第百三十九話・曲突徙薪、然うは問屋が卸さない(やっぱり、そうくるかぁ。さすがは性根が腐ってますな)
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週日曜日と火曜日、金曜日を目安に頑張っています。
有馬沙那さんの家にやってきて、なんだかんだで魔導具起動までの段取りはできた。
あとはお父さんの意識が戻ったら、すぐに取り掛かるだけなんだけどさ。
「はぁ。有馬さん、この薬を水差しか何かで飲ましてあげて。失った魔力が戻るから」
「あ、ありがとうございます‼︎」
カナン魔導商会で魔力回復薬を購入して、それを有馬さんに手渡す。
代金はそうだな、さっきの物質修復の術式を教えてくれればいいや。
あれがあったらさ、壊れたものなら簡単に治るんだろう?
それで、自動車整備工場をしているのか、なんとなく理解したわ。
「りなちゃんも、そのポーションが欲しいです‼︎」
「え? 唐澤さんも飲みたいの?」
「りなちゃんです‼︎ 飲みたいです‼︎」
「は、はぁ……それじゃあ、どうぞ」
やっべ、迫力負けしたわ。
とりあえず予備に買ったやつもあるから、それを渡すと。
──ペコッ
「ありがとう。獣人の獣魔力は、自然回復に必要な時間が長いから、助かります」
「そ、そうか。それならいいや……と、親父さんも起きたか」
ふと近くのソファーを見ると、有馬父の目が覚めたらしく、頭をふりながらこっちに手を振っている。
「いやぁ、助かったよ。この魔力回復薬は大したものだ、もしも可能なら、少し売ってくれると助かる」
「門外不出ですけど、さっきの物質修復の術式を教えてくれたら、何本かお譲りしますよ」
「それは助かる。ちょっと待っていたまえ‼︎」
有馬父が近くにあるガラクタの山に突っ込んでいくと、少ししてボーリングの玉程度の大きさの黒い物体を持ってきた。
「これは『知識のオーブ』といってな、我が祖先が代々継承してきた錬金術の術式が収められている。魔力分解と魔力構成はわかるかな?」
「いえ、術式がわからないですね」
「では教えよう。そもそも、魔力分解とは‼︎」
「あ、それは後にしましょう。先に、この魔導具の稼働テストを行いたいですから」
「そうかね。では、始めるとしよう……」
ふう、ようやく本番だよ。
怪しげな魔導具の前に立つと、魔力センサーに手をかざして魔力を込めてほしいと言われた。
それならばと、手をかざすんだけど、祐太郎が周囲を見渡してから、開きっぱなしのシャッターの方角を睨みつけた。
(オトヤン、妖魔反応がふたつ。一つは上級で、もう一つは下級だ。巧妙にカモフラージュしている)
(了解。おそらく、この魔導具があると不味い奴らか、もしくはこれを狙っている奴らというところが。新山さんも気をつけてね)
(了解です‼︎)
まあ、そうくるかとは思っていたよ。
そして、さっきまで魔力回復薬を飲んでいたりなちゃんも、祐太郎と同じようにシャッターを睨みつけている。
さすがは獣人、感知能力が高いわ。
「それじゃあ行きます……うお、結構吸い込みますね」
「それはそうだ。何しろ、この『大衆洗脳音波発生装置』は、半径20kmの人間全てに作用する。依頼人がこれを何に使うかは知らんが、これ一台で二億円の報酬が約束されているからな」
「……え? これ、洗脳装置なの?」
「いかにも。私には、この魔導具の図面も知識もなかったのだが、つい先日、依頼人が設計図と魔晶石を持ってきてな、なるはやでお願いしたいと」
待て待て、その依頼人ってまさかとは思うけどさ。
「あの、依頼人の名前はなんでいいますか?」
「それは明かせない、秘密厳守も依頼に含まれているからな。それよりもどうだ、すでに装置のコアである魔導モーターが稼働しているではないか‼︎」
「うおぁ、これ、このまま起動したら俺たちも洗脳される?」
「まさか。思考誘導のオーブというアイテムをセットしないと洗脳装置は機能しない。今は、魔導具自体の稼働実験だ、そして成功だ、最高だ‼︎」
有馬父が両手を上げて叫ぶ。
それと同時に、祐太郎とりなちゃんがシャッターに向かって走り出した‼︎
