第十五話・旅は道連れ世は情け、吉凶禍福の日々なりき(聞いてませんが‼︎)
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週火曜日と金曜日を目安に頑張っています。
初めての夏休みまで、あと一週間。
今日は部活も休みなので、まっすぐ帰宅かーらーの大通公園・ストリートマジシャン甲乙兵の出撃でございます。
とはいっても、大通りについたのがすでに夕方5時なので、一時間程度のワンマンショーである。
地下街のトイレで甲乙兵装備に換装して、のんびりと歩いていく。
NET-TUBEで流れていた動画を見た人がいたのか、今日もすぐに周りに人が集まってきた。
「前回は水なので、今日は‥‥チャイナリングで行きますよ」
丸い4っつの鉄の輪を、繋がったり外したりするマジックではスタンダードなやつ。
しかも、今回は魔導書の第一聖典・融合化を使ってみようそうしよう。
あらかじめ市内のマジックショップで購入したチャイナリングを完全に接合し、つなぎ目のない輪っかを作ってある。
これを観客の皆さんに手渡してタネも仕掛けもないことを確認してもらうと、それを使ってゆっくりとパフォーマンスを始める。
一瞬で次々と鎖のように輪っかを繋げたり、オリンピックのマークのように融合したり。
一回ごとに観客に手渡してタネも仕掛けもないことを確認してもらい、20分ほどはチャイナリングで遊んでいた。
観客はスマホ片手にboyaitterやNET-TUBEにアップしているらしく、一人、また一人と人が集まってきた。
ふむふむ、融合化は意外と使いやすい。
二つの物質を、あたかも一つのものとして作り出すことが出来るこれは、使いどころによっては最大の効果を生み出す。
それならば‥‥鉛筆の後ろに消しゴムを‥‥既にあるわ。
物理的に組み合わせているのではなく、魔法的に融合しているので質量など知ったことかと無視できるのが最大の強みである。
例えば一昔前にはカセットレコーダーをラジオに組み合わせたラジカセがあったように、IPODにDVDプレイヤーを組み込んだ世界最小のプレイヤーを作ってスマホに接続するとか、いっそスマホにDVDプレイヤーを組み込んで‥‥いや待て、そもそもメディアを読み込めないぞ?
考えれば考えるほどに夢が広がるが、『個として確立しているもの二つ』を一つに合わせるのは、なかなか難しいという事は理解した。
「さて、それでは本日はこれにて。またの機会をお待ちしています!!」
サーカスのクラウンのように大げさな挨拶をすると、そのままベンチに座ってひと休み。
マスクは取らないよ、目立つから。
「この前も、ここにいたんだよなぁ‥‥」
ゆっくりと魔力を循環し、それを目に集めていく。
視界に何かフィルターのようなものが被せられた感じがし、そしてそれは透き通り鮮明に映る。
――ブワッッッ!!
突然。
目の前に女性の顔が浮かんでいた。
まるで、なにかを見定めているかのように、ゆっくりと俺を見ている。
なんだ、何が起こった?
つい今しがたまで、ここには誰もいなかったぞ?
それよりもだ。
どうして頭だけが浮いている?
胴体はどこにある?
幽霊かよ‥‥。
ダメだ、心臓がバクバクと言っている。
『こいつでいいかなぁ‥‥なかなかいい精気を持っているからねぇ』
――ズルッ
真っ赤な口で呟き、目の前の顔は舌なめずりする。
そして、ゆっくりと口を大きく開くと、俺の頭に噛みつこうとしていた。
真っ赤な口の中にはサメのような牙がずらりと並んでいる。
「あ‥‥あ‥‥力の矢っっっっっっ」
顎下から、突き上げるように力の矢を叩き込む。
突然の下からの攻撃でガギンと顎が閉じると、その顔はニイッと笑った。
『へぇ‥‥全滅したと思ったのに、まだこっちの世界にもいるんだ‥‥』
鑑定だ、鑑定しろ。
いや、逃げろ。
これは何かの夢だ、きっとそうだ。
誰かのパフォーマンスだ、そうでないと、こんなのがいたらみんなが驚いて叫んでいる。
なんだよ、こんな化け物が目の前にいるんだぞ!!
