第百五十一話・緊褌一番、中原に鹿を逐うそうです(東京事変のその前に)
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週日曜日と火曜日、金曜日を目安に頑張っています。
泉ノベルズより、ネット通販から始まる、現代の魔術師一巻発売中‼︎
ということで、無事に織田を連れて帰りました。
あらかじめ祐太郎と新山さんには連絡をしておいたので、無事に校長室で織田は両親とご対面、事情を知る両親から説教モード
なんだかんだと時間が掛かったおかげで、今は昼休みの時間。皆が弁当を食べているところに、俺と織田は無事に教室に帰還となりましたとさ、俺だけめでたしめでたし。
「カクカクシカジカ。と言うことで、異世界といってもさ、俺は王城付近にしか行ってないから、詳しい話は織田の方にどうぞって感じ」
「まあ、オトヤンが無事なら良かったわ。あとはフェルナンド聖王国だな」
「私たちも、今日の夕方には東京に向かいます。乙葉くんは、今日は体を休めるのですよね?」
「まあ、ぶっちゃけると魔力が厳しい。魔力回復薬じゃあ、慣れが生じて自然回復量が下がるんだよね」
明日のどの時間に、水晶柱が開くのかわからない。けれど、前回のパターンなら、開くのは正午だろうと予測はつく。
それまでに対策を練って、できる限り人死が出ないようにしないとならないんだよなぁ。
「それじゃあ、朝一ってところだな。俺たちは後方で待機している忍冬師範のところにいるから」
「オッケー。新山さんと瀬川先輩も?」
「はい。築地くんと同じ場所に、救急施設があるそうで。そこで待機です。瀬川先輩は、第六課の指揮車両で忍冬師範たちと待機だそうで」
「ガチバトルだよなぁ。まあ、俺もそっちに向かうから、到着までよろしく」
さぁ、賽は投げられた。
今回の俺たちのやることは、日本政府にうまく扱われないように『第六課の手伝い』として後方支援を行うこと。
しかし、今年頭の転移門封印作戦から、まだ三ヶ月だよ?
今年は三ヶ月ペースでなんか起きるの?
そう考えてしまうけど、なんとな〜く俺たちの覚醒から色々と起きているような気もしてきたぞ?
いやいや、それは無いよね。
そんなこんなで翌朝。
俺は大量のお弁当を作って空間収納に放り込むと、急ぎ東京へと飛んでいった。
あと数時間後には、大戦争になりそうな予感がするからね。
………
……
…
一方、関東圏。
「ふう。なんとか間に合ったか。今回の仕事は報酬が高いので、なんとしても成功しなくてはならない。しかし助かったよ。私一人で行くことも考慮に入れていたのだが、まさか沙那だけではなくリナ坊も付き合ってくれるとはな。本当に感謝だ、あの第六課とかいう人たちの手伝いとはいえ、君たちまで巻き込んでしまったことには誠に申し訳ないと思っている」
北海道を出発して、夜通しで高速をひた走る有馬祈念。
改造大型トレーラーの後部座席では、唐澤りなと娘の沙那が、のんびりとスマホゲームを楽しんでいた。
「まあ、お父様の仕事ですから。放っておくと、何をしでかすかわかりませんからね」
「……でも、さすがはシャナとーちゃん。水陸両用の大型トレーラーで津軽海峡を越えるとは思わなかったよ。説明はいらない」
「なに、説明はいらないのか? せっかくこの私が作った万能トレーラーについて説明をしてあげようと思ったのに。まあいい、いらないと言われたのなら素直に諦めようじゃ無いか。それよりも腹は減っていないかな?」
そろそろ明け方。
ずっと運転していた有馬も、軽く食事を取って一休みしたいところである。
これには二人とも同意し、サービスエリアでの朝食を取ることになる。
「それで、行程的には、東京には何時ごろ到着するのですか?」
「……昼前には着く。忍冬氏からは、なんとしても昼前にはついてほしいと言われていたからな。まあ、今の速度なら楽々着くはずだ。ということで、私は仮眠させてもらう。一時間は大丈夫だ、それぐらいで起こしてくれ」
だーっと言い切ってから、有馬はトレーラーの仮眠ブースに潜り込む。
──コックリコックリ
「私たちはどうする? って、りなちゃん、寝るなら仮眠ブースに行きましょう」
「むにゃ……一時間寝る……」
「はいはい。それじゃあ行きましょうか」
「うん」
流石に、二人とも睡魔に襲われて限界である。
有馬の仮眠している隣のブースに潜り込むと、二人も静かに仮眠を始めた。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
朝。
快適な目覚め。
外は晴天、雲ひとつない青空が広がる。
昨晩は、寝る前に魔導強化外骨格の魔力カートリッジにフルチャージしておいた。
まあ、結果的には、そのまま魔力欠乏症になりそうになったから、魔力回復薬で少しだけ回復して眠ったよ。
おかげで、魔力も気力も全開さ。
軽く朝食をとってから、魔法の箒で一路、東京。
一時間かからずに、目的地の永田町付近に到着。
あとは、新山さんや祐太郎の待つ、指定の宿まで向かったんだけどね。
「おはよう乙葉浩介くん。早速だけど、国会議事堂まで来てくれるかしら?」
宿の外で待っていたのは、燐訪議員でした。
でも、なんで?