二人の向かった先には、影のように実体化を始めた青いマネキンのような妖魔が立っており、パンパンと拍手をしていた。
「よくぞ完成させましたね。これでマスター・オザワに渡すものが完成しましたか。では、それは頂きます。お代は、この場の皆さんの命ということで」
「ブライガァァァァア‼︎」
「りなちゃん、いきます‼︎」
──シュゥゥゥゥ
祐太郎は魔導闘衣に身を包み、両手にブライガーの籠手を装備した。
そしてりなちゃんはいきなり獣人化すると、青い妖魔に向かって、いきなり『鉄山靠』を叩き込んでいるよ。
「おっと、たかが獣人如きが、この私の物理障壁を突破フバシュ‼︎」
「そんなの知らない、悪い妖魔はすり潰す‼︎」
──ガッゴォォォォン‼︎
まるで金属がぶつかったかのような音が響くと、青いマネキン型妖魔が後方に吹っ飛んだ。
「ちっ。なぜ、どうしてあなたの攻撃が私に通用するのですか? どうして私が実体化する前に、あなたたちは私を認識していたのですか?」
「臭い。あなたからは、悪い妖魔の臭い匂いがする。具体的には、ドリアンの24倍」
「……死ね、小娘がぁ‼︎」
「お前がな……」
あ〜、臭いっていわれて、妖魔が激昂したよ。
でも、時遅し。
すでに、あんたの間合いには祐太郎がいるんだよ。
「機甲拳、裏一の型『振動衝撃拳』っっ」
ほほう、話には聞いていた『裏の型』ですか。
本来の機甲拳は拳による攻撃らしいけど、『裏の型』は足技なんだってさ。
技が決める瞬間に、右足に『強化装甲』が展開するのか。
そして祐太郎の闘気の乗った素早い回し蹴りで、青マネキン妖魔が吹き飛び、全身にヒビが入って砕け散った。
「やばいのが一つ、あれはダメ、ボマー」
叫びながら、りなちゃんが新山さんの方角に向かう。
そして新山さんの前でくるりと向きを変えると、大きく口を開いて咆哮した‼︎
「実体化の咆哮撃っ、うぉりゃァァァァァ‼︎」
──ビィィィィン
大気が振動すると同時に、今まで何も見えなかった下級妖魔が突然実体化し、地面に落ちた。
え? それなに? どういう技なの?
「おおっと、りなちゃん、それ止めさせるか?」
「もーまんたい。えい‼︎」
──グシャッ
獣魔力を纏った肉球パンチ。
それで妖魔は核まで破壊されて消滅した。
「おおお、リナ坊の強さは知っていたが、君もなかなか凄いな。どうだね? うちでバイトしないか?」
「いや、バイトとか仕事なら、第六課から回してもらっているから大丈夫です」
うん。
断るよな。
「しかし、マスターオザワって、人魔の小澤さんだよな、野党の。どうしたものか」
「待て待て、ということはあれか? わしは、魔導具の作り損ということになるのか?」
「そんな感じです。申し訳ないですが、その魔導具は壊していいですか? 有馬さんにその魔導具の製作依頼をしたのは、現野党第一党の小澤っていう人魔ですね」
「これから始まる解散総選挙で、それを使って票を集める気だったのでしょう」
新山さんナイス補足。
すると、有馬父は!その場に座り込んでしまった。
「な、なんという恐ろしいものを、私は作ってしまったのだ……」
「いや、色々と突っ込みたいんだけど、最初から大規模洗脳装置だっていわれていたんだよな?」
「ああ。この世界の猫嫌いな人たちを、猫好きにするといわれたのだよ。その説明のどこに、疑う余地があるというのだね?」
「「「ありすぎるわ(ますよ)‼︎」」」
総ツッコミ。
娘さんである沙那さんでさえ、新山さんの後ろでウワァっていう顔になっているし。
「お父さん、人を信用しすぎです‼︎ そんなのだから、いつも騙されるんですよ」
「人を騙すぐらいなら、騙された方がいい。人を傷つけるぐらいなら、自分が傷ついた方がいい。それが私の信条だ」
「うん。それは凄いけどさ、おじさんが作ったもので、大勢の人が騙されることについては?」
「それは、騙した方が悪いし、知らないでそんなものを作った人が悪いに決まっている」
「ダウトぉぉぉぉぉ、おじさんが悪いに確定です」
とはいえ、法的にどうこうできるレベルかというと、難しい案件である。
ここはほら、第六課の出番でしょ?
これだけ大量の魔導具が作れるなら、仕事はなんぼでもあると思うよ?
