第百四十七話・紆余曲折、一難去って今度はニ難(あっちもこっちも忙しいのはわかる‼︎)
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話は、少しだけ遡る。
フリューゲルの召喚魔法陣発動により、フェルナンド聖王国は撤退を開始。
一時的にではあるが、ラナパーナ王国は平穏を取り戻すことができたのである。
………
……
…
「……なあ、ここはどこなんだ?」
フリューゲルの発動した『勇者召喚魔法陣』に飛び込んだ織田晃一は、目の前の光景に絶句して……いなかった。
そこは王都クルーラカーンにある王城の最上階、儀式の間と呼ばれてある部屋であり、許可を得ていない者は立ち入ることが許されていない。
四方の壁には綺麗なタペストリーが飾られ、召喚魔法陣に反応して時折り点滅している。
そして織田の前に立つマリア・カムラ・ラナパーナ女王が、ゆっくりと織田に話しかける。
『時の旅人よ、よくぞ参られた‼︎』
織田には鏡刻界の言葉はわからない。だが、そんなことはマリアは知らなかった。
そしてフリューゲルも一歩前に出て、織田を確認して一言。
『ここは、ラナパーナ王国。君は、何かの手違いで、ここにやってきてしまった。ごめん』
『……フリューゲル、このものは、そなたの話していた異世界の勇者・乙葉浩介ではないのか?』
『うん、手違い。違う人が来た』
『そうか、それは申し訳ないことをした。異世界の方、どうやら其方が鏡刻界にやってきたのは事故のようだ』
深々と頭を下げるマリア・カムラ・ラナパーナ。
当然ながら、織田は何が何だかさっぱりわからないし、何より言葉が理解できない。
「……今、乙葉浩介って言ったよな? アイツが呼ばれるはずだったのか?」
『ごめん、君の言葉がわからない。とりあえず、もう帰ることができないから、君の身だけは保障する』
『誰かおらぬか?』
フリューゲルが優しく話しかけるが、織田は全くもってちんぷんかんぷんである。
「すまん、君たちの言葉が全くわからない。ここは、言語万能スキルを貰えるとありがたいのだが」
『……本当に、どうしたらいいかわからない。せめて言葉だけでも分かれば助かるのだけど……乙葉たちは、どうして私たちの言葉がわかったのか、理解不能」
「今、また乙葉って言ったよね? そうじゃない、今、ここにいるのは、選ばれた勇者の俺なんだ。だから、チートスキルをくれないか?」
『あ、ちょうどいいところに。ヴァネッサ、彼に部屋を与えてほしい。一応は来客として扱うので』
『かしこまりました。それでは、こちらへどうぞ』
ヴァネッサと呼ばれた女性は、織田の前まで歩み寄ると、軽く会釈をしてから、こちらはどうぞと身振り手振りで説明する。
「……まあ、付いてこいっていうことだよな? まずは身体を休めてから、本当の話が始まると、よしよし、俺の勇者としての第一歩が、始まったぞ‼︎」
『では、こちらへ……』
ヴァネッサに連れられて、織田が儀式の間から出ていく。
その部屋の中央、魔法陣の真ん中で、マリア女王は静かに祈りを捧げている。
手違いで、全く関係のない人間を召喚してしまったのである。
どうにか彼を送還することができないのかと、魔法陣の中で勇者送還術式を練り込んでいた。
──ヒュゥゥゥゥ、プシュー。
一瞬だけ魔法陣が輝いたのだが、その輝きはすぐに消滅する。
「魔力が足りませんか……あの方がやってきた召喚術式は、フリューゲルの血による召喚。故に、フリューゲルが回復すれば、また召喚することができるのですが……送還については、水晶柱による送還術式が必要なのですよね?」
魔法陣の外に佇むフリューゲルに問いかける。
すると、彼女は無言で静かに頷いた。
「そう。我の魔力は枯渇している。再び魔力が活性するまで、かなりの時間が掛かる。召喚魔法陣により消耗した魔力は、魔導具での回復は不可能だから。それに、自然回復にもかなりの時間が必要。代償は大きかった」
「そう。なら、フリューゲルはとにかく身体を休めなさい。私の方も、何方がないか探すとしましょう。それと、あの方は、勇者にはなれないのですか?」
「無理。さっきの男からは、神威を全く感じない。ミラーヴァインも反応するはずがない」
「せめて、勇者の仲間とか、そういう力も?」
「ない。あの男を雇うぐらいなら、冒険者ギルドでBとかCランクの中堅レベルを雇った方がいい」
つまり、やって来たはいいけれど、何もできない。
織田にとって、こっちの世界はあまりにも厳しすぎる。
まあ、本人は未だそんな事とはつゆ知らず、ヴァネッサに部屋まで案内されていっただけ。
