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【書籍化】ネット通販から始まる、現代の魔術師  作者: 呑兵衛和尚
第三部・異界侵攻編、面倒ごとがやってきた‼︎
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第百五十七話・有為転変、一刀両断したいよなあ(対策会議と意外な真実)

『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週日曜日と火曜日、金曜日を目安に頑張っています。

 あのね、リナちゃんはね〜

 脳みそに、シワ三本しか、ないんだよ〜。

 リ、リ、リ、リリ、リ、リナちゃんはね〜。

 おーバカなんだ

 おーバカなんだ

 おーバカなんだ、け、れ、ど‼︎


「あの〜。今日は随分とご機嫌ですね? なにか良いことがあったのですか?」


 夕方の下校風景。

 私、有馬沙那はご近所の唐澤リナちゃんと一緒に、自転車で帰宅の最中です。

 でも、今日のリナちゃんは朝からずっと元気がいいようです。

 ちなみに彼女の名誉のために説明しますが、リナちゃんは決してバカではありません。

 むしろ学年ではトップ30に入るほど勤勉で、理解力が高いのです。


「ん? 私の全力に合わせられる先輩に会えたから」

「築地先輩ですね? たしかに、先輩の闘気はものすごい勢いを感じますけど」

「ええっと、築地先輩の流派は機甲拳パンツァードって話ししていたけど、あれは獣人専用体術の流れを受け継いでいると思う」

「それを人間が使いこなしているから、凄いのですね? でも、どこでそんな技を覚えたのでしょう?」

「わからない。けれど、只者じゃないことは理解している」


 ふぅん。

 男っ気の感じないリナちゃんが気になる相手ですか。それは恋なのでしょうか?

 でも、築地先輩は、女性関係にはだらしないという噂がありますけど。

 本当に、大丈夫でしょうか。


「早く行かないと、今日は妖魔特区に入れるんだからね」

「はいはい。リナちゃんにとっては、興味津々でしょうからね」


 乙葉先輩が、あの異世界侵攻の次の対策を考えるのに、魔族の方と話し合いをするそうです。

 リナちゃんが野生に帰らないか、心配ですよね。


………

……


 はいっ、平和な日が続いております。

 あの異世界侵攻の事件は、捻ることなく『異世界侵攻事件』と言う名前で、連日テレビやインターネットで報道されています。

 いくつかの放送局は、俺たちから直接話を聞き出そうとして突撃してきた挙句、予め待機していた内閣府の警護官によって追い返されていますが何か。

 ちなみに警護官の方々は、祐太郎の家の警備室を借りてうちの警護も行っているらしく、うちだけじゃなく新山さんと瀬川先輩のうちも守ってくれているそうです。

 なお、有馬さんのうちに向かった報道関係者は、嬉々として開発した魔導具の説明を有馬とーさんから聞く羽目になったらしく、自主的に行かないように努めているそうです。

 

 国会では、次の侵攻対策のために法律改正から手をつけようとしており、そこでも与党と野党の激しいぶつかり合いが見え隠れしているそうで。


 俺たちには、一切関係ありません。


「……と言うことで、今日は納品に来たついでに、フェルディナント聖王国の次の一手がどうなるか、聞きたいんだけど」


 俺たち魔法研究会実働班六名と、第六課代表の要先生は、次の侵攻の対策について白桃姫たちと相談することにした。

 

「さぁのう。少なくとも、妾が術的に水晶柱ターミナルを停止したのは知ってあろう? そこに乙葉が魔力拡散術式で水晶柱に魔力が蓄積しないようにしたではないか?」

「それって、国会前のターミナルは、もう起動しないと言うことになるのですか?」

「その通りじゃ。小春よ、よくぞ気がついたのう。いくらあちらの世界で儀式を行ったとしても、それは失敗に終わる。この魔素の薄い世界では、あちらから魔力を送り出して蓄積させない限りは、もうターミナルを開くことはできぬ」


 おっと、それじゃあ、もう此方には来ないって言うことでファイナルアンサー?


「つまり、新たに水晶柱ターミナルを作り出す可能性があると言うことですわね。一つ作れたのでしたら、まだまだ作り出すことは可能と言うことで?」

「瀬川のいう通り。こっちの世界に現れた水晶柱では、ターミナルとしての役割を果たすことはできない。これは、あちらの世界とは繋がりを持っておらぬからな……」

「切断されたのですよね?」

「うむ。妾が断ち切ったから、修復するのはかなり難しいじゃろ。ということで、次の奴等の一手じゃが」


 白桃姫が、地面にチョークで文字を書き始める。

 ここは外だから、ホワイトボードがあるわけではない。

 でも、テレビ塔って貸出できる会議室あったよね?