「理由は?」
「当然、貴方たち魔術師に戦ってもらうからに決まっているわよ? まさか断るなんて言わないわよね? この戦い如何では、日本の命運も変わってくるわよ?」
「……その戦いは日本政府が行うのでは? 自衛隊だっていますよね? 機動隊も、そうそう特戦自衛隊だっているじゃないですか?」
「この日本国内で発砲を許せというの? あのね、自衛隊は違憲なのよ? 災害救助とかは、まあ他に適切な組織がないから『やらせてあげている』だけであって、私たちは認めてなんかいないわよ」
あ、また始まったよ。
「特戦自衛隊は出ていますよね? それは違憲じゃないんだ」
「そりゃそうよ。敵は妖魔ですから」
「その妖魔相手だからいい、そうじゃないならダメっていう区切りがわかりませんね。だったら、特戦自衛隊に銃でも持たせたらいいじゃないですか」
「そのための準備はしてあるわよ。でもね、最後のツメは貴方たちにお願いしたいのよ。日本政府に協力する魔術師っていうことでね」
──パチン
燐訪が指を鳴らすと、見たことのない議員がやって来る。
そして、俺をひと睨みした時。
『隷属術式に対抗しました。賢者のクラスには、隷属は無効です』
なるほどなぁ。
思考誘導の次は、隷属化かよ。
『隷属術式を魔導書に転写しました』
オーケィ。
「さあ、行くわよ?」
「こ、と、わ、る。隷属術式とは、また面倒なものを使う妖魔を用意したね。それで、そこの妖魔、俺たちと敵対するっていうのなら、相手になるぞ」
「……え? ち、ちょっと待ちなさいよ、凌魂童子の隷属術式に対抗したっていうの? 嘘でしょ?」
慌てて振り向いて、凌魂童子と呼ばれた議員を見る。すると、議員は呆然としたまま、俺を睨みつけているが。
「だ、駄目です、完全にレジストされています」
「なんだっていうのよ、洗脳も思考誘導も、さらに隷属化まで効果ないなんて……貴方は何者なのよ?」
金切声を上げながら、俺に掴みかかる勢いで怒鳴り散らす。
「何って、現代の魔法使い・乙葉浩介だよ。わかったらとっとと帰りなよ。それと、その隷属術式って、俺の仲間には使っていないよな?」
魔力を放出して凄んで見せる。
すると、俺の魔力に当てられたのか、後ろに立っていた凌魂童子とその他二名が、膝をついて蹲ってしまう。
俺の膨大な魔力に当てられて、身体能力が低下したんだよ。
魔力欠乏症の逆症状ってやつだね。
ほら、俺たちも学校でハングリーミストの中に突っ込んだときになったやつ、あれだよ。
「な、何をしたのよ‼︎ 妖魔特措法違反? この街中で、許可なく攻撃系魔術を使ったのね?」
「まっさかぁ。俺が魔法を使ったっていう証拠は? あんたらも前に、天羽総理を拐って妖魔と入れ替えただろう?」
「さあ? その件については、証拠不十分ってことになったわよね? それに、そんなことを覚えている議員なんて、もういないわよ?」
「堂々と、自分たちの利己のために魔法を使ってよく言うわ。まあ、俺は使っていない、それだけだよ」
それだけを告げて、燐訪の横を通り過ぎて宿に向かう。
「……貴方たちは、必ず私たち日本政府の指揮下に入ることになるわ。これは決定事項なのよ‼︎」
「こっちにも切り札はありますので。俺たちに手を出したら、俺は許さないからな」
そのまま後ろでギャーギャー叫んでいるけど、カエルが叫んでいると思って無視。
すぐにチェックインしてから、指定された大広間に向かうことにした。
………
……
…
「よう、朝から不機嫌そうだな」
「まあな。祐太郎たちは無事みたいだから……」
『新山小春、築地祐太郎、瀬川雅、忍冬修一郎、井川綾子、以上五名の精神状態を確認、精神汚染なし』
