第百三十一話・闊達自在、当たって砕けろ(子供のヒーロー? 大人のヒーロー?)
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週日曜日と火曜日、金曜日を目安に頑張っています。
はいっ‼︎
春休みを堪能しています‼︎
ちなみにだけど、俺と祐太郎、新山さんは揃って『普通科・総合』に進級。
一年時はまだ進路は分かれていないのだけど、二年になるときに『文系、理系、総合』の三つから一つを選択して進級するのだよ。
だから、俺たちは総合。
大学には行く予定だけど、文系や理系は選択していない。
受験に時間を取られて、魔法関係が疎かにならないようにするのが目的なんだけどさ、それって、普通は逆なんだよね。
それでも、この前の喫茶・九曜での親父たちのやりとりを見ていたらさ、魔法を主体にできる『何か』を探すのもありじゃないかって考えてね。
まあ、それでも、今は昼休みであって、せっかくの青春時代、俺は新山さんとデートである。
………
……
…
「デートというか、いつも通りだよね?」
「そ、そうだよね。まだ恋人じゃないからね?」
「「 いい加減に、付き合いなさい 」」
うぉぁ、祐太郎と先輩のツッコミありがとう。
だってさ、今更、す、すすすす好きだっていえないわ、新山さんも同意見だったから、今まで通りに恋人以上友達未満……違う、『友達以上恋人と同等』で話はついているんだよ。
「俺と新山さんは、友達以上恋人と同等なのだよ」
「そうです‼︎ 今はまだ、そういうのは早いと思います‼︎」
「「早くないわ」」
「マジ?」
「まあ、二人がそれでいいのなら、それでいいと思いますよ。あ、ようやく入場できますわね」
「長かったわ。まあ、今日の映画もいい作品だからね。さて、それじゃあいきましょうか」
ちなみに今日の映画も、祐太郎おすすめの自信作。
『イーダ・オルマリン 〜青き星、その王女の物語〜』
原作は『四季』っていう、祐太郎の好きな作家さんでね、ファンタジー大好きな俺たちとしても、このSFアニメは絶賛おすすめ中である。
大量のポップコーンやらドリンクを買い込んでだね、いざ、指定席へレッツゴー。
………
……
…
うん。
実によかった。
映画を観た後は、近くのハンバーガーショップで歓談中。
推し映画の話に花が咲くのは楽しいんだけどさ、やっぱり視線を感じるわけで。
──トコトコトコトコ
「おねーちゃん、魔法使いさん?」
「え、ええ? 私? う〜ん、魔法は使えるけど、どうしたの?」
幼稚園児ぐらいの子供が、新山さんの横に来ましたよ。
「あのね、詩音ちゃん、魔法使いになりたいの、どうやってらなれるの?」
「あらあら、これはどうしますか?」
先輩が楽しそうに、俺に話しかけてくる。
さて、どう答えたものか。
周囲をチラリとみるとだね、皆さん耳ダンボ状態で聞き耳を立てているじゃありませんか。
そんな状態で、ガチの修行方法なんて説明してもダメだよね?
「乙葉くん、助けてプリーズ」
「よし、魔法使いの先生のお兄さんが、いいものをあげよう」
──ブゥン
テーブルに練金魔法陣を起動する。
さて、必要なのはなんだ?
俺の空間収納の『換装』効果を魔晶石にコピー。
さらに、カナン魔導商会で、適当に良さげな布を購入して、空間収納に収める。
ここからが本番、購入した布と、先程合成した魔晶石を取り出して練金魔法陣に置くと、変形で布地の加工を開始。
デザインは……今流行りの『二人はマスキュラー』の最新作、『二人はマスキュラー、オリンピア‼︎』のヒロイン、キュア・ファイルーズのコスチューム。
見る見るうちにコスチュームが完成すると、ここに『サイズ調整』の術式を組み込む。
「ふむふむ、ここはこうして、こうなって……」
練金魔法陣に、追加で変身用のアクセサリーを放り込む。これはウォルトコで購入したもので、ダンベル型の変身グッズ。
ここに『換装の魔晶石』と、魔力がなくても使えるように『魔力吸収回路』を組み込んで完成‼︎
「うわぁ……」
子供が、目をキラキラと輝かせているよ。
周囲の人たちも、立ち上がったりして覗き込むように俺たちを見ている。
そして、子供の母親がようやく俺たちに気がついたのか、慌てて駆けつけてきたわ。
「ごめんなさい、うちの子がご迷惑をおかけして……ほら、行くわよ」
「待ってください。これは、おねえちゃんからのプレゼントね。変身の仕方はわかる?」
プレゼントするのは新山さんに任せたよ。
俺は……高難度術式の併用で、まもなくエンプティ。全ての作業工程を、魔力を強く注いで『時間短縮』したからね。
「うん、輝かせて笑顔、キラめいてスパーク、頑張る私は美しい‼︎」
──キュピーン
女の子が天高く突き出したダンベルが輝くと、一瞬でキュア・ファイルーズに変身した。
「「「うぉぉぉぁぉぉぉぉ、まじかぁぁぁぁぉ」」」
周りで見ていた人たちは絶叫。
大人たちは動揺。
そして見ていた子供たちは歓喜。
「ありがとう、おねーちゃん」
「いいこと、まだあなたは本当の魔法使いじゃないから、魔法は使えないのよ。でも、その姿でお母さんのお手伝いを頑張れば、いつか魔法使いになれるかもね」
「お母さん、ちょっとよろしいですか?」
新山さんは子供に、瀬川先輩はお母さんに注意事項を説明している。
万が一にも、自分が魔法使いになったと勘違いしたらまずいからね。
「しかし….オトヤン、今日はサービス精神旺盛だな。何かあったのか?」
「べつに……子供の笑顔が守れたらなぁって、それだけだよ」
以前の俺なら、こんなことしなかったかな?
