第百三十六話・嘯風弄月、魚心あれば水心(面倒方が増えましたが、俺が一番面倒臭いそうです)
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週日曜日と火曜日、金曜日を目安に頑張っています。
俺たちの世界と、鏡合わせにある世界。
それが鏡刻界。
そして、向こうの世界から見た、俺たちの世界。
それが、裏地球。
お互いに自分たちの世界が表だと言いたいところだけど、向こうの世界の住人は、俺たちの世界である裏地球が、当たり前に存在していると認識している。
けれど、俺たちの世界の住人の大半は、鏡刻界の存在を知らない。
妖魔が住む世界、その程度の認識でさえ、つい最近になって広まったばかりである。
まあ、オカルトマニアたちの間では、すでに鏡刻界についての情報が出回っているらしく、そこにどうやっていったらいいのか、その話題で日々、論争が繰り広げられていた。
………
……
…
永田町、国会議事堂。
今日も今日とて衆議院の法律・条約等の審議。
すでに予算案についての審議は終わり、対妖魔関連予算の増加に伴う、各予算案の調整なども全会一致で可決した。
そして始まった法律の審議では、またしても国憲民進党をはじめとする野党が与党の糾弾を開始していた。
「アメリゴのアリゾナ州で、異世界へとつながる門が開かれたという件ですが。日本国内ではなく、何故、アメリゴで開いたのか。どうして日本国ではなく、他国の異世界進出に、我が国の魔術師が加担したのか? これは全て、現行の法律では魔術師に自由を許しすぎるからではないですか?」
燐訪議員が、派手なマイクパフォーマンスありありで、与党に質問をする。
だが、与党もその程度は想定済み。
予定にない質問であるにもかかわらず、しっかりと情報は抑えてある。
「異世界への道についてですが、彼らが人道的立場において、異邦人であるエルフを帰還させるために行っただけであります。結果として、異世界への門を開いたことは事実でありますが、彼ら以外には開くことができません」
「それは詭弁です。事実、彼らが門を開いたとき、アメリゴの対妖魔機関であるヘキサグラムの研究員たちは、データの収集を行なっていたのですよ? その時のデータなどはアメリゴ政府にも渡ったと思われます。それを解析できたなら、我が国よりも先に、アメリゴが、異世界の恩恵を受けることになりませんか?」
今日の燐訪は強気である。
すでに、各方面に対しての根回しは終わらせてあり、あとは、いかにして与党を解散総選挙まで追い込むことができるか。
もしも、解散総選挙にでもできれば、あとは妖魔能力と陣内、そして小澤の能力があるため、政権を取ることは可能である。
「さあ、なにか返答はないのですか?」
「異世界と私たちの世界をつなぐ転移門ですが、現行では現代の魔術師の持つ鍵でなくては開けることができず、且つ、門の解放に必要な魔力は膨大であり、我々、普通の人間では開けることはできないそうです」
手元にある資料。
それを読み上げつつ、天羽総理大臣が声高らかに説明した。
「そ、それを証明することができますか?」
「現代の魔術師、乙葉浩介本人から聞き取った情報ですが? 彼は、しっかりと私の質問に答えてくれましたよ。その上でですね、『異世界を、自分たちの身勝手に侵略することがあるなら、俺が相手をしてやる』とも」
──バン‼︎
壇上で両手を叩きつける燐訪。
「そ、そんなこと、今の論議には関係ないのではないですか? 私たちは、彼らを野放しにしている貴方たちのやり方に問題があるのではないかと言っているのです」
「ないですな。今の妖魔等関連法案で、全て事足りていると思います。あえて足りないというのであれば、かつて、我が国にも存在していた対妖魔機関『陰陽府』でしょう。その『陰陽府』の再建についての論議を行うことを、ここで宣言させてもらいます」
満場、割れんばかりの拍手。
これには燐訪も真っ赤な顔で壇上を降りると、席に戻って沈黙を保った。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「おおう……俺の名前、出すなって言ったのにぃぃぃぃぃぃ」
「昨日の昼に、質問会していたやつか。確か、天羽総理大臣自ら、オトヤンの家に質問しに来てたんだよな?」
「ああ。本当なら受ける必要なかったんだけどさ、ユータロのおじさんがどうしても頼むって……」
「マジか、すまん」
「いや、今後の俺たちの処遇にも関わるからって。でも、本当に野党がしつこいわ。俺たちは、国のために何かしようって気はないんだがなぁ」
のんびりとした放課後。
いつものように入部希望者の適性検査を終わらせてから、俺は魔導書を開いて術式を調べているところである。
祐太郎も闘気修練を終えて、のんびりとティータイム、新山さんは保健室で出張治療のお手伝いである。