「ほっと一安心。すまないが、これをつけてくれるかな?」
──ジャラッ
すぐさまカナン魔導商会からレジストリングを購入して全員につけてもらう。
「これは?」
「レジストリングね。何かあったのかしら?」
「これが。話には聞いていたが、これで妖魔の特殊能力を防げるのか」
「この前の指輪とはちがうのね?」
「まあね。それで、掻い摘んで説明すると、玄関で燐訪議員とばったり遭遇してね。危なく隷属化されそうになったよ」
そう説明すると、全員が絶句する。
思考誘導、洗脳まではまだ情報として知っていたけど、隷属化となると洒落にならない。
隷属は、自分の意思とは関係なく、強制させられるから。
思考誘導は、意識を誘導するのであって強制ではない。それに洗脳は、そうあったと認識させられるので、この二つは自分の意識の範囲内となる。
だが、隷属化は違う。
自分の意識は残ったまま、無理やり従わせるのである。
「それで、レジストリングか。でも、隷属化の前に別の特殊攻撃を受けると、先にリングにその攻撃が書き込まれてダメになるぞ」
「だから、先に書き込むよ……みんな、俺を信じてくれよ‼︎」
──シュンッ
空間収納から魔導書を取り出し、さらに魔導強化外骨格・魔導紳士モードを装備する。
そしてリングで俺の魔力を百二十五倍ブーストすると、祐太郎や新山さん、瀬川先輩は俺がやることを理解した。
「成功率は?」
「俺よりもみんなの方がレベルが高いからさ。5%もない。けど、ここまでブーストすれば、70%まで上がる。それじゃあ、俺を信じてくれ」
──キィィィィィン
ここでようやく、忍冬師範も井川さんも俺が何をやるのか、なんとなく理解した。
「我が名は乙葉浩介。我は、かの者たちの魂を縛る。永久の世界、果てなき彼方。時と空間を超えて、魂は我がものとなる……隷属‼︎」
──ガギン、バギッ
全員の首に黒いチョーカーが生み出され、そして砕け散る。
改めて全員を確認すると、隷属化は失敗し、全員の指輪に『対隷属』の効果が刻み込まれていた。
「……俺たちは、ルーンブレスレットに組み込めばいいんだよな?」
「ありがとう、乙葉くん」
「これで少しは、気が楽になりますわね」
三人ともルーンブレスレットに指輪を登録するので、紛失することはない。
さて、問題は井川さんと忍冬師範だけど。
「その指輪は、装備していたら隷属術式に対抗できます。あと、下位互換の洗脳術式と思考誘導も無力化できますので、外さないようにしていてください」
「分かった。それにしても現与党は、なりふり構わなくなってきたな……この危険な状態でもなお、自分たちのことしか考えていないのか」
「その件については、彼らが妖魔と盟約を結んでいるからという可能性もありますわ。どのような盟約なのかまでは分かりませんが、急ぎ何かをしなければならないというのは、あるかもしれません」
今のところ、妖魔と盟約を結んだという議員については全網を把握していない。
それよりも、今、目の前の危機をなんとかしないとならない。
「それでは、この後は全員で移動式指揮車両で現地に向かう。我々内閣府公安委員会第六課は、特戦自衛隊のバックアップに回る。だが、君たちは極力前に出るなよ」
「了解ですよ。俺たちは後衛、何かあった時用の切り札ですからね」
祐太郎が呟く。
確かに、あの水晶柱から出てきた騎士を相手に、祐太郎は一歩も引くことなく互角の戦いをしていた。
だからといって、出てくる敵を全て祐太郎に任せるわけにはいかない。
「私は指揮車両内で、周辺の戦局を掌握しなくてはなりません。新山さんは近くの救護施設に井川巡査長と向かって、救急活動班に加わってください」
「わかりました。乙葉くんと築地くんは」
