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【書籍化】ネット通販から始まる、現代の魔術師  作者: 呑兵衛和尚
第二部・歪んだ日常編、もしくは、魔族との共存って、なかなかシビア。
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第百三十話・千客万来、千里の道も一歩から(今日はなんだか騒がしい・後編)

『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週日曜日と火曜日、金曜日を目安に頑張っています。

 はい。

 先日は牛タンを食べてチンピラに絡まれて龍造寺さんの奥さんを助けた俺ちゃんです。

 一日の出来事としては、濃すぎるわ‼︎


 そして今日は、俺たちにとっては大切な日。

 先日、チャンドラ師範が口を滑らせてしまったため、喫茶・九曜に出入りしている八魔将の存在が要先生にもバレました。

 まあ、あの場所で話し合いを設けた俺も悪かったが、チャンドラ師範が一番悪い。

 ということで、関係者が集まって話し合いを始めるところです。


………

……


「まず。こちらの席は、現代の魔術師チームです。司会は俺、あとはサポートで築地祐太郎と新山小春、そしてデータのまとめ役として瀬川雅が待機しています」


 それぞれ、名前を呼ばれた順番に頭を下げている。

 うん、このメンバーがここでは最強なので、何があっても大丈夫だよなぁ。

 いや、マスター・羅睺がいたか。


「そして、こちらは内閣府国家公安委員会所属『第6課』の皆さんです。忍冬師範と井川巡査部長、そして要先生です」

「……浩介、ここでの話し合いは、全てこの建物の外には持ち出さない、でいいんだよな?」

「忍冬師範の話の通りです。ここでの顔合わせは全て非公認の話し合いであり、ついでに説明すると、今後は協力体制が取れたらいいなぁということで集まってもらっています」

「分かった。なら、我々もその方向性でいかせてもらう」


 さすがは忍冬師範。

 大人の余裕ですなぁ。

 だから、井川さんも呪符をテーブルに並べて方々と震えないでください。要先生、風の精霊を待機させないように。



「さてと、それでは次は魔族サイドで。こちらは喫茶・九曜の八魔将です。第三位のマスター・羅睺、その隣りが第四位の計都姫、第五位のチャンドラ。初代魔人王配下ですので、つまりは御神楽さまの配下ですので、敵ではありませんよね?」

「羅睺だ、よろしく頼む」

「私は計都姫。浩介の知り合いなら、敵じゃない」

「チャンドラだ。武術の稽古を求めるなら、力は貸すからいつでも言ってくれ」


 うん、貫禄が違うわ。

 第六課全員、真っ青な顔で震え始めている。

 いや、忍冬師範は真顔で前を向いているけど、井川さんも要先生も下を向いて震えている。


「次、札幌市の在住人魔代表。龍造寺建設社長の龍造寺玄斎さんです。ご覧の通り、獅子系獣人です」


──シュゥゥゥゥ

 ほら、着物スタイルの初老の男性・玄斎さんが、白髪の獅子に変わった。

 これには忍冬師範さえも絶句している。


「え、あ、龍造寺建設の社長って、本当に?」

「うむ。うちの社員は、半分は獣人で残りは人魔だ。まあ、若いから血気盛んだが、堅気には手を出さないように話してあるから問題はない」

「あ、昨日の人魔って、そういうことなのか」

「うむ。そういうことだ」


 その若いの代表のイチさんは、ずっと俺を睨んでいるし。喧嘩売る気なら、また腹に力の矢フォースアローぶち込むぞ。


「ええっと、人間サイドに戻ります。こちら、うちの親父、元ヘキサグラムのセクションワン主任だっけ?」

「セクションワンおよびセクションセブンだな。加えるなら、元陰陽府の八葉の一葉といえば、理解してもらえるかな?」


──ガタガタッ

 今度は、羅睺さんたちが立ち上がって、親父に一礼する。


「ミカグラさまの一葉を拝命されているとは」

「八魔将は、八葉と対等。一葉はつまり一位、私は貴方に従う」

「ま、まあ……よろしく」

「魔族の方は座ってください、私は一葉ですが、元ですから」


 え? 

