第百四十四話・十死一生、逃げるが勝ち(ようこそ異世界、とっとと帰れ‼︎)
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週日曜日と火曜日、金曜日を目安に頑張っています。
5月に書籍化します。
まもなく、追加情報が解禁になりますので、もうしばらくお待ちください。
鏡刻界のフェルデナント聖王国から、水晶柱を通じて騎士がやってきた。
名前は、白竜騎士団所属、剛腕のマイオス‼︎
その目的は、俺たちの世界を領土化するため、つまりは侵攻。
すでに死者まで出ている現状を、特戦自衛隊や機動隊で打破して貰いたかった。
希望的観測だったんだけどさ、人が傷ついているという事実を、俺や祐太郎が見逃すことなんてできない。
気がついたら、担任に早退届を提出して、空飛んでやってきましたが。
そして国会議事堂の上空で戦況を確認したので、祐太郎と俺が騎士を止めに入ることにした。
その間に、新山さんには一人でも多くの怪我人を助けてもらいに向かったということで。
──ガギンガギン‼︎
マイオスが振り回す両手剣を、祐太郎は綺麗にブライガーの籠手で弾き返している。
さすがは神の加護全開の籠手、早々簡単に壊れるはずがない。
「き、貴様、なぜ砕けない、この俺の攻撃で、どうして籠手が破壊されないんだ‼︎」
「あんたのなまくらな武器じゃ、俺の籠手は壊れないぞ。そろそろ反撃に出てもいいだろうかな?」
──グルン‼︎
マイオスの剣を右手で流し、そのまま裏拳を頬に叩き込む。
そこからさらに、細かい掌底と腕による打撃を繋ぎ合わせ、相手の膝を踵で挫き、地面に膝をつかせた。
「おう、詠春拳かよ。さすが守りには強いよなぁ」
「オトヤン、そっちは頼むわ‼︎」
──ガラン‼︎
祐太郎はマイオスの右腕を背中側に捻じ上げ、右足で顔面を横に踏みつけて動けなくしている。
「ぐぁぁぁぉ、貴様、その細腕にどれだけ力があるというんだ‼︎」
「闘気だよ、闘気。それぐらい常識だろうが?」
「闘気だぁ、ふざけるな、貴様のようなガキが使える技じゃないだろうが‼︎ グゥッ、くっそぉぉぉぉ」
ガッチリと関節を決められ、頭を押さえ込まれているマイオス。
それじゃあ、俺の仕事をしますか。
祐太郎が奴の両手剣を俺に向かって蹴ったので、それを拾い上げて術式開始。
──キィィィィィン
『ピッ……豪爆の剣。筋力増加、速度増加、自己修復の施された魔剣……』
「あっそ、各付与効果の術式をコピー。か〜ら〜の、変形っ‼︎」
──グニヤァア
マイオスの豪爆の剣に錬金術の変形を発動。柔らかい金属にして、そこから細長い棍棒を作り出した。
「オトヤン。パスよろしく」
「おらよっと‼︎」
──ヒョイ
出来上がった『豪爆棍』を祐太郎に投げ飛ばすと、祐太郎はマイオスから離れて棍棒を受け取る。
──ブゥン‼︎
そして素早く構えて、マイオスが受け取る起き上がるのを待つ。
「あ、俺の魔剣を……貴様、貴様ぁぁぁぁ」
「オトヤンのところには、いかせねーよっと‼︎」
──ブゥン、バンバンッ
祐太郎はすかさずマイオスの脚を払い、胸元に棍棒を二撃打ちつける。
詠春拳は拳の技だけではない。
胡蝶刀や棒術も学ぶことがあり、特に、詠春拳に棍棒を持たせると大変危険である。
槍のように自在に棍棒を操り、鋼鉄製の棍棒で殴りかかってくる。
その乱撃で、マイオスは地面に這いつくばり、身動きが取れなくなっていた。
この間に、俺がやることはひとつだけ。
すぐさま水晶柱に向かって走り出すと、柱に手のひらを当てて天啓眼発動‼︎
『ピッ……水晶柱…対象座標軸はフェルデナント聖王国大聖堂。魔力不足を無理やり開けたため、マイオスが裏地球に滞在できる時間は、あと六分』
「ナイス‼︎ ユータロ、あと6分で水晶柱が起動する、そうしたらマイオスは強制帰還されるから、それまで頑張れ‼︎」
「オッケィ‼︎ そういうことだ、マイオスさんよ。どうせ時間が来たら自動的に戻れるから、好き勝手に暴れていたんだろう?」
祐太郎が問い詰めるが、マイオスはニヤニヤと笑っている。
「ああ、そうさ、その通りだよ! どうせ魔力の蓄積が終わったら、水晶柱は、開放されっぱなしになる。そうなった時、我が国は、この国に対して聖戦を宣言するだろうさ。それまでは、恐怖に怯えているんだフバシッ‼︎」
