第百二十五話・傍若無人を、蜘蛛の子を散らすように(かぁ〜、そう来たかぁ)
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フリューゲルさんに対する一問一答も無事に終わり。
あとは、水晶柱から彼女を送り届けるだけ。
彼女の身支度といっても、着の身着のままで発見されたので、こちらでは換えに用意したらしい患者衣に着替えていたらしい。
すぐさま洗濯されて綺麗に畳まれた彼女の服が用意されると、俺たちが目の前にいるにも関わらず、堂々と全裸になって着替え始めたぞ?
──ペシ
「うぉぁ、何も見えない、何がどうなっている?」
「乙葉くんは見てはダメです、築地くんは自粛してください‼︎」
あ、新山さんが俺の目を塞いでいるのか。
何故に祐太郎はフリーなのか解せぬ。
「うん。フリューゲルさん、その体の紋様は、種族特有のものなのか?」
「これは、エルヴィンに伝わる儀式紋様。エルヴィンに生まれたものは、必ず体に浮かび上がる。これは、光魔力を制御する術式、こっちは怪我を癒す術式……」
「なるほどなぁ。それで、エルヴィンって、羞恥心とかはないのか?」
「裸を見られても問題はない。ただ、エルヴィンの掟はある」
ほほう、それはまた興味があるんだけど、新山さんにクルッと回されて、祐太郎とフリューゲルさんの声が背中きら聞こえるんだよ。
「へぇ、掟って?」
「エルヴィンは、体に記された紋様を見せたものと婚姻する。怪我の治療などで見られるのは構わないが、自分から見せた場合、エルヴィンはその者と魂の契りを結ばないとならない」
「「 は? 」」
俺と祐太郎は、思わず突っ込んだよ。
だってさ、さっきのフリューゲルさんの行動って、明らかに自発的に見せにきたよね?
「さっきの、フリューゲルさんが服を脱いだのは、それは必要であって見せたのではないよね?」
「違う。わたしは、貴方に紋章を見せたかった、だから、これは婚姻。でも、見せたかった相手は、目を塞がれて見られなかったから無効」
「あ、俺じゃないのか。よし、セーフだ」
「ユータロ、それじゃあ、フリューゲルさんの見せたかった相手って俺のことかよ‼︎」
待て待て、なんでいきなりモテ期に突入するんだよ。
俺が彼女に何をした?
命を助けた? あ、納得。
「ダメです‼︎ 乙葉くんは、わたしと、わたしと……プシュ〜」
あ、目には見えないけど、新山さんの思考回路が沸騰したな。
プシュ〜、頂きました。
「ニイヤマコハル、大丈夫。わたしは二番でいい。でも、子供は残したい」
「待て待て待てぇぇぇ。フリューゲルさん、俺はダメですか?」
「ツキジユウタロウ、貴方の光魔力は力の光魔力。私が求めるのは創造の光魔力だから、二番ならいい」
「よっしゃ‼︎」
なんだよ、力の光魔力って。
そして、今の話だと、俺が創造の光魔力なのか? 光魔力って、そもそもなに?
「ユータロ、そこ、ガッツポーズするところか?」
「目隠しされているのに、よく気がついたな。俺がモテないのは納得がいかんが、二番なら、まあ、妥協だ。相手はエルフだから、より純粋な魔力を求めたんだろうさ」
「納得‼︎」
「納得、じゃありません。さあ、早く着替えてください、そして、早く鏡刻界に帰ってください‼︎」
「仕方ない、今日は諦める」
「ずっと諦めてください‼︎」
目に見えない火花が散っているようだけどさ、俺、ずっと新山さんに後ろから目隠しされているわけでさ、背中に感じるのよ、乙女のパワー、なんでもできる証拠が。
「むう。コハル、エルヴィンの民は、強い光魔力を持つものは共有するのが決まり」
「ここは日本です、地球です‼︎」
「裏地球。私たちの裏の世界。主導権は、私たちにある」
「私たちの世界です‼︎」
「あの〜。そろそろ出ないとですね、外で車を待たせているのですが」
ようやくトーマスさんが、仲裁に入った。
よかったわ、俺もおさまるタイミングだ。
「分かった」
「ほら、築地くんも乙葉くんも‼︎」
「「 巻き添えかよ 」」
そのままトーマスさんの後をついて建物の外にでる。そこには、アリゾナ州警察の車両が待機しており、俺たちは州警察に警備されながら、エアポート・メサから少し離れた場所にある『水晶柱監視施設』へと向かう。
まあ、俺たちが出てきたところなんだけどさ、俺たちがそこから姿を表したものだから、ヘキサグラムの研究員たちが集まっていろいろと調べているらしい。
「おや、マスター・オトハ。もうお帰りですか?」
「やあキャサリン。俺たちは学生だぜ、はやく帰らないと明日も学校なんだよ」
そんな挨拶をしていたんだけどさ、妙に新山さんとフリューゲルの視線が痛い。
「築地くんも、気をつけて帰ってくださいね」
「サンキュー。キャサリンも元気でな、マックスによろしく」
軽くキスを交わしつつ挨拶をする祐太郎。
まて、お前たち、いつのまに仲良くなった?