「言葉を理解していただけたら、まだ希望はありましたのに」
「スピークランゲージの術式は、我には使えない。あれは賢者の術式で、まだ我にも使えない」
「本当に困りましたわね。まあ、しばらくはゆっくりして貰って、その間に対策を考えましょう。水晶柱も消滅してしまいましたから」
「しかし、どうして彼は来なかったのかわからない。我の魔法陣なら、魔力波長で気がつく筈」
現代日本でいきなり足元に魔法陣が現れたなら、大抵は避けるのがあたりまえ。
そこに飛び込むのは厨二病拗らせた人々程度であり、それでも一旦は考えるなりする。
そこに、何も考えずに飛び込んだ織田は、厨二病どころか危機管理的にもかーなーり不味い。
この無鉄砲さが、今回の事件で少しは落ち着くと良いのだが。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
前略、織田。
お前はいい奴だったよ、ウザいけど。
異世界でも頑張れよ。
「まあ、そんなことは置いておいてだ、対策会議といきますか」
「……オトヤン、またなんか変なことしなかったか? たとえばナレーションを脳内で再生するとか?」
「まっさかぁ。まあ、そんなことよりも、今は目の前の危機だよ。あと三日で、どこまで運命と争うことができるか、この一点だよな」
今日も授業を終えてからの、部室での作戦会議。
もう時間は殆ど残されていないので、なるはやで対応策を考えないとならない。
現在までの状況を考えて、二つの問題を解決しないとならないのは、正直いってキツイ。
一つは、あと三日で開放される水晶柱。鏡刻界からの侵略軍は、あそこから出現するのが確定している。
先日現れた騎士でさえ、凄腕警官程度では押さえ込むことなどできない。
それが、軍を成してやってくるのである。
そしてもう一つは、俺を召喚しようとしたフリューゲルが作った『異世界召喚魔法陣』に、織田が突撃して旅立ったこと。
『……まず、私が深淵の書庫を使って調べてみたところ、特戦自衛隊が水晶柱の周辺をバリケードで囲っているのは確認できていますわ』
ちなみに、瀬川先輩は学校まで来れないので、パソコンを使った遠隔会議モードで参加してもらっています。
「先輩、特戦自衛隊の戦力データってわかりますか? 少なくとも俺と同レベルの戦力がないと、あの騎士を止めるのは難しいと思うんだが」
『……催涙弾とか、ゴムスタンガンを装備していますわ。あとは……』
次々と説明される特戦自衛隊の装備。
臑当・篭手・防護ベストは当然として、太腿を守るレッグガードを装備しているらしい。
近代的なパーツアーマーといった感じで、防弾ベストではなく防刃ベストを着用、硬質ポリカーボネート製のシールドと警棒で武装している。
しっかりと映像が送られてきているので,綺麗に隊列を組んで水晶柱に向かって幾層もの円陣で囲っているのは、ある意味では滑稽だが、完璧といえよう。
「こっちの利点は、近代兵器ってところか。問題は、魔法対策だよな?」
「え? 俺にそこを振るわけ?」
「オトヤンは魔法のエキスパートだろ? 対魔法用装備とか……すまん、俺も調べるわ」
「それならユータロはカナン魔導商会を頼む、俺はサイドチェスト工房を探してみる」
俺と祐太郎で、対魔法兵装を探す。
誤解なきように説明すると、これは特戦自衛隊に貸し出す気はない。
俺たちが身を守るのに必要だから用意するのであって、偶然、個数が多くて知り合いが現場にいて預けることはあるかもしれないけどね。
「前回の奇襲の時は、私一人では治療が追いつかなかったのです。もっと早く、大勢の人に回復魔法を教えたほうが良かったかもしれません」
新山さんが少し落ち込み気味ではある。
俺とは違い、祐太郎、新山さん、瀬川先輩は、それぞれ異世界の神々から加護を得て、魔法を行使できるようになった。
その目的の一つが、『魔法の普及』である以上、もっと早めに手を打っていればよかったというのはわからなくもない。
わからなくもないけど、そもそも、その方法を教えていない神様ズにも問題あると思うんだが。
そのためにお前がいるだろうがと言われるのも、正直辛いけど、祐太郎は希望者に闘気を教えている、新山さんや瀬川先輩も魔法の修練の基礎はみんなに広めている。
けどね、育たないんだよ。
魔導書がなくて、魔力弁が開かないんだよ。
でも、ヘキサグラムの二人は使えるようになったということは、何か秘密があるんだろうなぁと思っている。
「……オトヤン、アンチマジックシェルのスクロールなら三本あるぞ?」
