第百二十九話・南橘北枳は青天の霹靂?(今日はなんだか騒がしい・前編)
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はい。
魔導具作って、魔力欠乏症起こして意識が途切れていましたよ。
そして意識が戻ると、自室のベッドに横になっていましたがなにか?
「今の時間は……もう夕方か。燐訪議員が来たのが朝で、昼過ぎに魔導具ができて……大体五時間ぐらいは眠っていたのか」
ステータスを確認すると、MPが半分ぐらいまでは回復している。
よし、もう大丈夫だと体を起こすと、机に親父の書き置き。なになに、何かあったのか?
『母さんと定山渓温泉に行ってくる。今日は帰らないから、よろしく』
はぁ、お好きにどうぞ。
去年の春は一人暮らししていたからさ、別に何も困らん。飯だって作れるし、小遣いだってまだ億単位である。
毎月、札幌市から振り込まれるお金があるからね、結界発生装置のレンタル料が。
月に百万円単位で増えるし、交渉の結果、無課税になっているし。
でも、確定申告はしないとならんのですよ。
「さて、夕方だし、飯でも作って……たまには外食するか。自炊もいいけど、普通に外で食べるのもありだよなぁ」
誰か誘おうと思ったけどさ、いつもいつも新山さんや祐太郎、先輩を誘うのも悪いからなぁ。
無理に俺に付き合わせても、自分の時間が欲しい時ってあるよね?
ということで、今日は外食確定‼︎
………
……
…
──ジュゥゥゥゥゥゥ。
七輪の上で、ネギ塩牛タンが焼けている。
うん、晩御飯は大手焼肉チェーンだよ。
以前は札幌駅の北口からすぐのところだったんだけどさ、妖魔特区の中になってしまったので移転。
地下鉄白石駅の近くで再開したので、のんびりと歩いて行ってきましたよ。
ここは精肉店の直営店なので、お値段もリーズナブル。でも、単品注文なんてしないよ、男は黙って食べ放題‼︎
「うんまぁぁぁぁぁぁい‼︎」
牛タンは神だよ。
俺が好きな食べ物のトップ五に入るよ。
ちなみに一番が牛タンで、二番が牛サガリ。
あとは生ハムだったりパイナップルだったり、マグロの刺身だったり。
一人暮らしの時は、食材の宅配サービスを使っていたからさ、そうそう食べられなかったのよ。
親父たちが帰ってきてからは、たまに祐太郎の家と一緒にバーベキューやったりしていたから、たまには食べられたけどね。
「今日は一人で堪能できる‼︎ 牛タンの追加……あとライスと岩海苔スープ、コーラもつけて……」
ぽちぽちとタブレットを押して注文していると、たまに視線を感じる。
うん、周りの客が、チラホラとこっち見ている。
スマホを向けてこっそりと写メ撮っている人もいるけど、それはダメだよ。
まあ、注意するのも面倒くさいから、無視。
俺は、今は、牛タンを堪能するんだぁ‼︎
………
……
…
食後の杏仁豆腐を食べておしまい。
会計を終えて外に出ると、あちこちで俺を見ている人がいるじゃないか。
そうか、以前、俺たちには第六課の退魔官が警備してくれているって話だったよな。
今日はそれがないから、人が大勢いるのか。
「さて、空腹を満たしたら、次は物欲を満たしますか」
目的地はパソコンショップ。
今使っているのが古くてさ、新しいのに買い替えたいんだよ。
積みゲーもあるし、それを処理しないと……。
「おい、ちょっといいか?」
「は? なんすか?」
いきなり肩を掴まれてさ、振り向いたらチンピラさん。
それも強面が三人、このか弱い高校生になんの用事なの?
「うちの親分が、お前に用事があるんだ、付き合ってくれるな?」
「お断りしますが、俺は、この後は用事があるのでフバッ‼︎」
いきなりのボディブロー。
しかも、子分らしいのがちょうど死角を作って、周りから見えないようにしている。
「付き合ってくれるよな?」
「こ、と、わ、る」
──ドゴッ
至近距離からの、手加減力の矢。
しっかりとお腹めがけての発動だから、兄貴らしい人はくの字になって悶絶しているよ。
このあたりのコントロールも、魔導執事がやってくれるから助かるわぁ。
『ピッ……お褒めにいただき恐悦至極』
「この野郎、下手に出ていたらいい気になりやがって‼︎」
──チャキッ‼︎
あ、子分ズが、ナイフ抜いた。
お前たち、いつの時代のチンピラだよ。
そんなの通報されて、銃刀法違反とか傷害罪で終わりだろうが。
「黙ってついてこい、痛い目に遭いたくなかったらな」
「だから断るって……痛い目って、この人みたいに?」
地面に転がって腹を押さえている兄貴を指さすと、子分たちがナイフを俺に向かって振り下ろしたよ。
──ギン‼︎
はい、力の盾でナイフを止める。
チンピラは、何が起こったかわからないのか、必死に力の盾に向かって切りかかっているよ。
俺の目の前にあるけど、普通の人には見えないからね。
そんなことをしていると、警察官が走ってきたよ。
「またお前たちか‼︎ 現行犯で逮捕する‼︎」
「やべぇ、ずらかるぞ!
