第百二十八話・竹頭木屑、枯れ木も花の賑わいだけどさ。(極めろ道、悟れよ俺)
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はい、昨日は、俺の魔法が殺人的威力だったことに驚きでした。
瀬川先輩からは、もう一度、しっかりと自分のできることや魔法の力などを調べ直した方がよいとアドバイスを貰いましたので、今朝からは魔力制御の訓練でございます。
「なるほど。それで、朝から机の上で光球を発動しているのか」
「そういうこと。光球の発動に必要な魔力は5ポイントだけど、これを1ポイントで発動して足りない4は増幅する」
「それって、可能なの?」
「できるはず。そのための魔力制御なんだよ……」
両手を開いて前に差し出し、右手の中に1ポイントの魔力を集める。
これを魔力制御により5ポイントまで増幅してから、発動‼︎
──ポフッ
はい失敗。
やっぱり無理だったか。
「失敗?」
「まあね。ちなみに、これが普通の発動‼︎」
──シュンッ
一瞬で光球を発動して、手のひらの中に光球を生み出す。
──パチパチパチパチ‼︎
おっと、俺の魔法を見ていたクラスメイトから拍手喝采。ありがとうみんな。
「今度は、魔力制御で明度を変更するか……」
光球の明度を、魔力制御で暗くしてみる。
すると、調光器がついているランプのように暗くなった。さらに明るくしようとすると、少しだけ魔力は掛かったけれど、とんでもなく明るくすることもできる。
「なかなか集中力がいるなぁ。これが、修行としてはベストか。しばらくは、これで修行するしかないかなぁ」
「体内を循環している魔力を傾けるのはどうだ? 俺は闘気の制御には、それを使っているんだけどさ」
「それはどうやるの?」
「体の中を流れている闘気を、部位ごとに調節する。具体的には、こんな感じだ」
──ヴン‼︎
おおお、これは面白い。
祐太郎の闘気経絡、左半身の部分には綺麗に闘気が流れているのに、右半身には半分以下の量しか流れていない。
「はぁ〜、これの利点は?」
「闘気の温存。必要な部位にのみ、一瞬で闘気を集める訓練だ。常に全身を闘気で満たしていると、確かに全身の活性化はできるが長く持たない。それと、このコントロール法を身につけると、体内保有闘気のキャパシティも増える」
「なるほどなぁ……って、織田、お前は何をメモしている?」
俺と祐太郎の会話を、織田が必死にメモしている。
いや、よく見たら、近くの机の奴らはみんなメモとっていたり、録音しているんだが。
「俺も闘気をマスターするからな」
「アホか。人間が覚えられるのは一系統のみだよ。魔法か闘気、そのどっちかしか使えないの、わかるか?」
「いや、それなら、俺が史上初のダブルマスターになるだけだ」
「それができるのは賢者だけだって。ほら」
──ブゥン
俺は右手に魔力玉、左手に闘気玉を作り出して見せる。これも、魔導体術の技の一つに属性変換を組み合わせただけ。
闘気玉については、祐太郎の十分の一しか練り上げられないのは、俺の属性が魔法使い系だからやむを得ない。
まあ、本業に勝てるはずはないからね。
それを祐太郎も知っているから、俺の目の前でニヤニヤと笑いながら濃縮闘気玉を作ってみせる。
「あ、乙葉、お前は賢者だったのか?」
「まあな。今の俺の属性は賢者だが」
「俺も賢者にしろ……と、そうか、お前の秘密がわかった‼︎ サンキューな‼︎」
あ、また織田が何か勘違いして、仲間達の元に戻っていったぞ。
いつものことだから構わないけど?周りには迷惑かけるなよ〜。
「乙葉くん。織田くんだけど、とんでもない勘違いしていると思うよ?」
「だろうなぁ。どうせ、ゲームの影響で遊び人から賢者にジョブチェンジできるとか思っているんだろうよ」
「そもそもだけどね、私たちの職業って学生だよね? サブ属性に賢者だったり魔闘家だったり、私なんて治癒師のサブ属性になっているよ?」
うむ。
このサブ属性については、おおよそ理解している。
神の加護を得たことにより、新山さんも治癒師のサブ属性が追加されている。
さらに、これがつくことで魔力や闘気のキャパシティも増えたし、効果も絶大に増えていて。
「そうかぁ、俺の賢者の属性って、やっと名前だけから本物に変化したのかよ」
『ピッ……正解』
「ありがとう天啓眼。そうかそうか、ようやく理解したわ」
「ん? なんだかわからんけど、憑き物でも落ちたか?」
「そんなところだよ、サンキュー‼︎」
とまあ、誰となく感謝して、俺たちは三学期最後の授業を受けた。
明日からは春休み、無事に何事もなく……というわけではないが、俺たちは春には二年に進級する。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
