第十三話・吸風飲露で馬子にも衣裳(チートの本領)
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週日曜日と火曜日、金曜日を目安に頑張っています。
魔法の訓練。
簡単に言ってみるものの、俺には正式な異世界の魔法訓練のやり方はわからない。
いつもやっている自己流の魔力循環と魔力解放、それだけならいつかは限界が訪れる。
部活のある日は、みんなで楽しく魔法訓練をしているんだけれどさ、土日の休みになると暇なんだよね。
一人で訓練じゃ寂しいからさ、隣の家の祐太郎を誘うっていう手もあるんだけれど、デートなんだってさ、チンコもげてしまえ。
……
…
「ヨシ‼︎」
自宅の大きな姿見の前で、思わず現場猫のポーズをする。
リアル世界のネットショップ・ウォルトコで購入した西洋風の衣装一式と鍔広帽子、そして素顔を隠すマスクを装備。
ペストドクターマスクって分かる?
中世ヨーロッパでペストが流行ったときに、医者がつけていた鳥の嘴のようなものがついているフルフェイスマスクね。
それを身につけるとあら不思議、なんとなく自分がマジシャンのような気がしてきたぞ?
これをつけてやる事は一つ、人前で堂々と魔法の練習をする事。
精神力を鍛えるというのもあるんだけれどさ、衆人監視の中で素顔を晒したまま魔法なんて使ったらどうなるか判ったものじゃないからね。
……
…
「という事で、やってきました大通り公園です」
地下鉄から降りて近くのトイレに向かい、ペストマスクをつけていざ出撃。
目立たないで自宅の庭とかで練習するのもいいんだけどさ、やっぱり俺の手品を見て驚く人の姿も見たいよね。
そんなこんなで『ストリートマジシャン・甲乙兵』って手書き看板を置いて、ドンキで購入した魔法の杖1800円を手に、まずは空中に水を作り出す。
詠唱文は魔導書にも載っているけれど、敢えて無詠唱。
だってさ、マジシャンって詠唱なんてしないよね?
──ヒュゥゥゥゥ
生活魔法の『水生成』で作り出した水。これを魔力制御で浮かべる練習。
フヨフヨと浮かぶ水に、通りすがりで見ていた人たちが立ち止まりはじめた。
よし、周囲の人たちを気にする事なく、魔法に集中。
水を自分の掌に乗せて突いたり、空中に放り投げて霧のように分散したり。
まあ、水を使った大道芸人と言われればそれまでだけれど、こういう基礎は大切だよ?
「ふぅ。また一時間後に始めますので、今回はこの辺で」
深々と一礼してベンチに戻ると、近くのトイレの個室で普段着に換装、そのまま昼飯を食べに近くのバーガーショップへ。
「うーん、ザビテリアが良いか、ジャブロナルドが良いか。考えどころだなぁ」
結論。
どっちも食べるという事で、一つずつお持ち帰りにしてから、公園のベンチで一休み。
土曜日の昼過ぎ、家族連れが大勢いる。
あ〜、平和だなぁ。
こうしてのんびりとしている最中にも、魔力循環の練習はする。
「そういえば、目にオーラを集中すれば、目に見えないオーラを見ることが出来るって、ウィング先生も話していたよなぁ‥‥連載再開まだかなぁ」
まあ、他人の魔力が見えても何のことはないのだろうが、試しに目に魔力を集中してみる。
「錬っっっっ」
いや、これは凝だったよな。
体内を循環する魔力を目に集める。
――シュゥゥゥゥゥ
すると、目の前を歩いている人たちの体の周りを、うっすらと取り巻く何かが見える。
あ~、これって魔力なのか?
でも色がついているのはどういうことだ?
うっすらと青かったり、ほんのりとオレンジだったり、あれか、アニメでよく見る何とかタイプとかオーラ何とかか? だったら色にも意味があるんじゃないのか?
赤い人はハイパー化するのか?
そんなことをぶつぶつと考えていると、ふと、不思議なものに気が付いた。
時折、人々の頭の上あたりをフヨフヨと飛んでいる謎の物体。クラゲのようにも見えるし、透き通った水風船にも見える。
「しかも、誰も気づいていないってどういうことだ? なんだあれ?」
あ、UMAか、未確認生命体だったか? スカイフィッシュとかそういうのか?
それなら、あれを捕まえたら何か金儲けにならないか?
「ええっと、捕獲用のアイテムか魔導具はないものか……ポチッとな」
どうせ人には見えない画面。
堂々と開いて商品一覧を眺めて見るが、今すぐ、ここで使えるようなものはない。
「はぁ。それならそれで良いか‥‥って、気が付いたらいなくなっているし」
慌てて周りを見渡したが、さっきの物体はどこかに消えてしまっていた。
まさかUFO?