いや、前の俺でもやっていたかもしれないけど、今は、損得勘定なしでやったんだろうなぁ。
まあ、これ見よがしに、すり寄ってきそうな周りの奴らは放置確定だけどね、俺のテーブルの斜め前のお客さん、あんたらだよ。
普段から魔力循環しているから、聴力も視力も格段に上がっているんだよ。
「さて、そんじゃあいきますか。次は『虎の穴』だよね」
「そうそう、推しの最新刊がでているのよね。初回特典も付いてくるから」
「では、それいけレッツゴー‼︎」
ということで、俺たちは席を立って近くの書店まで向かうのだけどさ、俺たちが立ち上がるのと同時に、斜め前の席の二人組も立ち上がったわ。
まあ、目的が俺たちじゃないことを祈るとしようか。
………
……
…
「あのよぉ、さっきの店で見ちまったんだけどさ、あの女の子にあげた変身グッズ、俺たちも欲しいんだけど」
「ぼ、ぼくは、キュア・キンニクンのやつがいいんだな」
はい、絡まれました。
というか、目の前で土下座されましたが。
俺たちの後ろから追いかけてきたのには気がついた、しかも、一瞬で俺たちを追い越すと、目の前で土下座を始めやがったぞ。
「あの、人前で迷惑ですよ?」
「マジックアイテムがもらえるなら、頭でもなんでも下げるし土下座だってする‼︎」
「俺たちは、魔法が使えるようになりたいんだ」
「うん、こ、と、わ、る。さっきのは子供だからプレゼントしただけだ、大人のお前たちに無料でやる道理はない」
「だったら買う、お金は出す‼︎」
「だからマジックアイテムを売ってくれ‼︎」
あ〜。
織田よりもウザいけど、俺が人前だったにもかかわらず、子供に魔導具あげたからだよなぁ。
俺ちゃん、猛反省。
「あのマジックアイテムが欲しいなら一千万円だ。素材がレアだからな」
「わ、わかった、一千万円……一千万?」
驚いてこっちを見るが、俺はさらに一言。
「俺たちの世界で、あの技術を科学的に実体化できるなら、一千万でも安いと思うが?」
そう諭すと、男たちは指折り数えてからガッカリと肩を落とし、立ち去っていった。
「これが最後のおねだりオタクではない。きっと、第二、第三のおねだりオタクが現れる……」
「ユータロ、変なフラグ立てるなや‼︎ そうそう現れてたまるか。まあ、いきなりやってきて、一千万円を目の前に積んで『さあ、マジックアイテムをください』なんでやつはいないと思うけどさ……」
「うん、乙葉くん、それは完全にフラグだよね」
え?
先輩、まじで?
それでも、いきなりやってきて、そんな大金を積む人なんてそうそういるはずがないよね。
そんなことを話しながら、俺たちはのんびりと買い物と散策に明け暮れていた。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
春休みも中頃。
まだ雪解けも終わらず、道はグチャグチャ。
一昔前だと、スパイクタイヤが路面を削ることで発生する『車粉』で喉や肺を痛めていたところらしいけど、俺たちの時代はスタッドレスタイヤ。
親父たちのそんな話を聞いても、俺たちはピンとこないんだよね。
街路樹が緑を芽吹き始め、本当に春がやってくるんだなぁというある日。
うちに、予定外の来客があったんだよ。
「……はじめまして。東映プロモーションの沢渡と申します。本日は、現代の魔術師である乙葉浩介さんに、仕事のお話をと思いまして参りました」
「東映……って、あの東映? 仮面ビルダーシリーズとか、超戦隊シリーズのあれ? まさか、俺が主人公の仮面ビルダー?」
やっべ、動悸がおさまらない。
いくらなんでも、俺が主人公な訳がない。
超戦隊と仮面ビルダー、ともに若手俳優の登龍門だからな。
つまり、俺が若手俳優としてスカウトされる?
「ええ、そのまさかです。乙葉さんはお詳しそうで、話が早いかと思いますが」
「え、あ、はい、小さい頃から見てました。一時期はスーツアクターを目指した事もあります、市内のぬいぐるみショーの会社のバイト募集にも応募したことがあります」
「ははぁ、札幌市内ですと、『東京ファミリア』か『eye energy企画』の二つの事務所ですね。それは東映としても嬉しいですね。では、早速、本題に入らせてもらいます」
来たよ、運命の瞬間が。
ダイニングテーブルでは、親父とおふくろと、なぜか祐太郎がニヤニヤと笑っている。
なんで?