「それじゃあ、乙葉くん、映像記録を撮りたいから、始めるときは合図をお願いします」
「はいはい……って、記録撮るの?」
「当然。超常現象は全て記録しておかないとね。よろしく頼むよ」
それじゃあ、始めますか。
水晶柱の前に立って、空間収納から『鏡刻界の鍵』を取り出す。
そこに魔力を循環させて、水晶柱に向かって突き刺した。
──カチッ
よし、鍵穴が発生した。
あとはゆっくりと鍵を回すと、水晶柱に銀色の扉が発生する。
──ウォォォォ‼︎
周囲で見ていたものたちは、驚きで声を上げている。まあ、驚愕や動揺なので問題はない。
一部からは畏怖の感情も感知できる。
感知できる? なんで?
思わず周囲を見渡すけど、よく考えたらゴーグルつけっぱなしだったわ。
でも、いつのまに、周囲の感情まで認識できるようになった?
「ピッ……神威制御の習得により、『鑑定眼』は『天啓眼』にバージョンアップされています。また、空間収納のグレードも上がっています。各種自動補正も行われております』
オーケー、ありがとう鑑定眼あらため天啓眼。
それがゴーグルとリンクしているんだね?
『ピッ……自動リンクです。任意に解除も可能です』
今は解除で。
さてと、それじゃあ最後の仕上げと行きますか。
この扉を開くと、フリューゲルさんの故郷にある水晶柱に接続できればよしだ。
──ガチャッ
ノブを回して扉を開く。
すると、そこには見たことのある街並みが広がっている。
まあ、今日三度目の、どっかの異世界の街並みだけどね。
「……クルーラカーン。私のいた街。ありがとう」
フリューゲルが笑顔で話しかけてきた。
よし、これで彼女は帰れる。
「オトハ、ツキジ、コハル、感謝する。ほんとうに、ありがとう」
そう笑いながら告げると、フリューゲルは扉の向こうに旅立った。
そして扉の向こう、街道の真ん中で手を振ると、振り返って走っていった。
「あ……ああ……本物のエルフが、異世界に帰っていった……。やっと、会話ができるようになったのに」
ガクッと膝から落ちていくトーマス。
待て、今、なんていった?