永田町、国会議事堂。
衆議院臨時国会は、いつもよりも大荒れ状態であった。
「なぜ、乙葉浩介を保護しないのですか? 彼は今や日本の財産とも言えます。彼と、彼の知人たちは、この日本にしか存在しない魔術師なのですよ?」
国憲民主党の燐訪議員の、いつもの怒声。
今日は国会中継もあるので、張り切ってあるようである。
中継のない日は、野党にとってもどうでもいい案件であったり、賛成しても『自分たちにとっては都合のいい』法案だったりする。
だが、中継のある日は違う。
いつもよりもばっちりとメイクも決めて、今回は女性議員の立場を誇示するかのような白いスーツに身を包んでいる。
「彼らは我が国の国民です。保護するのは当然ですが、だからといって、何もない状況での保護など必要はありません。それと、彼だけではなく、私たちは常に国民を守る立場にあることを、この場で改めて説明します」
「論点が違います。私が得た情報では、彼は、キャンプ千歳で、自分の魔法を披露したばかりか、その強さなどのデータを与えたのですよ? 防衛省を、自衛隊を差し置いて。これは、彼が日本を裏切ったことになるじゃないですか?」
ドヤ顔で正論を告げたと思っている燐訪。
だが、天羽総理が手を挙げて一言。
「うるせぇババァ。彼が自衛官だったり、公務員だったりするのなら話は変わりますが、ただの学生ですよ? 仕事か何かで依頼されたり、なんらかの理由で彼自身が率先して行ったことに対して、なんで日本政府が文句を言わなくちゃならないんだ、あ、ババァと言ったのは貴方のことではありませんから」
いつものベランメェ口調で返答する天羽。
だが、燐訪は真っ赤な顔で答弁を続ける。
「それでは、なぜ、自衛隊は、防衛省は彼に協力を求めないのですか?」
「そりゃあ、協力を求めて断られたからに決まっているだろうが。何をわかりきったことを話しているんですか?」
「断られた? それは、貴方たちの交渉能力に問題があると言っているようなものですね? そのことについては、どう責任を取るのですか? 交渉能力のない議員を重要なポストにつけた責任を‼︎」
また話をすり替えやがったな。
そんな顔で、天羽は壇上に立った。
「なんの責任だか知らないが。貴方、そんなにいうのなら、貴方が直接交渉してみればいいじゃないですか、私たちは止めませんよ?どうぞ交渉しなさいよ。『君の魔法の解析を行いたいから、自衛隊に協力して欲しい』って……」
「私たちには、そんな権限はありません」
「だから、くれてやるからやれって言ってんだよ。以上です」
涼しげな顔で答弁を終える天羽。
そして野党席では、なにやら集まって話し合いが始まっている模様。
………
……
…
それで、昨日の国会中継の結果なのか知らんけど、朝っぱらからうちに来ているよ、野党の議員が。
「乙葉浩介くん。貴方の魔法を自衛隊で解析させて欲しいのですが」
「お断りします、お帰りはあちらで」
はい、まさかの燐訪だよ。
お付きの議員もSPもいるよ。
その後ろで、困った顔の陣内もいるよ。
「まあ、そういう返答が来るのは想定済みです。でも、これでもまだ、貴方は私たちに逆らいますか? 陣内さんお願いします」
ニヤニヤと笑う燐訪だけど、陣内は困った顔で俺の方を見ている。
悪いが、俺はあんたを疑っているからな。
二月に新山さんを攫ったのは、結界中和能力のあるお前だって分かっているんだからな。
「あ〜、燐訪さん、今回の依頼は辞退しますわ。彼には、俺の能力は一切効きませんからね。北海道で仕事だって聞いた時には、何か嫌な予感がしたんですよ」
「なっ‼︎ あなた、ここにきてその態度は何よ、川端政務官にクレーム入れますからね」
「どうぞご自由に」
そのあとは、燐訪はとにかく俺の魔法がどれだけ国にとって大切なのか、国防にどれだけ貢献して欲しいかなどを話している。
まあ、無視してカナン魔導商会のメニューをのんびりと見ていたけどね。
「……ということで、あなたは、私たち日本政府に協力しなくてはならないのよ。理解しましたか?」
「理解していません。俺の能力は俺のもので、国が管理していいものではない。だから、俺が誰に協力しようと自由だし、それを強制される謂れはないです。お帰りはあちらで」
そう説明すると、燐訪は驚いた顔で俺を見ている。
『ピッ……燐訪の能力『懐柔話術』をレジストしました』
まじか。
カナン魔導商会の、『お気に入り三番に 』に登録してあるレジストリングを三つほど追加購入。すぐさま空間収納から、直接ルーンブレスレットに装着。
あっぶね。
なんで燐訪議員も、魔族能力使えるの?
