第百三十四話・心慌意乱、廬山の真面目???(勇者降臨? うん、病んでるね)
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解せぬ。
何が解せぬってさ、昨日の細川教頭の件だけど、お咎めなしってどういうことだよ?
何も解決しないまま、裏でなにかがあったにも関わらず、なにもわからないまま全ては闇の中なんだよ。
昼休みに校長室に直談判したんだけど、厳重注意のみで処分はなし。札幌市の教育委員会に問い合わせたいぐらいだわ。
まあ、そこは俺みたいな高校生が直談判しても相手してくれるとは思わないけどさ。
つまり、全ては闇の中。
ね? 解せぬでしょ?
「はぁ〜。これは参ったわ。なんだかモヤモヤする感じなう」
「乙葉がモヤモヤするって、大変そうだなぁ」
「そうなんすよ、美馬先輩。それと高遠先輩も、今日はこっちなんすか?」
「ああ。今日は休み。五月の高体連までは気合入れないとなんねーけどさ、今日は新入生の体験入部があるから」
「美馬は、面倒くさいから後輩に押し付けてきた。私は、吹奏楽の大会まで時間あるから大丈夫」
つまり先輩達は、体験入部の相手をしたくないからここでサボっているのですね?
「お茶ならありますよ、今、用意しますね」
「新山ちゃん、悪いなぁ」
「そういえば、今日は築地くんは?」
「ユータロなら、体育館で闘気修練ですね。毎朝恒例の闘気修練参加希望者用の体験会ですよ」
うちの高校の教育方針の一つに、『可能なら部活もしくは委員会に所属する』というのがある。
硬い部活に入るぐらいならと、そういうのが面倒くさい連中は、適当な同好会を作ってのんびりとしているし、帰宅組も普通に存在する。
なお、今年は、俺たちがいるせいで、入試倍率はうなぎのぼりになったらしい。
それで今日は、祐太郎が体育館で闘気修練の体験会を始めているらしい。
運動系の各部では、闘気を身につけて身体能力を向上させたい生徒もいるらしく、わざわざ朝早く闘気修練に参加しているものもいるらしい。
「魔術研究部は、体験入部はないのか?」
「ありますよ。こいつが黄色く輝くなら、体験入部は認めていますよ」
──ゴン
取り出しましたる、魔力感知球。
すると、美馬先輩が手をかざして。
──ブゥン
見事に黄色く光っている。
「う〜ん。確か、俺って去年も黄色かったよな?」
「そうす。美馬先輩は去年も黄色ですよ、才能ありなので魔法覚えます?」
「考えとくよ。お、高遠も黄色じゃないか」
ふと見ると、高遠先輩も黄色く光っている。
去年は点滅していたのに、今年は安定した黄色。
「ふっふっふ、勝利のブイ。私は魔法使いになる。ただし、大学入試が終わってから」
「いいんじゃないっすか。俺たちは、いつでもお待ちしていますよ」
「はい、本日は紅茶です。アールグレイの良いのがあったのですよ」
本日のお茶当番は新山さん。
アールグレイと自分で焼いたクッキーがお茶請けで出てきた。
「いいねぇ。それじゃあ遠慮なく」
「うん、紅茶の淹れ方が上手くなってる。瀬川先輩から習ったの?」
「はい。実はその通りです」
などなどらのんびりとした話をしていたのだが。
──ガラッ‼︎
突然、部室のドアが開いた。
「俺は、今年入学した広瀬豪太だ。今日から、この魔術研究部を取り仕切らせてもらう‼︎ まず手はフベシッ‼︎」
──スパァァァァァン
なんだ、この勘違い野郎は?
いきなり部室に来て取り仕切るだと?