 そこにホワイトボードもあるんじゃないかと思ったけど、まあ、いっか。


鏡刻界ミラーワーズ裏地球リヴァースの位置関係。これは二つの世界が別々の公転周期で回転しておる。これが重なる場所が一つあっての……」


 縦横二つの八の字を描き、それぞれに鏡刻界ミラーワーズ裏地球リヴァースを示す小さな丸を書く。

 それが一つに重なる場所が接点であり、このタイミングが、魔族の転移門ゲートを開くタイミングらしい。


「この中心で二つの世界が重なってな。その時に、転移門ゲートは開く。もっとも、そのゲートが開くタイミングは、二つの世界が重なり、且つ、二つの世界の日蝕が重なった時のみでな。それが500年に一度じゃ」

「それでは、今回のような水晶柱を用いた侵攻は、どうやって行ったのですか?」

「この公転軌道の上に魔力を放出し、魔力のレールで結ぶ。マナラインとは、二つの世界がそれぞれ持っている魔力の流れでな、この公転軌道もマナラインによって結ばれておる」


 鏡刻界ミラーワーズからマナラインを伸ばして、こっちの世界に接点を作る。

 そこに水晶柱の欠片を送り出し、一気に魔力を注いで水晶柱ターミナルに成長させるらしい。

 この方法だと、狙った場所に水晶柱ターミナルを送り出すことはできず、偶然辿り着いた場所にしか作り出すことができない。

 しかも、それができるのは二つの世界が重なった日、その時間のみであり、成功率も限りなくゼロに近いらしい。

 それでも、500年に一度ではないため、可能性はあるらしい。


「……この公転周期は何日ぐらいで重なる?」

「祐太郎や、そこが難しいのじゃよ。これは平面で見るからこそ、ここのタイミングってわかるのじゃが、立体的に書くと、とにかく難しい」

 

 二つの八の字を、指先で空に描く。

 それを、一周ごとに角度を僅かづつ変えながらも、中心の接点の位置は変化させない。

 最終的な公転軌道は、ほぼ円形に近くなる。

 ただ、中心点はいつまでも変化しない。


「一周の時間は、おおよそ280時間から300時間。こっちの十三日から十六日というところじゃが。それまでに儀式に必要な魔力を集めることは、おそらくは不可能じゃろう」

「そんなに必要なのかよ」

「まあ、妾たち魔族が開く転移門ゲートの比ではない。それを、よくも短期間に開いたものじゃ」


 確かに、最初の騎士単独の襲撃から三日で、本隊がやってきた。

 白桃姫の説明によると、その三日間はパスという接続が確立していたらしく、それに魔力を注いで本隊のターミナルが開いたらしい。

 そのパスも、白桃姫が書き換えたのだから、あちらはパスの接続からの儀式を必要とする。


「何か裏技がある、そういうことか……」

「人間では補えない魔力じゃが、魔獣やドラゴンなどの体内にある魔石を集めることで、魔力は補うことができるじゃろうなぁ」

「そういうものを集めないとならないのか。そりゃあ大変だ」

「まあな。まあ、今説明した儀式でも、時の勇者一人の魔力で補えてしまうのが、勇者じゃったよ」


 きたな勇者伝説。

 それは俺も、フリューゲルから聞いた。

 存在自体が危険すぎて、畏怖の対象になっている。

 織田が間違って召喚された時、その召喚の光景を見たフェルディナント聖王国の軍勢が一気に撤退したぐらいだからな。

 そこは俺からも説明を行ったんだけど、何故かリナちゃんが瞳をキラキラと輝かせていた。


「あ、あの、それって、フェルディナント聖王国が、勇者を捕らえるためにラナパーナ王国に進軍を再開する可能性もありますよね?」

「ふむ、小春のいう可能性も無くはないが……勇者を捕らえるというのも、まず不可能じゃろうし……その召喚された勇者とやらは、此方に帰ってきているのであろう?」

「俺を召喚しようとして、代わりに飛び込んだクラスメイトだけどね。俺がこの前、連れて帰ってきた奴がそうだよ」

「見た感じの魔力値は40マギカスパル程度。勇者の千分の一以下。召喚儀式術式で、ギリギリ通り抜けることができる魔力値じゃったな」


 お、織田よ喜べ、白桃姫はお前の存在を認めたぞ。


「織田くん、鍛えたらモノになりそうかな?」

「無理じゃ、あやつの魔力の方向性はクラフト系。戦闘でも回復でもない」

「ふむふむ。まあ、織田は今はどうでもいい。白桃姫から見て、次のフェルディナント聖王国の手順は?」


 祐太郎が結論を欲している。

 まあ、気持ちはわからなくはない。


「早くてあと十日。この世界のどこかに新しい水晶柱が生み出される可能性がある。それができた場所に、再度、侵攻があると思った方が良いじゃろ」


 ここまで沈黙していた要先生も、ようやく手を挙げる。


「その情報は、公開して構いませんか?」

「別に、好きにするが良い。妾にとっては、何の価値もないからのう」

「ですが、こちらとしては異世界侵攻についての対策が取りやすくなりますから」

「好きにするが良いぞ。此度の報酬は、乙葉浩介からもらう約束になっておるからな」

「分かっていますって。ほら、これでしょ?」


──シュルルルルッ

 空間収納チェストから取り出しましたる、巨大冷凍ストッカー。

 業務用180リットルを改造して作った、魔力玉ストッカーでございます。

 魔力吸収回路搭載なので、いつまでも何処までも動き続ける代物に作ってある。

 しかも、中には俺たち四人の魔力玉が、それぞれ100個ずつ収めてある。


「「「「「ウォォォォォォオォォ‼︎」」」」」


 近くで畑を耕している魔族たちも、両腕を高く上げて絶叫した。

 あの方々は、誰?