 なに、この茶番。

 親父って、そんなにすごい人なの?


「ゴホン。オトヤンが呆然としているので、俺が代わりに。人間、政治家代表の、俺の親父です」

「築地晋太郎です。北海道議会の議員を務めています」


 軽く挨拶する晋太郎おじさん。

 うん、龍造寺さんと同じく貫禄あるわぁ。


「オトヤン、これで全員だよな?」

「人間代表と魔族代表、ヘキサグラム関係者と日本国政府関係者、そして獣人代表だから、いいんでない? それじゃあ、このあとは歓談タイムということで。皆さんご自由にお話ください」

「投げっぱなしか。浩介、せめて、何かないのか?」


 いや、何かといわれてもさ。

 

「飲み物はカウンターにありますので。あとはそうですね、おつまみは九曜のハルフェさんと蔵王さんが、今作っていますから」

「そうじゃなくてな、こう、このメンバーだけにわかるようなカードというか、証明というか。会員証みたいなもので名簿を管理した方が、良いんじゃないのか?」


 あ、そういうことね。

 それなら、いいものがあるよ。

 魂の情報ステータスカード

 それじゃあ、はじめての作成と参りますか。


「では、この場を借りて、俺が魔法でなんとかします……」


 魔導書を開いて右手を差し出す。

 あとは魔法言語による詠唱を始めると、俺の右手の中に銀色のカードが生み出された。


「それは?」

「これはですね、俺の魂から作り出した魂の情報ステータスカードです。まあ、うちのメンバーのを次々と作ってみましょう。お手を拝借‼︎」


 そして、左手で相手の手を握り、対象者の魂の情報ステータスカードを作っていく。

 ほら、祐太郎や新山さんは、自分のカードを見て喜んでおります。

 さらに、その場の全員分を作成すると、各々が自分のステータスを見て驚いている。

 まあ、自分のスキルやアビリティ、ステータスなんて見る機会はないからね。


「これは、他人に見せたくない場合はどうするのだ?」

「念じたら出し入れできます。他人に譲渡できませんし、自分から一定距離離れると消えます。表側が顔写真? とステータス関係、裏がスキルとアビリティ。書いてあるものの表示も、自由にコントロールできますから」


 このあとは、魂の情報ステータスカードを見せあったり、それを使ってお互いの情報交換をしたりと話し合いが始まった。

 魂の情報ステータスカードは発行後すぐに、瀬川先輩の深淵の書庫アーカイブに登録するようにした、

 何かあって連絡をしたくなったり、どこにいるか探したい時は瀬川先輩に連絡するといいそうだ。


 残された俺たちはというと、万が一の揉め事が発生した場合の抑止力だったんだけどさ、今はケーキバイキングを楽しんでいるよ。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯


 

 大人は大人なりの話し合いが始まっている。

 井川さんと要先生は、ここに通っていたこともあって、馴染むのはそれほど難しくはない。

 うちの親父もヘキサグラムで慣らしたらしく、普通にマスター・羅睺と楽しそうな雰囲気であるし、そこに晋太郎おじさんと忍冬師範も混ざっている。

 あとは、変わる変わる話に混ざって、最初の緊張感はなんのそのという感じである。


「へぇ。新山さんの加護の卵も70%を越えたのか」

「そうなの。人を助ければ助けるほど、加護が増えるの。私のジョブは治癒師だからかなぁ?」

「俺は90%止まりだ。ブライガーの加護は安定している」

「私は完全解放ですわね。既に北大の情報基盤センターに深淵の書庫アーカイブを追加登録してありますから、さらに処理速度も上がっていますわ」

「さすがですね。大学では、魔法使いであることは隠してないのですか?」


 ん、そこ、重要。


「隠すつもりはありませんね。堂々としていますわ。明日からは、これもありますからね」


 そう告げて、魂の情報ステータスカードを取り出して見せる。


「ちなみにだけど、ここのメンバーのカードは銀色に統一しているけど、グループごとに色分けもできるので。たとえば、俺たちが魔法を教えた人には白地のステータスカードを発行するとかね」

