第百二十四話・夷険一節 、槿花一日の栄かしら?(見つめてごらんよ、鏡刻界)
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エルフの少女・フリューゲルを助けるため、俺は切り札の一つである『鏡刻界の鍵』を使うことにした。
まあ、実際に使ってくれたのは祐太郎だし、お陰で異世界との接続も確認できたところまではいい。
その結果、祐太郎は急性魔力欠乏症に陥ってしまい、その回復になんだかんだしていたんだけどさ、トーマスさんが部屋に入ってきていたのに気がつかなかったんだよ。
結果、俺たちが『鏡刻界への扉』を開けるところを見られてしまいました。
俺たちに合掌。
それならば、トーマスさんには『ある程度の真実』を伝えることにしよう。
祐太郎も回復したけど、今しばらくはベッドに横になって身体を休めてもらい、俺と新山さんで話をすることにした。
「……ということでですね、俺は魔法で、鏡刻界という異世界と繋がる門を開くことができるのですよ」
そう説明すると、先ほど祐太郎が開いたあたりに立ち、『鏡刻界の鍵』を何もない空間に差し込む。
──ガチャッ
よし、鍵穴は反応した。
祐太郎の時と違うのは、俺は破壊神の加護を使っておらず、俺自身の魔力を鍵にこめて使ったということ。
そして鍵を捻ると、先ほどと同じように銀の扉が現れたので、ノブを回して扉を開く。
──ガチャッ
うん、先ほどと同じ街並みが見える。
どうやら、祐太郎がブライガーの加護を使って開いた時と、俺が普通に開いた時では、同じように開くことができるらしい。
それなら、破壊神の神威を解放して開いたらどうなる?
──ゴクリ
思わず息を呑むけど、まだ神威の制御ができてない今は、そんな危険なことはしないに限る。
それよりも、今は、扉の前に立ち、呆然とした表情で扉の向こうの世界を眺めているトーマスさんだ。
「こ、これは……夢にまでみた異世界……」
フラフラと歩き始めたトーマスさんを、俺は後ろから羽交締めで押さえる。
そして新山さんが扉を閉じて鍵を引き抜いたので、トーマスさんを解放した。
「な、何故です、どうして止めるのですか? 先程の光景、あれは本物の異世界なのですよね?」
「本物だから止めたのですよ。俺たちでさえ、まだ、扉の向こうには足を踏み入れていないんです。万が一にも、戻れなくなる可能性があるんですよ?」
「それにですね、私たちの世界と異世界をつなぐ扉、あのおかげで、向こうの世界の環境がこちらに流れてくるのを抑えているのです。向こうの世界が、私たちの世界と同じとは限りませんよ?」
その通りだよ。
フリューゲルさんがこっちにきて、光魔力がなくて苦しんでいるように、向こうの世界に俺たちが行ったとしても、無事でいられる保証はないんだよ。
万が一にも、向こうに行った瞬間に即死なんてことになったら、大変だからね。
「う、ううむ……しかし……」
「しかしも、カカシもありませんからね。それとですね、この件はトーマスさんだけの秘密にしてください、間違ってもヘキサグラム上層部とかには報告しないように」
「善処する。研究施設内で起こったことは、全て報告する義務があるのでな。できる限りは誤魔化すことにする」
よし。
しかし、この自動翻訳スキルって万能過ぎないか?
