第百三十三話・偏袒扼腕、寝耳に水ぶっかけるぞ(堪忍袋の尾の予備が欲しい)
五月に書籍化しますので、もう暫く、お待ちください。
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週日曜日と火曜日、金曜日を目安に頑張っています。
春休みが終わった。
一言で言い表すと、ガッデム。
英語では『ゴッド、ダム』が訛ってガッデム。
神様があんたを呪うぜ、という意味で、つまりは日本語になると『神は、あんたの行為を許すはずがない』となる。
呪いの言葉であり、悔しいので、つまりは。
「悔しいです‼︎」
「なんだなんだオトヤン。いきなりザブングル? 青い石を掘るやつじゃないよな?」
「ちっがうから、春休みが終わって悲しいだけだから。なんで俺がブルーゲイルで涙払わないとならないんだよ」
「そっか。そんじゃあ、とっとと行くか」
ということで、進級して初の登校。
そしで新しいクラス、か〜ら〜のホームルーム。
新しいクラスメイトと顔見知りの祐太郎や新山さん、そして。
「なんで織田も、ここにいるんだよ?」
「はっはっはっ。これも腐れ縁だな、諦めて俺を魔法使いにしろ」
「お前を魔法使いにするくらいなら、近所の猫を使い魔にするわ」
「猫の使い魔か‼︎ いいなぁ、それ……」
相変わらずブレないなぁ。
まあ、それはそれで置いとくとしてだ、新担任との顔合わせ、今年の年間スケジュールの簡単な説明、か〜ら〜の、入学式。
うん、面倒くさいから、俺たちは列の後ろに座らせてもらって、静かにしている予定だったんだけどね。
………
……
…
入学式も厳かに進み、最後の生徒会長の挨拶で終わりを迎える。
だけど、生徒会長が頭を下げて壇上から降りたとき、新教頭が入れ違いにステージに上がって、マイク片手に話を始めた。
「それでは、入学式の最後ですが、我が校が誇る魔法使いの三人に、最後の挨拶を行ってもらいましょう‼︎」
ほらきた。
──ス〜ッ
その瞬間に、俺は『透明化』の魔法を発動。
俺と祐太郎、新山さんの姿を消した。
(まさか、打ち合わせもなく私たちまで巻き込んでくるとは思っていませんでしたよ)
(そうだな、どう見ても、あの教頭の独りよがりというか、独断だよなぁ)
(そんなものに付き合うわけないだろう)
念話で打ち合わせをしてから、俺たちはこっそりと席を立つ。
壇上では、教頭が真っ赤な顔で俺たちを呼びつけているが、知らんがな。
そもそも、あの教頭のやることを、なんで校長は止めないんだよ?
(天啓眼……どや?)
『ピッ……細川源蔵、六十二歳、北海道教育委員会所属、元・防衛省所属。現在は下級妖魔・アングラーバグが憑依中』
あ、なんとなく理解した。
高校の教員免許はあるようだから、本物に違いはないけど、元は防衛省の幹部でもあったと。
どうせ、川端政務官絡みの奴なんだろうから、このことは仲間内で情報共有。
そんでもって、妖魔が憑依していると。
そのアングラーバグってなんだ?
『ピッ……下級妖魔『アングラーバグ』。妖魔蟲に分類されており、人の深層心理に憑依し、負の感情を揺り起こす。一度でも憑依されると、宿主が死ぬまで寄生し続ける『常駐妖魔』である』
あ。
なんであんなに傍若無人なのか理解できたわ。
そっか、元防衛省で妖魔が憑依しているのか。
ダメじゃん‼︎
(お二人さん、緊急事態発生。教頭に妖魔蟲が憑依している)
(え? 蟲タイプ? 私、蟲ダメです、パスです)
(はぁ。そりゃあ参ったな。それじゃあ、あれか? その妖魔蟲を退治したら元に戻るのか?)