「おい坊主、お前はアホか? うちの部長は新山って、現代の聖女がいるんだぞ?」
「そそ。新山ちゃんがいるから、小僧の出番はない。そもそも、魔力はいくつある?」
美馬先輩と高遠先輩の、執拗なまでの追求が始まったぞ? なんだこれは。
「魔力、そんなの関係ない、俺は勇者だ、魔術師や僧侶は、勇者に従うのがフベシフバシッ‼︎」
──スパパパン‼︎
俺と新山さんの手から、いつのまにかハリセンがなくなっていた。
そして美馬先輩と高遠先輩が、俺たちのハリセンで広瀬とやらをフルボッコ状態。
「厨二病は、中坊時代で終わらせろよ」
「まさか自称・勇者が乱入するとは思わなかった。あなた、妖魔を倒したことがあるの?」
「そんなのまだだ、けどな、俺は、勇者として宣言する、俺の手で世界を妖魔から取りかえフベシッ」
──スパパパン
ん〜。
こりゃまた香ばしい。
「まあまあ先輩たち。それで広瀬くんは、入部希望なのか?」
「俺を取らない理由はない‼︎」
「じゃあ、ここに右手を添えてね……はい、赤信号の、保有魔力は6だね、失格、グッバイ‼︎」
魔力感知球は見事な赤。
うん、面倒くさそうだから退場確定。
だけど、広瀬は立ち上がって、不満そうな顔をしているじゃないか。
「勇者だから魔力なんていらない。闘気、そう、闘気があればいいんだよ」
「君、闘気は4な。めっちゃ普通、人間の平均値のちょい下。まあ、頑張るがよい」
「待った待った、勇者には、それ以外のステータスがあってですね?」
「ないよ、俺、鑑定持ちだからな。はい、退場確定‼︎ 訳のわからないことを言って部の和を乱す輩はいりません」
──ヒョイ
おっと、美馬先輩につまみ出されました。
『嘘だぁぁぉぁ、俺は、この高校に入って世界を助けるための力を身につけるんだぁぉぁぁ』
廊下に響く絶叫。
それでも、また乱入してくる様子はないから、帰ったということで。
──ガラッ……スパァァァァァン
「フベシッ‼︎ お、俺、なにかしたか?」
あ、祐太郎だ。
美馬先輩、それはあんまりです。
「お、築地か。悪い悪い、またあの小僧が来たかと思ったよ」
「まあ、痛くないから構いませんが、小僧?」
「うん、私が説明する、実は……」
高遠先輩が代表として説明してくれると、祐太郎もやれやれという表情になった。
「あ〜、その広瀬とやらな、俺が体育館で闘気修練テストしていたら乱入してきてな、いきなり奥義を授けろとか言い出して……面倒くさい奴だったわ」
「まあ、散々ここで殴られていたから、少しは落ち着くんじゃないか?」
「入部テストはアウトだったからなぁ。そんじゃ、今日も始めますか」
日課の魔力循環。
今日は美馬先輩と高遠先輩も参加しての訓練。
ぶっちゃけると、二人の先輩も、筋は悪くないんだよ。最初にここに来た要先生と同等かそれ以上だから、素質はある。
そして訓練を終えると、先輩たちは迎えにきた後輩に連れられて、それぞれの部室に移動。
俺たちは、のんびりと魔術の訓練を続けることになった。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「勇者か……そりゃまた、面倒くさいやつが出てきたものじゃなぁ」
「浩介から見て、そいつは素質があるのか? どうなんだ?」
魔導体術の練習のため、今日は喫茶・九曜にやってきました。
そして、今日からは新山さんも護身術を学ぶそうで、新しい弟子が来たということでチャンドラ師匠がウキウキウォッチング。
「チャンドラは駄目。コハルは、私が教える」
「は、はい。同性の計都姫さんに師事できるのでしたら、よろしくお願いします」
「え? コハルちゃん、俺は駄目なのか?」
「チャンドラさんは築地くんがいるじゃないですか」
「そうそう。そんじゃ、道場に移動しますか」
祐太郎とチャンドラ、新山さんと計都姫は道場へ。
俺はマスター・羅睺とティータイム。
遊んでいるようだろ? 実はこれも訓練さ。
体の右半分に魔力を、左半分からは属性変換で闘気を循環しているんだよ。
これが平時から、当たり前のようにできるようにするのが、俺の訓練。
近接系戦闘では闘気の方が強いし、中遠距離なら魔法の方が利がある。
それを常に意識しなくても自然に切り替えられるようにするためらしく、常時二つの力を流したまま生活できるようにするためだそうで。
でもさ、少しでも油断すると、全身に魔力が溢れていくんだよ。
「まあ、彼は普通の人間ですよ。本当に普通。自分が勇者だって思い込んでいるだけで、よくある厨二病です」
「そうか。しかし、勇者とはまた懐かしい名前じゃなぁ」
「え? やっぱり鏡刻界には勇者がいたのですか? それって、魔族の敵だったとか?」
「そんなわけあるか。魔族も人間も共存している世界じゃ。まあ、我々の住んでいた大陸と人間が住んでいた大陸は遠かったから……」
それで、勇者って何者なのかって話になったんだけど、『侵略者』というのが存在していたらしく、それと戦うために異世界から召喚したのが勇者らしい。
「その侵略者って何者?」
「ファザー・ダークの『陥し仔』というのが、正確な呼び方じゃな。定期的に現れては、鏡刻界を混乱状態にして陥れるものじゃ」
「へぇ、でもさ、魔族や人間の冒険者でも勝てなかったのか? 魔族にはほら、魔人王がいたんだろう?」
「無理じゃよ。相手は亜神、神の力である神威を伴う存在。いかな我々でも、神威相手には無力としか言いようがない」
「し、神威ねぇ……そうか、そういうことなのか」
あれ?
俺って神威あるよね?
これってさ、もしも今、鏡刻界に『陥し仔』が現れたとしたら、俺が召喚される?
ないよね〜。
あってたまるかコンチクショウ‼︎
「まあ、浩介の元に現れた勇者は真っ赤なニセモノじゃろうから」
「なんでわかるの?」
「勇者召喚の儀式は、フェルディナント聖王国とラナパーナ王国の二国にのみ伝えられていた秘術じゃからなぁ。この裏地球から鏡刻界に召喚するためのものであり、逆はない」
つまりあれか?