──ドゴゴゴゴコゴゴゴッ
あ、祐太郎がマイオスに向かって乱撃を始めたわ。
どこかのモブ風にいうなら、おいおい、あいつ、死んだわの三言だね。
徐々にマイオスの顔が変形し、身体もひしゃげてくる。
でも、祐太郎無双もここが限界。
──キィィィィィン
水晶柱が輝き、柱に銀の扉が生まれる。
そこがゆっくりと開くと、マイオスは扉の向こうに吸い込まれていった。
それはもう、吸引力に自信のある掃除機に吸い込まれたかのように。
──フュンッ‼︎
そして水晶柱の輝きが収まると、扉は静かに消滅した。
「よし、ユータロ、お疲れ様。マイオスぐらいのレベルの相手なら、まだ戦えるか」
「いや、初手は守り切るのが精一杯だったし。後半だって、この棍が無かったらやばかったかもしれない」
「マジか?」
「マジ。異世界から来たエルフじゃないからわかる、本気でマジだ」
それは、怖すぎるわ。
あんなのがあっちの世界に大量にいるのなら、洒落にならないわ。
「さて、それじゃあ、そろそろ帰りますか」
「そうだな。新山さんにも、声をかけてこいな」
豪爆棍を空間収納に収めながら、祐太郎が俺の背中を押す。ということで、やることはやったので帰還しますか。
「新山さん、こっちはどう?」
「……最初の被害者の二人は無理です。即死だったらしくて……でも、残っている人は、大体の治療は終わりました。帰るのですか?」
「そ、とっとと撤退しないと、怖いおばさん達が来るからね」
そのまま祐太郎の元に向かうと、速攻で魔法の箒を取り出して急上昇。
国会議事堂から見覚えのある議員さん達が出てきて、俺たちを呼び止めていたけど、ごめんなさい、聞こえなかったことにします。
何かありましたら、明日以降、ご連絡をどうぞ‼︎
「よし、全速で上昇、北海道へ帰還します」
「応さ」
「了解です‼︎」
帰りも楽しい空の旅。
あ〜、感情を抑える訓練しないと、今回みたいな事件が起こるたびに、飛んできそうになるよ。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
国会議事堂の外で、刃物を振り翳す暴漢が出た。
私は、その報告を衆議院本会議場で聞きました。
でも、その程度の暴漢でしたら、衛視の方でケリがつくはずでは?
「燐訪さん。国会議事堂の前に、あの水晶柱が出現したのです。そこから、鎧を着た騎士のような男が出てきて、衛視二人を一撃で斬殺しました」
議員からの報告を受けて、私はすぐに委員長の元に向かいます。外に暴漢が現れました、すぐ二回様に出動要請をお願いしますと伝えて、私はマイクを握りしめて叫びました。
「只今、国会議事堂前に暴漢が現れました。正体は不明で、突然、議事堂の前に水晶柱が現れ、そこからやってきました」
──ザワザワッ
議会場が喧騒に包まれます。
ですが、その程度のことで揺らぐことはありません。わたしにも切り札はあります。
「ご安心ください。すでに警察と機動隊に出動要請はしています。それに、妖魔の襲撃でしたら、特戦自衛隊も出動しますので、今は慌てず騒がず、この場で待機していてください‼︎」
外にはマスコミも大勢いますわ。
これで、特戦自衛隊の勇姿を国民に見せつけ、私たちの政権の輝かしい未来を演じてもらいましょう。
そうそう、第六課には手出し無用と連絡を入れて頂戴ね。この場は、特戦自衛隊の花舞台なのですから。
………
……
…
次の報告は、予想外でした。
「燐訪さん、特戦自衛隊の自衛官24名で暴漢の対応に当たりました……」
「そう。随分と大勢ね。それで、相手は妖魔なのでしょう? マスコミは放送しているのよね?」
「ぜ、全滅です。特戦自衛隊二十四名、全てが騎士の姿をした暴漢に斬り捨てられました。幸いなことに急所は避けていますが、重体者も数多くて……子飼いの妖魔を向かわせて貰えますか?」
「な、何を馬鹿なことを。機動隊もいるのでしょう? それに妖魔相手なら、第六課が動くのよね?」
「特戦自衛隊が出撃するので、第六課には手出し無用と伝えてあります」
「そ、そんな……」
予想外。
報告では、たった一人の暴漢妖魔なのよね?