「まあ、今のところ、新入部員の入る様子もないから、五名でのんびりとしますか」
「そうだなぁ。平和が一番だよ」
──コンコン
はい、変なフラグ立てました、祐太郎が。
このパターンのノックって、とんでもないことが多いんだよ。
「どうぞー」
「失礼します。魔術研究部の入部テストを受けたいのですが」
「ですが〜」
ふむ、新入生のようで。
美少女二人が部室に入ってきました。
どこかオリエンタルな雰囲気の和風美少女と、一言で言うと『ネコ?』みたいなイメージの、でっかいリボンつけた女の子が、やってきました。
「それじゃあ始めますか。オトヤン、魔力感知球を出してくれるか?」
「ほいパス‼︎」
審査は誰でもできるから、今回は祐太郎に任せて、俺は二人分のお茶を用意しますか。
お茶請けは、櫻屋のバウムクーヘン。
これが美味しいんだよ、わざわざ東京まで買いに行ってきた甲斐があるよ。
そしてお茶を淹れた時、ふと、祐太郎が頭を捻っているのに気がついた。
「ん? ユータロ、何かあったか?」
「いや、おかしな結果が出てなぁ。オトヤン、ちょいと見てくれるか?」
「どれどれ……」
二人の前に座って、魔力感知球を確認。
特に問題がないので、まずは和風美少女さん。
「それじゃあ、ここに手をかざしてください」
「はぁ……さっきも赤かったのですけど」
──キィィィィィン
はい、赤です。
綺麗な赤、魔力は29と低くない。
ついでに天啓眼でステータスを確認するけど、特に問題はないよ、普通の人よりも保有魔力とMPが高い程度だけど、誤差だよなぁ。
それよりも、この子、何者?
あちこちのステータスが『確認不能、マスクされています』って表示が出るんだけど。
種族は人間らしいけど、これもカモフラージュの可能性あるよなぁ。
「うーん。ギリギリ赤判定か。あと少しで黄色、入部資格ありなんだけどね。お次は君だね?」
「私は、リナちゃんは、お友だちのお付き合いです‼︎」
うわぉ、めっちゃ元気な子だこと。
そう話しながら魔力感知球に手を翳してくれるんだけど、いきなり白く輝いているんだよ。
「はぁ? 魔力値125? 白判定だと?」
「な、俺が頭ひねる理由わかるだろ?」
わかるも何も、十分に入部可能レベルだよ。
ついでに天啓眼で鑑定したら、こっちの子については、とんでもない事実がズラズラと表示されていたよ。
落ち着け俺。
まだ焦る時じゃない。
「ええっとですね、君はギリギリアウトなのでごめんなさい。でも、君はクリアラインなので、入部ということでいいのかな?」
「リナちゃんは、シャナちゃんの付き合いです、入部しません。でも、二人合わせて二で割ったら、二人とも合格ですか?」
ええっと、君が何をいっているのか、良くわからないんだけど。
確かに二人の魔力値を足して2で割ったら、二人とも合格だよな。
そうか、それならって、騙されるかぁ‼︎
危ない危ない。
「って、騙されるかぁ。そちらのシャナさんは不合格で、リナさんは合格なのですが、リナさんは付き添いだから入りたくなくて、シャナさんを入れてくれるなら入るっていうこと?」
「違います‼︎ リナさんじゃなくて、リナちゃんです‼︎」
「そこなの? 違うのそこなの?」
やばい。
この子のノリは、自称勇者の広瀬よりも面倒くさい。ということで、ユータロにパス。あかん、俺、この子が苦手だわ。
「はい、ユータロ、任せるわ」
「了解。それでどうしますか? シャナさんは不合格ですし、リナさんは合格です。かといって、二人合わせて、平均値で算出して二人とも合格とはできませんが」
「ごめんなさい。リナちゃんは、いつもこんな感じですので。でも、私が不合格なのは理解しました、ありがとうございました」
「ございました‼︎」
二人とも丁寧に頭を下げて、部室から出ていく。
「はぁ。遮音結界発動……」
──キィィィィィン
二人が部室から出て行ったことを確認してから、俺は部室内に『遮音結界』を発動した。
「ん? どうしたオトヤン? 何かあったのか?」
「何かあった。あのリナちゃん、獣人だわ」
そう、俺は見たんだよ。
二人の魔力値を確認するときに、リナちゃんの種族名を。
『ピッ……唐澤りな。獣人種・山猫属……』ってね。
しかも、体力ステータスは150オーバ、山猫体術とか、獣化とか、知らないスキルが大量に並んでいたわ。
「はぁ。ついに獣人の新入生も現れたか。しかし、なかなかあの子の相手は手強いぞ?」
「本人は魔術研究部に入る気がなかったようだし、別に強要する必要もないよなぁ。問題は要先生に報告するかどうかだよなぁ。どうするユータロ」
「する必要は?」
「ない、そして本題。シャナさん、何者?」
ステータス表示をマスクできる存在。
しかも、俺の天啓眼を持ってしても、確認不能ってどういうこと?
あの子も神の加護持ち?
