第百二十六話・周章狼狽、苦肉の策ですいません(大反省会、やっちまったなぁ)
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週日曜日と火曜日、金曜日を目安に頑張っています。
さて。
俺たちが、アメリゴのセドナで行った出来事を、忍冬師範と白桃姫に一通り説明しましたよ。
それはもう驚かれていましてですね、この目の前にある水晶柱の存在価値が、今までよりも高まったことは確かです。
「さて、話を続けるとしようか。水晶柱の話じゃったな」
「ええ、お願いします」
すぐさまボイスレコーダーを取り出し、録音を開始する忍冬師範。
第六課としても、この情報は大切だよね。
「妾も全てを知っているわけではない。確か、ラナパーナ王国の初代女王が、神の加護を得て『水晶柱』を作り出したのが最初じゃな」
「それは、どんな効果があるのですか?」
「効果といってものう。水晶転移術式により、複数の水晶柱の間を自由に行き来できるということじゃが。ほれ、お主らの世界にもあるじゃろ、目的地にピュンって転移する方法が」
「「 ねーよ、そんなの漫画の世界だわ 」」
思わず祐太郎と突っ込んだわ。
でも、今の話が真実だとすると、俺の使った転移術式は、この柱を媒介とするやつなのか?
「白桃姫、俺の使った術式は、その女王が加護で得たものなのか?」
「術式を見せるが良いぞ」
おっけ。
それならということで、俺は空中に魔力で術式を記した。
すると、白桃姫が椅子から立ち上がって、俺の術式に指を添えて確認している。
「ふむふむ……これはまた、複雑怪奇な術式じゃなぁ。妾の知る水晶転移術式は、これじゃよ」
──スラスラッ
俺と同じように、白桃姫も空中に術式を刻む。
当然だけど、忍冬師範はそれを写メで撮っている。
「ははぁ、俺のは余計な部分が多すぎるのか。どれどれ」
──ゴトッ
カナン魔導商会から魔晶石を購入すると、白桃姫の記した術式を魔晶石に刻み込む。
それを幾つか作り出したのち、一つを残して全て空間収納に保管した。
そして、残った一つは錬金魔法陣を起動して、魔力自動吸収オーブを組み込み、さらに変形で鍵の形に変化させる。
──ブン‼︎
「よし完成。白桃姫、これを見てくれ、どう思う?」
「すごく……安定しておるのう。これだと、魔力が無いものでも、自由に鍵として使えるのう。妾にもたもれ」
「ちょいまち、量産するわ」
と言うことで、先輩のも含めて俺たち四人分と、白桃姫、そして、何か物欲しそうな雰囲気の忍冬師範の分も合わせて六本を量産化で増やす。
「よし、完成まで八分。これはここに置いとくとして、さっきの話の続きをプリーズ」
「プリーズと言われてものう……おおう、そうじゃ、この水晶柱じゃがな、過去に、ラナパーナ王国が周辺の外国に侵略されそうになった時、時の女王はな、水晶柱を使い、異世界から勇者を召喚したのじゃよ」
「「 異世界召喚キター‼︎ 」」
「ほ、本当に勇者召喚なんてあったのですね。ラノベの世界でしかないかと思ったのですけど」
俺もだよ、新山さん。
そもそも、俺が最初に死んだ時だって、異世界に行ったと思ったぐらいだからね。
「いやいや、普通にあるぞ。もっとも、妾の知る限りでは、ラナパーナ王国の女王が行ったのが初めてではなかったかのう」
「その後も、何度か召喚されたと?」
「いやいや、その辺りは知らないぞ。そもそも、それを行えたのは、時間と空間を支配する神『ア・バオ・ア・クー』の加護を持つシーラ・カムラ・ラナパーナの血筋のみじゃ」
ん?
なんだかロマン溢れる名前だよなぁ。
「その……名前が長いので、シーラ女王としましょう。その方の血筋以外では、この転移術式は発動しないのですか?」
「忍冬、それは違うのじゃよ。歴代女王はな、この術式を自在に操っておる。乙葉のように、術式を護符に付与した『通行許可証』を作って販売しておったからな」
「つまり、それがあれば誰でも水晶柱を使えたということですか?」
「うむ。こちらの世界でいうところの、公共交通機関のようなものじゃ」
転移システムが、公共交通機関って….。
そんなありがたみのない。
「それで、その勇者はどうなったのですか?」
「コハルよ、良いところに目をつけたの。召喚された勇者は『聖勇者』と呼ばれていてな、ラナパーナの騎士団と聖勇者だけで、列強国を退けたそうじゃ」
「そして、女王さまと結婚して王になったのですね?」
「いや、帰りたかったそうじゃから、元いた世界に帰したはずじゃが?」
「その勇者の名前は?」
新山さん、そういうロマンが好きだなぁ。
まあ、勇者の正体というのも気になるけどね。
「さあな。残っておらぬと聞くが。ほれ、そもそも、ラナパーナの建国がかなり昔の話じゃから」
「そっかぁ。惜しかったわ」
「何が惜しかったのか知らんが。妾の知る話はそんなものじゃよ?」
そこで話は一旦おしまい。
さっき作っていた魔導具も完成したので、この場の全員に配ったよ。
「ほほう、これで、妾もこの妖魔特区から自由に出ることができるのじゃな?」
「水晶柱のある場所に、でしょ?」
「そうじゃが、外に遊びに行くことができるのは良いぞ。この妖魔特区の中から、妾たちは出られないのじゃからな?」
「まあ、外で悪さをしなければ構わんが」
「するか‼︎ そんなことをしたら、乙葉たちから魔力玉が貰えぬでははないか」
あ、そこなのか。
まあ、その程度で人間を襲わないんなら、俺たちは構わんけどね。
「さてと、それじゃあ日もどっぷりとくれたから、帰りますか」
「そうだな。新山さん、家まで送るよ。近所だけどね」
「オトヤン、その最後の一言がなかったら完璧なんだが」
「え? そうなの?」
「知りません‼︎」
そんな話をしながら、俺たちは一路、自宅へと帰ることにした。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
翌日。
いつものように、空を飛んで登校。
そして学校に到着したら、いきなりクラスメイトに囲まれましたが何か?
