第百四十二話・油断大敵、習うより慣れた?(日々から平穏、楽しい炊事遠足)
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週日曜日と火曜日、金曜日を目安に頑張っています。
今月、この作品が書籍化されます。
詳細はまた後日、この場をお借りしてご連絡しますので。
うん。
やり過ぎたのは、俺の錬金術〜。
いくら子供に内緒といっても、いくら保護者に秘密といっても、どれだけ放送局と綿密な打ち合わせをしても。
人の噂は止まらない。
秋名の下りのように、そこを駆け抜けるパンダトレノのように。
そんな日がつらつらと続きまして、春も間も無く到来、桜の蕾が綻びはじめた頃。
「明後日の炊事遠足のために、明日の五時間目はLHRに振替ます」
という有難い連絡があったのだよ。
ちなみに、札幌市の高校では炊事遠足は当たり前にあるのが多い。
それは新設校である本校でもあるのだが、今年は五月に行われることになった。
大抵は十月に行われるらしいんだけど、今年はスケジュールの都合がつかなかったらしい。
さらに付け加えるとだね、二年は十月に修学旅行もあるので、他校では二年生の炊事遠足がないところも多いらしい。
この辺りは新設四年目の高校なので、手探りで色々と考えているのだろうなぁ。
………
……
…
「さて。うちの班なのだが、俺と祐太郎、新山さん、立花さん。ここまではいい。それで、何故、織田がいる? 班分けは五人は一組で……そっか」
織田の仲間達は、全部で六人。
つまり一人余るのだが、なかなか個性が強いメンバーで、進級してもこのメンバーは変わらなかったらしいが、他に仲のいい男子は別クラス。
つまり、そういうことか。
「乙葉、そして築地、その生暖かい目はなんだ? あっちのチームに俺の居場所がない訳じゃないからな。そこのところ、勘違いするなよ?」
「それぐらい分かるわ。そもそも、うちのクラスの男子の分布を見たら分かるだろうが」
うちのクラスというか、総合系を選択したら、必然的に男子が少なくなる。なんでか知らんけど。
それで、うちのクラスは男子が13人なんだよ。
別の男子と女子混合で五人一組が二つ、織田フレンズだけの男五人一組だと、必然的に俺と祐太郎、織田が余る。
まあ、祐太郎は女子からもお誘いがあったけどさ、うちらで固まった方が楽なのでここ。
そして立花さんも何故か祐太郎と一緒にここ。
ほら、ほかのチームは女子で固まったりしているから、うちらは混合なのよ。
「そうだな、じゃあ、よろしく頼むわ」
「おう。それで、何を作ればいいんだ? 俺は料理については壊滅的にダメだからな?」
「ユータロには期待しないわ。そして、そこで申し訳なさそうな織田、お前にも期待していない!」
「そうなりますと、私のチームで料理ができるのはわたしと新山さん、乙葉くんということですの?」
「そうですね。乙葉くんは一通り大丈夫ですし、私も自宅ではお母さんの手伝いをしていますから」
よし、三人いるなら大丈夫だ。
問題はメニューだよな。
ここで迂闊なものを選択するとアウト。
生食系、つまり手巻き寿司とか寿司系は禁止。何かあったらやばいからね。
そうなると、火を使う普通の料理なんだよなぁ。
「メニューは……」
「乙葉、俺は満漢全席が食いたい‼︎」
「自腹で食え、そもそも仕込みに何日かかると思ってんだ?」
「それぐらいは魔法でやれ‼︎」
「はい、織田くんの意見は却下ですわ。私としては、チーズフォンデュをお勧めしますわよ」
「俺は、揚げたての天ぷらがいいなぁ。十五島公園なら、川も近いからな」
「ブイヤベースもどうですか?」
ま、また、炊事遠足らしからぬものを。
チーズフォンデュはまだよしとしよう。
ブイヤベースもありだ。
だが祐太郎、なんで天ぷら?
「ユータロ以外はありで」
「なら、オトヤンは何か意見あるのか?」
「カレー?」
「「「「ないわぁ(ないですわ、うーん)」」」」
あら、フルツッコミのアウトですか。
でも、炊事遠足でカレーって鉄板だよ?