「兄貴、ここは引きやしょう‼︎」
倒れている兄貴を起こして逃げようとするけどさ、無理だよね。兄貴の意識がないから、それを連れて逃げるなんて……。
「確保ぉおぉぉぉぉ」
「うわぁぁぁぁ、放せ、放せぇぇ」
ほら、捕まった。
そして俺も捕まった、なんで?
正確には、詳しい話を聞きたいそうで、一路、白石警察署までパトカーで移動だそうな。
そんなこんなで30分ぐらい話をして、身元引き受け人がわりに要先生がやってきたので無事に釈放さ。
「全く。乙葉くんは、何かしら騒動を起こすわよね」
「好きで起こしているわけじゃないんですよ。いきなりチンピラが絡んできたんですよ? しかもナイフを抜いたのだから、正当防衛ですってば」
「まあ、そういうことならね。でも、相手が悪かったわよ。あのチンピラって、龍造寺建設の若い衆だから」
龍造寺建設?
それって、創業が明治とか大正とか言われている、有名な建設メーカーだよね? 元々はヤクザ屋さんで、風当たりが強くなったからって建設業に切り替えたところだよね?
「その、龍造寺建設さんの親分が、俺になんの用事なんですかねぇ」
そう話をしていると、並んで歩いている俺たちの横に、黒塗りのベンツが並走してきた。
そしてゆっくりと窓が開くと、白髪長髭の老人が顔を出した。
「乙葉浩介くんだね。うちの若いのが迷惑をかけた。済まないが、少し時間は取れるかな?」
うん。恐怖耐性があって助かったよ。
さっきのチンピラのときだって、普通の学生なら漏らしていてもおかしくないよね?
そして今、この親父さんから発する気合いというか、覇気ってやつはさ、恐怖耐性がないと耐えられないわ。
「ええっとですね。チンピラの件は警察に任せてますから、何か文句があるのでしたらそちらに。俺は、あまり関わりたくないので」
「人魔に関することだと言うと、どうかな? 人と共存したい人魔がいるのだが、話はしたくはないか?」
「……その話が事実でしたら、第六課としても見過ごせないのですが」
おっと、俺よりも先に要先生が反応したんですが。
『ピッ……龍造寺玄斎は獣人です』
サンキュー、魔導執事さん。
っていうか、マジか。
そんじゃ天啓眼を発動して。
『ピッ……獣人・ゲンサイ。獅子獣人族で、人間名は龍造寺玄斎。日本国籍を有している』
はい、獣人さんです間違いありません。
そんな獣人さんが、なんの用事?
「ええっとですね、ここで話すのもなんですけど、だからといってあなたの家についていくほど、俺もアホウじゃありません。ですので、俺の指定する場所でなら、話を聞きますが」
「ふむ。それもよかろう。では、どこに向かえば良いのだ?」
………
……
…
円山・裏参道。
ご存知の喫茶・九曜でございます。
万が一のことがあった場合、ここが一番安全だよね?