「おっけ、俺が買う。あとは任せろ‼︎ ユータロは新山さんたちの方に合流してくれるか? ついでに忍冬師範も引き摺り込んでおいて」
「……第六課の協力も必要だよなぁ。しかし、織田はどうする?」
「異世界召喚されたのはしゃーない。幸いなことに、俺を引き摺り込もうとした魔法陣は解析して、すでに魔導書に書き込まれているから、後で迎えに行ってくる」
俺のスキルなのかどうか知らないけど、魔法の術式は新しく見たものや覚えたものは、全て魔導書に映し出されているのよ。
ということは、俺が作った鍵と召喚魔法陣の座標指定術式を使って、織田の魔力を追跡して向こうの世界に行くことも可能。
「さてと、そんじゃやりますか」
──ブゥン
足元に練金魔法陣が起動する。
ここに、ミスリルと魔晶石、アダマンタイト、銀、追加購入した竜の髭を綺麗に配置して、購入したスクロールを開く。
──ガバッ‼︎
「我が魔力にで、彼の力を受け止めたまえ。汝の力は、我が力とならん……」
──シュゥゥゥゥ
練金魔法陣の中で、ミスリルと銀が溶けて融合する。
そこに魔晶石がカチッカチッと填まると、竜の髭が魔導回路を形成していく。
「魔導化……変形……フィニッシュ‼︎」
──キィン
魔法陣の中央に、小さなメダルが置いてある。
これが、俺が作った『アンチマジックメダリオン』である。
「お、オトヤン、完成したのか?」
「まだ。これでアンチマジックシェルの術式を組み込んだメダルができただけで、アクセサリーに改造するのはこれからさ」
「そっか。それで、瀬川先輩が、とんでもない作戦を思いついたらしいんだが」
「え? それってなんですか?」
なんだか嫌な予感しかしない。
けど、あらゆるデータを解析し、先輩が弾き出した結論だから。
「まだ確定ではないわよ? こんなのどうっていう提案ですからね?」
「はい? 先輩がそういうのって珍しいですよね? どんな作戦なのですか?」
「ええっと、つまりね……」
先輩の提案は、とんでもないものであった。
まず、俺たちが鍵を使って異世界に行き、織田を回収する。
その直後に、敵であるフェルデナント聖王国に姿を消して突撃し、召喚の基盤である『水晶柱』を破壊して、こっちに戻ってくる。
この作戦の問題点は幾つかある。
一つ目は、織田を回収してからフリューゲル聖王国へ向かうのに、何日かかるかという事。
この時間が二日半以内なら、時間的にはまだ作戦は成功する可能性がある。
二つ目が、敵に見つからずに水晶柱が破壊できるのか?
破壊不可能ならば、この作戦自体が失敗に終わる。
そして三つ目。
織田が帰るのを拒否した場合。
その時は麻痺術式でスタンさせて、縄で括って持って帰るだけだから、三つ目はクリア。
「……この後で、白桃姫に聞いてみるしかないけどさ。これ以外には、何か作戦はあったの?」
「俺がオフェンスで水晶柱から出てくる奴らをぶっ飛ばし、その隙にオトヤンが鍵を使って織田を捕まえてくるというのが、最初の作戦で」
「次に出たのが、戦闘は特戦自衛隊に全て任せて、私たちが織田くんを探しにいくっていうパターンです」
祐太郎と新山さんの作戦も悪くはない。
まあ、気分的には仲間たちには戦ってほしくないし、今後も同じようなことがある可能性を考えると、特戦自衛隊を始め、大人たちには戦う術を身につけてほしいというのもある。
「そして私の意見はですね、乙葉くんに大量のチート装備を用意して貰って特戦自衛隊に戦闘してもらい、築地くんと新山さんに織田くんを探しに行ってきてもらうというのがあります」
「なるほど、三つ目はあれですね? 相手に通用する装備を俺が都度用意して渡すパターンですね?」
「ええ。当然実費で、あとから請求すると宜しいかと」
どの作戦も難しくはない…。
必要なのは、始める勇気、戦う意思、異世界に行くという決意。
向こうに行ってきて、ちゃんと帰って来れるかなんて保証はどこにもないけどね。
「う〜ん。もう少し考えてみますか。誰も悪くはないんですけどね」
「そうね。どの作戦も、乙葉くんと築地くんありきなので、二人に負担がかかり過ぎるのがネックです」
そうだよなぁ。
さて、どうしたものか。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
・今回のわかりづらいネタ
マリア・カムラ・ラナパーナ女王
え? どういう意味って思うでしょ?
この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。