「ん? 彼奴らは怠惰のピグ・ラティエ配下になったものたちじゃ。暴食のグウラが滅んだので、仕える主人を失った魔族じゃよ。妾が取り込んだのじゃ」

「あ、そういえば、どいつもこいつも、転移門ゲート攻防戦で俺たちと殴り合った顔だよなぁ」


 祐太郎も何人か見覚えがあるらしく、ニヤニヤと笑っている。

 うわ、祐太郎が、なんとなく悪人ヅラしてるわ。


「それは過去の話だ、水に流せ‼︎」

「まあ、今は敵対する意思がないんだろ? それなら構わない……って、リナちゃん、なんで突撃した?」


 その怠惰の氏族になった魔族の一人に向かって、リナちゃんが腕を回しながら突撃した。


「お手合わせ‼︎」

「よし、かかってこいやぁぁぁ‼︎」


──ガギィィィィーン

 まあ、突然武力で話し始めるリナちゃんと魔族は置いておく。


「沙那さん、大変ですね」

「まあ、リナちゃんのあれは癖のようなものですから。山猫の氏族特有のものでして、強いものを見ると、どちらが優位なのか試さないとわからないというか」

「ほう、あの小娘はリンクスの氏族か。確か絶滅したと伝えられてあったが? それにそなたも、気にはなってあったのじゃが、魔人形ではないか?」

「はい。ご挨拶が遅れました。我が主人、ヨハン・ゲオルグ・ファウストにより作られ、当代のファウストである有馬祈念により再構築されたオートマタ、沙那です」


 その説明を聞いて、白桃姫はものすっごく嫌そうな顔をする。


「……聞きたくない名前じゃなぁ。そなたは始まりの魔族王『十五魔将』が一家、ファウスト家の当主の遺産であったのか」

「申し訳ありません。私には、それらの記憶は残っていません」

「ああ、謝ることはない。妾とて、幼き時代に聞いた物語レベルの存在じゃ。して、リンクスの氏族は生き残っているとは」

「はい。第三次侵攻の折に、彼女の先祖の住んでいた村人の一部が裏地球リヴァースに逃げ延びたそうです」

「ふむふむ。そうであったのか」


 沙那さんと白桃姫が難しい話をしている中、リナちゃんは地面に潰れて気絶している。

 あ、負けたんだね。

 

「白桃姫さんとリンクスの氏族って。なにか関係があったのですか?」

「うむ、小春たちの興味を惹く話ではないが。リンクスの氏族は、妾の領地で保護している獣人族じゃ。村長たちが戦争に巻き込まれて散り散りになったらしく、妾のところに保護を求めてきたのじゃよ」

「その末裔の一人が、今のリナちゃんの両親です。ご先祖たちは仲間とはぐれ、こっちの世界に来たそうです」

「まあ。獣人の寿命は人も変わらぬからのう。当時の記憶を受け継ぐものは残っていないじゃろ」


 なんだか懐かしそうにリナちゃんを見ている白桃姫。

 あ、祐太郎がリベンジに向かって、気絶した。

 あの魔族、強いなぁ。


「さすがにブライガー抜きなら、勝てそうもないか。リナちゃんはまあ、実力不足?」

「というよりも、そもそもガチ戦闘の経験はないじゃろ? リンクス族は狩猟の民であったが、勇猛さでは戦闘魔族にも引けを取らぬ」

「長い時を経て、狩るものが獲物ではなく給料になったか……」

「この世界は歪なのじゃよ。人としての本能、弱肉強食が、法律によって締め付けられておる。妾たちの世界にも法は存在するが、ここまできついのに、よく耐えられておるのう」

「それが人間なんですよ。二度の大戦で、戦争というものがどんなものなのかよく知っていますからね」


 それ故に、異世界侵攻に対しては過敏なんだよなぁ。

 法律改正で、ガチで戦争したがっている党派もいれば、異世界と手を組もうという派閥もある。

 そして、ガチ戦争派は、表にはそんなことは出さないものの、ターミナルを使って異世界に領土を広げたいんだってさ。


 日本が、異世界を侵略する。

 その名目を正当化するために、法改正に乗り気とは、世も末だよ……。


 結局、今日の話し合いの結果としては、十日以内に第六課及び国の機関が対策を考える事になる。

 俺たちは、普通に学生やっていて良いんだけど、気になるから対策は講じる予定だよ。



いつもお読み頂き、ありがとうございます。

誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。


この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

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