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【書籍化】ネット通販から始まる、現代の魔術師  作者: 呑兵衛和尚
第三部・異界侵攻編、面倒ごとがやってきた‼︎
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第百四十六話・傍若無人は自業自得なんだけど(僕らの勇者王?)

『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週日曜日と火曜日、金曜日を目安に頑張っています。

 白桃姫と忍冬師範の話し合い。

 それを傍で聞いていた俺としても、色々と学ぶところはあった。

 現状で俺たちが最前線で戦うようなことはない。

 そう信じている。

 そもそも、対応する力がある、だから前に出て戦えっていう今の日本政府には、同調する気もない。

 

 それでも、今の政府ならやりかねないんだよなあ。


………

……


 あのガキども。

 言葉巧みに誤魔化していたようだけど、私は騙されないわよ。

 あの水晶柱から出てきた騎士型妖魔、あれが人間だなんで、誰が信じるものですか。

 そうよ、あれが人間でなければ、私はガキどもを自由に使えるじゃない。

 そう考えて、議員会館の陣内の事務所に向かったわよ。


「はぁ、誰かと思ったら、燐訪さんでしたか。俺は自由民権党の議員ですよ? 俺のところにきて問題ないんですか?」

「あなたに聞きたいことがあるのよ。失礼して良いかしら?」

「まあ、10分程度でしたら」


 よし、これで詳しい話が聞けるわね。


「先日の、あの水晶柱から出てきた騎士型妖魔のことですけど」

「あ〜あれは妖魔じゃないっすよ。鏡刻界じゃ普通に存在する人間ですよ。こっちの言葉でヒューマン。俺たち妖魔と違って、血肉を持つ普通の種族ですが?」

「え? あのガキどもも同じことを話していたけれど、本当なの?」

「本当ですよ。おそらくですが、乙葉は鑑定眼持ちなんでしょうね。見た相手の能力や種族を看破できるんですよ。あいつもあの騎士を人間って話していたでしょ? 事実ですね?」


 なんですって。

 それじゃあ駄目なのよ。

 あれが妖魔なら、ガキどもに戦わせられるのよ。

 それも、今の政権の監視下でね。

 その手柄は、私たち政治家の手柄にもできるのよ?

 なんとしても、あれは妖魔だって証言させないと。


「でも、普通に考えたら、あれが妖魔だって説明しても、誰も疑わないですよね?」

「いやぁ、無理じゃないですか? 戦闘になったら、多分傷ついて血が出ますよ? 普通の人間と同じ赤い血がね。倒したら死体が残りますし、それを妖魔だって言い切るのは無理でしょうなぁ」

「でも、あなたの能力である『思考誘導』があるじゃない。あれでマスコミもコントロールすれば良いのよ、専門家も何もかも」

「映像の修正は無理ですよ? そこが証拠になりますし、何よりも、乙葉たちが否定するでしょうね。そうなると、世論は彼らの味方ですよ?」


 それなら、世論も全て思考誘導すれば良いじゃない。それぐらいのことがわからないのかしら?


「世論も誘導できない?」

「燐訪さん、ひとつ、良いことを教えましょう。俺の思考誘導と洗脳ですけど、乙葉たちは、解除できますよ? それも、大規模な洗脳解除装置を持ってますから。この前の選挙、北海道と東京、大阪、京都の敗北は、その洗脳解除装置で俺の能力が中和されたんですからね?」


 なんですって?

 あのガキども、なんて卑怯な真似を。

 退魔宝具で洗脳を解除して、自分たちの都合の良いように投票させたのね。

 その事実が明るみに出れば、あのガキどもの味方なんて居なくなるわよね?