相手の言葉が翻訳されて俺に届くのはわかるが、俺が意図して日本のことわざや言い回しをしても、うまく伝わっているのがすごいわ。
単純な翻訳スキルっていうだけじゃないんだろうなぁ。さすがは神様のチートスキルだよ。
「オトヤン、話は終わったのか?」
「ああ、無事にね。それよりもユータロの調子はどうだ?」
「特に問題はない……っていうか、オトヤンはなんで平気なんだ?」
そこな。
鍵に込める魔力については、まあ体の延長で魔力を循環しただけだから消費してないし。
扉を実体化した時には500MPほど持っていかれたけど、開いてからは秒間1MPの消費だったからね。
魔力がマックスだったら、俺単体なら八時間は扉を開きっぱなしにできるレベルだわ。
祐太郎のMPなら、600ちょいなので扉を開いてから100秒間のみ。大体1分というところだな。
「扉の開放に500、あとは秒間1ポイントって言えば、理解できるか?」
「オッケー。そりゃあ、俺じゃあ無理だわ。急激な魔力枯渇の理由も理解できるわ」
「私では開くことができないのですね?」
「そうなるよなぁ。まあ、魔力担当は俺だから、新山さんは無理はしないでね」
「うん‼︎」
俺たちがそんな話をしていると、メイドさんが扉をノックしてから入ってくる。
「所長。エルフの少女が目醒めました」
「そうかそうか。それは良かった」
「よし、それじゃあ状況説明をして、お帰りいただくとしますか」
俺がそう話しながら立ち上がると、トーマスは、え? っていう顔をしたんだが。
「もう帰してしまうのですか? これから、エルフからいろいろな話を聞きたいのですが」
「聞けばいいけど、翻訳なんてしないよ? 俺たちは、エルフが死にそうだっていうから助けにきただけだし、本人が帰りたいっていうのなら帰すだけだよ?」
「そのために来たんだから、当然だな」
「こっちの世界では、あの子が満足に食べられるものがないのですよ?」
俺たちの剣幕に、トーマスさんも困り果てている。
まあ、研究施設の責任者としては、異世界からの来訪者をみすみす帰すなど言語道断なんだろうけどさ。
そこは人道的にいこうよ。
「そ、それでは、一時間だけ、わたしの質問に答えてもらう。これでどうだね?」
「その一時間の間に、実働班がやってきて、俺たちを征圧するんじゃねーの?」
「そんなことはない。プロフェッサー・オトハの息子で魔術師相手に、そんなことをしたらどうなるか.…」
何かを想像して、ブルッと震えるトーマス。
「まあまあ、ユータロの心配もわかるけどさ、ここは信じてあげようよ。たった30分だし、それぐらいなら構わないだろうからね」
「え? ええっと、一時間だけお願いしたく」
「そうですね。わたしは、フリューゲルさんのバイタルを確認していますから、少しでも調子が悪くなったらそこで終わりということで」
新山さんのトドメの一言。
これで、トーマスさんも頷くしかなかった。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
フリューゲルさんの部屋に向かうと、彼女はベッドから起きて椅子に座っていた。
『先ほどは、ありがとうございました』
「構わん構わん。困った時は、お互い様だよ。それよりもさ、フリューゲルさんは、故郷に帰りたい?」
『帰りたい……けれど、帰る方法がわからない。転移門は魔族の伝承術式なので、エルフでも扱うことはできない』
なる。
そりゃあ、絶望的な顔にもなるわ。
「俺は、鏡刻界へと繋がる扉を作り出せる。そこを通ったら、向こうの世界に帰ることはできるかもしれないが、どうする?」
『お願いだ。わたしは、帰りたい。帰って、森の皆に伝えなくてはならない』
「伝える? 何かあったの?」
『魔人王フォート・ノーマが、裏地球という世界に繋がる転移門を開こうとしている。そのために、多くの命を生贄に捧げるために、異種族狩りを開始した』
ほう?
そりゃあ大ごとだけど、その裏地球って、俺たちの世界のことだよね?
「裏地球って、ここだよね? 確か、魔族が500年に一度、大侵攻を行う目的地のことだよね?」
そう問いかけると、フリューゲルは震えながら頷いた。
そうかそうか。
その魔人王って奴は、まだこっちの世界に来ようとしているのか。
「そのことなら安心して。このまえ、こっちの世界ではいくつもの転移門が発生したんだよ。でも、それは俺が封じたから」
『嘘……本当に?』
「ああ。その証拠に、こっちの世界には転移門があった場所に水晶柱がいくつも生まれたんだよ」
『水晶柱がいくつも? それはおかしい。水晶柱は、鏡刻界にしか発生しない。もしもそれが、こっちの世界にあるというなら、なにか別の出来事がおこるかも』
え?
また何か起こるの?
