第百四十六話・傍若無人は自業自得なんだけど(僕らの勇者王?)
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白桃姫と忍冬師範の話し合い。
それを傍で聞いていた俺としても、色々と学ぶところはあった。
現状で俺たちが最前線で戦うようなことはない。
そう信じている。
そもそも、対応する力がある、だから前に出て戦えっていう今の日本政府には、同調する気もない。
それでも、今の政府ならやりかねないんだよなあ。
………
……
…
あのガキども。
言葉巧みに誤魔化していたようだけど、私は騙されないわよ。
あの水晶柱から出てきた騎士型妖魔、あれが人間だなんで、誰が信じるものですか。
そうよ、あれが人間でなければ、私はガキどもを自由に使えるじゃない。
そう考えて、議員会館の陣内の事務所に向かったわよ。
「はぁ、誰かと思ったら、燐訪さんでしたか。俺は自由民権党の議員ですよ? 俺のところにきて問題ないんですか?」
「あなたに聞きたいことがあるのよ。失礼して良いかしら?」
「まあ、10分程度でしたら」
よし、これで詳しい話が聞けるわね。
「先日の、あの水晶柱から出てきた騎士型妖魔のことですけど」
「あ〜あれは妖魔じゃないっすよ。鏡刻界じゃ普通に存在する人間ですよ。こっちの言葉でヒューマン。俺たち妖魔と違って、血肉を持つ普通の種族ですが?」
「え? あのガキどもも同じことを話していたけれど、本当なの?」
「本当ですよ。おそらくですが、乙葉は鑑定眼持ちなんでしょうね。見た相手の能力や種族を看破できるんですよ。あいつもあの騎士を人間って話していたでしょ? 事実ですね?」
なんですって。
それじゃあ駄目なのよ。
あれが妖魔なら、ガキどもに戦わせられるのよ。
それも、今の政権の監視下でね。
その手柄は、私たち政治家の手柄にもできるのよ?
なんとしても、あれは妖魔だって証言させないと。
「でも、普通に考えたら、あれが妖魔だって説明しても、誰も疑わないですよね?」
「いやぁ、無理じゃないですか? 戦闘になったら、多分傷ついて血が出ますよ? 普通の人間と同じ赤い血がね。倒したら死体が残りますし、それを妖魔だって言い切るのは無理でしょうなぁ」
「でも、あなたの能力である『思考誘導』があるじゃない。あれでマスコミもコントロールすれば良いのよ、専門家も何もかも」
「映像の修正は無理ですよ? そこが証拠になりますし、何よりも、乙葉たちが否定するでしょうね。そうなると、世論は彼らの味方ですよ?」
それなら、世論も全て思考誘導すれば良いじゃない。それぐらいのことがわからないのかしら?
「世論も誘導できない?」
「燐訪さん、ひとつ、良いことを教えましょう。俺の思考誘導と洗脳ですけど、乙葉たちは、解除できますよ? それも、大規模な洗脳解除装置を持ってますから。この前の選挙、北海道と東京、大阪、京都の敗北は、その洗脳解除装置で俺の能力が中和されたんですからね?」
なんですって?
あのガキども、なんて卑怯な真似を。
退魔宝具で洗脳を解除して、自分たちの都合の良いように投票させたのね。
その事実が明るみに出れば、あのガキどもの味方なんて居なくなるわよね?