「ネットニュース見たぞ、乙葉。異世界への扉が開けるんだってな?」
「俺たちも異世界に行きたいから開いてくれ‼︎」
「頼む、この世界は俺たちには厳しすぎるんだ。異世界なら、俺たちの知識でチートな生活を送れるから」
「もう、手動ポンプやマヨネーズの作り方とかは手帳にメモしてある、これがあれば、製造チートで俺は勇者になる‼︎」
あ〜、うるさいわ。
そもそも、なんで俺たちのことがネットニュースに流れているんだよ。
すぐさま席に座って、外野のざわつきを無視してスマホで調べる。
すると、あったわ。
ちょうど俺たちが、フリューゲルさんを水晶柱から鏡刻界に送り届けるところの動画が。
でもさ、研究員たちの残した画像が、もう流出しているのってどうよ?
一度、トーマス所長に連絡とって追及してみたいわ。
「あ〜。この動画かぁ。確かに、俺としてははじめての挑戦だったから、奇跡的には開けたけどさ」
「だったら、今、ここで開いてくれよ‼︎」
「あの水晶柱がないと無理だな。あれが媒体だし、一度開くのにも、膨大な魔力とレア素材で作った鍵を作り出す必要があるからな」
はい、嘘です。
いや、昨日作った鍵の材料を考えると、現代レベルとしてはレア素材。
通常の人間の十倍以上の魔力が必要だから、膨大な魔力。嘘は言ってないよな。
「そ、それじゃあ、いつ開ける? その鍵はどれぐらいの予算で作れる?」
よし、力一杯ふっかけよう。
織田たちに向かって人差し指を立てて一言。
「一兆円。そこが限界だし、そもそも素材がもうない。つまり、不可能だ」
「そんなことを言って、お前一人で異世界で勇者するんだろう? それなら、このクラス全員を異世界に送らないか? よくラノベであるだろう?」
「あ〜、あるけど無理。そんなことしたら、俺が魔力枯渇して死ぬわ」
「俺たちの礎となって、死んでくフベシッ‼︎」
──スパァァァァァン
「お前ら、大概にしろよ。ほらほら、とっとと席に戻れ、もうすぐ担任がくるだろうが」
しっしっと織田たちを席に戻すと、やがてホームルームが始まった。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
そして昼休み。
また来たよ、進藤室長が。
今日は、しっかりとSPを大勢つれてね。
「さてと。乙葉浩介、築地祐太郎、新山小春。入管法違反で、貴方たちを逮捕するわね?」
「いきなりかよ。俺たちが、なんの違反をしたと? 入管法ってなんだ?」
「簡単にいうと、密航ね。貴方たち、昨日、魔法でアメリゴに行ったわよね? 入管での手続きもなく海外に渡航した時点で、貴方たちは入管法違反なのよ? まあ、貴方ちちの態度次第では……なにそれ?」
──ピッ
はい、取り出しましたる『渡航証明』。
しかも、しっかりと出入国印まで押されている本物でございます。
今朝方だけどね、忍冬師範が届けてくれたんだよ。
「渡航証明ですが、なにか?」
「ふん。もしもこれが偽物なら、公文書偽造も.…あら? 本物?」
「しっかりと本物ですが何か?」
「魔法で移動したのではないの?」
「千歳空港経由、アメリゴ軍厚木基地かーらーの、アリゾナ航空基地です。こちらが、アメリゴ海兵隊・キャンプ千歳のクロム基地司令の証明書、こっちがアリゾナ航空基地の基地司令官ハワード・マッケンジー司令の証明ですが」
はい、全て本物。
ただし、昨日、忍冬師範と別れてから、師範が水晶柱でアリゾナに移動したらしい。
そして現地のヘキサグラム責任者のトーマスさんとの話し合いの結果、本物の証明書を発行して貰ったらしい。
以前、忍冬師範には魔導具を色々とプレゼントしたこともあったし、今回の『水晶柱の鍵』の代価としてもこれぐらいはさせて欲しいってことらしい。
おかげさまで、助かりました。
「う、嘘よ……こんなの出鱈目だわ、偽物ね?」
「疑うのでしたら、キャンプ千歳のクロム司令やアリゾナ基地司令のハワード中将にご確認を」
祐太郎がそう説明して、手渡した証明書を取り返す。
だが、進藤室長は真っ赤な顔で震えながら、俺たちの言葉を信用していないかのように頭を左右に振っている。
「魔法ね、この書類も全て魔法で用意したのでしょう? そんなのは通用しないわ、魔法による証拠の捏造も法律で罰せられるから。貴方たちを現行犯逮捕しますわ」
