第百三十二話・春和景明、笑う門には福来る(前略、生徒会は頑張ってます)
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明日はゆっくりと休みたいといったな。
ありゃ嘘だ。
いや、俺は休みたかったんだよ? でもね、朝一番で連絡が来たのよ。
生徒会長から。
それで、昼までに話がしたいとかで、俺のうちに来るってことになったんだけど、今日は我が家も親戚が遊びに来るっていうスケジュールが決まっていたので、急遽、朝イチで祐太郎のうちのシアタールームを借りることにしたんだけどね。
………
……
…
相変わらず、ビシッとした服装。
春を感じさせる淡い色合いのジャケットを着た生徒会長・沢渡愛菜が、ソファーに座って俺を待っていた。
それで、その正面になんで新山さんも待機モード?
「お待たせしました。おや、新山さんもちっす。それで沢渡生徒会長、俺になんのようですか?」
「生徒会長なんてつけなくていいわよ。実はですね、まもなく今年度の入学式がありまして。乙葉浩介君には、そこで新入生にたいして、なにかパフォーマンスをお願いしようということになりましたの」
「はい、お断りします、お帰りはあちらで」
なんで俺が?
どうせあれだろ? うちの高校には魔法使いがあるとかなんとかで宣伝していたから、入学式で俺が何かやらないとまずいんだろ?
だったら、お断りだ、俺は見せ物じゃないからな。
「我が校を選んでくれた生徒たちに、何かをしてあげたいと思うのよ、その気持ちがわからないの?」
「それなら、生徒会でなにか芸でも見せたらいかがです? 全く無関係の俺を引っ張り出そうとするなんて、目論みが見え見えですよ……」
「乙葉くんの言うとおりです。いくら沢渡先輩でも、やっていいことと悪いことがあります」
うむ。
ナイスアシストだ新山さん。
そして、祐太郎はというと、俺たちの話を横で聞きつつ、お茶を入れてくれている。
「まあ、沢渡先輩の言い分はなんとなくわかるし、人にいいように使われるのが嫌なオトヤンの気持ちもわかる。俺はオトヤンの味方だけど、先輩の気持ちもわかるから……どこかで妥協点でも見つけるしかないよな」
そう間を取りつつ、祐太郎の入れてくれたお茶を一口。
──ゴクッ
「うん、相変わらず、祐太郎はお茶を淹れるのはうまいよなあ」
「おふくろから、しっかりと仕込まれていたからな。頭脳明晰武芸百般、茶道は学んでいないけど、お茶のなんたるかは理解しているから」
「へぇ、そういえば、築地くんのお母さんって、ほとんど会ったことないですよね?」
うむ。
だって、祐太郎のおふくろさんは、海外に単身赴任しているからね。
だから、俺だって会うのは年に一度あるかないか。
「いまはサウジアラビアだよ、仕事でね。そういえば、おふくろがオトヤンに伝言だって話していたよ」
「何を?」
「ごめんなさいって言っておいてだったかな?」
「なんじゃそりゃ? まあ、今はいいや、それよりも沢渡先輩、どうするの?」
そう問いかけるけどさ、沢渡先輩も困り果てた顔になっているし。
「あのですね沢渡先輩、その催し物って、中止することはできないのですか?」
「それは無理よ。今年の春から、新しく赴任する教頭先生が乗り気なのよ。つい先日、入学式の顔合わせで学校に行ってきたのですけど、そこで教頭先生を紹介されてね。その時に、現代の魔術師がいるのですから、彼に何かをやってもらいなさいって」
「はぁ? なんで新任の教頭に命令されないとならないのやら。うん、やっぱり断るわ。新入生なんて、俺は知らん」
「そこを、なんとか……」
両手を合わせて懇願するのはいいんだけどさ、その教頭ってなんかクセがありそうで嫌だわ。
これで前例なんか作ったら、今後は何かと面倒ごとを押し付けてくるのが安易に想像できるわ。
だから、なんとかと頼まれてもさぁ……。
「……妥協点はないようです、ここは沢渡先輩も諦めてはどうですか?」
「個人的な目的で、人前で魔法を使うのは俺は構わない。けれど、それを他人が見世物まがいに利用するのは納得行かない」
「私の回復も……です。友達や家族から頼まれて人を治療するのは構いませんよ? でも、それが当たり前だから、持つものの義務だからとかいう理由で、見も知らない他人の怪我の治療を強要されるようなら、お断りします」
俺も新山さんも同じ気持ち。
自分たちがボランティアとかでやる分には、あまり気にはしない。けど、知らない人に、それが当たり前のように使われるのはごめん被る。
これが知り合いから頼まれたとかなら、俺は構わないけど、今回のケースは少し違う。
どう考えても、その新しく赴任する教頭先生が、なにか企んでいるとしか思えないからね。
「それで例えばですけど、沢渡先輩は俺に何をして欲しかったのですか? 俺が仮に新入生の前で魔法を使うのを許可したとして、何をさせるつもりでした?」
「え? えええ? ええっと……ほら、文化祭でやったやつ、魔法の箒で空を飛び回っていたでしょう? あとは空中で水玉と炎で人形を作って操ったやつ。あんなやつでいいかなって」
あ〜、あれかぁ。
それなら、俺がやらなくてもいいんじゃね?