(わからん。ちょいと様子を見るしかない)
──ジャンジャカジャジャーン、ジャンジャカ……
すると突然、ステージの緞帳が降りて勇ましい音楽が流れてきた。
これはあれだ‼︎ レッドでツェペリンな人の曲だ、移民の歌だ‼︎
「新入生の皆さん、入学、おめでとうございます」
突然、体育館に生徒会長の声が聞こえて来る。
「昨年、私たちは妖魔という存在を目の当たりにしました。それは、私たちの生活に少しずつ浸透し、一部は共存の道を示し始めています」
「ですが、今年の初頭、妖魔たちは妖魔特区内の転移門を開放するべく、人間に対して反乱を始めました」
「でも、その動乱は、現代の魔術師によって収められ、私たちは平坦な時間を取り戻し始めたのです」
──シュゥゥゥゥ
生徒会長、副会長、そして書記の子が、次々と話を始めていた。
そして体育館中央では、光制御によって作られた『巨人』が姿を表した。
(おおう、上手くやってますなぁ)
(まだデザイン的にはアニメのパクリだけどな)
(あの短時間で、よくここまで‼︎)
驚いたのはそこだけじゃない。
緞帳が上がったとき、そこには綺麗にポージングしている三人の姿があった。
「き、きみたちは何をしているのかね‼︎」
「レディ……ゴー‼︎」
──フワッ‼︎
教頭の問いかけなど無視して、箒片手にステージから飛び降りると、そのまま急上昇する三人。
そして空中で綺麗に乗り換えると、それぞれが怪しい詠唱を始めた。
「楓風吹き荒れよ、風の精霊っ‼︎」
「母なる大地よ、我が元に集え‼︎」
「熱き血潮よ、ヤイバとなれ‼︎」
──ゴゥゥゥゥゥゥ
まあ、詠唱とは関係なく、水の刃が発動したみたいだけどさ。
三人から発せられた水の刃によって、光の巨人は音もなく砕け散った。
「それでは、新入生の皆さん、入学おめでとうございます」
「私たち生徒会は、皆さんが楽しい学生生活を送れるように、精一杯努めますので」
「以上、それではバーイ、サンキュー」
お、そのまま出口から外に逃げましたが。
慌てて教員が追いかけておりますが、すぐさま放送委員が進行を続けた。
「以上で、本年度の入学式を終了します。一同、起立‼︎ 礼‼︎」
──ザッ‼︎
綺麗な挨拶の後で、退場する生徒たち。
そして俺たちも一緒に退場して、途中から実体化したけど。
「……なぁ、オトヤン。先輩たちの魔力回路、開いていたか?」
「いや、保留魔力も25、まあ少し高いかな〜程度。それであれだけのことができるのは、発想と意思力の勝利だよなぁ」
「わ、私ももっと頑張らないと‼︎」
「いや、新山さんは今まで通りで。回復担当だから、戦闘では前に出ないでね?」
「うん‼︎」
うん、といってもね、胸の前で両拳を握っての小さなガッツポーズをされるとさ、俺としては信用しずらいのよ。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
はい、放課後です。
なんだか知らないけど、校長室に呼び出されました、俺だけ。
そして校長室に入った途端、教頭先生がマウントを取りに来たんですが。
「君が乙葉浩介かね。困るよ、急に段取りを変えられたら」
「なんのことですか?」
「入学式だよ、それも最後。あの場面では、私の号令で君達が魔法を披露してもらわないと困るよ、今日は父兄だけではなく、札幌市の教育委員会の方もいらしていたんだよ?」
「あー、そもそも、俺たちは段取りも何も聞いていませんでしたよ? それで、いきなり芸を見せろと言われましてもねぇ」
うん、やっぱりこの教頭はいけすかない。
「それならそれで、アドリブでもなんでもあるじゃないか? あの場で君たちが何もしなかったので、私のメンツは潰れてしまったも同然じゃないか、どうしてくれるのかな?」
「はぁ、あんたは中世の貴族か何かですか? なんでメンツ? あのですね、俺たちは、あんたのメンツを守るためにいるんじゃありませんので」
「なんだと? 君、そんなことを教師である私にいっていいのか?」
「……ここの会話、全て録音してあります。魔法で映像も抑えてあります。そんじゃ、今日の夜にでもネットに公開しますわ、自分の権力のために生徒を使い潰そうとした悪辣教頭ってね」
うん、キレたわ。
現実世界の日本で、こんなアホな教師がいるとは思っていなかったわ。
妖魔に憑依されてこの状態なら、ハリセンで一発かますと戻るかもしれないんだけどさ、これが地だとすると、問題発生。
妖魔を叩き出しても、目に見えなかったらアウトで、いきなり教員に殴りかかったとかいちゃもんつけられるのご目に見えているからなぁ。
そして、校長、なんで黙っているの?
『ピッ……校長は思考誘導を受けています』
──スパァァァァァン‼︎
速攻で校長に駆け寄ると、ハリセン一発。
思考誘導なら、その瞬間に解放されるしバレないのはわかっているからね。
「ハッ‼︎ おや、乙葉くん、今日はなんの用事かな? それに細川教頭まで一緒とは。おお、今は何時だ? 入学式はどうなった?」
「もう終わってますよ。校長先生、実は、細川教頭は『もういい、君は帰りたまえ‼︎』チッ。その細川教頭ですけど、妖魔の力を使えますよ、人を操れますから」
「黙れといっただろうが!このガキが‼︎」
──ブゥン……ゴギッ
あ、申し訳ありません教頭先生、突然のことですので、力の盾で身を守ってしまいました。
「校長先生、今の見ていましたよね? これが教職員として正しいのですか?」
「黙れといっているだろうが、貴様、貴様は退学だ‼︎」
「待ちたまえ細川くん。君こそ何をいっている? 君は下がっていたまえ‼︎」
「……チッ」
うわぉ、舌打ちして出ていったぞ、あの教頭。
一体何者なんだよ?