「乙葉浩介さん、次期仮面ビルダーの変身システムを、魔法で作ってもらえませんか?」
「はい、え、変身システムを俺が作る?」
「昨日ですが、貴方が現代の魔術師に変身する動画を偶然見ることができましてね。更にですが、昨日の夜にNET-TUBEにアップされていた動画なのですが……」
そう説明しながら、タブレットでNET-TUBEを開いてくれる。
そこに映っているのは、先日、俺が変身アイテムを作ってあげた女の子の動画で、嬉しそうに変身しているのを両親が録画してアップしたものらしい。
コメントの盛り上がりもさることながら、どうやって入手したのかとか、代理で入手して欲しいとかとんでもないことになっている。
まあ、子供が見たら、欲しがるよなぁ。
「この二つの動画で確信しましたね。次期仮面ビルダーの変身アイテムを、魔法で本当に変身できるようにしてもらいたいのですよ」
「ええっと……ちなみにですが、俺が魔導具を作る時の相場って知ってますか?」
「はい。今回の件では、スポンサーからも予算を確保してあります。一千万円、キャッシュで一括払いですが」
え?
待った待った、それってアレだよね?
この前のオタク二人組に話した金額だよね?
でも、いきなりここで返答するのもアレだから、少し考えさせて欲しいよね。
「申し訳ありませんが、すぐには返答できません。検討してから、改めてご連絡差し上げる形となりますので、それでよろしいですか?」
「はい。交渉当日に、話がまとまるだなんて私も思っていませんので。では、良い返事を期待しています」
これで話し合いは終わり。
沢渡さんはニコニコと笑顔で帰っていったけど、俺はグッタリと力尽きたよ。
「いやぁ、オトヤン、大変だったなぁ」
「ユータロ、親友なら助けろよ……なんで、お前までここで見学しているんだよ?」
「庭で機甲拳の練習していたらさ、オトヤンの親父さんが面白いものが見れるからおいでって呼ばれてきたんだが?」
「お〜や〜じぃ〜、息子の困っている姿を、面白がるなよ」
「いや、そこまで困ることなのか?」
そんな簡単にいうなよ。
そもそも、アトラクション用の着ぐるみなんて使ったことないぞ? しかもアクション用とアップ用の二種類も必要じゃないか。
「錬金術で作れるものと、作れないものがあるんだよ。アップ用の着ぐるみなんて、メタリックで撮影映えのいいやつなんだよ? 動きこそかなり制限されるけど」
「なるほどなぁ。まあ、そういうのはプロの造形師が作るものであって、浩介は変身システムを作ればいいんじゃないか?」
「そんなに簡単に……できるわ」
「そうだよなぁ、できるよなぁ」
うん、スーツを作る必要がないのなら、換装システムを作るだけじゃないか。
スーツだって、サイズ調整の術式を組み込むだけだし、あれ? 意外といけるんじゃね?
「できるなぁ。まあ、この書類を見てから考えるわ。返答する締め切りは……二週間後か」
「オトヤンに頼めなかったとしたら、CG処理が必要だからだろ?」
あ、そうかそうか。
早めの発注は大切だよね、特に、国民的ヒーローだからね。
「さて、そんじゃ気晴らしに換装システムでも作っておきますか……ユータロのうちの庭を貸してくれるか?」
「なんで家でやらない?」
「青空の下で、気晴らししたいんだよ」
そういうことで、カナン魔導商会から送られてきた発注書もまとめてクリア。
ウォルトコ経由で買い物してからの納品だから、楽だよね。
今回は、衣類が、特に下着類が多かったんだよ。女性の下着なんで買っているの見られたくなかったから、空間収納に送ってもらって人目につかずに納品、これ最強。
そして溜まったチャージで魔晶石とミスリルを大量購入。『サイズ調整』の術式を刻み込んで、その周りをミスリルで覆う。
そのミスリルにも、『頑丈』の術式を施すので、登録した着ぐるみは壊れにくくなる。
「……あとは、なにか便利な術式はないものか?」
「オトヤン、清潔化は組み込まないのか?」
「なんで?」
「着ぐるみ、真夏の炎天下といえば?」
「臭いわ、そうだ必要だよなぁ」
はい、追加で清潔化も組み込んだよ。
さらに『魔力吸収回路』、これ必須。
これがないと、サイズ調整も起動しないよね。
これで完成したのが、新型魔導具。
名付けて『自動換装システム』。
これを10個ぐらい量産化して、はい、あとは俺のやる気のみ。
しかし、今日は一日でかなりの魔力使ったわ。
明日は、ゆっくりと休むことにしようそうしよう。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
・今回のわかりづらいネタ
イーダ・オルマリン 〜青き星、その王女の物語〜
https://ncode.syosetu.com/n9636fa/
みると良い。