「……はぁ、それじゃあ、ちょっと待っていてください……」
すぐさま祐太郎がスマホで電話する。
そして誰かと話をしてから、スマホを進藤室長に手渡した。
「はい、どうぞ。キャンプ千歳のクロム司令官です。進藤室長も外務省の方なら、英語くらいは話せますよね?」
「え……あの、ハロー……」
そこからは、進藤室長が頭をペコペコと下げながら、必死に何かを話している。
そして五分後、進藤室長は無言で校長室から出ていった。
「……では、俺たちもこれで失礼します」
ようやく解放されたけど、もう昼飯食う時間なんてないんだけど。
………
……
…
そして放課後。
今日の件についての反省会。
「まず、今回はうまく誤魔化してくれたし、アメリゴも協力してくれたから無事何事もなかった。ただ、俺たちが入管法違反なのは事実だから、今後は迂闊なことはしないようにするしかない」
「ユータロの言う通りだな。俺も、キャンプ千歳とアリゾナ空軍基地に魔導具のサンプルを提出することになったし、今後はできる限り日本国内で活動するようにしないとダメだわ」
「緊急時以外は……でしょ?」
「「 その通り‼︎ 」」
兎にも角にも、今回は大人の立ち回りに驚かされたわ。
フットワークが軽いのが羨ましいし、なによりもコネと交渉力については、俺たちよりも数段上。
まだまだ、俺たちはガキなんだなぁと改めて思い知らされたわ。
「でも、今後、何かあった場合は、キャンプ千歳のクロム司令が力添えしてくれることにはなったから、その点だけは助かるわ」
「アメリゴ関係の場合はね。同じような事象が、他国で起きたとしても、今度は動けないぞ?」
「そこだよ。そもそも、俺たちの映っている動画がインターネットに流れている理由を知りたいわ」
「そんじゃ、聞きますか、トーマスさんに」
今回の手回しのお礼も兼ねて電話したよ。
すると、動画を流したのはアレクサンダー州知事の命令だったらしい。
それも、州警察が撮影していた動画だったそうで、俺たちのおかげで、州知事としての怠慢も何もかも潰されたっていう『逆恨み』から、動画を流したんだってさ。
ガキかよ。
でも、そのおかげで、俺が異世界にゲートを繋げることが世界中に知れ渡ってもう大変……とまでは行かなかったらしい。
動画が流れてから、すぐさまヘキサグラムが手を回して動画を削除、たまたま見ていた奴らが噂を流したらしい。
それでも、火のないところに煙は立たず。
今回のような騒動になったらしい。
「はぁ。魔法で海外に瞬時に行っても、問題のない許可証が欲しいわ」
「無理だな」
「無理でしょうね……」
「ですよね〜。まあ、暫くは自重しますか」
ということで、今回の異世界から来た、エルフのフリューゲルを助けたことによる一連の騒動は、無事に幕引きとなった。
………
……
…
「なにか、私が入学手続きとかで忙しい間に、色々と楽しそうなことをしていましたのね?」
フリューゲルを見送った日の週末。
俺のマンションで今後の活動について話し合いをしていたんだけどね。
久しぶりの瀬川先輩も参加しての最初の言葉が、これである。
「は、はい、この件につきましてはですね、色々とありまして」
「別に、私は怒っているわけではありません。ただ、一言、私にも相談して欲しかったなぁと……」
「先輩も大学入学が決まったばかりですし、色々と忙しいかと……すいませんでしたぁ‼︎」
「誠に、申し訳ない‼︎」
「申し訳ありません」
俺と祐太郎、新山さんの綺麗な謝罪。
まあ、先輩もそれぐらいは理解していたらしく、すぐに笑顔になっていた。
「でも、先に一言いってもらえたら、深淵の書庫で色々と操作できたのですよ?」
「「「 ですよね〜 」」」
そうだよ、情報収集という点については、先輩が最強なんだよ。
「私の深淵の書庫もレベルが上がってますからね。情報収集だけでなく、データベースなどの書き換えとかも可能ですわ」
「マジか。ついにスーパーハッカーにまで突入しましたか」
「まあ、やりませんけどね。そういう手段も可能だということぐらいで、覚えておいてください」
これは心強い。
さて、この話はこれぐらいにして、今後はどうするか。
今日はその辺りの話を詰めることにしよう、そうしよう。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。