「話はわかった。だが、何故にここに連れてきた?」
「獣人なら、チャンドラ 師匠の知り合いかなぁと」
「戦捺羅 は祐太郎の稽古をつけているところじゃよ。あとからくるじゃろ」
そうマスター・羅睺と話をしていると、奥の席では要先生と龍造寺さんが話をしているところである。
チラチラっと俺を見ていると言うことは、そろそろ俺とも話がしたいのだろう。
「まあ、獣人としては中の上ってところじゃろ。ほら、行ってこんか」
「はいはい……お待たせしました」
怖いから要先生の横に座る。
龍造寺さんの横には、秘書らしき一人の女性、タイトスカートがよく似合う眼鏡の麗人だね。綺麗だね。
「さて、面倒なことは先に終わらせたい。まずは、うちの若い奴らが、勘違いして君に対して無頼なことをしたことについて謝罪する」
そう告げてから、龍造寺さんは深々と頭を下げる。
いや、そういうことなら受け入れますよ。
「勘違いですか。それにしては、随分と物騒でしたけど?」
「ああ、ハイエナ種の獣人は、とにかく血気盛んでな。わしは『丁重にお連れしろ』と伝えたんだが、どこでどう、間違ったのか」
「丁重にお連れしろ、は、ある意味合ってますよ。よくヤクザ屋さんが使う符丁みたいなものですからね。それはまあ、良いです。それで本題は?」
そう問いかけると、先ほどまでの厳つい雰囲気が柔らかくなった。
「乙葉浩介、私の妻の病気を癒すことはできるか?」
「妻の病気?」
「うむ。我が妻は人間族でな、ここ最近はずっと病に臥せっておるのだ。元来、体はあまり強くないのだが、娘が生まれてからはずっと伏せっておる」
「それは、見てみないとわかりませんし、必ず治せるっていう保証もありませんよ」
チラッと要先生を見ると、軽く頷いている。
うん、ごめんなさい、その合図がわかりません。
「それは構わない。ただ、私の妻が入院している病院でな、君が、そういう力を持っているという話を聞いたもので……あくまでも噂程度なのだが」
「それはどこの病院ですか? そもそもですよ、俺は病院で噂になるようなことをした記憶は……あるわ」
「え? 乙葉くん、心当たりあったの?」
あるよ。
新山さんを助けるために、病院に行って回復薬を飲ませたからね。
「要先生は知らないと思うけどさ。一応、心当たりはあるよ。そうか、あの病院かぁ……」
「やはり、噂の主は君だったか。頼む、その病院に妻が入院しているのだ」
いきなりテーブルに頭を叩きつけるダイナミック土下座を決める龍造寺さん。
いや、事情がわかれば、こっちも考えなくはないよ。そのための手段が、かなり不味すぎたとは思うけどね。
「まあ、そこまでいうなら、今回は特別ですよ。料金はあとから請求しますので」
「ありがとう‼︎ 本当に、君には申し訳ない」
「はぁ、そういうことですので、要先生も同行してくれます? 俺一人でこのおじさんと一緒は、ぶっちゃけ怖い」
「わかりましたよ、では行きますか」
そのまま席を立って、喫茶・九曜から出ようと入り口に向かうとさ。
──カラカラ〜ン
「おや、珍しいな、浩介か……って、テメェ、ゲンサイ‼︎」
──メキメキメキメキッ‼︎
ああっ、店に入ってきたチャンドラ師範が、獣人化して龍造寺さんに殴りかかってきた。
「貴様はチャンドラか‼︎」
──ミシミシミシッ‼︎
うおぁ、今度は龍造寺さんまで獣人ゲンサイモードだよ。
そして店内で、いきなりクロスカウンター‼︎
──ドゴォッ‼︎
「貴様も人間界にいたのか‼︎」
「俺は初代魔人王さまの配下だ。彼の方の意思を守るのが、我ら八魔将の務めだ‼︎」
そう話してから、お互いに拳を引いて人間の姿に戻る。いや、怖いんだけど。
「あ、あの、あのね乙葉くん、そこの虎の獣人も知り合いなの? それに、今、八魔将って……」
「ちーっす。って、オトヤン、なんでここに? それに要先生もちーっす」
「あ、あら、築地くんもこんばんは…。あの、ここはどこなの? どうして八魔将がいるの?」
ありゃ。
安全かと思ってここに来たら、逆にデッドゾーンになったわ。
「うーん。ユータロ、すまんが要先生に『ここの場所』について説明してくれ。チャンドラ師範のせいで、まともにバレた」
「うむ。チャンドラは、一週間肉抜きじゃ。余計なことを言わなければ、普通の魔族で通せたものを」
「うぇあー‼︎ 俺が何をしたんだ、そうか、ゲンサイ、貴様のせいだ‼︎」
「うるさいわ、こっちは急いでいるんだ、話があるなら、わしの会社まで来い‼︎ 行くぞ乙葉くん‼︎」
一万円札と名刺をカウンターに置いて、龍造寺さんは俺の手を掴んで店の外へと連れて行く。
「あとは任せたぞ〜ぞ〜ぞ〜ぞ〜」
「なんでエコーかけているんだかなぁ。まあ、いいか、要先生、ちょいとここに座ってくれ、一から説明するから」
「は、はい。お手柔らかにお願いします」
………
……
…
うん、龍造寺さんの黒いベンツに乗せられて、やってきました某病院。
もう面会時間は過ぎていたんだけどさ、龍造寺さんの奥さんの病室が特別室だったらしく、どうにか話をつけて案内してもらったよ。
「……あら。あなた、こんな時間にどうしたのですか?」
一言でいうと細身の美人。
和風美女さながらの女性が、ベッドで体を起こして、本を読んでいた。
「ああ。知り合いに頼んで、お前の病気を見てもらおうと思ってな」
「そうなの……って、その子、テレビでよく見る魔法使いさんじゃない?」
「あ、ああ。知り合いに……」
「また無茶なことをしたんでしょ? あれだけ荒事はしないでって話をしたじゃない」
あ、龍造寺さんが、目の前で怒られております。
ペコペコと頭を下げて、必死に謝っております。
「ごめんなさいね、うちの人が迷惑をかけたのでしょう?」
「いえいえ、迷惑をかけられたのはチンピラさんでして」
「マサのことかしら? それともイチ?」
「イチが早まっただけだ。さ、さっそくだけど見てもらえるか?」
「そんじゃあ、今から魔法を使いますので……」
天啓眼、発動。
『ピッ……龍造寺真琴、女性、人間、36歳……中級妖魔蟲『腐敗蟲』に憑依されている。重度の心臓疾患あり』
はぁ。
重度の心臓疾患か。
治療方法を教えてくれるか?
