第百四十三話・危急存亡、灰吹きから蛇が出た‼︎(新しい敵は、マジでした)
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週日曜日と火曜日、金曜日を目安に頑張っています。
5月中には書籍化情報の追加もありますので、少々お待ちください。
レクリエーションも無事に終わり。
ゴールデンウィークを迎えた我々に隙はない。
この連日は、俺と祐太郎、新山さん、瀬川先輩は東京に旅行してきましたよ。
空を飛んで、目指せ東京ビッグサイト‼︎
春の同人誌即売会だけど、コミケじゃないよ‼︎
大量の同人誌と限定グッズも購入、現地ではタケもっこす先生とも合流して、焼肉パーティーもやったよ。
そんな楽しいゴールデンウィークでした、おしまい。
いや、本当に事件も何もなくてさ、やたらとうるさい野党の御一行さまも、いよいよラスト一週間なので、全力だったよ。
俺たちは、どさくさ紛れに洗脳解除装置を使いながら、東京の街の中をのんびりとドライブ。
一度でも、この魔導具の波長を受けるとさ、洗脳が解除された人『洗脳耐性』までつくのだよ。
つまり、東京都の有権者は、洗脳のあるなしに関わらず、自分たちが本当に必要な議員を選ぶわけ。
よし、俺たち、いい仕事してきたわ。
………
……
…
「マジかぁ。妖魔が野党と手を組んでいるのは知っていたけど、ここまで徹底的にやるとはなぁ」
選挙当日の夜。
時間は午後八時、今日は祐太郎のうちでのんびりと食事会だよ。
自宅の隣にある選挙事務所では、築地晋太郎議員の当選を聞きつけて、大勢の有権者がおめでとうの言葉を届けに来ている。
まあ、俺たちは後で、明日にでも挨拶ならいけばいいやと思っていたんだけどさ、開票速報を見て呆然としたよ。
『立憲民進党、圧勝‼︎』
『前野党、まさかの三分の二を獲得。どうなる自民』
『政権交代、日本の新時代か?』
などなど、そりゃあもう、大忙しさ。
そして、大忙しのはずの立憲民進党、国民民進党、共和党、大和維新会はというと、放送では笑顔であるにもかかわらず、どこか引き立った笑いが見えている。
そりゃそうだ、『北海道』『東京』『大阪』『京都』の小選挙区では大敗しているからね。
特に北海道と東京の小選挙区では、前与党の『自由民権党』がパーフェクト‼︎ どこにも前野党の入る余地がなかったという。
北海道12小選挙区のうち、自民党が10、大和が2。
東京25小選挙区だと、自民党が18、大和が3、公和党が3、無所属が1。
その他の地域も頑張ったらしいけど、それでも前与党は大敗を喫してしまった。
さて、これからどうなるのかわからないけど、俺たちにとっても、与党第一党となった立憲民進党が妖魔関連法案について、どこまで改定してくることやら。
………
……
…
明けて月曜日。
クラスでも、選挙の話に花を咲かせている奴らとか、逆に興味がない連中は追っかけているドラマが特番で中止なのが納得いかないとか、いろんな意味で盛り上がっています。
「ユータロ、おじさんは元気?」
「メチャクチャ元気だぞ。俺に警備員のバイトをしないかって話を振ってくるレベルでな。まあ、オトヤンが作ってくれた魔導具があるから、あんまり必要ないんだけどな」
「そりゃよかった。俺としても、作りがいがあるわ」
「そんなに作りがいがあるなら、俺用の発動具を作ってくれよ、魔法を使うのに必要なんだろう?」
うん、織田、君は本当にブレないよ。
いつか、良いことがあるよねと、肩をポンポンと叩いてあげたよ、温かい目をしながら。
「……なんだ? どうした乙葉」
「いや、織田はどんな時でもスタンスが変わらないなあって、テレ東みたいだなぁと思ってさ。そのまま成長してくれよ、あと、発動具じゃねーから、発動媒体だから」
「テレ東……そうかそうか、そんなに俺は人気者か。そうか。じゃあな‼︎」
なんだか誤解しながら、仲間のところに戻ったぞ。
まあ、あの前向きな性格は見習いたいところではあるけどな。
さてと、今日ものんびりと授業に明け暮れますか。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
衆議院選挙から四日後。
特別国会が招集された。
この時点で、前内閣は解体、新たな内閣の発足となった。
まるで、『全てこうなることが予想されていた』かのように、新しい人事が次々と発表。
日本を代表する新たな総理大臣は立憲民進党の鷹川幸夫が就任した。
満場一致……とも言い難いのだが、与党はこの結果に対して満足、早速、壇上では鷹川新総理の所信表明演説が行われていた。
………
……
…
──キィィィィィン
金属が擦り合わされるような高音が、国会議事堂前に響き渡る。
周囲に集まっていた報道陣や、警備員たちもその後の発生源を探し回っていたのだが、どこにもそれらしいものは存在しなかった。
だが、音がゆっくりと小さくなり、やがて消滅したかと思うと、国会議事堂の正面に、大きな水晶柱が姿を表していた。
