行に行って、受付で話をして別室に連れていかれて、今この状態です。
「‥‥では、こちらが高額当選者様にお渡ししている『今日から読む本』です。そしてこちらが『当選証明書』です。受取人は乙葉浩介さま、お父様が保証人ということで間違いはありませんね? 確認したらサインと印鑑をお願いします」
「はい」
「それでお願いします」
「では、当選金ですが全額、乙葉浩介さまの口座に振り込まれるようにしてよろしいですね。後日、乙葉浩介さまから金銭の授与があった場合、贈与税が加算されますので」
「いいんだよね、親父」
「ああ、しかし一万円程度で大ごとなんですね」
「え? お父様は伺っていなかったのですか? 乙葉浩介さんの当選金は466,750,300円です。宝くじの当選金には税金がかかりませんのでご安心ください」
「え?」
おやじ、ここで沈黙。
ガクガクと頭だけがこっちを向いて、口をパクパクしている。
「よ、4億円?」
「そーだよ。俺の小遣い4億円だよ」
そう説明すると、親父は頭に手を当ててうつむく。
そりゃそうだよな、いきなり息子が大金持ちなんだからさ。
「はぁ~。分かりました。全額、息子の口座に振り込んでいただくようお願いします」
「では、通帳をお預かりします‥‥」
そのまま支配人が部屋から出ていくと、親父がこっちを向いて一言。
「なるほどな。どうりで当選金額を教えなかったわけか。それなら浩介、お前、家を買わないか?」
「え? 家? どこの?」
「今住んでいる家を俺から買い取ってもいいし、どこかにマンションを買ってもいい。何かあったときの資産としては、物件を持っていると安全だからな」
なるほど。
それは確かにいい。
自宅が手に入ったら、ユータロや部活のメンバーを集めて魔法の講習会もできるかなぁ。今みたいに、部活の始まりと終わりに『指先くっつけてグールグル』ばかりだと物足りないだろうからなぁ。
「なら、どっちも買う。札幌市街地に高級マンション買って、あとは親父たちの住んでいる家も俺が買う」
「まあ、そういうだろうとは思った。それなら、家に帰ってから母さんとも話をしないとな」
そんなこんなでとんとん拍子に話が進む。
高額当選金の受け取りの際には、銀行から投資物件の話とか、今後の信託やらといろんな話が出てきたんだけれど、全て親父がストップかけてくれた。
流石だぜ親父、伊達に海外の研究所勤務じゃない。
「それでは、これで手続きは完了です。振り込みは二週間後になりますが、それでよろしいですか?」
「二週間後ですか。それよりも早くはできますか?」
マンションなどを購入するには、親父の力が必要。
だけどあと十日もすると、親父達はまたアメリゴに戻ってしまうので、それまでに全てを終わらせたい。
「……という事情がありまして、私があと10日でアメリゴに戻らなくてはならないのですよ。それまでにすべての手続きを終わらせたいのですが」
「ご事情は分かりました。では、照合時間を二時間ほど頂けるのでしたら、なんとか今日中には手続きを終わらせられます。お客様のように、特別な事情がある場合の措置ですが、それでしたら明日には口座に振り込めますが、それで宜しいですか?」
なんと。
そのような特例措置があるとは。
それで話は無事に終わった。
そして翌日には全額、口座に振り込まれていた。
そこからは司法書士を通して正式に自宅の売買契約書も作成されたし、親父の知り合いに頼んで中央区札幌駅前のマンションも購入することが決定。
結果としてかかった予算は、諸経費などなど込みで自宅は3200万、中央区のマンションはなんと1億。これで銀行の残高は3億3千万になった。
とりあえずこれをいくつかの銀行に振り分けるなど、親父がいろいろと手配してくれたおかげでかなり身軽になった。
これで7月一杯は身動きがとれなくなっていたので、実際に俺の夏休みは8月からスタートすることになった。
〇 〇 〇 〇 〇
8月2日。
今日は部活の日。
ちなみに大金が手に入ったんだけど、これをカナン魔導商会にチャージすることは思いとどまってしまった。
正確には瀬川先輩が止めてくれたんだ。
「現金を下ろしてくるのは危険ですけど、それよりも、カナン魔導商会にチャージした現金はどこかで還元されて現代世界に戻ってくるのですか?」
おぉっと。
それは全く考えていなかったですサーセン。
よく考えたら確かにその通りなんだよ、カナン魔導商会が本当に異世界にあるとして、俺がネットで1億円の買い物をした場合、カナン魔導商会本店に一億円が振り込まれていることになるよね?
