第百五十六話・虎視眈々、虎の威を借りれなかった狐(魔法研究会の攻防)
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戦いの後。
フェルディナント聖王国からやってきた騎士達は残らず捕縛され、留置所に送られた。
装備品などは全て没収され、鑑識が細かいチェックを行うことになっている。
乙葉浩介の魔法により拘束されていたので、逮捕・拘束するのにはそれほど手間はかかっていなかったのだが、第六課からの進言で見張りを厳重に置くことを提案されている。
留置所の鉄格子や網など、彼らの力で引きちぎられる可能性があるのだから。
彼らは、現代世界の人間ではない。
異世界の、それも高レベルの騎士であるため、無手であっても、鉄格子程度を曲げることができるものも存在する。
第六課は、白桃姫からそれらの情報を入手していたので、すぐに国家公安委員会経由で進言をしてあったものの、『新たに専用の留置所を作る必要はない』、『巡回及び監視を強化すれば問題ない』という事で一蹴された。
………
……
…
「それで、あの水晶の柱から異世界に行く方法は分かったのかしら?」
委員会室で、燐訪議員は集まった『異世界対策委員会』の面々に問いかけている。
数日前のフェルディナント聖王国の進軍にて、虎の子であった特戦自衛隊が無力さを露見し、自衛隊及び高校生達によって騒動を鎮圧されたのが納得できなかったのである。
それならばと、異世界と国交を結び、向こうの世界の豊富な資源や土地を日本が有効活用しようと画策したのである。
「わかりません。向こうの世界からやってきた騎士や魔法使いたちを尋問し、その方法を聞き出そうとしたのですが。彼らは頑なまでに話をしませんし、なにより」
「何より?」
「彼らの話す言語が、理解できません」
「まあ、当然よね。それで?」
「それで? とは?」
「その後の手段は? まさか何もしていないとか言わないでしょうね?」
苛立つ。
新政府が成立して一週間、安穏とした状態で国会運営ができると思った矢先の、異世界からの進軍。
相手が妖魔でないというだけで、妖魔特措法による高校生達の召集もできず、暴動を鎮圧するどころか遁走する姿を報道されてしまっている。
しかも、入れ替わりに陸上自衛隊やら高校生達が戦場に姿を表し、鎮圧してしまったのである。
妖魔は敵であるという認識を刷り込みたいのに、第六課の腕章をつけた妖魔まで参戦するだなんて、燐訪をはじめとする与党議員は誰も想像していかなった。
「陣内なり、洗脳系能力を持つ妖魔にやらせたらいいじゃないの? あなたたちの頭の中には、何が詰まっているのよ‼︎」
ここにいる議員は全て、人魔・陣内によって思考誘導を受けている。
だから、この程度の発言や暴言など、誰も気にするものはいない。
「その陣内から断られました。燐訪さんの連れてきた妖魔、彼らなら可能ではないのですか?」
「あ、あいつらは無理よ。この前だって、無理を言って呼び出してもらったのですから……」
「それでは、もう手はありませんよ。あとは、北海道の魔術師達にでもお願いするしかないです」
報道カメラから、彼らがあの水晶柱を操って何かしていたのは確認している。
それ以後、あの銀色の門は閉じたと思われる。
つまり、彼らなら、もう一度開くことができるはずなのだが、また話をゴマかされて断られるに決まっている。
「そうね、では、何名かチームを作って、彼らに話を通してきてくれるかしら?」
自分は無理でも、誰か他の議員なら可能かもしれない。
そう一縷の望みに賭けるしかなかった。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
いやぁ、平和って素晴らしい。
そう言いたかったよ、俺は。
朝から登校して、クラスメイトに囲まれたよ。
昨日はそれほど騒がしくなかったのに、なんで今日は?
「インターネットで見たぞ、乙葉、流石は現代の魔術師だな」
「築地くん、格好良かったわ‼︎」
「新山さんも頑張っていたんだね? おつかれさま」
労りの言葉があちこちから来るのはなんで?