「トーマスさん、会話できるようになったのですか?」
「は、はい。というか、フリューゲルさんが、我々の言葉を話していたのではないですか?」
「え? それっていつから?」
よくよく確認してみると、どうやらフリューゲルさんが新山さんと話をしていた時は、すでに我々のわかる言語で話をしていたらしい。
その証拠に、トーマスさんにもあの場の会話が筒抜けになっていたそうだ。
「……フリューゲルさんって、念話でも使っていたのかなぁ? もしくは、俺たちの会話から言語を覚えた?」
「可能性はあるな。まあ、なんにせよ、オトヤンはとっとと扉を閉めた方がいい。周りの研究員たちが、今にも扉の向こうに行きそうになっているぞ」
「せやな。そんじゃ閉じますか」
そう告げながらドアノブを握るんだけどさ。
「扉から離れたまえ。ここから先は、州警察の管轄になる。この言葉の意味ぐらいは理解できるよね?」
護衛についてきていた州警察が、俺たちに向かって銃を構える。
いや、俺たちだけではない。
その場にいたヘキサグラムの研究員たちの後ろでも、警察官が銃を突きつけていた。
「あの〜、トーマスさん、これってなんの茶番ですか?」
「し、知らない、おい、我々がヘキサグラムの研究員と知って、そのようなことをしているのか?」
警察官の中でも、リーダー格のような人に問いかけるトーマス。
だけど、警察官はニヤニヤと笑っている。
「ええ。このエアポート・メサの異世界ゲートは、アリゾナ州管轄になるだけです。貴様らのような、気持ちの悪い組織などに、渡すわけにはいきませんのでね」
警察官の背後から、恰幅のいい髭親父が姿を表した。
「あ、貴方は、アレクサンダー州知事。なぜ、このようなことをするのですか?」
「なぜ? それは簡単ですよ。我がアリゾナ州を、より豊かにするためですよ。ただの観光地であったアリゾナ州はもう終わりです、これからは、異世界へのエアポートとして、アリゾナ州は立ち上がるのですから」
あ〜。
本当に茶番が始まったよ。
そして警察官も俺たちに近寄ってきたので、俺と祐太郎、新山さんは目で合図をして、素早く動く。
──ガチャッ
俺は速攻で扉を閉じて鍵を引き抜く。
新山さんは、周囲に怪我人がいないことを確認すると、範囲型の防御壁を発動した。
そして祐太郎は。
──ドッゴォォォォォォン
足に闘気を纏い、一瞬で近くの警察官たちにボディブローを叩き込む。
まさに神速、そこに俺も追撃を開始。
「1式力の矢っ、射距離延長の連射狙撃モード‼︎」
──シュシュシュシュンッ
次々と飛んでいく力の矢。
それは警察官の右手を狙い撃ちし、手にした銃を落としていく。
さらに拾われないように、力の矢で地面に縫い付けると、キャサリンとマックスもすぐに動き始めた‼︎
「「光球っ‼︎」」
アレクサンダーの目に向かって、光球を発動したらしい。
突然の眩しさに、アレクサンダーは視界を奪われ、フラフラとしている。
そこで後方から、報告を受けたらしいヘキサグラムの警備員たちも到着。
次々と警察官たちとの乱戦に突入した。
「新山さんは、この場で待機、怪我人がでたらここに送り込むから‼︎」
「はいっ、気をつけてね」
「可能な限り‼︎」
あとは、俺と祐太郎の蹂躙戦。
いくら警察官が訓練を受けていようと、近寄るまえに拘束の矢を打ち込んで無力化するだけ。
背後からくる奴らについては、祐太郎が機甲拳で次々と戦闘不能レベルまで殴り倒している。
まあ、10分もすれば、大地に転がってピリピリと麻痺している警察官の姿がその場に転がっているだけである。
「貴様ぁぁぁ、この俺に、こんなことをしてタダで済むと思っているのかぁ。まもなく州兵も到着する、そうなったら、貴様らは終わりだ‼︎」
怒声を上げるアレクサンダーだが、トーマスは冷静な顔である。
「州知事、兵は動きませんよ。彼らが到着した時に、ヘキサグラム本部に連絡を入れてあります。その時点で、彼らは国賓として扱えと、大統領からも連絡を受けていますから」
「な、なんだと‼︎ ふざけるな、そんな道理が通用するとでも思っているのか? 州兵の司令権は俺にあるんだぞ‼︎」
口から泡を吐きながら叫ぶ州知事だけど、この時点でガックリと肩を落とした。
「知らんわ。あとはトーマスさんに任せますよ、俺たちは、降りかかる火の粉を振り払っただけですからね」
「どの国でも、腐った議員とかはいるものなんだよなぁ。銃を突きつけられた時は、マジでビビったけどな」
「この件は、ヘキサグラムで対応をお願いします。では、私たちはこれで、失礼します」
新山さんの言葉ののち、俺は水晶柱に魔力を注ぎ、転移した。
くる時に中継した場所には出ず、真っ直ぐに妖魔特区内の水晶柱の前に姿が現れた時は、びっくりしたけどね。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「……早いお帰りじゃのう」
柱の前では、忍冬師範と白桃姫が待ってましたとさ。
「まあ、気合い? っていうか、帰りは一発で帰って来れたのはどうして?」
「そりゃあ、この場所は、お主たちがよく知っている場所じゃから。これで、この地とセドナの水晶柱は接続したのじゃよ」
へ? 接続?