「ちょっと、あいつらのところで何やるのか、聞いてくるわ」
意気揚々に織田が、友達のところに聞きに行ったんだけどさ、頭をひねりながら帰ってきたわ。
「それで、なんだって?」
「焼肉」
「「「「ないわぁ(ないですわ、うーん」」」」
「あのメンツは、料理経験者いないわ。放置しておくと危険だけど、焼肉なら周りに害がないよな」
「安全マージンという点ではありか。それで、うちはどうする?」
そこで、あれこれ考えた挙句の折衝案がこれです。
『チーズフォンデュとピザ』
ね、バカでしょ。
手軽に凝ったものを作りたいという織田と立花さんの意見に、ピザが食べたい新山さんと祐太郎の意見がまざりました。
そんなこんなで、うちのチームはチーズフォンデュどピザです。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
はい、炊事遠足です。
ピーカンです。
学校からバスで移動しますが、前回のスキー学習の時の失敗を教訓に、移動中の妖魔感知はフルパワーで範囲も拡大。
国道237号線を定山渓方面に向かう。
その途中で藤野に差し掛かると、右に曲がってグニャグニャとね。
豊平川の河川敷に広がる炊事遠足のメッカ、十五島公園に到着です。
集会で注意事項その他を確認して、各グループごとに薪を貰ったらスタート。
各グループごとに集まって、レンガブロックを組んでカマドを作ったり、薪の火おこしに必死でございます。
「いや、なんでブロック組んだのに火が消えるんだよ。意味がわからんぞ」
「薪に火が付かなーい!」
「ジャガイモ落としたの誰だぁ、焼いて食っちまうぞ‼︎」
「カレーのルーを忘れてきたぁぁぁ‼︎」
実に、阿鼻叫喚です。
料理ができる女子チームは水道で野菜を洗ったり、お米を研いだりと和気藹々。
新山さんと立花さんもそこに加わって楽しそうである。
では、俺はピザを焼く窯を作りますか。
「大地の精霊や、我が願いに応え、その姿を変貌させたまえ……大地操作っ‼︎」
──ゴゴゴゴゴ
大地の壁で四方の壁を作り、大地操作でドーム状に変化させる。
あとは硬化させて、あっという間にピザ窯の出来上がりです。
「オトヤン、火おこしは任せろ‼︎」
「任せた。織田も、そっちにフォンデュ鍋を載せる窯を作るように」
「魔法で作ってくれないのか?」
「レンガブロックぐらいは組めるだろうが。交互に載せるんだよ、壁の部分は穴が空いているのを上にしてな。間違っても穴を横にして積むなよ、風でとんでもないことになるから」
あちこちで、とんでも無いことになっています。
まあ、それは置いておきましょう。
生煮えでもいいじゃない、炊事遠足だもの。
「さて。俺は次の作業を始めるか」
──シュンッ
空間からテーブルを取り出して、ピザの生地を練ります。出来合いの生地を使うのも楽なんだけどさ、やっぱり手作りだよね。
「オトヤン、窯の火はオッケーだ。トマトソース作るから、やり方教えてくれ」
「ちょい待ってろ」
にんにくとトマトと玉ねぎとオリーブオイル。
塩胡椒、ローリエ、オレガノ、これだけ。
もう一つテーブルを出して並べておくと、新山さんと立花さんも帰ってきたわ。
「……あえて尋ねますわ、あの本格的なピザ窯はなんですか?」
「魔法で作ったけど?」
「……そちらのテーブルの白い粉は?」
「強力粉と薄力粉とベーキングパウダーと砂糖だけど、なにか問題でも?」
あ、立花さんが頭を抱えてしゃがみ込んだ。
最初に言ったはずだよね? 全部、手作りでいくって。
「はぁ。ピザ生地までとは予想外でしたわ。私と新山さんは、チーズフォンデュの具材の準備を始めますわ。築地くんは?」
「あ、俺はピザトマトソース作るわ。オトヤンから、作り方教えてもらうから」
「乙葉、俺は何をすれば良いんだ?」
「織田は、新山さんたちと一緒にチーズフォンデュの具を作ってきてくれ。そんじゃ、始めますか‼︎」
イースト菌を発酵させて。
全部の粉と混ぜ合わせて、水とオリーブオイルを加えて混ぜます、力強く。
果てしなく混ぜたら、ボールに入れて濡れた布を被せて。
「炎の精霊や、わずかの温もりを与えたまえ……熱制御っっっっ」
はい、生地がゆっくりと膨らみ始めましたよ。
そこ、織田‼︎ 魔法の詠唱文をメモしない。
立花さんまでメモするんかい!
「まあ、弟子じゃないけど、参考までに」
「将来のためにですわ」
「最近はあれか? 嫁入り修行で魔法を覚えるのか?」
「乙葉くんを見ていると、それもありのような気がしますわね」
「あ、おおう……そうか。それならしゃーないか」
はい、そんなことを話しているうちに生地が膨らんだので、小さくちぎって丸めて、伸ばして、あっという間にピザ生地の出来上がりです。
ここに、祐太郎が作ったトマトソースを。
あれ、トマトソースは?
「オトヤン、ちょっと見てくれるか? ニンニクをオリーブオイルで炒めて、そこに玉ねぎとトマトを加えて弱火で煮ているんだが?」
「では味見……アチチチ、塩胡椒少々加えて……これでいいや、あとは煮詰めてくれればオッケーです!」
「よし、これで俺もピザソースだけは作れるようになったぞ」
そんなこんなで、チーズフォンデュの具も準備ができたようですから、織田の作ったカマドにチーズを入れた鍋を乗せて。
火力は『火操作』で制御しつつチーズを溶かして牛乳を加えて。
ついでにコーンスターチもね。
「よし、完成‼︎」
「ふぅ。なかなか本格的ですわね。では、先にチーズフォンデュを頂きましょうか」
立花さんが、クーラーボックスからワインを取り出し……え、ワイン?