「へ? まさかとは思うけどさ、何処かで映像でも流れた?」
「昨日の夜に、YouTubeにアップされていたぞ」
「私はTwitterで見たわよ。テレビではショッキングな映像がとかいって、映像は流れていなかったけど、インターネットには流れていたからな」
「マジかぁ」
頭を抱えたくなる案件の中、新山さんも慌てて教室に飛び込んできた。
「た、助けて……」
「どうしたん? 何があったんだ?」
「登校したら、大勢の生徒に囲まれたのよ。お兄さんの怪我を治して欲しいとか、おじいちゃんのリューマチを治してとか……どういう事なの?」
「まあ、俺もさっき聞いたところでさ。実はカクカクシカジカで」
簡潔に説明すると、新山さんが机に潰れた。
「か、勘弁してください……」
「そうだよなぁ。政府から公式に……無理だな、俺たちは嫌われているから」
「はぁ。どうにかできないかなぁ……」
「そうだよなぁ。何か作るか」
「え? 作れるの?」
まあ、こういう時こそ、魔法だよ。
さて、そんな話をしていると、必ず突撃してくる織田が、今日は静かだなぁ。
チラッと織田を見るけど、苦笑いしているだけだから、トリマキーズの松永にコイコイと手招きしてみる。
「ん? なんだ?」
「織田が静かなんだが」
「あ〜、あれね、この前の一件で、コッテリと両親に絞られたらしくて、乙葉に絡むの禁止って言われたらしい」
「はぁ……それで懲りる男とは思えないんだが」
「約束を破ったら、親戚のところに預けられるって言われてさ。九州送りになるんだと」
わお。
流石に、今回の件では親御さんも動いたのかぁ。
「そうか。それで静かなのか」
「乙葉に絡むのが生き甲斐だったのになぁ。魔法も覚えて、これからが俺のターンだって話をしていたのに」
「いや、織田のターンは来ない。あいつのマギパスカル値だと、秘薬も発動杖もないから、一日一回しか魔法が使えないだろう?」
「それがさ、異世界で魔法のアドバイスを受けたらしくて、魔法は使うほどに良いって」
「スキルのレベルだよなぁ。ステータスの上昇は、本人のレベルが上がらないと無理だからなぁ」
そう話していると、俺の目の前で、松永が熱心にメモを取っている。
織田に教えてあげるんだろうなぁ。
「……そのレベルの上げ方って?」
「わからないんだよ。こればっかりは、俺も未知数でね。という事で、担任だ‼︎」
「サンキュー。織田を励ましてくるよ」
なんで、織田の取り巻きの松永や羽柴、明智とかは真面目なオタクなのに、リーダーは拗らせすぎたんだろうかなぁ。
柴田や豊臣なんて、オタク系じゃないのに付き合いがいい奴だからなぁ。
まあ、今日一日は静かにして、放課後に部活で頑張りますか。
………
……
…
「という事で、放課後ですが」
「オトヤン、そろそろ勘弁してくれ。本気でデップー化しそうで怖いんだが」
「まあまあ、様式美だね」
さてと。
新山さん達を救うための魔導具を作りましょうか。
何から手をつけていいのかわからないから、魔導書を取り出して術式を一通り調べることにする。
──ガラッ‼︎
「先輩、知恵を貸してください‼︎」
「ついでに、おやつもください‼︎」
唐突に有馬さんとリナちゃんがやって来て、開口一発それかよ。
何があったのかわからないが、なんとなく予想はつく。
「ユータロにどうぞ。俺は、魔導具作るから」
「築地先輩、なんだか校内の生徒が押し掛けてくるんです」
「ロボットが欲しいそうです‼︎ 今日のお茶菓子はなんですか?」
「リナちゃんはこっちにどうぞ。おやつはバームクーヘンですので、食べる分だけ切ってくださいね」
「ありがとうございます‼︎」
おおう、それは俺がカナン魔導商会経由ウォルトコで購入した50cmバウムクーヘンだな。
って、りなちゃんは少食だったか。
五cmだけカットして……
「では、頂きます‼︎」
五cmを残して、45cmを食べるのかい‼︎
「残す方が5cmかよ‼︎」
「はい‼︎ これが食べる分です‼︎」
「りなちゃん、みんなで食べるのだから、ちゃんとみんなの分も考えないとダメだよ‼︎」
「じゃあ、五cmを食べます‼︎」
沙那さんに怒られて、素直に戻すリナちゃん。
本当に、不思議な獣人だわ。
「ま、まあいいや。ええっと、顔のイメージと印象を弱く……認識阻害の効果になるのか。それを付与したアクセサリーでいいか。ミスリルはあるから……」
カナン魔導商会で、魔晶石とアクセサリー用の部品を購入。
新山さん用だから、魔力回復装置は使わなくていいので、別途でワイバーンの翼膜を購入。
これは魔導化すると『魔力吸収体』に加工できるので、効率よく新山さんの魔力を吸収してくれるはず。
この翼膜に溶けたミスリルで術式を書き込み、中心に魔晶石を設置。
この魔晶石に『認識阻害』の術式を刻み込むのだけど、ここで条件設定ができる。
新山さんの意思でオン/オフできるのは当然として、一定値以上の魔力量の人物には効果がないようにする。
これで、俺たちにも認識できないということは起こらない。
って言うか、これ、俺たちにも必要だよなぁ。
──カリカリカリカリ
細かい術式を刻み終わると、全てまとめて融合、魔導化を発動。
──キィィィィィン
魔法陣の中で、全ての媒体が一つに混ざり合い、小さな水晶に形を変化させる。