「あ〜、なんか企んでいるようですけど、多分それは無理ですわ。俺は止めますよ? そもそも、今回の選挙だって、あんたら野党が洗脳装置で日本中の有権者をコントロールしたんじゃないですか?」

「それこそ証拠はないわよ。まあ、次の選挙では、参議院も逆転してあげるわ」

「それも無理っすよ。あの解除装置って、一度でも浴びるとですね、洗脳や思考誘導に『免疫』ができるんですよ。ですので、秋の参議院選は敗北確定ですね?」


 な、なによそれ、反則じゃないの。

 それよりも、その洗脳解除装置をどうにかしないとならないじゃない。

 どこの選挙事務所に保管されているか、どうにか調べないとならないわね。


「あ〜、そろそろ時間なんで、良いっすか?」

「そ、そうね。あの騎士型妖魔については、また今度、考えましょう」

「これは警告ですけど、あれを妖魔だなんて言わない方が良いっすよ。あいつの鎧の紋章、フェルデナント聖王国の騎士ですよ? 我々妖魔にとっての天敵でもありますからね。これは忠告じゃなく、警告ですからね?」


 私が部屋から出るとき、陣内はそう呟いていたわ。

 ふん、所詮は盟約に縛られている妖魔じゃない。

 生意気ね。あなたたちは、私たち人間に従っていれば良いのよ。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 鏡刻界・ラナパーナ王国。

 巨大な山脈により、他国からの侵攻を幾度となく止めていたラナパーナ王国であるが、つい先日、ついに山脈向こうのフェルデナント聖王国が宣戦布告を行なった。

 戦争の名目は『聖戦』であり、フェルデナント聖王国の信仰する『太陽神イグニード』を信奉しないラナパーナ王国に鉄槌を下すと宣言した。


 その書状が届いた翌日、ラナパーナ王国の北方にある港町ラカッチャが、巨大帆船により奇襲を受ける。

 わずか半日でラカッチャは戦場となり、フェルデナント聖王国の支配下に落ちた。

 そこからの聖王国の進軍はまるで炎の如く、ラナパーナ王都へと続く街道沿いにあった都市が次々と戦果に塗れ、掲げていた国旗もラナパーナからフェルデナントへと差し替えられていった。


 最終防衛ラインとも呼ばれていた絶対城壁都市フォーチュンがフェルデナント聖王国と正面に構えたとき、王都では戦局をひっくり返す出来事が起きていた。


………

……


 ラナパーナ王国王都クルーラカーン。

 その王城では、女王マリア・カムラ・ラナパーナが宮廷魔導師のフリューゲルと共に、儀式を行っていた。


 フェルデナント聖王国が『聖戦』を宣言したということは、対象国は二つに一つの選択を強いられる。


 一つは、速やかに服従し、領土を明け渡すこと。

 そののち国教を太陽神イグニートとし、他の宗教信者は領土より立ち去ること。


 そしてもう一つの選択、それが徹底抗戦。

 この場合は、聖王国は聖戦の名の如く、全ての民を殲滅する。

 イグニートに改宗し、フェルデナント聖王国に忠誠を誓うのなら、その命だけ・・は保証される。

 但し、王家は殲滅、その血を残すことは許されない。


 この鏡刻界に水晶柱ターミナルを生み出したと伝えられている、ラナパーナ王家といえど例外ではない。

 

 そして、マリア女王が選択したのは服従。

 生きてさえいれば、民さえ残っているのなら、国はいつか再興できる。

 今は苦渋の選択であっても、それ耐えるだけで良い。民があってこその国であると。

 

 その書簡が届けられた日。

 進軍してきたフェルデナント聖王国の副官が、マリア女王からの書簡を届けにきた交渉団により殺された。

 犯人は、ラナパーナ王国に古くから仕えていた副宰相であり、女王の決定に最後まで異議を唱えていた。

 当然ながら、交渉は決裂し、フェルデナント聖王国は怒涛の進軍を始めた。

  

 そして、女王は、最後の手段に出た。


「……これで、古くから伝えられている儀式の準備は調いました。あとはフリューゲル、貴方の力にかかっています」

「分かった。残念ながら、この術式は完全ではない。召喚する対象に大きな揺らぎがある。けれど、私は、あの人の魔力波長を理解している。彼の足元に、勇者召喚術式を発動する。彼なら、それで理解してくれる」


 すでに王都の城砦も破壊されている。

 フェルデナント聖王国の騎士たちは、真っ直ぐにこの王城へと向かっている。


「あとは、伝説を信じるだけです。かつて、この王国が窮地に陥ったとき、かの勇者のみが身につけることを許された、聖なる鎧【ミラーヴァイン】。これが目覚めたら……」


──ダン‼︎

 突然、女王のいる部屋の扉が開かれる。

 そこには、血まみれの騎士が立っていた。


「陛下、急いてお逃げください‼︎ フェルデナント聖王国の殺戮司祭ジョバンニが、王城城砦を破壊しました‼︎」

「なりません‼︎ まだです、もう、切り札はそこに来るのですから‼︎」

 