どうして叫ばない、驚かない‥‥
『痛いなぁ‥‥でも、そんなに強くないね‥‥痛いけどさぁ‥‥』
ケタケタと笑いつつ、もう一度口を開く。
そうだ、もっと強く。
SBリング解放、125倍ブースト。
――ドグシャァァァァァァァァァァァァァッ
『ギイュァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ』
大きく開いた口の中に、力の矢を叩き込む。
それで顔面は砕け散り、霧のように消えていった。
そこから走った。
とにかく走った。
なんだあれば、あんなものが、目に見えない世界にいたのか
そうだ鑑定だ、ああ、ダメだまた間に合ってない。
怖い怖い怖い怖い
どうしてこんなものがいるんだよ‥‥。
‥‥‥
‥‥
‥
どこをどうやって帰ってきたか、まったく覚えていない。
自宅に戻って家中の電気を点けて、ベッドに飛び込んで布団をかぶっている。
「あれは何なんだよ!! ここは現代世界で科学文明だぞ、なんでオカルト世界が目の前にあるんだよ‥‥」
自分のことは棚に上げる。
こんなところで怯えていてはだめだ、あんなのがそんなにいるはずがない。
不屈の闘志を持つんだ、そうだ、それはそれ、これはこれだ。
俺は不屈闘志なんだ。逆境にはなれるんだ!!
必死に自分に言い聞かせて、その日は何もしないで布団で眠り込んだ。
いや、いつのまにか眠ってしまっていた。
〇 〇 〇 〇 〇
――ガバッ
ベッドから跳ね起きる。
時計を見ると、まだ朝の五時。
甲乙兵の姿のままでベッドで眠りこけてしまったらしい。
「うわぁ、とりあえず着替えてシャワーだな」
熱いシャワーを浴びて着替え、とりあえず空腹を紛らわすために早めの朝食を取る。
ひよっとしたら昨日の出来事がニュースに流れているかもとインターネットでニュースを探すが、特にそれらしいことはどこにもアップされていない。
その代わり、甲乙兵の動画がNET-TUBEやboyaitterに上がっていたので、思わず見入ってしまった。
「‥‥しかしあれはなんなんだ? 物の怪? あやかし? そういったものは相手したくないぞ」
折角もらったチートスキル、なんで戦うために使わないとならないんだ?
俺はこのスキルで面白おかしく生きたいんだよ。
だから、昨日みたいなリアルホラー&プラッシュは勘弁してくれ!!
「そういえば、返り血も何もなかったし‥‥なんなんだあれは?」
いくら頭を捻っても調べても、何も判らない。
しまった、動画に取っておけばよかったと思ったが、そもそもあれは映らないだろう。
「はぁ‥‥とりあえずユータロにでも相談するか。とっととユータロも魔法が使えるようになってくれよ。そうすれば、一人で怖い思いをしなくて済むんだけどなぁ‥‥」
そんなことをブツブツと呟きつつ、朝の登校時間までもう一度寝ることにする。
‥‥‥
‥‥
‥
「オトヤン、昨日も甲乙兵の動画が上がっていたぞ」
「はぁ、それは朝見たわ。それよりもさ、ユータロ、目に見えない生首が飛んできて、俺に襲い掛かってきたんだがどう思う?」
その問いかけは祐太郎もまじな顔になる。
前に座っていた新山さんも椅子の向きを変えて俺のほうを見た。
「それはどういう意味だ?」
「意味も何も、事実だわ‥‥」
ノートを取り出して、昨日見た顔面をサラサラッと書き上げる。
幸いなことに中二病オタクだったので、多少はイラストの心得もある。
だが、それを見せると祐太郎も新山さんも、眉根をひそめてしまう。
いかん、リアルに描きすぎたわ。
「ろくろ首‥‥いや、生首か。これは確かに気持ち悪いわ」
「こんなのが本当にいるなんて‥‥」
「そうだろう、そうだろう、俺も驚きだよ。全力で魔法ぶち込んで退治したんだけれどさ、もう、必死だったよ‥‥こんなのがいるのなら‥‥っていうか、そもそもこいつはなんなんだろう?」
本当に疑問である。
普段は目に見えることはない、魔力を目に循環して初めて見えた存在。
この前のフワフワクラゲといい、今回の生首といい、本当に謎である。
そもそも、ひょっとしたら手で触れることが出来ないのかもしれないとまで思い始めてきた。
なぜだって?