「それなら、あの程度のことができる魔導具を作って貸しますから、生徒会でやって下さいよ。そうすれば、俺がわざわざ前に出る必要はないわけですよね?」
「え? 生徒会で? あれやれるの?」
「沢渡先輩、オトヤンは現代の魔術師だけど、錬金術も天才ですよ?」
「そうですね、そうすれば、わざわざ私たちがやる必要はないですよね?」
「えええ? そ、そうなるの、そうかなぁ? 私も、魔法が使えるのか……」
あ、困惑の表情がニヤニヤ笑いに変化している。
これならいける。
「それじゃあ、作ってみますか。魔導具」
──ブゥン
両手を合わせて一気に開く。
すると、俺の足元に練金魔法陣が展開する。
「水制御の術式、炎は危険だから光制御の術式。この二つを魔晶石に付与、魔力吸収回路を組み込む……腕輪型がいいか。シルバーインゴットを取り出して、サイズ調整とさっきの魔晶石を組み込んで……変形」
──シュゥゥゥゥ
あっという間に、銀の腕輪の完成。
装着者の意思で、水と光を発生させてコントロールできる。
「次は……」
カナン魔導商会経由ウォルトコで、箒を3本ほど購入。これを練金魔法陣に放り込み、魔晶石……が切れたので、カナン魔導商会で追加購入。
「魔法の箒か。魔晶石に飛行術式を組み込んで、またまた魔力吸収回路を銀の板にトレース。この銀の板を薄く伸ばして魔晶石を包み込んで……」
これで『飛行制御回路』の完成。
これは一旦量産化で数を増やしておくとして、この間に、箒に銀糸を組み込んで簡易魔力回路を完成させておくとしますか。
………
……
…
「あの、新山さん? 乙葉くんって、いつもこんな感じなの?」
「まあ、魔法で何かを作り出したら、誰の話も耳に届きませんね。どこかいいタイミングで声をかけない限りは、私達の言葉も耳に届きませんよ?」
「そういうこと。しっかし、オトヤンの錬金術は見ていて飽きないよなぁ」
そうなの?
これが魔法、錬金術なの?
以前、乙葉くんには、卒業式の時に桜を咲かせてほしいっていう依頼をしたことがあったけど、その時はこんなに魔法を使っていなかったわ。
でも、今は、私の目の前で、ここまでいろいろな魔法を使ってくれている。
その気になれば、魔法でなんでもできるんじゃないの?