勇者召喚はしたけど還す方法はないってお約束か?
聞きたくなかったわぁ、そんな真実。
「つまり、還す呪文はないと?」
「還すのなら、転移門を使えばいいからな。宮廷魔術師レベルなら、昔は使えたものじゃよ」
「はぁ、なるほどねぇ。つまりは、こっちにいる勇者はニセモノと?」
「神威があるかないか。もしも、浩介が神威を持つなら、そいつはニセモノ。一つの時代に、神威を持つ存在は複数存在しないからな」
あ、そうなの?
亜神って、神威を持つものがなるんだよね?
確か魔導神アーカムがそんなこと話していたよなぁ。
「そんじゃ、その勇者はニセモノ確定か。まあ、優しく対応するとしますか、しつこそうだけどさ」
「好きにするがいいさ、さて、話し中にすっかり魔力循環が疎かになっとるようだから、道場で手合わせでもするか」
「え? マジ? あ……」
あまりにも話に熱中し過ぎたよ、全身に綺麗な魔力が循環しているわ。
そのまま道場に連れられて、そりゃあもう、見事な修行となりましたよ。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
翌日も、平和な日々でした。
普通に授業を受けて、友達同士の楽しい語らい、これぞ、高校生活‼︎
と思っていたのは午前中だけで。
「悪霊退治?」
「う、うん。乙葉くんって現代の魔術師だよね? 悪霊退治できるかしら?」
「そうくるかぁ。祐太郎じゃ駄目なの?」
「前にもオトヤンに話したよな? 魔闘家って、相手が実体化していないとキツイんだよ」
「そりゃそうか、まあ、悪霊がどうかは見てみないとわからないんだけど、いつ見にいったらいいんだ?」
俺が引き受けてくれるということで、彼女も大喜びである。
「今日の放課後……駄目?」
「構わんよ。祐太郎も来るんだろう?」
「俺は親父の付き合い。っていうか、ボディガードで出かけないとならないんだよ」
「新山さんは?」
「今日は家族で出かけるのですよ……」
ふむ、これは参ったな。
それじゃあ、瀬川先輩にでもヘルプを頼みますか。
『ピッ……今日は、大学の新歓コンパですわ。楽しそうなお誘いなのに残念です』
うん、大学生活を満喫しておりますか。
そりゃあ仕方ない。
「はぁ、サポートなしの俺一人なんですが、それでもいいですか?」
「うんうん大丈夫。それじゃあ小春、彼氏借りるからね?」
「かっ‼︎ 彼氏ではないの……かな……かも……」
真っ赤な顔の新山さん。
そこは否定でも肯定でもないのがナイスです‼︎
「そうかそうか、乙葉、サポートが必要なら、俺が手伝ってもいいぞ?」
「織田か。いらんわ、それじゃあ放課後に」
「うん、よろしくお願いします」
これで打ち合わせは終わり。
そして放課後、どうせなら一緒に帰ろうかということで、ご用意しました魔法の絨毯。
正門前で魔法の絨毯に乗ってぷかぷかと浮かんでいると、慌てて走ってきた。
「ハアハアハアハア……ごめんなさい、当番で遅くなりました」
「それは別にいいけどさ、確か……綾町舞子さんでいいんだよね? 立花さんのお友達の」
「一年の時は同じクラスだったの忘れたの?」
「忘れていたら、名前すら出てこないわ。って、それで織田、なんで俺の絨毯によじ登ろうとしているんだ?」
ふと見ると、後ろで織田がしがみついている。
なんでお前が乗る気なの?
「今日は、乙葉浩介のサポートだって宣言しただろう? だから俺も乗せろよ、友達だろう?」
「……普通のクラスメイトでしかないわ、ぶっちゃけるとだな、万が一、この案件が妖魔絡みだったらお前邪魔なんだよ、理解できる?」
「妖魔ぐらい、俺が退治してやるわ‼︎ ほら、時間ないんだから、とっとと飛べよ‼︎」
うわぁ、ウゼェ。
とりあえず免許証を確認、この魔法の絨毯も登録してあったよな? よし確認完了。
改めて後ろからぶら下げているナンバープレートを確認して、上昇開始。
──ヒュゥゥゥゥ
「う、うわぁ。小春の絨毯に乗せてもらったこともあるけど、やっぱりすごいね。欲しくなっちゃうわぁ」
「おい乙葉、今日の手伝いの報酬は、これでいいぞ?」
「勝手についてきて何をいうんだか。誰がお前になんかやるものかよ‼︎」
「そうか、それじゃあ仕方ないか」
「あっさり諦めるのかよ‼︎」
「しつこくしたらくれるのか?」
「だからやらねえよ‼︎ ほら、飛ばすからな」
そこから加速開始。
目的地は綾町さんの家のある青葉町。
まあ、十分ぐらいで到着するんだけどね。
さあ、実は初めてのゴーストバスターです、果たしてどうなることか?
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