だってさ、あんなのがあの高さで普通に飛んでいたら、誰か彼かはぶつかったりしているはずだよ?
それなのに、あの場で騒いでいたのは俺だけなんだよ?
「まあ、詳しいことは放課後はなそうや。今のところは大丈夫なんだろ?」
そう問われると、確認するしかない。
恐怖心をぐっと抑えて、ゆっくりと魔力を目に集める。
――キィィィィン
うん、昨日とおんなじ、視界にフィルターがかかっていく、そしてスッと透明になると。
今日は何も見えていない。
「おっけーおっけー七つのうーみーはーだよ。特におかしいものは何も見えないわ」
「ならいいな、続きは放課後だ」
今日一日は、休憩時間ごとに魔力を目に集めて周りを見渡す。
そして授業中は静かにして魔力の回復を待ち、また休憩中に目に魔力を集める。
回復量が消費量に追いつかなくなってきたので、午後は全て回復に努めて放課後を迎えることにした。
〇 〇 〇 〇 〇
放課後、部室に向かう。
そして昨日あった出来事を全て説明し、みんなにも注意喚起したのだが、瀬川先輩は何かを考えていた。
「乙葉君、貴方のカナン魔導商会で目に見えない対象を見るための魔導具はないのかしら?」
「あ~、それなんですけれど、実はないのですよ」
確認のために、皆の目の前でカナン魔導商会の画面をオープンする。
まだ俺以外は異世界の文字を理解できないし、何よりも俺以外には画面が見えない。なので、それらしい魔導具を俺が探しては一つ一つ説明していく。
だが、やはり『目に見えない存在を見る』ための魔導具は存在していなかった。
先輩や新山さん、祐太郎も魔力を目に集中すれば見えるようにはなるのかもしれないが、それにしても能力値が低く長時間の対象視認は難易度が高い。
「なあオトヤン、それなら魔導具を作ってみるとか?」
「それですよ!! 乙葉君が魔導具メーカーになればいいのではないですか!!」
「二人とも、あまり乙葉君に無茶な注文はしないであげてね。現時点では、乙葉君でさえМPの消費が高すぎて対応できないのですから、それ以上に無理強いすることはよろしくないわよ?」
ああっ、今日は瀬川先輩が天使に見える。
実際に俺のМPはもう限界近くまで消耗している。
まあ一晩眠れば全快になるという、実に理不尽な仕様であることに変わりはないのだが。
「あ、そうだな、すまんオトヤン」
「ごめんなさい‥‥」
「いやいや、いいってことよ、確かに現状では俺しか対処できない。なら、その俺が何か対抗策を探せばいいだけだからね。だてにこの世界唯一の加護持ちじゃないからな」
「今はな~、そのうち追いつくから待っていろよ」
「応!!」
ガシッと祐太郎とこぶしを合わせる。
そのあとは、とにかく対処方法がないかみんなで話し合ったが、特に良いアイデアが思いつかなかった。
「ふぅ。ま、この件はまたのんびりと考えてみるよ」
「そうか、オトヤンがそういうのならいいか。という事で話は変わるが、オトヤンにプレゼントだ」
──ドサッ
祐太郎がテーブルの上に置いた布バッグ、その中には色々な雑貨が入っていた。
「築地君と新山さんと話し合いまして、乙葉君にプレゼントですわ。例のネット通販の買取査定の相場確認に使ってください」
「乙葉君1人だと、お小遣いがなくなるでしょ? それならみんなで持ち寄ってあげたらって思ったの」
「ほら、魔法訓練とかのお礼も兼ねてだよ。家に余っているものとかだから遠慮せずに早速試してくれないか?」
おお、そんなの俺は気にしていないのに。
それなら、ありがたく査定に出してみましょうそうしましょう。
「うう、人の情けが身にしみる。そんじゃ、色々と試してみますか」
次々と査定に出していく。
…
……
・精製塩1kg……12000円
・上白糖1kg……9500円
・現代書籍 小説で5000円前後
写真付き図鑑などは10000前後
カラーグラビア20000円〜50000円
・磁石 ……5000円
・カロリーの友 ……10000円
・缶詰め等 ……凡そ定価の20〜50倍
・ナツメグ等香辛料……凡そ定価の10〜50倍
・石鹸、シャンプー等美容関係
……凡そ定価の50倍〜100倍
・肥後守 ……2500円
……
…
流石にレアメタルとか、貴金属は布バッグには入っていなかった、そりゃそうだ。
そして、訳のわからないのがこれ。
・乾電池 ……単体では買取不可、最初は乾電池を使用する備品と同時査定が必要。二度目以降は乾電池単体での査定可能。
・トランプ、リバーシ ……在庫過多により買取不可
えー。
トランプやリバーシはなんで買い取らないの?
