第百三十八話・一寸丹心? 掃き溜めに鶴(ようこそマッドサイエンティストの世界へ)
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週日曜日と火曜日、金曜日を目安に頑張っています。
日本国・衆議院は、ついに解散総選挙に突入。
まあ、四十日後に投票なので、それまでに、こちらとしてもできることをするしかない。
そして、俺たちにできることは、この野党の動きに対して、妖魔絡みの動きがあったら叩き潰すだけなんだけど。
「俺たち、北海道なんだよなぁ」
「ん? 登校していきなりどうした? 旅行でも行きたいのか?」
「ユータロ、旅行なら八月に聖地巡礼にいくから、今はいいわ。それよりも、解散総選挙のことだよ?」
「そっちの話か。昨日は親父は帰ってこなかったからなぁ。あ、連絡はついたよ、親父は道議員を辞職して衆議院に立候補するらしいから」
おお、親父さんが動いたか‼︎
それは俺たちにとっては助けに舟、少しは風当たりが弱くなる……といいなぁ。
だけど、俺たちができる協力があるはず。
街頭演説の場所で、思考誘導や洗脳といった妖魔能力を使う者がいないか確認したり、民衆を誘導するような輩の排除とか。
うん、物騒なことさえしなければ、いくらでも手伝えるわ。
現代の魔術師のオススメとか宣伝できたら、それこそ得票数は鰻登り……になるはずないよなぁ。
その程度で上がるのなら、芸能人を宣伝に使っている人たちは持ったら上がるはずだし。
それよりも、報道関係者をどうにかするか。
変な偏向報道をされないようにしないと。
あ、偏向報道は変に決まっている?
それがさぁ、そうでもないんだよ。
「オトヤン〜。そろそろ帰ってこーい」
「今日は、随分と長いですね?」
「え? 俺、何かした?」
「「妄想タイム」」
「うるさいわ。さあさあ、今日も元気に部活に勤しみましょうそうしましょう」
「はい。といっても、今日は保健室からの要請もありませんから、静かに読書タイムです」
──ドン‼︎
新山さんはルーンブレスレットから魔導書を取り出して開く。
祐太郎は窓辺で闘気を纏い、体に循環させている。
それなら俺のやることは?
魔導具作るでしょ‼︎
いつやるの? それは今でしょ。
──ガラッ‼︎
「失礼します。一年九組の有馬沙那ですが、お願いがあって参りました」
今は、魔導具、作れません。
タイミングを逃しました、はい。
「おや、君はこの前の……」
祐太郎がそう話しかけてから、俺の方を向く。
これはあれだ、リナさんの正体についての確認だな? よし行け、GOだ。
「獣人の唐澤りなさんのお友達でしたよね? うちの部になんの用事?」
祐太郎がそう告げるとさ、有馬さんは目を丸くしたよ。そりゃそうだ、バレると思っていないんだろうな。
「え? なんでりなちゃんのことを知っているのですか? なにか、そういう魔導具をお持ちですか?」
「いや、俺の能力さ….って、今、魔導具っていった?」
俺たちの世界では、特に日本では、マジックアイテムは皆等しく『退魔法具』なんだよ。
それを魔導具って呼んでいる時点で、この子は只者じゃない。
「はい。こちらの部活の方でしたらご存知かと思いますが。私の実家は、魔導具を作っているメーカーです。あ、国家公認ではないですよ、数年前からお父さんが覚醒して……って、こんな話は理解できないですよね?」
「はい新山さん、彼女をテーブルへ。俺は遮音結界張るから‼︎」
「それじゃあ、お茶当番の俺はコーヒーでも……」
──パチン‼︎
指パッチン一つで全員が行動開始。
まあ、慣れたものだよ、この流れ。
そして部屋の六方全てに結界陣が生み出されて遮音結界が発動すると、有馬さんはまたしても目を丸くしていた。
「す、すごい……見たこともない魔法文字、魔力の流れが均一で……全てがちゃんとリンクして一つの結界を生み出しているなんて」
「それをひと目みて、そこまでわかる貴方はなにもの?」
「はいはい、それよりもまずはコーヒー。喉を潤して、リラックスして話を始めようか?」
あ、祐太郎が『女殺し』スキルを発動したな。
これで口が軽くならない女性は……まあ、いるけどさ、かなり強力だよ?