「あ〜、なんか企んでいるようですけど、多分それは無理ですわ。俺は止めますよ? そもそも、今回の選挙だって、あんたら野党が洗脳装置で日本中の有権者をコントロールしたんじゃないですか?」
「それこそ証拠はないわよ。まあ、次の選挙では、参議院も逆転してあげるわ」
「それも無理っすよ。あの解除装置って、一度でも浴びるとですね、洗脳や思考誘導に『免疫』ができるんですよ。ですので、秋の参議院選は敗北確定ですね?」
な、なによそれ、反則じゃないの。
それよりも、その洗脳解除装置をどうにかしないとならないじゃない。
どこの選挙事務所に保管されているか、どうにか調べないとならないわね。
「あ〜、そろそろ時間なんで、良いっすか?」
「そ、そうね。あの騎士型妖魔については、また今度、考えましょう」
「これは警告ですけど、あれを妖魔だなんて言わない方が良いっすよ。あいつの鎧の紋章、フェルデナント聖王国の騎士ですよ? 我々妖魔にとっての天敵でもありますからね。これは忠告じゃなく、警告ですからね?」
私が部屋から出るとき、陣内はそう呟いていたわ。
ふん、所詮は盟約に縛られている妖魔じゃない。
生意気ね。あなたたちは、私たち人間に従っていれば良いのよ。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
鏡刻界・ラナパーナ王国。
巨大な山脈により、他国からの侵攻を幾度となく止めていたラナパーナ王国であるが、つい先日、ついに山脈向こうのフェルデナント聖王国が宣戦布告を行なった。
戦争の名目は『聖戦』であり、フェルデナント聖王国の信仰する『太陽神イグニード』を信奉しないラナパーナ王国に鉄槌を下すと宣言した。
その書状が届いた翌日、ラナパーナ王国の北方にある港町ラカッチャが、巨大帆船により奇襲を受ける。
わずか半日でラカッチャは戦場となり、フェルデナント聖王国の支配下に落ちた。
そこからの聖王国の進軍はまるで炎の如く、ラナパーナ王都へと続く街道沿いにあった都市が次々と戦果に塗れ、掲げていた国旗もラナパーナからフェルデナントへと差し替えられていった。
最終防衛ラインとも呼ばれていた絶対城壁都市フォーチュンがフェルデナント聖王国と正面に構えたとき、王都では戦局をひっくり返す出来事が起きていた。
………
……
…
ラナパーナ王国王都クルーラカーン。
その王城では、女王マリア・カムラ・ラナパーナが宮廷魔導師のフリューゲルと共に、儀式を行っていた。
フェルデナント聖王国が『聖戦』を宣言したということは、対象国は二つに一つの選択を強いられる。
一つは、速やかに服従し、領土を明け渡すこと。
そののち国教を太陽神イグニートとし、他の宗教信者は領土より立ち去ること。
そしてもう一つの選択、それが徹底抗戦。
この場合は、聖王国は聖戦の名の如く、全ての民を殲滅する。
イグニートに改宗し、フェルデナント聖王国に忠誠を誓うのなら、その命だけは保証される。
但し、王家は殲滅、その血を残すことは許されない。
この鏡刻界に水晶柱を生み出したと伝えられている、ラナパーナ王家といえど例外ではない。
そして、マリア女王が選択したのは服従。
生きてさえいれば、民さえ残っているのなら、国はいつか再興できる。
今は苦渋の選択であっても、それ耐えるだけで良い。民があってこその国であると。
その書簡が届けられた日。
進軍してきたフェルデナント聖王国の副官が、マリア女王からの書簡を届けにきた交渉団により殺された。
犯人は、ラナパーナ王国に古くから仕えていた副宰相であり、女王の決定に最後まで異議を唱えていた。
当然ながら、交渉は決裂し、フェルデナント聖王国は怒涛の進軍を始めた。
そして、女王は、最後の手段に出た。
「……これで、古くから伝えられている儀式の準備は調いました。あとはフリューゲル、貴方の力にかかっています」