これをヘアピンの先に設置すれば、新山さん用の『認識阻害ヘアピン』の出来上がり。
最後に、全ての工程を記憶水晶球に書き込めば、完了。
「……ほい、完成。新山さん、これをつけて起動させてくれればいいよ」
「これって?」
「認識阻害の効果があるので、スイッチをオンにしていれば、新山さんがいても、それほど気にされない」
「いるのに気が付かないの?」
「それもあるけど、興味の対象から外すっていいか、好感度の変更もある。カリスマの低下とか、そんな感じ」
あっちの世界の術式なので、俺としても具体的な説明は難しい。
まあ、一言で表すならば『これだから魔法ってやつは』でおしまい。
「ありがとう。早速つけてみるね?」
「うむ。そして俺たちの分も増やさないとならないから、それはこちらで……」
部室の片隅で練金魔法陣を起動させると、記憶水晶球と材料を設置して、魔力を込めて錬金術スタート‼︎
「……本当に、オトヤンの錬金術は見ていて飽きないよなぁ。それで、有馬さん達の相談も、新山さんと同じらしいんだが。同じの、作ってあげられるか?」
「当然。ここにいるメンバーと、瀬川先輩の分までは用意しているさ」
「流石は、現代の錬金術師‼︎」
「……いや、それはちがうなぁ。嫌いじゃないフレーズだけど」
そういえば、カナン魔導商会で販売していた『浮遊戦艦』なんだけど、今見たら、『浮遊戦艦の残骸』になっていた。
廃棄物になったらしく、中古どころか材料としてお使いください程度の商品になっていたよ。
まあ、機動兵器は販売していたけれど、兆円単位の値段なのでむーりー。
「乙葉先輩、ありがとうございます」
「いいってことよ。どうせ、今日の帰りに有馬さんのうちに顔出す予定だったからさ」
「え? それって?」
「昨日話していたでしょ? 魔法の絨毯ができたので、それを納品しに行くだけだからさ」
「なるほど、それなら俺も行くわ」
「わ、私も行きたいです」
「リナちゃんも行きます‼︎」
──クスッ
みんなで行きたいと宣言したので、沙那さんも笑っている。
「わかりましたわ。父には先にLINEで連絡しておきますので」
「あざっす。それじゃあ、この魔導具が完成したら、早速行くことにしますか」
善は急げ、だけど俺たちは中立。
のんびりと部活が終わってから、有馬さんの家に向かうことにした。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「……これはすごい‼︎ ミスリル繊維を術式に転換し、魔晶石に魔力を集めるタイプではないか。絨毯の裏打ちにはワイバーンの翼膜を使用、搭乗者の魔力を集積し、この魔晶石によって増幅しているのか。ふむ、この辺りはなかなか細かい作りになっておるな。これはベースがペルシア絨毯ならではの肌触り。搭乗者の環境にも配慮した、細かい作りになっているじゃないか。しかし、この術式は……なるほど、光球の術式を用いてヘッドライト、ウインカー、ブレーキランプも組み込んだのか。しかも、運転手の意思によって自在に動くとは、なんと言う技術だ‼︎」
「「「一目で読み切るな(らないでください)」」」
有馬さんの研究室というなの倉庫の中で、俺は有馬父さんに魔法の絨毯を納品した。
「よし、それではこれを授けよう。私の作り出した魔導機動甲冑の図面だ。これは沙那専用ではなく、普通の人間に扱える様に設計しておるが、必要魔力値は500マギパスカルと強烈だ。これを電気で置き換えるならば、カミナリを想像してくれると助かる」
「うわぁ、バックトゥザ・フューチャーみたいなこと話し始めましたか」
「あれは実にいい作品だ。是非とも、私も過去に向かうための魔導具を開発したいものだよ」
あ、この親父、いらんところでフラグを立てた様な気がする。
そしてふと気がつくと、有馬父さんの話を聞いているのは俺だけで、新山さんは沙那さんと別の魔導具で盛り上がっているし、祐太郎はリナちゃんと手合わせをしている。
「よし、そろそろ体も温まって来たから、本気できて構わないぞ‼︎」
「りょーかい‼︎ 山猫式羅漢拳、ただパンチ‼︎」
──ゴゥッ‼︎
あ〜。
機甲拳使っている祐太郎と、あの巨大なガントレットつけているリナちゃんとの戦闘は、手加減がなくてすごいなぁ。
祐太郎の一撃一撃を受け止め、流しているんだけど、リナちゃんではそこが限界かぁ。
「くっ、殺す‼︎」
「それはクッ殺じゃねーからな。隙が大きい、技の出が遅い。細かいコンボで繋いでから、大技に繋がないと無駄な動きがありすぎる‼︎」
「りょーかい‼︎」
ふむ。
楽しそうだなぁ。
そして俺の前では、いつのまにかホワイトボードで術式と図面を開いて説明している有馬父さん。
「つまりだ、この術式を使えば、さまざまな時空、さまざまな世界に向かうことができるようになる。ただし、必要な魔力が大きすぎるため、ワシでは無理だ」
「いや、俺でも無理ですからね。時間と空間を突破するには、なんだかって言う女神様の承認がないと難しいのですよ?」
「ふむ。では、その女神と交信する魔導具を開発すれば良いのだな?」
うわぁ、新山さん、祐太郎、そろそろ助けてくれ‼︎
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
 