私たちが裏に手を回して、国内の退魔法具をかき集めて特戦自衛隊に装備させたというのに、全く役に立たなかったの?
「どうしますか? 裏口からなら逃げることができますが、今のこの現状を無視して、逃げますか?」
「そ、そんなことできるはずないじゃない……考えるのよ、今は、機動隊が包囲しているのでしょう?」
胃が痛くなるわ。
こういう時こそ、あのガキ供を使わないとならないのに。早く法案を改定して、魔法使い全てを現行政府の手駒にしてしまわないと。
そんなことを考えていると、外の喧騒が収まったように感じるわ。
「山形くん。外は、どうなったの?」
「確認してきます‼︎」
急いで若手議員を確認に走らせた。
そして戻ってきた山形議員の報告を聞いて、私は呆然としたわよ。
「とつぜん、空から乙葉浩介率いる魔法使い達が姿を表しました。そして暴漢は水晶の向こうに封じたそうです」
「なんですって! それを早くいって頂戴」
使えるわ。
ここでわたしが彼らの前に出て、ねぎらいの言葉をかけるだけでいい。
握手している姿でも報道されたらこちらのものよ。
世論は、現代の魔術師が、わたしの指示で動いたという風にコントロールすれば良い。
完璧ね。
本当に、良いタイミングできてくれたわ。
………
……
…
あら?
あのガキンチョ達はどこ?
え? 空飛んで帰ったの? あの空の点がそうなの?
ちょっと待ちなさいよ、いま帰られたら困るのよ。
妖魔のことについて、カメラの前で話してもらわないと困るのよ‼︎
話してさえくれれば、あとはどうとでも編集できるのですから……。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
東京で一仕事終わらせたので、真っ直ぐ自宅に帰りたいけど。
まずは、確認のために俺たち三人は妖魔特区へと向かうことにした。
現地では瀬川先輩とも合流するように話はしてあるので、先輩と、それと白桃姫を交えて話を聞くことにしたんだよ。
「まずは、魔力玉をくれてたもれ? 話はそれからじゃ」
「はい、今日は私から。神聖魔法の魔力玉ですよ」
新山さんが魔力玉を作ると、それを白桃姫に手渡している。それを受け取って、ニコニコと口の中に放り込む白桃姫、本当に美味しそうに食べるよなぁ。
「なあ乙葉や、魔力玉を保存するストッカーは魔導具で作らないのかや? それがあれば、妾はいつでも新鮮な魔力玉を食べられるのじゃが」
「ははぁ。魔力を蓄積しておく魔導具が。そんなのは考えたことなかったなぁ。あとで調べてみるよ」
「うむ。よしなに頼むぞ。さて、そなたらが来た理由はわかっておる。フェルディナント聖王国の進軍が始まったのじゃな?」
さすがは十二魔将。
あっちの世界のことについては、よくご存知ですなぁ。拍手したくなるわ。
「それ、そのフェルデナント聖王国が、なんで俺たちの世界に進撃してくるんだ? 転移門を越えて進軍するのは魔族の特権じゃ無いのか?」
「アホなことを抜かすな。我ら魔族でさえ、大転移門を作り出すのに、どれだけの魔力を必要とするかわかっておるのか? それゆえに、魔族がこちらの世界に来るためには、儀式時間込みで500年は必要となる」
淡々と説明してくれる白桃姫。
その横では、先輩が深淵の書庫を展開してデータを整理している。
「そこの大水晶柱から読み取ったのですが、鏡刻界には水晶を媒体とする転移術式があるのですね。今回は、それを使って向こうの世界からこちらに来た、ということですか?」
「瀬川のいう通りじゃな。最初は、ここの場所と繋げようとしてあったから、妾が、全ての出口を封じたのじゃ。すると、奴らは、こっちの世界に水晶柱を立ておった……場所はランダムじゃから、本当に日本という国は不幸じゃなぁ」
まったくだよ。
なんで日本ばかり、こんな目に遭うんだよ。
なろう系小説でも、ローファンタジーだと日本ばかり攻撃されたり異世界からなんか来たり、突然大通り上空に機動戦艦が出てくるんだよ。
現実世界は、もっと、日本に優しくしてくれよ。