「分かった。残念ながら、この術式は完全ではない。召喚する対象に大きな揺らぎがある。けれど、私は、あの人の魔力波長を理解している。彼の足元に、勇者召喚術式を発動する。彼なら、それで理解してくれる」
すでに王都の城砦も破壊されている。
フェルデナント聖王国の騎士たちは、真っ直ぐにこの王城へと向かっている。
「あとは、伝説を信じるだけです。かつて、この王国が窮地に陥ったとき、かの勇者のみが身につけることを許された、聖なる鎧【ミラーヴァイン】。これが目覚めたら……」
──ダン‼︎
突然、女王のいる部屋の扉が開かれる。
そこには、血まみれの騎士が立っていた。
「陛下、急いてお逃げください‼︎ フェルデナント聖王国の殺戮司祭ジョバンニが、王城城砦を破壊しました‼︎」
「なりません‼︎ まだです、もう、切り札はそこに来るのですから‼︎」
──キィィィィィン
巨大な儀式魔法陣の中央で、フリューゲルが杖を構えて詠唱を開始した。
「我が名に従え、五つの紋章。光よ闇よ、道を記せ。月よ星よ、門を開け。そして精霊よ、我が声を届けたまえ……勇者よ来たれ、古の盟約と共に‼︎」
──ゴゥゥゥゥゥゥ
フリューゲルが詠唱を終えると、魔法陣が光り輝く。
そして光は天井を突き破り、一筋の道となって空高くへと伸びていった。
………
……
…
王城最上階、女王の間から空へと伸びる光の柱。
それは、王城へ突入しようとしていた騎士たちの目にも見えている。
「ジョバンニさま、あれは?」
「ラナパーナ王家に伝えられている勇者召喚の儀式か‼︎ あの女め、小癪な真似を‼︎」
ジョバンニが口汚く罵っていたとき、空高く伸びていた光の柱の中に、一人の人間の姿が見えた。
そうだ、マリア・カムラ・ラナパーナは勇者を召喚した。
もしもそれが事実なら、いや、事実だ。
あの光の中にあるのは、まさしく勇者だ。
それなら、その勇者を殺せば……。
そう考えたとき、ジョバンニは自身が震えていたのに気がついた。
鏡刻界においての勇者伝説、それはジョバンニも理解している。
勇者のみが身に纏うことを許された聖なる鎧『ミラーヴァイン』、悪を滅する光を放つ『オーラカリヴァー』、全ての魔法を弾く『ミーディアの盾』。
それ身につけた勇者など、たとえ魔人王であろうとも跪き、命乞いをする。
その勇者が、王城に姿を表したのである。
「ひ、ひけ‼︎ 撤退だ、港まで逃げろ、勇者は、一瞬で大陸を越えるぞ‼︎ 港だ、いや、この国から逃げろ‼︎」
ジョバンニの叫びが戦場にこだまする。
それまでは絶対勝者であったフェルデナントの騎士たちも、勇者召喚の光を見て、そして、ジョバンニの叫びを聞いて戦意を喪失、我れ先にと王城から飛び出していった。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
燐訪議員の突然の来校から数日。
テレビでは連日のように、妖魔特措法の改定の話が出ている。
俺たち魔法使いの力は、『妖魔だけでなく幅広い分野での事案解決にも使うべきだ』という意見と、『お前ら、与党は子供に殺人をやらせるのか? 子供を戦場に送り出すのが、国の代表たる与党か』と叫ぶ意見が真正面からぶつかっている。
燐訪議員は、再び、水晶柱から騎士がやってくると何処かで聞いたらしく、一刻も早い法案整備に全力であるが、野党は常に拒否。
まあ、マスコミもこれについては野党に賛成なんだよ、必死に与党を殴りまくっているからね。
そんな国会中継は放置して、今日の昼は学食で祐太郎と食っています。
「しっかし、そろそろ開くんじゃね?」
「開くよなぁ。まあ、白桃姫の話だと、開くのはあっちだから、北海道には関係ないよな」
「それについては同意見だな。今の時点で、水晶柱の周りは機動隊で囲んでいるし、付近には犬一匹も近寄らないんだろ?」