高さにして10m、直径3mと、北海道にある水晶柱よりはかなり小さいものの、形状や輝きは同じものである。
──ヌッ
そして、その中から、金属鎧に身を包んだ人物が姿を表した。
………
……
…
『あ〜、ここが目的地かぁ。しっかし、魔力も感じないし精霊も見当たらない。ここが新天地なのか? 裏地球進軍の第一歩が、ここかぁ』
男は鏡刻界コモン語で呟きつつ周囲を見渡す。
すると、周囲から、大勢の人が集まってくるのが見えた。
『やれやれ、まずは仕事を始めるとするか』
面倒ごとは勘弁してもらいたい。
そんなそぶりを見せつつも、男はどんどんと集まりつつある人々に向かって、声を高らかに宣言した。
『我は、フェルディナント聖王国が白竜騎士団所属、剛腕のマイオス‼︎ 今日、この時刻より、この地はフェルディナント聖王国が接収する‼︎』
──ズン‼︎
背中に背負っていた巨大な剣を引き抜き、それを地面に突き立てて叫ぶ。
侵略する土地に先住民がいるのなら、まずは礼を尽くさなくてはならぬ。
そう、自分に言い聞かせているように。
「貴様、何者だ。無許可でそんなものを勝手に置かれたら困る‼︎」
「その格好はなんだ、それに、その剣は本物か? とにかく、一度敷地からでたまえ‼︎」
そして、国会議事堂を守る警備員『衛視』たちが叫びつつ男に近寄るが、男は一瞬で剣を地面から引き抜くと、衛視に向かって構えた。
『言葉は知らぬ。だが、敵意は感じる。つまり、先程の我の宣言を不服とみたか。なら、これ以上の言葉は不要。斬り合うのみだ』
巨大な両手剣を腰溜めに構える。
そして衛視たちが間合いをとってどこかに連絡をしている隙に、わずか数歩だけ踏み込んだ。
──ドゴッ‼︎
衛視にとって計算外だったのは、その数歩がメートル単位であったこと。
距離にして5m、それを数歩で詰めると、両手剣を力一杯振り回した。
日本刀なら、痛みもなく切断するとか、神技的な表現がされていただろう。
だが、男の放った一撃は、肉を裂き、骨を砕き、内臓を引きちぎっていく。
衝撃で後方に吹き飛ばされた時、衛視たちは腰から真っ二つに切断され、絶命していた。
──ズン‼︎
軽く両手剣を振って血糊を払い、再び地面に両手剣を突き立てる。
『まずは偵察……と思ったのだが、この程度の騎士しか居らぬ世界か。余裕であったな』
そう呟きつつ、男は、周囲を見渡す。
報道陣のカメラが向けられていても、それが何かわからない彼にとっては、『奇妙な道具を携えた民間人』程度にしか感じない。
そして、男は、騎士である。
敵ならば排除する。
女子供には、手を出さない。
民間人に対しては、暴力を振るわない。
そう、騎士道として教え込まれていた。
但し、その騎士道は歪んでいた。
『なお、フェルディナント聖王国を否定するものに対しては、全力で排除する』
この一文が、彼の騎士道には刷り込まれていた。
………
……
…
国会内では、鷹川首相が演説をしている。
そんな中、国会議事堂の敷地内で、狂刃を振るう暴漢が現れたという報告があったので、すぐさま議長は警察官の派遣を要請。
鷹川首相の演説は一時中止となり安全な場所への避難誘導が行われ始めた。
その直後、連絡を受けた警察官及び機動隊が集結し、国会議事堂周辺は厳戒態勢に突入した。
「……なあ、オトヤン。これ、なんの映画の宣伝だ?」
「それを俺に聞く? なんで昼休みに動画を見ていたら、こんな緊急速報が見えたかなぁ」
時刻はちょうど昼。
今日は中庭でのんびりとランチタイム、俺と祐太郎は昼飯を食べながら動画を見ていたんだけどさ、いきなり緊急速報が始まったかと思うと、無修正の惨殺シーンが流れたよ。
カメラの角度で傷口とかは見えなかったけど、それで正解だよ。
そして、なぜこんなことが起きたのかと、録画映像が流れてきたんだけどさ。
「うわぁ、水晶柱が発生したのかよ。そこから現れた異世界の騎士。情報が多すぎるんだが」
「それで、この状態か……あら、中継が切れたが、これは報道管制か?」
「多分、そうだよなぁ。このあとは機動隊と異世界の騎士の戦闘だろ? 最悪のケースも考えているんじゃないのか?」
「可能性は十分にある。それよりも、だ。問題は、さっきの男の言葉だよなぁ」
俺たちは自動翻訳スキルがあるから、男の言葉も理解できる。
たしかに、フェルディナント聖王国って話していたし、この土地を接収するとも叫んでいた。
まあ、俺たちの世界の人間には、あの言葉がわからないだろうから、異世界から来た騎士が何か叫んでいる程度の認識しかないはず。
「異世界からの侵略か。魔族の大進軍とは、一味違うことになったが、オトヤン、どうする?」
「どうするもこうするも、一介の高校生に何をしろと? あの手の暴漢の相手は警察と機動隊。魔族相手じゃないから第六課は動かない。ほら、特戦自衛隊の仕事ができたわ」
敢えて言おう。
俺たちは『関わりたくない』。
相手が人間なので、変に戦闘になったら困る。
動画を見ていた限りだと、身体能力は祐太郎と五分、俺が魔導体術で対応すればなんとかなるレベルだけど。
なんで俺たちが動かないとならない?