「何者って、何かあったのか?」
「俺の目でも鑑定不可能な部分があったわ。万が一を考えて、種族を確認したんだけどさ、人間なんだよなぁ。どうする?」
「どうすると言われても、規則は規則、瀬川先輩の作った規則を変えることはできないだろう? みんなで話し合ったんだからさ」
「ですよねー〜。はい、この話はおしまい」
いきなり現れた獣人と謎美少女の二人組が気になって、今日はまともに活動なんて、できないわ。
しばらくは、カナン魔導商会を開いて新商品がないかのんびりしていたんだけど、やがて新山さんも戻ってきたので、さっきの二人組の情報を共有してみた。
「獣人さん、それと不思議少女ですか。それってチャンドラさんとか、ゲンサイさんみたいな感じですか? もう一人の子は人間なのですよね?」
「それは虎と獅子だね。リナさんは山猫だったけど?」
「リナさんはチュールで釣れそうな感じだよなぁ。不思議ちゃんは対応不可と、俺もオトヤンも結論に達した。それで、今後はどう対処したらいいか考えていたんだけど」
「特に何もないのでしたら、普通に後輩としてみていればよいのでは?」
はい、新山さん、それは正論。
なんだけど、どうにも気になってなぁ。
「そうなんだけどさ、まあ、そうだよなぁ。面倒ごとが起こるまでは、静観でいいか」
「よし、ユータロの意見を採用。俺たちは、あの子の正体なんて知らない、何かあったら対処する、それでいこう」
そう決定すれば、あとは修行モードだよ。
また百道烈士みたいなやつが出てこないように、出てきたらうまく対処するようにね。
…….
.…
…
「ね、ね、あの人たちどうだった?」
「魔術素養の塊よね。さすがは現代の魔術師、もう一人は魔闘家だよ。リナちゃんの正体もバレたと思うよ?」
私、有馬沙那は、幼馴染の唐澤りなと二人で、偵察がてら魔術研究部の入部テストを受けるために訪ねてみました。
結果から説明しますと、私は不合格、りなちゃんは予想通り合格です。
まあ、ここまでは計算通りで、問題はあの人たちをどうやって父の研究室に連れて行くか。
「にゃははは。バレても気にならないよ。私みたいに人間界で、のんびりと過ごしている獣人種は、いくらでもいるんだから。それよりもシャナちゃんは、どうするの?」
「いちおう、お父様には報告しますわ。どうしても、あのお二人の魔力と闘気は欲しいところですわ。我が父、有馬祈念の念願を果たすため。我が家の遠いご先祖、ヨハン・ゲオルグ・ファウストの意思を継ぐために」
思わず、グッ、と拳を握ります。
我が家の先祖は、かのファウストの血を継ぐもの。
家系図を見たこともありますが、本当に隅っこに、そう、遺伝子の1%も受け継がれてあるかどうかの瀬戸際でもありますが、父は、確かにおっしゃいました。
「我が先祖、ファウストの意思を継いで、文献に残された伝承級魔導具を完成させるのだ‼︎」
その嘘とも冗談とも言える言葉を、誰が信じると思うのですか?
ですが、父がそう宣言して魔導具開発を開始してから、我が家には父が作った魔導具が大量にあります。
ただし、稼働に必要な魔力が足りないため、その魔導具が本物であることなど、誰にも証明できませんでした。
ですが、幼馴染のリナちゃんがうちに遊びにきた時。今までは動かなかった魔導具の幾つかが、突然動いたのです。
これには父も目を疑いましたけど、実際に動かせたのはたった二つ。
残りの魔導具を動かすには、より強力なる魔力が必要なのです。
「うん。シャナちゃんがんばって。りなちゃんも応援するから」
「ありがとう。さぁ、今日のところは帰りましょう」
あまり学校に長居しても仕方ありませんわ。
今日のところは撤退といきましょう。
とりあえずは、父の魔導具を売り払って、生活費を稼がないとなりませんから。
………
……
…
清田区にある、小さな工場。
表向きは民間の自動車整備工場だけど、ここ数年は、シャッターも閉じたまま、車の整備に来る客もいない。
だけど、時折、工場の中から機械の音が聞こえてくる。
工場の責任者であり、社長である有馬祈念は、決して人付き合いの上手い人物ではない。
でも、長年この地に住んでおり、地元でも有名な整備士であるため、近所の人たちも普通に接している。
奥さんと一人娘、家族三人でのんびりと、慎ましく生活しているし、特に問題など起こすようなことはなかった。
「よし、あとはここの部分に魔導ジェネレーターを接続して、相対魔力を全身に均等に流し込むことができれば、これは完成する。あとは……ミスリルと、乗り手となる『計測魔力値12800マギパスカル』を持つ人材を探すだけだ‼︎
まるで、窓の外で雷でも光っていそうな『マッドサイエンティスト』な光景。、 その奥には、静かに巨大ハンガーに佇む、全高5mの巨大人型ロボットの姿があった。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