私に魔法が使える力があれば、もっと有効に……違うわね。私は、利己的にしか使わないでしょうね。
自分のためにしか、魔法は使わない。
けど、乙葉くんは、自分が巻き込まれないために、他人のために魔法を使っている。
お人好しと言えばいいのだけれど、あの新しい教頭に目をつけられたら、どうなるのかしら……。
………
……
…
「お、量産化は終わったので、今は三つだけ残してあとは空間収納に保存……と。これを箒に組み込んで、『融合化』と『魔導化』……よし完成。あとは、今完成した魔導具をまとめて魂登録で……」
完成した魔導具は、全て俺と祐太郎、新山さんの三人に登録したよ。
こうすれば、誰かが責任持って回収できるからね。
──プシュゥゥゥゥゥ
「よし完成。こっちが、魔法で水玉と光玉を生成してコントロールする腕輪で、こっちが魔法の箒ね。これは貸し出すから、生徒会でうまくやって」
「……え?」
「え、じゃなくてさ。これがあれば……いいや、面倒だから生徒会長に今からレクチャーするよ。新山さん、庭で魔法の箒の使い方を教えてあげてくれるかな?」
「私が? あ、了解です、それじゃあ沢渡先輩、行きましょうか」
そう話ししながら、新山さんが先輩を連れて庭に向かった。
「ユータロは、こっちの腕輪の使い方を教えてあげて。貸し出す分がこっちで、これは祐太郎と新山さんの遊び用だから……」
「わかった。それで、回復まで何時間ぐらいだ?」
祐太郎、正解。
今日中に仕上げたかったし、面倒なことを明日もまたやるのが嫌なので?時間短縮で魔力を追加消費したんだよ。
「今が十一時だから、午後一時には起こしてくれると助かる……むぎゅう」
はい、意識、消えまーす‼︎
実に、いい仕事をしたものだよ……俺ちゃん。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
午後。
ふと目が覚めると、シアタールームのテーブルの上には、パスタやらグラタンやら炒飯が並べられている。
なんで炒飯? そこはピラフじゃなくて?
ピラフもいいけどさ、ビリヤニもいいよね。
ネパール人の直営のカレー屋さんのビリヤニ食べたいよね。
「お、オトヤン起きたか。そろそろ昼飯だからな」
「ごめんなさい乙葉くん、二人から話は聞いたわ。魔導具を作るのに、とんでもなく消耗したのですってね」
あ〜。
そんなに心配そうな顔しなくても。
「別に構いませんよ。あくまでも貸し出しでして、上げるつもりはないですから。どうしても欲しいのなら買い取りになるだけですけど、一千万円単位になりますからね」
「その話も聞いたわ。今回は、入学式でだけ貸してもらえたら、それで結構ですので」
「ということなので、飯食ったら、午後は俺が腕輪の制御について教えてやるから。新山さんも一緒にね」
うむ、祐太郎、頼んだぞ。
そして新山さんも、心配そうな顔をしなくても。
「乙葉くん、魔力は回復したの?」
「三分の二程度かな? それだけあれば普通に動けるけどさ、午後の訓練は二人に任せるよ。魔力制御の練習と思えばいいと思うよ」
「そこで、オトヤン、午後からは副会長と書記の子も来ることになったから。今日一日で、全員にまとめてスパルタすることになったが、オトヤンはどうする?」
ほほう、そうきましたか。
それなら、やることは一つでしょう。
「俺は、コスチュームでも作るとしますか」
「ですよね〜。でも、乙葉くんが先輩たちのサイズを測るの?」
なに、その新山さんのニコニコ顔。
ものすっごいプレッシャーかかるんだけど、いつから新山さんは強殖装甲を身につけたの?
それはプレッシャーカノンって、すまん、俺が悪かった。
「いやいや、サイズ調整があるでしょうが。だから俺のサイズで作って問題ないんだよ? 別に俺が測る必要ないからね? メガスマッシャー禁止ね?」
「なんで私がガイバーフィメールなんですか? 私は信じていましたよ」
「いや、そこはかとなく圧力を感じたんだけど……」
そのままランチタイムを楽しんだ後は、庭に面している窓を全開にして出入りできるようにしてくれた。
そして三十分もしたら、副会長と書記の子もやってきたので、もう一度、魔法の箒の使い方からレクチャー開始。
俺は、ウォルトコで布地を購入してから、『ヘンリーフォッカーと魔導の城』のオーガスタ魔導学院の制服を作ったよ。男子は副会長だけだから男用を一着と女子用を一着。
何の変哲もなく、普通に変形で形状を変化させるだけ。
これだとね、裁縫の継ぎ目がないんだよ?