「ん。喫茶・九曜は、明日からステータスカード割引をはじめる」


 いつの間にか、計都姫が後ろの席に座っている。

 蔵王さんとハルフェさんも料理を作り終えたらしく、後ろで酒盛りを始めていた。


「そうか、瀬川さんは北大生かぁ。どこの学部に行く予定?」

「情報科学院に進む予定です。今はまだ、そのための下地を作るので精一杯ですわ」

「ほほう。もしも何かあったら、獣医学研究院の蔵王を訪ねておいで」

「はい。その時は、よろしくお願いします」


 あ、先輩も同じ大学に知り合いができたようで、ホッと安心している。

 ハルフェさんはここの店員だし、計都姫……は、普段はなにをしているのだろう?


「そういえば、計都姫さんって、普段はなにをしているのですか?」

「普段は……なにもしていない、をしている」

「計都姫は、北海道神宮で巫女を務めているから、なにもしていないわけじゃないのよ」

「そう。私は、非常勤助勤者。緋袴をつけた巫女」


──ガタッ

 やっべ、巫女と聞いて、俺と祐太郎が立ち上がったよ。


「巫女って、定年は早いはずだよね?」

「北海道神宮の宮司さんは、私が魔族であることを知っている。だから問題はない」

「あ〜、それも凄いな。計都姫は、俺たちが共存を唱える前から共存していたのか」

「そう。昔からここにいる、だから、ご老人の方は、私が魔族であることを知っている。近所付き合いは大切」

「マジかぁ。それなら、最初に計都姫に相談すればよかったよ」


 さらに話を聞いてみると、近所の老人会とかは、喫茶・九曜の存在を知っているらしい。

 魔族の営業している店として。

 まあ、何事にも裏技があるらしいから詳しくは聞かなかったけど、地域密着で色々としていたらしい。


「だから、このあたりは治安が良いんだ。俺が普段から睨みを効かせているからな」

「そりゃあ、とんでもないわ」

「そうだ新山、今度、近所のおばさんを見て欲しい。膝が良くない」

「え? 今からでも構いませんよ」

「そうか、なら、今から行こう‼︎」


 そのまま計都姫に手を引かれて、新山さんが店から出て行った。


「あ、俺も付き合うよ」

「この話し合いの責任者は、ここに残れ」

「計都姫と一緒なら問題はない」

「そうね、乙葉くんはここから動かないこと」

「それじゃあ、俺が本日限りのナイト担当してくるわ」

「頼むユータロ、こっちは任せろ」

「応‼︎」

 

 そのまま新山さんたちを追いかけて祐太郎が出ていった。

 そして俺はというと、店内でのんびりと、目の前の光景を眺めている。


………

……


 妖魔との共存を俺が宣言してから。

 色々なことがあった。

 反共存派の政治家もいたし、妖魔と盟約を結んで裏で暗躍している政治家もいた。

 百道烈士のように、完全に敵対している妖魔もあれは、綾女ねーさんや白桃姫のように、俺たちと仲の良い魔族もいる。

 転移門ゲートが発生したときは焦りもしたし、新山さんが贄として攫われた時は、全身の血が凍りついたような気分になった。

 本当に、命を賭けて新山さんを助け、転移門ゲートを封印した時は、なにもかもやり遂げた感じだった。


 でも、本当の意味で、魔族と人間の共存は始まってはいない。

 むしろ、これからが本番。

 今、目の前に広がっている光景は、そのテストモデルでもある。

 メンバーがとんでもないので、表に出さないけどね。


 この時間を、もっと楽しみたいところである。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 札幌市内、某病院。