「そこだよなぁ。でもよ、連絡来ると思うぜ。それも直接、北海道に来て。化け物の相手はあなたたちの得意分野ではないかって、現行政府のお偉いさんが」
「それこそ、知らんがな。現時点での妖魔特措法、対 妖魔関連法案、それと、選挙の公約にした『国民が自由に魔法を学ぶ権利』、そのどれを持ってこられても、異世界の侵略に対する出動要請は当てはまらん」
これは自民党の手柄というか、『異世界=妖魔=魔族』で考えて提出した法案なので、鏡刻界の住人がやってくるという予想はしていなかったらしい。
そんなことを話していると、昼休みが終わったので午後の授業に向かうとしますか。
俺たちは、スーパーマンでもアヴェンジャーズでもないんだからね。
………
……
…
飛んでます。
午後の授業ですか? サボりましたよ。
だってさ、人が死んでいるんだよ?
いくら機動隊や警察官が対応しているとしても、気になるものは気になるのです。
俺と祐太郎と新山さんの三人は、一応は担任に説明して、一路、東京へと飛んで行きましたよ。
高度を限界まで上げてからの、最高速。
真っ直ぐに国会議事堂へと向かい、その上空まで飛んでいったんだけど、上空には大量の報道ヘリ、真下には真っ赤な地面と、大量の人々。
その中心に立っている、巨大な両手剣を構えている騎士。
「祐太郎、マジで行く気か?」
「行きたくないよなぁ。本当に、なんで俺たちが行くことになったんだか知らんが……いくわ」
──ゴゥゥゥゥゥゥ
魔法の箒の速度を上げ、移動中に魔導闘衣に換装する祐太郎。
「新山さんは……あっちを頼みます‼︎」
気がついたのは、国会議事堂を囲むように存在する機動隊と、その車輌。
その一角で、怪我人たちが次々と集められている野戦病院のような場所が出来上がっていた。
大量の救急車の姿も見えるから、新山さんはそっちの手伝いをお願い。
「はいっ、怪我人の手当てに来ました‼︎ 怪我人はどちらですか‼︎」
大声を上げて、救急車の待機している方角に飛んでいく新山さん。
そして眼下では、お互いに間合いをとっている騎士と祐太郎の姿があった。
『新手か。ガキは下がっていろ、俺はガキを斬るための武器は持ち合わせていないからな』
『ぶっちゃけるとさ、あんたの存在が納得いかないんだけど。なんで、こんなに大勢の人を殺したんだ?』
──ガギィィィィーン
ブライガーの籠手を装備して身構える祐太郎。
その姿を見て驚いたかと思ったが、騎士は祐太郎と話をはじめた。
『驚いた。お前はカモン語が話せるのか。なら都合がいい、周りに集まっている奴らに伝えろ、この地は、間も無く我がフェルディナント聖王国のものとなると』
『お断りだ。この地は、俺たち日本人の地だ。そして地球人の世界だ。鏡刻界からの侵略者如きに、むざむざと差し出していい土地じゃないんだよ』
『侵略者だと?』
騎士の眉根がピクリと動く。
どうやら、彼の何かに触れてしまったらしい。
『違うか? 他人の土地にやってきて、いきなり自分たちの領土だと宣言する。侵略者以外の何者でもないだろう?』
『違うな。我が聖王の教義では、全ての国、土地は等しく聖王の庇護下になければならない。よって、この地も聖王の庇護下に置かれる。後日、司祭たちが訪れて、正式にこの地に祝福を授ける。だから、貴様は邪魔をするな‼︎』
──ブゥン
勢いよく両手剣を振って構える騎士。
その動きに臆すことなく、祐太郎も機甲拳の構えをとって見せた。
「祐太郎、助太刀するぞ‼︎」
もうね、一対一じゃ不利にしか見えない。
だから、俺も素早く魔導強化外骨格を装備して地面に降りると、騎士に向かって身構えた。
『ガキがもう一人か。一対二というのなら手加減はしない。一対一なら、同じ言葉を交わせるものとして、試合形式で相手をするが如何に?』
そんな、上から目線の言葉なんて、返事は一つだけだろうが。
「「 断る‼︎ 」」
俺たちがそう叫ぶのを待っていたかのように、歌騎士は満面の笑みを浮かべている。
「機動隊の皆さんと警察の方は、大きく下がってください」
「こいつは異世界から来た侵略者だ、ここは俺たちに任せろ‼︎」
俺たちの叫びがどう聞こえたのか知らないが、騎士は両手剣を軽く振ってから、刀担ぐような構えを取った。
『フェルディナント聖王国が白竜騎士団所属、剛腕のマイオス‼︎ 正々堂々と参る‼︎』
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
・今回のわかりづらいネタ