「あのですね、あなたが魔族……妖魔の方があなた方にはわかりやすいか。妖魔能力を使って俺を懐柔しようとしても、俺には効果ありませんからね」
「なんのことだかわからないわ。まあ、いいでしょう、あなたがそのような態度を示すのなら、こちらも対応させてもらうしかありませんからね」
『ピッ……燐訪議員の『罵声闘気』をレジストしました』
「……懐柔話術の次は、罵声闘気ですか。体内保有闘気が少ないから、それを使うとお腹空くんじゃありませんか?」
そう問いかけると、燐訪は真っ青な顔で口をパクパクしている。
後ろでは、陣内も困った顔でこっちを見ているからなぁ。
「ほらね。燐訪さん、彼は鑑定眼持ちですよ。下手なことすると不利になりますって」
「さすがは人魔の陣内さんですね。俺としては、そろそろ話し合いも終わったと思っていますが、どう思いますか?」
「そうですねぇ。燐訪さん、今日のところは『話し合いは終わりましたので、素直に帰りましょう』。それが一番ですぜ」
『ピッ……人魔・陣内の思考誘導を確認』
「そ、そうね。それじゃあ失礼するわ。また、改めてご連絡を差し上げますので」
そう告げて、燐訪たちは帰っていく。
いや、何あの思考誘導の強さ。
真っ青な顔でパニック寸前だった燐訪議員が、何事もなかったかのように帰ったよ?
天啓眼とゴーグルを連動しておいて良かったけどさ、この自動で色々と教えてもらえる効果、ルーンブレスレットに装着した方がいいよなぁ。
玄関で頭をひねりつつ帰っていく議員たちを見送ってから、とりあえずは塩を撒く。
祐太郎のところの晋太郎おじさんのように、博多の塩を袋ごと投げつけるようなことはしないよ。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「さて、自分のスキルを自動化して、魔導具から発動できるように……」
カナン魔導商会から、『スキルオーブ』と『高純度魔晶石』を購入。
あとは、書物の欄を探して、なにか使えそうなものが入荷していないか調べるけど、今日は特に何もなし。
「魔導具で『目覚まし鳥』っていうのがあるのか。なになに、指定した時間に鳴きます……目覚まし時計だな。向こうの世界では必要なんだろうなぁ」
おもしろ魔導具も入荷がないから、早速、新しい魔導具の開発を始めますか。
「まずは、スキルオーブに俺の天啓眼をコピー。さらに、これを自動制御するために……」
魔導書を開いて術式の欄を開く。
さすがに、今から刻み込む術式の成功率は、洒落にならないぐらい低いからね。
でも、確率五分五分の法則なら、たとえ成功率が小数点以下でも五十%まで高まる。
気分だけだけどね。
「さてと。錬金魔法陣起動、『並列思考術式』と『擬似魂の術式』を、高純度魔晶石にコピー……」
ここからは意識が途切れる前に完成するか、俺の意識が消えるか勝負。
術式の刻印って、ようは書き込んでいる間は『一定量の魔力を継続消耗』するんだよね。
そして術式が複雑になればなるほど、消費魔力は増えるわけで。
目の前にステータス画面を開いておいて、高速でカウントダウンしていくMPを目の当たりにしながらの作業。
二つの術式全てを刻み込むまでの所要時間、実に三時間。その間は、ずっと意識集中。
………
……
…
ふう。
もう倒れていいよね?
きっかりと三時間で魔導具は完成。
俺のスキルを自動化して、適時対応する執事のような魔導具。
名付けて、『魔導執事』。
これをルーンブレスレットに融合した時点で、俺の残存MPは三桁に突入。
つまり、よくある魔力欠乏症が発生するのですよ。
これって、どうにかして発作を抑えることができないかなぁ。
異世界の魔術師ってさ、よく小説とか漫画では『俺の魔力も後わずか……だが、この一撃に賭ける‼︎』とかいって、残りわずかの魔力を全て使って戦闘に勝つフラグを構築するよね?
その前に、半分ぐらいを一気に使ったら、魔力欠乏症にならないのかな?
そういうスキルがあるのか….…あ、限界。
バタン、キュー。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。