「違いますわ、ノンアルコール・スパークリングワインですわよ。野菜は私の家で注文して作ってもらっている契約農家さんのお野菜です」
「フランスパンは、私のうちの近所のパン屋さんのですよ。ベーコンとソーセージも近所の商店街のです」
「俺は、餅を持ってきたんだが……」
織田、チーズフォンデュに餅とは、なかなかわかっているなぁ。
「それじゃあ、始めますか‼︎ 頂きます‼︎」
「「「「頂きま〜す」」」」
ほかのチームは、まだ試行錯誤しているところもあったり、焼肉パーティを始めたところがあったりと、実に楽しそうである。
カレーが急遽メニュー変更で、塩味の豚汁になったチームもあったりと、本当に楽しいわ。
他のチームのやつらがやってきて、料理を交換したりね、これがクラスの和ですよ、和。
………
……
…
「乙葉ぁ、この魚って食えるのか?」
別チームの男子が、魚釣ってきたよ。
大きさにして、大体30cmはあるよな。
鮭? いや、イトウ?
虹鱒の可能性もあるけど、俺って、魚の種類とかわからんのだよ。
「まてまて!今、魔法で鑑定してやるわ……」
『ピッ……魔獣・センメイコウ。食用魔獣であり、毒はない。鏡刻界ではメジャーなサカナ。焼いてもよし、煮てもよし、でもタタキは勘弁してあげてください』
「タンノかよ‼︎ それよりも、それ、魔獣だからな。妖魔の親戚な!」
「ヒイッ‼︎」
いきなり叫びながら、魚を落としたわ。
あ〜あ、もったいな……え?
──トポン‼︎
センメイコウは地面に落ちたかと思ったら、そのまま地面に潜っていったよ。まるで、水に潜るみたいに。
「センメイコウについて、詳細データを」
『ピッ……センメイコウは潜地魚でもあり、どんな地面にでも潜って泳ぐことができる。昆虫を食べるが、動物を襲うことはない』
「あ〜、なるほどなぁ。あれって食用でさ、食べたら美味いらしいぜ」
「マジかよ……釣れるかなぁ」
「食用とわかったらそれかよ、わざわざ釣らなくてもいいんじゃね?」
「うちのグループの食材が、先ほど、全滅したんだわ。それはもう、見るも無惨に……だから、魚でも釣らないと腹が減ってなぁ」
──グ〜、キュルルルルル
うん、爽快なぐらい、腹の虫が鳴っていますなぁ。
よし、頑張れ。
「そうかそうか、じゃあ、頑張れよ」
「当然さ。腹をすかしている仲間たちが待っているからな‼︎」
そのままやつは、釣竿担いで川まで向かった。
無事に、食べられる魚を釣ってこいよ。
センメイコウについては、祐太郎たちにも話しておくか。
「……っということで、魔獣が泳いでました」
「オトヤンの話なら、人は襲わないのだからオッケーだな。よし、無視だ」
「ちょっと待てぇぇぇぇぇ。乙葉、それに築地‼︎ 妖魔なんだろ? 放っておいていいのかよ?」
「妖魔じゃねーよ、魔獣。異世界から紛れ込んできた魔獣だから……なんで、紛れ込んできた?」
そこだ。
もしも、センメイコウが妖魔特区にいたとするなら、まだ説得力がある。
でも、なんでこんなところに魔獣が……。
「あの、乙葉くん。さっきの魔獣って、豊平川を遡上してきた可能性もありますよね? 妖魔特区の結界内で発生したのではなく、外側にも植生その他に変化があるって、要先生が話していましたよね?」
「「あ〜、そこかぁ」」
そうか、そうだよな。
直径三キロメートルは、豊平川も含まれるんだよ。
地図を開いて、テレビ塔から半径1.5km。
コンパスでくるりと円を描くと、実は創成川と豊平川は範囲内に含まれる。
「植生だけでなく、動物関係にも影響ありなのか。でも、前は見なかったよな?」
「最近になって、また、何かあったのかなぁ….あの水晶柱が、影響したりして……」
「ユータロ、洒落にならんぞ」
「だよなぁ……明日にでも、第六課に連絡入れておくか」
焼き立てのピザを食べながら、俺と祐太郎はそんな話をしていましたよ。
同じテーブルでは、俺たちの話に必死に耳を傾けている織田と、今の話の説明を新山さんから聞いている立花さんがいますが。
「ふぅん。築地くんたちって、普段から妖魔とかの話をしているのですわね。私たちの知らない知識としては、実に興味深いですわね」
「あまり、深入りすると危険ですよ? 私たち魔法使いは、妖魔にとっては格好の餌でもありますからね」
「そうなのですか? では、ご忠告を真摯に受け止めますわ」
うん。
それがいいよ。
そんなこんなで炊事遠足も終わり。
立つ鳥跡を濁さずの如く、しっかりと周辺清掃も怠らず。
あとは学校に戻ってはい、解散。
実に楽しいレクリエーションであった。
なお、翌日に、センメイコウとかなら魔獣の存在について第六課に連絡をしておいたんだけど、ここ数日の間に、同じような目撃があちこちで起きているらしいとのこと。
一体、何が起きようとしているんだよ?
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
・今回のわかりづらいネタ