つまり、一体成形で衣服を作れるという、まさに服飾デザイナー泣かせでございます。
「しっかし、こういう、一度作ったものを何処かに登録できないかなぁ。データベースがあってさ、そこに俺が錬金術で作ったデータが全て入っているやつ」
そうすれば、いちいち量産化しなくても、作りたい魔導具のデータをデータベースからダウンロードして、魔導具を簡単に作れるんじゃね?
『ピッ……記憶水晶球を作り出すとよろしいかと』
え? なにそれ?
『ピッ……先程のマスターの考えた『データベース』です。一度でも作り出したことがある魔導具なら、その術式から素材に至るまで、全てが登録可能な水晶球です』
それだ。
それなら作るしかないでしょう。
幸いなことに、必要なものは大型の魔晶石とミスリルだけ。
ここに術式を組み込んで、さらにミスリル糸を術式の上に張り巡らせて固定化し、魔導化するだけ。
うん、三十分でできたわ。
「では、まずはさっきの腕輪と魔法の箒を登録か」
──ブゥン
登録用魔法陣が浮かび上がったので、その真ん中に記憶水晶球を設置。
そして魔法陣の中には、俺が作った魔導具を並べて、読み取りスタート‼︎
──シュゥゥゥゥ
おおお、魔法陣が回転して読み込みを開始したぞ?
そして五分ほどで読み取りが終わったので、俺は次々と俺の作った魔導具を登録したわ。
そして一時間ほどで全てを登録し終わると、先程完成した魔導学院の制服を登録。
──シュゥゥゥゥ
うん。
これでおしまい。
あらかじめ魔力吸収回路とサイズ調整は組み込んであるので、誰が着てもサイズは自動調節さ。
………
……
…
「ふぅ。休憩タイム。オトヤンの調子は……聞く必要もないか」
「三時なので、お茶にしましょう……制服が一杯ありますけど、それは、生徒会への貸し出し用ですか?」
「新山さん、正解。サイズ調整を組み込んだから、誰が着てもサイズは自動で調節できるのさ。これは先輩の、こっちは君の……これはあなたに」
三人に制服を手渡すと、祐太郎が着替えるための部屋まで案内していった。
「今日の乙葉くんは、ずいぶんと優しいね。なにかあったの?」
「ん? 東映の人から仕事の依頼が来てさ。変身用の魔導具を作って欲しいって。なんだか、戦闘や自己利益追求のためでなく、普通に人の役に立てるのなら、それもありじゃね? って思っただけ」
「それと、面倒ごとは生徒会に任せる、だろ?」
「おかえりユータロ。その通りだよ。誰でも使える便利な魔導具があるなら、俺たちが命をかける必要なんてないんだよ?」
極論ではあるけどね。
実際には、妖魔相手に戦闘できる魔導具なんて、作る気はない。
それは特戦自衛隊なり第六課なりで、独自研究をお願いします。
ヘキサグラムには、そういうセクションがあるのだから、技術協力でもなんでもすればいい。
国のメンツ云々じゃなく、政治家はさ、自国民のことをもっと考えろって。
そんなこんなで、夕方五時。
無事に訓練は完了。
いくら魔力自動吸収タイプとはいえ、扱うには集中力が必要でね。
「も、もう無理……」
「魔法使いって、毎日、こんな訓練をしているのかよ。洒落にならねーぞ」
「へへへ、魔法、空飛ぶ箒、へへへ、私も魔法使い」
あ、書記の子がトリップしてる。
まあ、嬉しいのはわかるけどさ。
「あとは本番で、頑張ってください。魔導具は当日に貸し出しますので」
「え? お持ち帰りは禁止ですか?」
「これで、空を飛んで帰りたいんだが」
「公道で飛んだら、無免許で捕まりますよ? あと紛失したら高くつきますよ?」
ううう、と呻き声をあげて悔しそうな生徒会御一行。
「はぁ……それじゃあ前日に貸し出しますから、無くさないでくださいね?」
「「「はい‼︎」」」
気合入っているなぁ。
まあ、入学式でだけでなく、催物の際には貸し出すことができるっていう実績ができたから、いいか。
そして夕ご飯を祐太郎の家で食べて、今日という日はおしまい。
それじゃあ、また……って、もう春休み終わるんだが? なんで? 俺の春休みって、どこいったの?
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