「それで、フェルデナント聖王国がこちらにくる理由は? 白桃姫なら、何か想像がつかないか?」
「築地や、妾とて万能では無い。じゃが、恐らくは領土問題じゃろうなぁ」
「「「「領土問題?」」」」
思わず全員で突っ込んだわ。
そして詳しい話を聞くと、おおよそ理解できた。
フェルデナント聖王国のある大陸は、実は巨大な山脈があちこちにあるため、平地がかなり少ない。
その平地を、16の国家が領土として占領しているのだが、フェルデナント聖王国は巨大な山脈の裾野にあるため、領土を広げるには山脈を切り崩すか、他国を蹂躙するしか無いらしい。
結果、なんらかの理由で水晶柱を作り出し、異世界に活路を見出したという可能性がある。
「……しかし、フェルデナント聖王国の騎士を相手に一歩も引かぬとは。相手は何者じゃった?」
「俺が相手したのは、白竜騎士団所属の、剛腕のマイオスとかいうやつだったが、強いのか?」
「ふぅむ。こっちに来て半年ぐらいになるから、妾の知っている情報は当てにならぬが。冒険者としてのジョブは剛騎士、ランクはA、レベルは50に少し満たない程度じゃったな」
「基準が分からんなぁ」
「同じく、井坂十蔵」
「私も理解できません」
「レベルとランクの紐付けに、興味はありますわね」
白桃姫いわく、レベル50っていうのは、大陸に10人もいないらしい。
普通に街に住んでいる人たちでも、レベルは5に満たないらしく、駆け出しの冒険者が10前後、中間で20から30レベル。30を超えるとベテラン冒険者として名を馳せられるらしく、王家からも声が掛かるぐらいの強さらしい。
なお、伝説に残る、異世界から来た勇者が60よりも少し上で、人外の強さを誇っていたそうな。
「え? 今の俺って、魔闘家レベル48だけど?」
「私は治癒師レベル31です‼︎」
「私は隠者レベル36ですわよ?」
おお、みなさん成長してますなぁ。
そして、同時に俺をみるな。
「お、俺は、大賢者レベル5だ」
「おおう、そりゃまたとんでもないジョブじゃな。それに皆も、強いのう……」
「白桃姫にもレベルがあるのか?」
「魔族はカウントが違うのじゃよ。妾は侯爵級三位、冒険者規格で言うなら、貴族レベル300といったところか?」
あ、レベル差がでかいなぁ。
そりゃあ、勝ち目ないわあ。
「参考までに、百道烈士ってどれぐらい強いんだ?」
「やつは、元侯爵級三位。じゃから、よく乙葉が勝てたものだと感心しておる。いくらこっちの世界に来て能力が低下していたとしても、150レベルぐらいは維持しておったと思うぞ?」
げ。
そんなに違うのかよ。
魔導強化外骨格で底上げして、なんとかって感じだよな。
「まあ、あえていうなら、レベルと能力は異なる。乙葉の魔力値は、魔族でいうところの王爵一位、その気になれば魔力だけで魔族を統べられるぞ。しかも、今は神威持ちじゃ、妾の絶対防御も無力化されるぞ?」
「はぁ、俺、まだ人間なんだけどなぁ。とにかく、フェルデナント聖王国ってのが、またちょっかいかけてくるのは確定か」
「その対策は……特戦自衛隊にまかせるか、俺たちがいつまでも出張っているわけにも行かないからな」
「そうですね。私の治癒魔法だって、無限に使えるわけではありません。私は、みんなと違って保有魔力は少ないのですから」
そう話していると、瀬川先輩が深淵の書庫を解除した。
「水晶柱の解析は完了。次に開くのは10日後ぐらいじゃないかしら?」
「マジか。そんじゃ、要先生にでも連絡しておきますか。ということで、今日はおひらき。もう、休みたいわ」
話し合いも終わり、俺たちは解散した。
東京で魔力を使いすぎたので、今日はのんびりと体を休めさせてもらうことにしたよ。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
・今回のわかりづらいネタ
イップマン
この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。