『ピッ……病気治療ポーション、および強回復薬により快癒可能。ただし、腐敗蟲を取り除くことが前提』
なるほど納得。
そんじゃ、まずは蟲退治といきますか。
「龍造寺さん、今から俺がやることを止めないでくださいね」
──ピッ
まずはカナン魔導商会から病気治療ポーションと強回復薬を購入。これはベッド横のテーブルに並べておく。
そして、取り出しましたるミスリルハリセン。
軽く二、三度スイングしてみると、龍造寺さんの顔色が変わっていく。
「そ、そのハリセンはなんだ? 普通のものじゃないよな?」
「まず、奥さんに取り憑いている妖魔蟲を除霊するから……失礼‼︎」
──スパァァァァァン。
問答無用で、上半身に向かって一撃を叩き込むと、背中のあたりから、長さ30センチほどのイモムシが飛び出してきた。
『キュィィィィ』
「うるせえ、今度は打撃特化っ‼︎」
──スパァァァァァン
ハリセンのモードを打撃に変えての一撃。
これで妖魔蟲もヒクヒクと動かなくなったので、トドメはフォトンセイバー。
妖魔蟲の魔人核……蟲核っていうらしいんだけど、そこを軽く突いてやる。
──シュゥゥゥゥ
あ、霧散化した。
見事に核を破壊された蟲は、消滅しましたとさ、めでたしめでたし。
「さて、今度はこちらをお飲みください。まずは病気を癒すポーションです」
そう説明して、奥さんに病気治療ポーションを手渡す。
すると、奥さんはポーションと俺の顔、そしてゲンサイさんの顔を見渡していたので。
「彼を信用している。安心して飲んで欲しい」
「ええ….」
ゲンサイさんの言葉で、奥さんがポーションを一気に飲んだ。
すると、ほら、奥さんの全身が輝いたよ。
──キィィィィィン
『ピッ…… 龍造寺真琴、女性、人間、36歳……体力損耗状態』
よし、病気は治った。
あとは体力の回復なので、強回復ポーションの出番です。
「病巣というか、心臓疾患は治癒しました。あとはこちらをお飲みください、奪われていた体力が取り戻せますから」
「ありがとうございます。さっきまでの、体の辛さがなくなったようですわ」
今度は疑うことなく、ゴクゴクとポーションを飲み干した。するとほら、また全身が輝いたでしょ?
「……調子はどうだ?」
「……嘘みたい。本当に、魔法で治ったのね……ありがとう」
うん、ゲンサイさんも奥さんも、笑いながら泣いているよ。
そんじゃあ、あとはお任せします、俺は帰ることにしますから。
「それじゃあ、あとは、明日にでも検査を受けてみてください。それでまだ、何かありましたら、この番号に連絡をくれたらいいですから」
「乙葉浩介、妻の命を救ってくれてありがとう……このお礼は、必ずするから……」
必死に頭を下げる龍造寺さんと奥さんに挨拶して、俺は一路自宅へと帰ることにしたよ。
そして、帰宅してからLINESを確認したら、俺と新山さん、瀬川先輩は明日の昼に喫茶・九曜に集まるようにって祐太郎から連絡が来てましたとさ。
あれ?
人魔の話、聞いてないやん。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