 私は、この病院の院長を務めています。

 まあ、名前だけの院長ではなく、最前線で医療に携わっています。

 私の担当は循環器内科、特に難病指定を受けた患者の治療に携わっています。


 特別病棟に入院している龍造寺真琴さんの担当も私ですが、あの方の治療については、いつご主人に『延命治療』の話を切り出すか、タイミングを待っていました。


 今日も検査があるので、その結果と照らし合わせた上で、来週中には話をする予定だったのですが。


「……嘘だろ? どうしてこの数値になっているんだ? 生化学検査の結果が全て問題なしだと?」


 午前中の検査を終えて、午後には全てのデータが揃う。

 昨日までの様子から察すると、悪くなることはあっても良くなることはありえない。

 だが、改めてデータを見直しても、どこも異常は見当たらない。


「エコー、MRI、全て正常です……」

「なぜだ? いや、良くなったのは実に喜ばしい。悪い報告をする必要がなくなったのは、実に良いことだ。だが、どうしてだ? 昨日、私が帰った後に何かあったか?」

「いえ、夜八時過ぎですが、いつものように旦那さんがお見舞いに来たぐらいで……そうそう、昨日は男の子も一緒でしたよ」


 息子さんか?

 いやいや、龍造寺さんには子供はいなかったはず。

 その子供って?


「男の子? 小学生とか、それぐらいの?」

「訂正します。高校生ぐらいの男子です。でも、どこかで見たことあるような……」


 どこかで見たことがあるって?

 近所の子か? それとも知り合い?

 とにかく、昨日、お見舞いの後に何かあった可能性がある、それは確かだろう。


「あ、思い出しました、ほら、去年の『奇跡の子』の話を覚えていますか? 甲状腺癌が一晩で治ったっていう高校生の話ですよ」

「ふん。その噂ぐらいなら知っている。ガン病棟では有名な話だろう? 検査結果が改竄されたとか、いろんな噂が流れていたし、しまいには魔法で治ったかもなどと……魔法?」


 そうだ、その奇跡の子の通っていた高校は、確か北広島西だったよな?

 あの学校には、テレビで有名になった現代の魔術師とか、奇跡の聖女とかいろんなガセネタが流れていたよな。

 この、現代社会で、魔法が存在するなど馬鹿げていると思ったが、あの子が魔法で治ったとするのなら、ひょっとしたら、昨日のお見舞いに来ていた高校生って……。


 すぐにスマホを取り出して、現代の魔術師の画像を探し出す。

 一時期は大量にあったのだが、今は個人情報保護とかでほとんど削除されている。

 でも、残っているところにはある。

 ほら、あった、これは比較的新しい奴だな、アメリゴで異世界の扉を開いただと?


「この高校生か? それともこっちの女の子か?」


 写真には男子高生が二人と女子高生が一人写っている。この誰か一人でも該当するのなら、龍造寺さんは魔法で回復したのかもしれないという仮説も成立する。


「あ、この女の子が、癌にかかっていた子よ。そうそう、こっちの男子が、昨日の夜にお見舞いに来ていたんじゃなかったかしら」

「こっちか。写真の説明によると、やっぱり乙葉浩介か。現代の魔術師本人が、昨日お見舞いに来て、龍造寺さんを魔法で癒した……そうか」


 医学の敗北。

 それよりも、魔法があれば、より多くの人を救える。

 その可能性に、私は震えてしまった。

 あとは、龍造寺さんに直接伺って、証拠を固めるだけ。


………

……


 龍造寺さんに尋ねてみたが、昨日のお見舞いは、龍造寺さんの会社の若い衆らしい。

 そして、魔法について問いかけても、龍造寺さんはなにも知らなかったかのように答えてくれた。

 うん、あの高校生を隠そうとしているのか。

 それなら、こちらとしても追及することはできない。

 この話は、これでおしまいか。


 魔法による、新しい医学。

 そんなものが、目の前に現れる日が来るのだろうか。


誤字脱字は都度修正しますので。

その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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― 新着の感想 ―
 息子さんか?  いやいや、龍造寺さんには子供はいなかったはず。  その子供って? 娘が生まれてから臥せっているので、男の子はいなかった が正しいのではないでしょうか。
[一言] ヤバい奴かと思ったら普通にいい医者だった
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