「はい、ありがとうございます……」
「それで、お願いってなんでしょうか。私たちにできる範囲で、無理のないレベルでしたらお願いには乗りますよ」
「……実は、つい先日ですが、父の元に来客がありまして……」
淡々と話をする有馬さん。
かいつまんで説明すると、彼女のお父さんは魔導系マッドサイエンティスト、先祖が遺した『知識のオーブ』と『記憶のオーブ』という伝承系魔導具で、遠いご先祖の残した魔導技術を受け継いだらしい。
そこまでは、まあいい。
話によると、そのご先祖さまがとんでもない魔力の持ち主だったらしく、せっかく残してくれた魔導具技術を、彼女のお父さんはほとんど使えないらしい。
それで、俺たちに、魔力制御のレクチャーをお願いしたいということ。
「無理は承知で……お願いします」
「ん〜、とりあえず、これの出番か」
──ゴン
空間収納から、取り出しましたる嘘発見水晶。
「これは?」
「何も聞かないで、この上に手を乗せて。それで、俺の質問に答えてくれたらいいから」
「はい」
水晶の上に、素直に手を乗せる有馬さん。
さて、それじゃあ質問しますか。
「今、君が説明してくれたことには、嘘や隠し事はないよね?」
「はい、ありません」
──キィィィィィン
反応は、赤。
うん、嘘か隠し事はあると。
「ええっと、有馬さん、この水晶球は嘘発見水晶っていってね、乙葉くんの質問に対して嘘をつくと、赤く光るの。なにかあるの?」
「え……」
サーッと血の気が引いているね。
そして祐太郎もアップを始めた。
前から、この子については危険な反応があったんだよ。
それは今でも、彼女を天啓眼で確認してもあちこちのステータスにマスクがかけられているから、つまりはギルティ。
「さて、どのあたりが嘘なのか? 教えてくれるかな? 俺たちはさ、本気で困っているんなら協力するけど、そこに嘘が紛れていたり、俺たちをうまく利用しようという相手には協力しない」
「そもそも……いや、それはいいか。オトヤン、あとは任せる」
「はぁ。なんだかユータロの歯切れが悪いなぁ。それはいいか、それで、何を隠しているの?」
「も、申し訳ありません。全てお話しします」
はい。
ここからが本番。
さっきの話で嘘だったのは、お父さんが魔導具技術を使えないっていうくだり。
実は、そこそこには使えるらしいけど、大きな仕事が入ったらしく、それを制御するために必要な消費魔力をお父さん一人では供給できないらしい。
それと、今までにお父さんが作った魔導具も、同じ理由で、その大半が使えないということも。
「……なるほどなぁ。それなら、唐澤さんにお願いしたら解決したんじゃね?」
「りなちゃんの場合、保有魔力は純粋な魔力ではないのです。獣人は『複合魔力』と呼ばれるタイプでして、魔力と闘気が混ざり合っています」
「へぇ〜。初めて聞いたわ」
「そんなのもあるのですね」
祐太郎も新山さんも驚きの表情。
だって、俺にも違いがわからないからね。
ステータスを見ても、『魔力』と『闘気』の値がどちらも同じだったんだよ。
つまりは、どちらも使える魔力素ってことなのか。
「それで、魔導具の起動や継続稼働に必要な魔力は、限りなく純粋な魔力が必要なのです。りなちゃんの魔力で動かせた魔導具もありますけど、転換効率は1/10になりますから、必要魔力が大きいと無理なんです」
「そして、俺たちに依頼したということか。なにかの魔導具を起動するために必要な魔力が欲しいと」
「はい、お願いできますか?」
う〜ん。
ここまでの話では、特に嘘発見水晶も反応していない。
つまりは真実。
「なぁ、その動かしたい魔導具って、なんだ?」
「二つあります。一つは、この前、依頼を受けて使ったものらしいです。私は、その用途や仕様については聞いていませんのでわかりません」
「もう一つは?」