「指揮車両付近で待機、かーらーの遊撃」
「そういうこと。まあ、無理しないから、新山さんも頑張って」
──スッ
カナン魔導商会から、大量の魔力回復薬と中回復薬を購入して、新山さんに手渡す。
大体二十本ずつで問題はないと思う。ちなみに経費は既に、忍冬師範から貰っている。
「あと一時間。それで、この場所は戦場になる……」
「付近の避難は完了しています。あとは、敵の動向を見ないことには」
「ああ。可能な限りの人死は出さない。敵味方合わせて……だろう?」
忍冬師範が俺の方に問いかけるので、ここはサムズアップしておく。
「それじゃあ、よろしくお願いします‼︎」
「「「「お願いします」」」」
俺の掛け声で、第六課チームの作戦は開始された。
さて、どうなるか。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
フェルナンド聖王国。
その大神殿前では、スカループ大司教が熱弁を振るっている。
「諸君。其方らの後方にあるのは、異界へと続く門である。我らがフェルナンド聖王国は、太陽神のお告げにより、新たなる聖地を得ることができた‼︎」
熱狂者の集団では無い。
此処にいるのは、宗教という免罪符を得た狂信者たち。
最前列に並ぶ騎士団をはじめ、傭兵、冒険者が大勢、その場に並んでいる。
──グルルルルルルル……
そして一番後方。
そこには鎖によって大地に繋がれた、体長20mの巨大なドラゴンが3頭も待機している。
その首の根本には鞍が据え付けられ、騎士が乗って待機している。
「これも皆、神が我々を信じてくれているからである。我らは、神の期待に応えなくてはならない。新たなる地に、太陽神の教えを広め、彼方の蛮族に神の力を示さなくてはならない」
大司教は叫ぶ。
我らこそが、神の使徒であると。
我らこそが、民を導く存在であると。
神に認められた我らこそが、世界を統一するのであると。
「太陽神が天空に登った時、異世界への転移門は開かれる。その時こそが、我らフェルナンド聖王国の新たなる始まりなのである‼︎」
来賓席で大司教の言葉を聞いている貴族たちも、新たなる土地の利権を夢見て、高揚感に包まれている。
集団催眠といって仕舞えばそれまでであるが、スカループ大司教は実際に神の加護を実践している。
太陽神イグニートの加護。
スカループ大司教は、鏡刻界でも数少ない『神聖魔法』を行使できる。
それが、彼を大司教へと歩ませた原動力であり、多くの信者がイグニートの存在を信じ、崇拝する証明でもある。
──キィィィィィン‼︎
そして太陽が頂点に差し掛かった時。
巨大な転移門は活性化し、虹色に輝きはじめた。
………
……
…
──キィィィィィン
永田町・国会議事堂前。
今は正午。
巨大な水晶柱が虹色に輝くと、突然、水晶柱を取り囲むように巨大な円柱状の壁が生み出された。
周辺で待機していた特戦自衛隊が盾を構え直し、敵の出現に身構える。
そして、円柱状の壁が虹色に輝いた時。
──グウォアァァァァァァ
絶叫と共に姿を表したのは、全高5mの一つ目の巨人の群れ。
そして上空に向かって、壁から姿を表した三頭のドラゴンが舞い上がった。
出てくるのは人間。
そう信じていた特戦自衛隊は、機動隊は、突然姿を表した巨人とドラゴンに怯え、後ろに下がる。
その刹那、さらに壁から重装備の騎士たちが出現して、自衛たちと機動隊に向かって襲いかかっていった。
東京・永田町。
国会議事堂前では、日本の存亡をかけた戦いが、幕を開いた。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。