「しまった、鑑定すればよかったのか‥‥失敗したわぁ‥‥」
まあ、後悔先に立たず光陰矢の如し。
今日のところは見逃してやろう。
「さてと、午後の演出はどうするかなぁ。マジシャンという事は、ちょっと派手な演出もありなんだよなぁ。何かいい方法はないかなぁ」
ということで大通り公園近くにある『ヒバリ屋』という洋装店に向かい、大きめの黒い布を買ってくる。
それを袋に入れたまま公園に戻ると、午前中に俺のパフォーマンスを見ていた人たちがまた集まっているではあーりませんか。
今度はさっきよりも人が多いので、多分boyaitterで誰かが拡散したんだろうな。
「それじゃあ始めますか」
その人たちの近くまでこっそりと歩いていくと、袋から黒布を取り出す。
それで全身を覆った瞬間に、先程のマジシャンセットに素早く換装、一瞬でマジシャン『甲乙兵』の出来上がりでござい。
──おおおおおおおお‼︎
周りからの動揺と歓声と拍手の中、懐から取り出した杖でまた魔法の訓練を始める。
「では、午後最初のステージ。最初はこれを‥‥」
空間収納から堂々と、手を捻りつつ手品のようにリンゴを取り出す。
まあ、何もないところからリンゴが出てきたら驚くわな。
さらに両手でリンゴを包むように握ると、今度は第一聖典の魔法、変異を使ってリンゴの形を変形させる。
変異は、魔導書によると『純魔晶石』というアイテムに施すことで、その中に潜んでいる未知の力を解放するものらしい。
まあ、それ以外には『物質の根幹法則性を留めたまま、形状を変化させる』という、ちょいと分かりづらい説明も書いてあったのだが、自宅で試しにリンゴを使って実験したら自由に形を変えられたので、そういう応用性もできることは理解していた。
ということで『形はバナナで中身はリンゴ』という奇妙なものに一瞬で変化させると、近くにいた子供に手渡す。
「リンゴだよ」
「凄い‼︎ バナナの形のリンゴが出来た‼︎」
「え? どういう手品? なにこの非常識さ」
そりゃあ驚くわな。
「食べても普通のリンゴだからご安心を。私は魔法使い、タネも仕掛けも豊富に取り揃えてあります。リンゴもバナナ型のケースに入れて育てたら、形はバナナになりますよ。ということで何かリクエストはありますか?」
「空を飛んでください‼︎」
「はい、そのタネは家に忘れてきました、次は?」
ドッと笑いも取ることは忘れない。
「さっきの水の手品を‼︎」
「はい、では今日はこの手品だけにしましょう。どうせこれしか用意していませんけれどね」
再び杖を手に取り、空中に水の玉を浮かべる。
今度は二つ、しっかりと意識を集中する。
いくら人間外の魔力があっても、それを操る意思力がないとダメだってラノベに書いてあったからね。
そうして出来上がった小さい水の玉を、近くの子供に手渡した。
玉の形を維持するのに意識を集中。
子供は楽しそうに水玉で遊んでいるが、意識をカットして手の中で元の水に戻したりもする。
──パシャッ
慌てて飛び上がりさがる子供。まあ、濡れない位置を確認したから問題はない。
「それでは、本日はこれにて。また次回お会いすることがありましたら、そのときにお会いしましょう。それでは皆さま、次回にご期待ください。さようなら、さようなら、さようなら‼︎」
最後は黒布で身を包むと同時に、インビジリングで姿を消す。
しかも黒布も空間収納に仕舞い込んで、あたかも姿を消したかのような演出をした。
さあどうだ、つい調子に乗ってやりすぎたよ‼︎
周りがザワザワとし始めたので、近くの大きな木の陰まで移動して透明化を解除、みんなの方に見つかりやすく大きく手を振って最後の挨拶をして撤収した。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
月曜日。
朝一でいつものようにのんびりと登校すると、隣の席の祐太郎が俺の方を笑いながら見ている。
「土曜日は大変だったな、ストリートマジシャンの甲乙兵さんよ」
「ブホッ……ユータロまで知れ渡ったのか。まあ、あんな大技はもうやらないよ、人に見られている中で、どれだけ魔法に集中できるかとか、自分なりに考えての練習だったんだからな」
「まあ、そんな感じだろうとは思うけれど、変身前の姿がNET-TUBEにも上がっているぞ? 謎のストリートマジシャンってな」
──ガバッ
大慌てでスマホでNET-TUBEを確認する。
ああ、午後の奴か、どこの誰だかわからないけれど、意外と鮮明に映してくれているよ。
顔の部分は角度の関係ではっきりとは映っていないけれど、俺と仲の良い人が見たら一発でバレる。
「あうち。このことはご内密に」
「いや、とっくにばれているから。まあ、あまり外でやらない方がいいとは思うぞ」
その通りである。
まあ、次からは自重しよう。
でもさ、魔法を生かしてNET-TUBEやboyaitterでストリートマジシャンとしてデビューするのも悪くはないぞ?
「あ、そういえば、俺、土曜日にUMA見たんだけどさ、ユータロは透き通ったクラゲみたいな、空飛んでいるの知っている?」
「スカイフィッシュ?」
「まーそうなるよなぁ。でもさ、スカイフィッシュって、確か超高速ガルビオン‥‥」
「超高速で飛んでいるやつだな。なんでガルビオン?」
「俺が好きだから、まあ、それは一時置いておくとして、そのスカイフィッシュとは違うんだよ、フワフワ飛んでたからさ」
「へぇ。そういうのもいるのか。この俺たちの世界には、まだ目に見えない脅威が存在している‥‥って、オトヤン、それをどうやって見た?」
今更気づいたのかよ。
「目。ここに魔力を集める。そして周囲を凝視するだけさ。ユータロにはまだ早いから、部活の時にいつもの練習な」
「はいはい。そうしますよ」
そんなこんなでいつもの授業時間。
とにもかくにも、まだ俺の魔法使いライフは始まったばかりだからさ。
基礎を怠るのは良くないということで、今日も部活でみんなと一緒に魔法訓練で一日を終えることにした。
なお、部活の最後はみんなでカナン魔導商会の話に花が咲いた。
査定システムで、どこまで高額アイテムの買い取りができるのか、それを今度みんなで色々と持ち寄り試すことになったのだよ。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
・今回の判りずらいネタ
現○猫 / く○みね 著
戦○で‥‥ / やぎさ○梨穂 著
HUNTER◯HUNTER / 冨○義博 著
聖戦○ダンバイン
機動戦士ガ○ダム