「新山さん、要先生に連絡よろしく。それでおじさん、この装置って、効果を逆転できる?」
「逆転というと、洗脳を解除するとか?」
「そ。可能? そっちの機械なら、多分だけと知り合いが購入してくれると思うけど。まあ、二億円なんて高額じゃないと思うけどさ」
チラリと祐太郎を見ると、すでにスマホ片手に電話しているわ。
「よし、有馬さん、洗脳解除装置ができたら、うちの親父が一千万で買い取るってさ。改造可能ですか?」
「な、なんだと? 一千万だな? よし、10分時間をくれ、それだけあれば理論など簡単に成立できるわ」
そう叫びながら、近くのホワイトボードに様々な術式を書き始めた。
いや、どれもこれも俺の知らない術式だよなぁ。
天啓眼で解読しつつ、魔導書に書き込んでおこう。
「ふむ、こんな感じか。しかし、これを改造するにはミスリルが足りない。あと12kgのミスリルがな」
──ゴトッ
ミスリルのインゴットは一本4kg。
予備も含めて四本でいいか。
「はい、これがミスリルです。これで問題はないですよね?」
「あとは……そうそう、音波の範囲内の人間を瞬時に診断して、適切な波動を送らなくてはならない」
──コン
次は、新山さんの診断をスキルオーブに施してもらう。
「はい、新山さん、こいつに診断よろしく」
「わかりました。治癒の女神シャルディよ、かのものを診察したまえ……診断」
──キィィィィィン
これでスキルオーブも完成。
それも手渡すと、あちこち分解したり変形させたりと忙しそうである。
だが、ものの三十分ほどで装置は完成した。
「あ、おじさん、ちゃっと解析させてもらっていい?」
「構わんぞ」
「それじゃあ……天啓眼とゴーグルをリンク。鑑定……」
『ピッ。洗脳解除装置に必要な材料と術式を記録しました。記憶水晶球に書き込みますか』
「よろしく」
これで、俺でも量産可能。
そして、第六課の皆さんがやってくるまでは、俺はおじさんからファウストの残した古代錬金術の術式を全てマスターした。
新山さんは沙那さんと話をしている最中だし、祐太郎はリナちゃんと手合わせをしている。
うん、これはいい感じに見える。
「有馬さん、そして唐澤さん。二人を魔導研究部に招待します」
「りなちゃん、です‼︎」
「あうあう……りなちゃん、うちの部活に入ってくれるかな?」
「いいとも〜‼︎」
そういうノリの子なのですね、なんとなく理解できましたよ。
そして妙に祐太郎に懐いているのが不思議でたまらん。奴の『女殺し』スキルは、獣人にも作用するのか。
「私も、よろしいのですか?」
「まあ、判定は赤だったけど、そのうちなんとかなるでしょうからね。それとも、うちに入部はお断りですか?」
「……では、よろしくお願いします。その前に、私は、皆さんに謝らなくてはなりませんね」
ん?
まだ何か隠し事でもあったのですか?
そう告げると、有馬さんは、右腕をめくって腕を出した。
「カバーオフ……」
──シュッ
なにかのコマンドを唱えたと思ったら、有馬さんの腕が、まるで作り物の人形のような無機質に変化した。
「え? 義手なのですか? それなら、私が肉体再生で作り替えますよ?」
「そうではないのです。私自身が、作り物なのです」
「「「なんだって(ですって?)」」」
一同、呆然。
そりゃそうだよ、まさか有馬沙那さん自身が、作り物の存在だなんて信じられないわ。
「なんじゃ、沙那、彼らには正体をバラして良かったのか?」
「ええ。私はヨハン・ゲオルグ・ファウストによって作られた人形です。現在はバージョンがアップしていますので、自動人形と呼ばれます」
「……おおぅ、ユータロ、どないする?」
「いや、どうりで俺の女殺しも効果無効って判定が出るはずだフベシッ‼︎」
──スパァァァァァン
「なにか? ユータロはまた女性をつまみ食いしているのかぁ?」
「ちっがうから‼︎ 女殺しのスキルがバージョンアップして、女性に対する心眼って言う効果があるんだよ。オトヤンの天啓眼の女性のみ下位互換、そういえば理解できるか?」
「なるほど、理解だ」
そうか。
それならまぁ、ヨシとしておくか。
「話、続けていいですか?」
「「どうぞどうぞ」」
「まあ、私がオートマタとしてファウスト家に伝えられていたのは真実です。それがまぁ、巡り巡って有馬家に辿り着いたのが1700年。以後、ずっと大切に保管されていました」
そして現在の有馬家が、倉の中で眠っていた沙那を再起動したということらしい。
あとは、ファウストが残した記憶と知識を有馬父が受け継ぎ、魔導錬金術師となって今に至る。
彼女の戸籍は、幼くして亡くなった有馬父の娘のものであり、沙那という名前も娘さんからとったらしい。
そして恐ろしいことに、沙那さんは幼少期からのボディがいくつもあったという事実。
毎年、少しずつボディを新調して、いかにも人間のように成長させていたというから、驚きである。
「りなちゃんとは、幼馴染なんです。幼稚園が一緒でして、入園式の日に、いきなり正体がバレたのです」
「そのあとは、ずーっと一緒だよ。りなちゃんとシャナちゃんはお友達だからね」
「と言うことなのです。あと、せっかく入部を認めてもらいましたけど、家業を手伝う関係から、幽霊部員化する可能性の方が高いのですが」
「りなちゃんも、有馬おじさんの手伝いするから、たまにしか出られないけどいいですか?」
「もちろん大歓迎さ。そっか、そりゃあ魔力感知球が反応しないし、俺の天啓眼でも鑑定できないわ」
謎が全て解けた。
そして新入部員に獣人とオートマタが増えて……凄いわ。
──キィィィィッ
お、そんな話をしていると、ちょうど要先生も到着した。あとは要先生に説明して、今日は帰ろうそうしよう。
「それじゃあ、また明日‼︎」
「はい、また明日です」
「さようならぁ〜」
獣人って、みんなあんなに元気なのか?
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