──キィィィィィン

 巨大な儀式魔法陣の中央で、フリューゲルが杖を構えて詠唱を開始した。


「我が名に従え、五つの紋章。光よ闇よ、道を記せ。月よ星よ、門を開け。そして精霊よ、我が声を届けたまえ……勇者よ来たれ、古の盟約と共に‼︎」


──ゴゥゥゥゥゥゥ

 フリューゲルが詠唱を終えると、魔法陣が光り輝く。

 そして光は天井を突き破り、一筋の道となって空高くへと伸びていった。

 

………

……


 王城最上階、女王の間から空へと伸びる光の柱。

 それは、王城へ突入しようとしていた騎士たちの目にも見えている。


「ジョバンニさま、あれは?」

「ラナパーナ王家に伝えられている勇者召喚の儀式か‼︎ あの女め、小癪な真似を‼︎」


 ジョバンニが口汚く罵っていたとき、空高く伸びていた光の柱の中に、一人の人間の姿が見えた。

 そうだ、マリア・カムラ・ラナパーナは勇者を召喚した。

 もしもそれが事実なら、いや、事実だ。

 あの光の中にあるのは、まさしく勇者だ。

 それなら、その勇者を殺せば……。


 そう考えたとき、ジョバンニは自身が震えていたのに気がついた。

 鏡刻界においての勇者伝説、それはジョバンニも理解している。

 勇者のみが身に纏うことを許された聖なる鎧『ミラーヴァイン』、悪を滅する光を放つ『オーラカリヴァー』、全ての魔法を弾く『ミーディアの盾』。

 それ身につけた勇者など、たとえ魔人王であろうとも跪き、命乞いをする。

 

 その勇者が、王城に姿を表したのである。


「ひ、ひけ‼︎ 撤退だ、港まで逃げろ、勇者は、一瞬で大陸を越えるぞ‼︎ 港だ、いや、この国から逃げろ‼︎」


 ジョバンニの叫びが戦場にこだまする。

 それまでは絶対勝者であったフェルデナントの騎士たちも、勇者召喚の光を見て、そして、ジョバンニの叫びを聞いて戦意を喪失、我れ先にと王城から飛び出していった。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 燐訪議員の突然の来校から数日。

 テレビでは連日のように、妖魔特措法の改定の話が出ている。

 俺たち魔法使いの力は、『妖魔だけでなく幅広い分野での事案解決にも使うべきだ』という意見と、『お前ら、与党は子供に殺人をやらせるのか? 子供を戦場に送り出すのが、国の代表たる与党か』と叫ぶ意見が真正面からぶつかっている。

 

 燐訪議員は、再び、水晶柱ターミナルから騎士がやってくると何処かで聞いたらしく、一刻も早い法案整備に全力であるが、野党は常に拒否。

 まあ、マスコミもこれについては野党に賛成なんだよ、必死に与党を殴りまくっているからね。


 そんな国会中継は放置して、今日の昼は学食で祐太郎と食っています。


 