「あ、あのですね……笑わないでくださいね……実は、全高五メートルの人型魔導機動兵器です」
「「来たァァァァァ‼︎」」
思わず、俺も祐太郎も両拳を握りしめたよ。
高々と掲げて叫んだよ。
そうだよ、カナン魔導商会には存在しなかったよ。
結構前に見た時には、『機動戦艦』なんていうとんでも兵器が売っていたけどさ、あ、それは今でも在庫があるよ? あんなものが売れるかって。
そこに搭載しているものに、人型機動兵器はあったんだよ。
けど、バラ売りしていないらしいから、諦めていたんだよね。
「オトヤン、ここまで聞いて、手伝わないということはないよな?」
「ないなぁ。今回だけは、協力させてもらいます」
祐太郎と俺は即決。
すると新山さんが、ため息一つ。
「はぁ。わかりました、私も同行します。二人の様子を見ていると、放っておいたら、とんでも無いことになりそうですから」
「……否定できないなぁ」
「手加減はする。保障はできないがな」
さぁ、そうと決まれば今日の部活はおしまい。
顧問の先生に報告して、いざ、出陣‼︎
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
有馬さんの家があるのは白石区、大谷地。
地下鉄駅からさらにバスに乗り継いで移動するらしいから、有馬さんは新山さんの魔法の絨毯に、俺と祐太郎は自家用魔法の箒で移動。
まあ、道中、大勢の人に写真を撮られたり動画を撮られたような気はしたけど。
今度、プライバシー保護用魔法でも開発して、魔法の箒や絨毯に付与したいところである。
そんなこんなで、郊外に近い場所にある有馬さんの自宅に到着。
………
……
…
「自宅というか、工場だよね?」
「スクラップ処理場? いや、綺麗な車も結構あるよな? 看板も『有馬自動車整備工場』って書いてあるし」
「……」
「ま、まあ、とりあえずこちらへどうぞ。お父さんに紹介しますから」
慌てて体裁を取り繕う有馬さん。
その後ろを、俺たちは興味津々でついていった。
そして二階建ての家の隣にある、巨大な整備工場に入ると、俺と祐太郎は呆然としたよ。
ほら、よくロボットアニメとか漫画であるでしょ?
巨大ロボっとの格納庫。
ハンガーと呼ばれる台座に乗せられ、がっちりと固定されている全高5mの人型ロボット。
その近くでは、白髪の男性が、青いツナギ姿にゴーグルをつけてなにやら作業していた。
「ファイヤー‼︎」
「ジャストミート‼︎」
いかんいかん、思わず俺も祐太郎も叫んじまったよ。親父世代のネタなんて、誰がわかるんだかなぁ。
「お父さん‼︎ 友達を連れてきたよ‼︎」
──シーン
あ、このお父さんはやばいタイプだ、研究に没頭すると周りが見えないタイプだ。
俺も気をつけよっと。
そして有馬さんがツカツカとお父さんに近寄ると、耳を引っ張って大声で叫んだ‼︎
「お、と、う、さ、ん‼︎ 友達を連れてきたわよ‼︎」
「なに? 友達? リナ坊ならさっきからハンガーの上で作業しているぞ?」
「違うわよ、昨日も話したでしょ? 現代の魔術師、乙葉くんを連れてきたわよ‼︎」
そう叫ぶと、突然、お父さんがガバッと立ち上がって俺たちを見た。
そして近くに置いてあった、ラッパみたいな道具を手に、近寄ってくるではないですか。
「初めまして、有馬沙那の父をしている有馬祈念です。早速で悪いが、君たちの魔力測定をさせてもらう。これを手にして、そう、そこから力一杯息を噴き出してくれ……大丈夫だ、音は出ない。それは呼気に含まれている含有魔力を測定するものだ、結果は向こうのモニターに出るから心配するな。よし、次は君だ、なぁに心配するな、私は間接キスなど気にしない。男同士だから問題はないだろう。君は女子だね、よしよし、流石に間接キスはまずいだろうから少し待ちたまえ……」
え?