防衛省が送り込んだ教員? なんのための?
「ああ乙葉くん、私には今一、事情がわからんのだよ。もう一度、最初から説明さてくれるかな?」
「ええ。それじゃあ、話は数日前になりますけど」
そこからは、俺の説明タイム。
あの教頭の指示で、俺たちが新入生の前で魔法を披露させられそうになったこと。
それで生徒会長が俺のもとを訪れたこと、俺たちの代わりにステージでショーを披露してくれることになったこと。
そして当日、いきなり俺たちに何かさせようとしたけど、生徒会長がショーを始めて有耶無耶にしてくれたこと。
そしてさっき、ここに呼び出されたこと。
校長が、思考誘導を受けて、傀儡のようにボーッとしていたこと。
「……この件については、教育委員会に報告する必要があるな。わかった、ありがとう」
「いえいえ、別に構いませんよ。魔法使いになって騒がしくなった俺たちを放校せずに、普通の学生として通わせてくれているのですから」
「我が校に入学した以上は、君たちは私の生徒だ。身分や能力によって差別することはないから、安心したまえ」
うう、いい先生ですなぁ。
さっきの教頭とは、大違いだよ。
それじゃあ、俺は部活に戻りますと校長室を後にして、一路、魔術研究部へ。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「話は終わったよー。実は、カクカクシカジカで、あの教頭は要注意なう」
一通りの説明。
さすがに校長が思考誘導されていた事までは計算外。それって、あの陣内が関係しているよね?
魔導具でそんなのがあるのかもしれないけど、それよりも使えるやつがいるのだから、そこから疑ってもいいよね?
「ふぅ。こりゃあ、俺たちは目をつけられたよな。校内活動についての態度に難ありとか適当な理由つけられてさ」
「でも、私たちは間違っていません。生徒の自主性を損なうような指導をする教員に問題がありますよ」
「そうなんだけどさ。はぁ〜、要先生にでも相談するかなぁ。俺たちじゃ対応不可だよ」
これが妖魔相手なら、力ずくが可能だけど相手は普通の人間。
まあ、妖魔が憑依している時点で、普通じゃないといえばそうなんだけど。
つまり、一介の高校生にはこの問題は大きすぎるってわけ。
それよりもさ、もっと大きな問題が目の前にあるんだよ。
………
……
…
場所は、魔術研究部の部室の隣にある書道教室。
うちの高校はね、書道にも力が入っているのだよ。
なんといっても、夏休みに書道部が貸切バスで洞爺湖まで移動して合宿した実績があるからね。
まあ、俺たちには関係ないんだけど、今日は顧問の先生にお願いして、書道教室を借りました。
何故って?
そりゃあ、新入生の入部希望者の選抜をおこなうためだから。
──ピッ
「はい、赤信号。また来年の選抜をお待ちしています」
「貴方も赤ですね。残念ですが、今回は見送りということで」
「赤なんだよなぁ。最低でも黄色以上が条件でね、悪いが諦めてくれ」
とまあ、本日の希望者は八十六人。
流れ作業でチェックして、クリアしたのはゼロ。
それでもなんとか入りたくて、文句を言う人もいたけどさ。
そんなの知らんがな。
条件をクリアできなかったから、入れませんでした、それでいいじゃない。
陸上部とかは、もっと厳しいよ?
魔術研究部に入って学びたかったという人もいるけどさ、まだ、俺たちじゃそこまで手が回らないんだよ。
「まあ、たった一度の検査で納得できないかとは思いますから、その方はこちらのパンフレットをどうぞ。日本国内閣府国家公安委員会第六課発行の、『魔法を学ぶために』というテキストです」
これは、忍冬師範が用意してくれた資料。
俺たちの元に魔法を学ぼうとするものが殺到した時のために用意してくれたもので、要先生と井川巡査部長が共同で作った『魔法練習用テキスト』。
実は、これには祐太郎と新山さんも協力していてね、最後の確認は俺がした『本物の練習用テキスト』なのだよ。
俺たちが普段やっている練習だから、間違いなし。
これを受け取って、諦めて帰る奴もいれば、半年後にもう一度検査を受けさせてほしいっていう猛者もいる。
いつでも来たまえ、条件さえ合えば、俺たちは拒むことはない。
………
……
…
「あ、ここが魔術研究部の入部試験の部屋かぁ……魔力感知球を使っているんだ。すごい本格的だにゃぁ」
通りすがりの新入生。
大きなリボンで髪を纏めている少女は、部屋の中で悪戦苦闘している生徒たちを横目に、のんびりと部屋の前から立ち去っていった。
「人混みは嫌いだからにゃぁ。また今度、忘れなかったらこようかにゃ……あ、こようかな?」
ニコニコと笑いつつ、その新入生は立ち去っていった。右手の中で魔力玉を形成して、コロコロと転がしつつ。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。