「しっかし、そろそろ開くんじゃね?」

「開くよなぁ。まあ、白桃姫の話だと、開くのはあっちだから、北海道には関係ないよな」

「それについては同意見だな。今の時点で、水晶柱ターミナルの周りは機動隊で囲んでいるし、付近には犬一匹も近寄らないんだろ?」

「そうらしいな。まあ、俺たちは無関係を貫きたいからなぁ。いくらなんでも、あの騎士一人ならともかく、大量に来たらさ……」


 俺の魔法でなんとでもなる、とは言い切れないんだよ。リミッターは使ったのでちゃんと魔法の制御もできるとは思うけど、少しでも加減を間違えたら、相手を殺すからね。

 もしも、そんなことになったら。

 家から出られなくなるレベルでトラウマになるわ。


「お、乙葉たちも今日は学食か。それで、いつになったら、俺を魔法使いの弟子にしてくれるんだ?」

「いつになるかなぁ、まあ、頑張れよ」


 織田に適当に返事を返して、あとは教室でのんびりとするか。

 そして、空いた食器を戻しにいったとき。


──キィィィィィン

 突然、俺の足元に魔法陣が発生した。

 当然ながら、俺は何もしていないし、俺の知らない術式……違う、この術式の配列は、前に白桃姫に見せてもらったことがある‼︎


「オトヤン、避けろ‼︎」

「あたりまえっ。これは勇者召喚術式じゃねーかよ、どこの誰がこんなものを稼働させたんだ?」


 指定座標転移式のようだから、魔法陣から出れば巻き込まれることはない。

 ということなので、とっとと魔法陣から外に出る。

 しかし、この魔力波長も知っているなぁ。


「あ、フリューゲルさんの魔力波長か。ということは、俺を向こうに呼び出したいから、俺の魔力を座標にセットして勇者召喚術式を起動したのか。凄いなぁ」

「つまりは、向こうで何かが起こったから、俺たちに力を貸してほしいっていうことか。どうするオトヤン?」

「どうするって……もう完成するか」


──キィィィィィン

 魔法陣全体が輝き、勇者召喚を開始する。

 まあ、そこには俺がいないからさ、誰も巻き込まれることはないわ。


──ドドドドドドトダダッ‼︎

「俺の時代だぁぁぁぁ!」


 そう叫びながら、織田が魔法陣に飛び込んだ。

 いや待て、そこまでは予見してないわ、なんで飛び込んだ‼︎

 そう考えるのも束の間、織田が魔法陣に飛び込んだ瞬間、織田の姿が消滅して魔法陣がスッと消えた。


──シーン

 残ったのは、沈黙と動揺。


「え、織田? どこいった?」

「織田クーン、どこいっちゃったんだよ、乙葉、さっきのあれはなんだ? 織田くんをどこに隠した?」


 取り巻きが俺に問いかけるんだけどさ、俺も知らんわ。なんで、勇者召喚魔法陣に飛び込んだかなぁ。


「知らんわ‼︎ そもそも、あの魔法陣を作ったのは俺じゃねーし。俺だって巻き込まれそうになったんだから、魔法陣から出たんだぞ? そこに、なんで織田が飛び込むんだよ‼︎」

「まあ、織田だからなぁ」

「異世界を夢見ていたドリームボーイだからなぁ」

「異世界は存在するって、いつも話していたし。渡りに船とは、このことじゃないか?」

「頑張れよ、織田。お前のことは忘れないぞ」


 うわ、お前ら酷いわ。

 そんなことを話していたら、生徒指導の先生もやってきたので、そのまま状況を説明して教室に帰ることにしたよ。

 

 だってさ、俺になにができる?


………

……


 織田の消失事件については、午後になって保護者が学校までやってきたんだよ。

 そこで目撃者であるトリマキーズと俺と祐太郎が、状況の説明をしたんだけどさ。


「それで、息子は帰ってくるのですか? いつ、戻ってきますか?」

「それなんですけど、正直いって俺にもわからないんです。俺が呼び出されて異世界に行きそうになったのですが、俺はすぐに避けたんですよ」

「オトヤンが避けた直後に、織田が叫びながら魔法陣に飛び込みまして、そのまま異世界に行きました」


 そんな茶番、誰が信じるかって織田の保護者は怒鳴り散らすけどさ、信じてもらうしかないじゃないか。

 結果、この話は第六課に連絡して、対応してもらうことになったよ。


 嫌な予感しかしないわ。

 くっそ、織田のやろう、なんで考えなしに魔法陣に飛び込んだかなぁ……。



誤字脱字は都度修正しますので。

その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。


この物語はフィクションです。

登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  おおっと、勇者召喚にただの人織田君がw  まあ、これで面白いことが起こらないはずがないよね。期待しかない。
[一言] フェルでナントが攻め込んできても人間なら水晶の前300mから対戦車銃機関銃数百丁、更に広報500mから半包囲陣形を組んで10式戦車100台(戦車にしてみれば超至近距離だけど)を同時に撃ち込め…
[一言] コメディーリリーフにもなってない織田やヘイト要員の野党(今は与党か…)がろくにざまぁもなく改心もなくウロチョロしてるのが読者的にかなり辛いのが本音です… 織田はこのエピソードで裏返る?ならい…
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