俺と祐太郎、いつのまにか検査されたぞ?
っていうか、反論とかツッコミする暇もないんだけど。
なに、あの和製エメット・ブラウン博士みたいな人は。彼が有馬さんのお父さんなの?
横で祐太郎も呆然としているよ。
「あの、俺は、有馬さんに頼まれて」
「待ちたまえ、最後に彼女の魔力も測定する。なあに心配は無用だ、こっちの装置は女性用で、使用のたびにちゃんと消毒はしてある。では早速頼む……よし、これで三人分のデータは揃ったな、少し待ちたまえ、あちらにある測定器は、一人分の魔力を測定するのに大体二時間ほどかかる。話はそれからでも問題はあるまい」
「「「大ありです(だ、だわ!)」」」
三人同時のツッコミ。
これには有馬父も茫然とした。
「何が問題?」
「俺たちは、あなたの娘さんに頼まれて、動かしたい魔導具を起動させにきただけです」
「なるほどな。沙那、彼らを紹介してくれるか?」
ようやくかよ。
さすがに疲れてきたわ。
そして有馬さんが俺たちを紹介してくれると、有馬父は膝から崩れて天を仰いだ。
「なんということだ。現代の魔術師が、私の助手をしてくれるとは……これも天啓か」
「あ〜、助手違いますから。それで、起動したい魔導具ってどれですか?」
もうね、面倒くさいから本題に入るよ。
「これが、問題の魔導具だよ。りなちゃんでも、これは無理だったよ?」
お、唐澤さんがアタッシュケースを持ってきた。
その中に魔導具が入っているのか。
「こんばんは、りなさん」
「りなちゃん、です‼︎」
「おおう、これは申し訳ない。りなちゃん、ありがとう」
「私は新山です。りなちゃんのお噂は、かねがね聞いています」
「はい‼︎ 北広島西高等学校、一年九組唐澤りなです」
「しっかし、元気がいいなぁ。獣人って、みんなこうなのか?」
「チャンドラ師匠とか、ゲンサイのおっさんもテンション上がるとこんな感じだよなぁ」
──ゴン‼︎
そう話していると、りなちゃんがアタッシュケースを落とした。
「なんで、りなちゃんの正体を知っているのですか? あなたも獣人?」
「違うから。俺……訂正、祐太郎と新山さんは人間だから」
「あなたは獣人?」
「いや、人間…だと思うが。それよりも、その、アタッシュケース、落としたけど?」
そう突っ込むと、りなちゃんは慌ててアタッシュケースを拾い上げると、何事もなかったかのように俺に手渡した。
「はい、お願いします」
「いやいや、中身を確認しなくていいのか?」
「確認お願いします」
まじか。
近くの机まで移動してアタッシュケースを開くと、奇妙奇天烈な機械が入っていたよ。
あちこちの部品が外れたりしていたけどさ。
「ふむ、この程度は損傷とはいえないな。ちょっと待ちたまえ、『万物や、かのものの記憶をたどり、元のあるべき姿へ帰りたまえ……物質修復』」
「「「え?」」」
──キィィィィィン
有馬父が詠唱を開始したかと思うと、右手を壊れた機械にかざした。
すると、機械部品とかカケラが発光して、元の機械に吸い込まれていった。
「ふむ。これでいいかな?」
「い、いやいや、今の魔法はなんですか? それ、俺も知らないんですが?」
「何って、物質修復だ。古くは我が偉大なるご先祖、錬金術師の祖であるファウスト伯爵が生み出した、異世界の禁忌。それを私が継承して、この通りだよ。まあ、この魔法には膨大な魔力が必要なため、私も日に何度も使うことはできないのだが、私が自ら作り出したこの装置程度であれば、このようにすぐに修復が可能である」
うん。
超高速な早口と、有無を言わせない迫力があるわぁ。
そして、話終わった途端に、有馬父は気絶したよ。
天啓眼で鑑定したら、魔力欠乏症だってさ。
やれやれ。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
・今回のわかりやすすぎるネタ
バック・トゥ・○・フューチャー