「白桃姫、つまりはあれか? 以後は、妖魔特区の水晶柱とセドナの水晶柱は、自由に行き来できるようになったということか?」
「築地よ、その通りじゃ。妾たちの世界にはな、水晶柱という秘術があってのう。それを使えば、世界各地にある水晶柱を、自由に行き来できるのじゃよ」
「それって、自由に世界旅行ができるのですか?」
「待て待て、お前らちょっと待て。パスポートもなく、税関も無視して海外に行く気なのか?」
忍冬師範、それは今更ですぜ。
「いや、無視も何も、俺たちは、今セドナから戻って来たところだけど?」
「ええ。忍冬師父、まさにオトヤンの言う通りですが」
「人道的行動として認めてください。異世界のエルフを助けて来たのです」
そこからは説明タイム。
どうしてセドナに向かうことになったのかから、全て話しましたよ、そりゃあもう。
そして一通りの説明の後で、忍冬師範は頭を抱えてからあちこちに電話していたけどね。
「それで、エルフはどうなったのじゃ?」
「エルフというか、フリューゲルさんですね。無事に故郷に送り返しましたよ?」
「ええ。乙葉くんの力で、ええっと」
「クルーラカーンって言っていたよな。そこにゲートを繋げて、彼女は帰りましたが」
この説明で、白桃姫が頭を抱える。
なんだよ、今日は随分と頭を抱える人が多いぞ。
「待て築地よ。今、クルーラカーンと申したか?」
「ああ。白桃姫は知っているのか?」
「クルーラカーンといえば、ランガラン大陸にあるララパーナ王国の王都じゃな。妾たち魔族の住む大陸の東方にある大陸の古い王国じゃよ」
「さすがは伯爵家の魔族、詳しいな」
「侯爵家じゃ。しかも、ララパーナのフリューゲルといえば、王家に仕える宮廷魔術師ではないか」
「「「 マジ(ですか?) 」」」
それはびっくりだわ。
まあ、そんな凄いところの人を助けたのだから、後日改めてお礼に……って無理だわ、向こうからこっちに来るには転移門が必要だわ。
「そうか、まさかララパーナとはなぁ」
「白桃姫さん、その国って何かあるのですか? 悪政に苦しめられているとか、国王が最低な人格とか」
「小春や、それは偏見すぎるわ。逆じゃよ、逆。ララパーナの女王はな、代々、善政を敷いてきた良き女王じゃ。水晶柱という魔導システムを構築したのも、あの国の手柄じゃからな」
でたな、新しい単語。
「あ、済まないが、その話は俺も混ぜてくれると助かるのだが。それと祐太郎、浩介、新山さん。三人は、キャンプ千歳経由アメリゴ軍厚木基地経由で、アメリゴの航空機でセドナに向かったことにしたので。帰りも同じでな」
「は、はいっ‼︎」
「どうしてそんな面倒なことを?」
「日本から、手続きを取らずに海外に出たんだ。密航として扱われるからな」
つまり、アメリゴ軍基地に特別招待されて、そこからアメリゴ軍施設経由でアメリゴ軍アリゾナ航空基地に向かったと。
その基地内で俺たちが『何かをして、それが終わって』アメリゴ軍基地経由で帰ってきたと言うことか。
それ、大丈夫なのか?
「超法規的なんだが、そうしておけば、色々と面倒なことにはならない。浩介の親父さん経由で、キャンプ千歳のヘキサグラムに連絡入れてもらったから問題はない」
マジかぁ。
まあ、一瞬で転移したから、そういう理由でもつけないと、また疑われるね。
何はともあれ、忍冬師範、ありがとうございます‼︎
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