それってさ、異世界では日本の一億円の使い道ってあるのか??
そう考えたんだけど、同じように異世界にいる現代人が、何らかの理由でカナン魔導商会から一億円を手に入れて、向こうの世界でネットスーパーを使うときには日本円でチャージすればいけばいいんじゃねって考えもしたんだけど、それでも結果は同じなんだよ。
所詮は机上の空論。
「つまり、オトヤンはこれから高く売れそうなものを調べる必要があるということだね」
「ユータロは簡単にいうなぁ。そういえば、おまえさんはもう換金したのか?」
「ああ。貯蓄用の通帳をいくつか作って貸金庫に置いてある。普段使い用の口座にも一億入っているし、これでデート費用も賄えるからね」
「チンコもげてしまえ。よし、第二聖典を修得したらユータロを女にしてやる」
「あ、それはそれで、体験してみたいよなぁ‥‥」
「この変態がぁぁぁぁ」
そんないつものやり取りを、新山さんと瀬川先輩はいつもの日常だと笑ってみている。
いつもの通りに魔術回路の訓練を始めると、今日からは魔力解放の実践も始める。
俺以外は魔力解放のスキルは持っているけれど、そのやり方は知らないので、実際に俺が手本を見せてやることになっている。
「そんじゃ、まずは簡単な指先に集めるやつね」
そう説明して、右手人差し指の先に小さな炎のように魔力を集める。
魔力解放で集めたので、これは可視化が可能だ。
「はぁ、それが魔力解放なのね。こんなかんじ?」
右手をじっと見つめている新山さん。すると、小さな光が指先に集まっているのが見える。
初めててそこまでできるのは大したものだよ。
「こ、これですか!!」
「それだ、そのまま続けて。あとは力まないで、自然に身を任せて」
「ふむふむ。これでいいのかな?」
瀬川先輩も指先に豆電球のようなものが出来上がっている。
いい、実にいい。
魔力循環といい、魔力解放といい、うちの文学部のメンバーは魔法使いとしての素養は十分にある。
「さすがです先輩。それで形を留める練習をしましよう。それでユータロはできた?」
「ああ。なんとなくだけと、もう一度オトヤンのを見せてくれないか?」
手本ね、それなら指一つじゃなく5本全部に順番に灯して見せてあげるとするか。
「OKOKわかったよ。じゃあユータロの努力に敬意を表して、俺の手品を見せてやるぜ。メ・ラ・ゾ・ー‥‥」
「やめろ~。オトヤンはいつから悪魔に魂を捧げた!!」
「ここは戦場だぜ!!」
「違うから。まあ、なんとなくわかったよ、サンキュー」
さすが天才、一度見ただけでなんとなく理解できるとは。しかも先輩や新山さんよりも少し大きめの奴が出来ているじゃないですか。
この調子で、毎日やっていたら、三人ともいつか魔法が使えるようになるんだろうなぁ
●現在の魔術の卵の状態
瀬川 『加護の卵 4/100』
新山 『加護の卵 3/100』
築地 『加護の卵 5/100』
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
・今回の判りずらいネタ
フレイ○ード/ダイの○冒険
・解説:オトヤンがカナン魔導商会に現金をチャージしても、手動でオトヤンたちの世界に還元されるためチャージした現金は消滅しません。
尤も、その事実はオトヤンたちは知らないのでこう言う対応になっています。
普通の異世界ラノベでは、そこまで気にしている作品は少数派ですので、それに肖ってみました。