「そうらしいな。まあ、俺たちは無関係を貫きたいからなぁ。いくらなんでも、あの騎士一人ならともかく、大量に来たらさ……」
俺の魔法でなんとでもなる、とは言い切れないんだよ。リミッターは使ったのでちゃんと魔法の制御もできるとは思うけど、少しでも加減を間違えたら、相手を殺すからね。
もしも、そんなことになったら。
家から出られなくなるレベルでトラウマになるわ。
「お、乙葉たちも今日は学食か。それで、いつになったら、俺を魔法使いの弟子にしてくれるんだ?」
「いつになるかなぁ、まあ、頑張れよ」
織田に適当に返事を返して、あとは教室でのんびりとするか。
そして、空いた食器を戻しにいったとき。
──キィィィィィン
突然、俺の足元に魔法陣が発生した。
当然ながら、俺は何もしていないし、俺の知らない術式……違う、この術式の配列は、前に白桃姫に見せてもらったことがある‼︎
「オトヤン、避けろ‼︎」
「あたりまえっ。これは勇者召喚術式じゃねーかよ、どこの誰がこんなものを稼働させたんだ?」
指定座標転移式のようだから、魔法陣から出れば巻き込まれることはない。
ということなので、とっとと魔法陣から外に出る。
しかし、この魔力波長も知っているなぁ。
「あ、フリューゲルさんの魔力波長か。ということは、俺を向こうに呼び出したいから、俺の魔力を座標にセットして勇者召喚術式を起動したのか。凄いなぁ」
「つまりは、向こうで何かが起こったから、俺たちに力を貸してほしいっていうことか。どうするオトヤン?」
「どうするって……もう完成するか」
──キィィィィィン
魔法陣全体が輝き、勇者召喚を開始する。
まあ、そこには俺がいないからさ、誰も巻き込まれることはないわ。
──ドドドドドドトダダッ‼︎
「俺の時代だぁぁぁぁ!」
そう叫びながら、織田が魔法陣に飛び込んだ。
いや待て、そこまでは予見してないわ、なんで飛び込んだ‼︎
そう考えるのも束の間、織田が魔法陣に飛び込んだ瞬間、織田の姿が消滅して魔法陣がスッと消えた。
──シーン
残ったのは、沈黙と動揺。
「え、織田? どこいった?」
「織田クーン、どこいっちゃったんだよ、乙葉、さっきのあれはなんだ? 織田くんをどこに隠した?」
取り巻きが俺に問いかけるんだけどさ、俺も知らんわ。なんで、勇者召喚魔法陣に飛び込んだかなぁ。
「知らんわ‼︎ そもそも、あの魔法陣を作ったのは俺じゃねーし。俺だって巻き込まれそうになったんだから、魔法陣から出たんだぞ? そこに、なんで織田が飛び込むんだよ‼︎」
「まあ、織田だからなぁ」
「異世界を夢見ていたドリームボーイだからなぁ」
「異世界は存在するって、いつも話していたし。渡りに船とは、このことじゃないか?」
「頑張れよ、織田。お前のことは忘れないぞ」
うわ、お前ら酷いわ。
そんなことを話していたら、生徒指導の先生もやってきたので、そのまま状況を説明して教室に帰ることにしたよ。
だってさ、俺になにができる?
………
……
…
織田の消失事件については、午後になって保護者が学校までやってきたんだよ。
そこで目撃者であるトリマキーズと俺と祐太郎が、状況の説明をしたんだけどさ。
「それで、息子は帰ってくるのですか? いつ、戻ってきますか?」
「それなんですけど、正直いって俺にもわからないんです。俺が呼び出されて異世界に行きそうになったのですが、俺はすぐに避けたんですよ」
「オトヤンが避けた直後に、織田が叫びながら魔法陣に飛び込みまして、そのまま異世界に行きました」
そんな茶番、誰が信じるかって織田の保護者は怒鳴り散らすけどさ、信じてもらうしかないじゃないか。
結果、この話は第六課に連絡して、対応してもらうことになったよ。
嫌な予感しかしないわ。
くっそ、織田のやろう、なんで考えなしに魔法陣に飛び込んだかなぁ……。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。