そう思って調べたらさ、どっちもカナン魔導商会の販売メニューの『娯楽』にあったわ。
『リバーシ……異世界人が持ち込んだ娯楽商品、木製の量産品は市民に広く流通しており、貴族用の高級品は入手困難な資材を用いているため高価。1500クルーラ〜500000クルーラ』
『プレイカード……異世界人が持ち込んだ娯楽商品、トランプやカードとも呼ばれている。薄い木札の量産品は市民に広く流通しており、貴族用に逆輸入されたプラスチックカードは入手困難な資材を用いているため高価。1500クルーラ〜300000クルーラ』
えーっと。
異世界人が持ち込んだ?
ちょいと待って、カナン魔導商会のある世界には俺以外にも異世界から人が出入りしているの?
そして逆輸入って何? 他にも異世界の商品を取り扱っている大手業者もあるの?
うわぁ、これは参ったわ。
「はぁ、だいたいこんな感じだけど、どうする?」
一通りの金額をメモしてみんなに見せる。
すると、瀬川先輩が一言。
「乙葉君にお願いがあります。もし宜しければですが、同じものを用意しますので、それを全て査定で買い取ってもらえますか? その金額内での代理購入をお願いしたいのですが」
「まあ、査定金額の半額は手数料として持っていってほしい。俺たちとしても、魔導具や異世界の商品に興味があって、ワクワクが止まらなくてな、本当に申し訳ないが頼む」
「お願いします‼︎」
三人が一斉に頭を下げた。
いや、頭上げてよ、俺はそんなに偉くないし半額なんていらないから。
そんなに俺がもらったら、査定が勿体ないよ?
「あ、あ、頭をあげ〜い‼︎ 俺はそんなに手数料はいらないから、一割でいいから。それでカナン魔導商会・乙葉浩介支店は機能するからさ。査定限界や買取停止が出たら考えるけどさ、ほら、ここにいるメンバーは魔法使いの仲間じゃないか‼︎」
ああっ、いきなりの展開に俺がテンパっている。
でも、そう説明したらみんな納得してくれたよ。
「ありがとう。では、近いうちにアイテムを揃えておきますわ」
「幸い、自宅にはお歳暮の余りが大量にある。シャンプーや石鹸、洗剤なら幾らでも持ってこれるぜ」
「色々探してみるね」
「うむ。そんじゃ、今日の分は纏めて買い取ってもらうから……これはどうするの?」
──ドーゾドーゾ
三人が某ダチョウな倶楽部のドーゾドーゾポーズを取る。
あれ、それやられると俺が罠にかかった感じなんだけどさ。
まあ、それならということで、全て買い取ってもらって、その金額は別にメモしておく。俺が使うんじゃなく、みんなで使ったほうがいいよね。
そんなこんなで、今日の部活は終わった。
さて、この後はどうするか、そこが問題だ。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
・今回の判りずらいネタ
逆境○イン / 島本和○ 著
海底少○マリン