もう勘弁してよ。
「あの、乙葉くん。そろそろ、わしも質問をしたいのだけど、通訳をお願いしていいかな?」
「あ、はいはい。それじゃあフリューゲルさん、少し質問をさせてください。答えたくなかったら、答えなくていいからね」
『わかった』
そこからはトーマスさんの質問。
鏡刻界の文化、国の存在、生態系、魔法についてなどなど、鏡刻界の特徴がどのようなものなのかを質問していた。
それらについては、フリューゲルとしても問題ないと判断したのか、答えが次々と返っていく。
傍で待機している書記官がメモを取り、同時に会話データを録音している。
「なるほど。鏡刻界という世界は、物質文明ではなく精神文明のような感じがしますね。そちらとこちらを自由に行き来できる方法はありますか?」
基本的には魔族の転移門がそれに当たるらしい。
あと、水晶柱同士を魔力で繋ぐ転移ゲートというものもあるらしい。
それを使えば、国家で管理されている許可証さえあれば、大都市間の往来は普通に行われているそうで。
逆転の発想なら、こちらの世界に水晶柱があれば、ひょっとしたら移動できるかもという話ではあるらしいが、そもそも、こっちの世界の水晶柱を制御できるものがいないため、机上の空論になるらしい。
そのあとも、いろいろな話を続けているのだが、最後の質問が、とんでもなかった。
「不老不死……可能ですか?」
『是。神になれば可能。それと、わたしたちエルヴィンは不老。だけど、いつかは死が訪れる』
「ありがとうございます。乙葉くん、これでもう大丈夫です。あとは、彼女を送り返してあげてください」
おっと、素直で結構。
それじゃあ、さっそくだけど、フリューゲルさんをお見送りしますか。
………
……
…
鏡刻界・ランガラン大陸、ラナパーナ王国では。
マリア・カムラ・ラナパーナは焦っていた。
大陸の外れにある小さな王国であるにもかかわらず、ラナパーナ王国は豊かであった。
海と山の狭間にある小さな平地に居を構えており、普通に他国からラナパーナ王国に向かうためには、広大なエッゾ大山脈を超える必要がある。
だが、初代女王シーラ・カムラ・ラナパーナは神より授かった加護により、『水晶柱を作り出し、複数の水晶柱を移動できる秘術』をさずかった。
これにより、ラナパーナ王国は交渉の末に他国をはじめとした大陸の主要都市に水晶柱を設置し、大規模な交易が始まったのである。
水晶柱を生み出し制御する秘術は、ラナパーナ王国女王にのみ伝えられており、これにより ラナパーナ王国は幾度となく他国からの侵略に怯えることとなったのだが、ある日、女王は水晶柱の接続先を異世界に切り替え、勇者召喚を行うことにより、他国からの侵略を排除してきた。
それが、ラナパーナ王国に伝わる『聖勇者』の物語である。
その後、遥かな時間の中で、この聖勇者の物語は実話ではなく物語として伝えられ、今に至る。
「……その、我が国を守る力であるべき水晶柱が、全て消えたとは……」
玉座に座り、頭を抱えているマリア。
過去にも、戦により水晶柱が破壊されたことは幾度もあったのだが、歴代女王は、その都度、神世の力により水晶柱を復元、あるいは修復してきたのである。
だが、今の女王には、その力がない。
とある事情により、今の女王には、その力が受け繋がれていないのである。
「フリューゲルは、フリューゲルはまだ見つからないのですか? 筆頭宮廷魔術師のフリューゲルの行方は、まだわからないのですか?」
謁見の間に集まっている家臣団に問いかけるが、誰も良い答えを持つものはいない。
騎士団を各地に派遣しておりますとか、占いによると西の大陸におります、とか。
どれもこれも眉唾もので、確かな答えなどない。
このままでは、いつ、また他国からの侵略があるのかもわからない。
海の向こう、西方にあるウィルスプ大陸、そこは鏡刻界最大の大陸にして魔族の直轄地である。
彼らは水晶柱に頼ることなく、飛行術式を施した船により侵略を始めたという噂が流れている。
もしも、その矛先がラナパーナ王国に向いたとしたなら、数日の間に、王国は滅びるであろう。
それほどまでに、魔族の力は絶大なのである。
長い歴史の中で、魔族が多種族の治める大陸に進出したという歴史はなかった。
だが、此度の魔族による『異世界大進軍』が失敗に終わり、転移門が消滅した。
今代の魔人王フォート・ノーマは、それならばと魔族領に残された水晶柱を用いて、今一度、転移門を開くべく儀式の準備を始めたという。
星辰の揃わない時期に転移門を開くためには、媒体である水晶柱に捧ぐ魔力は通常時の十倍以上。
それを補うために、魔族は他大陸に対して宣戦布告し、侵略を開始したのである。
「どうして……なんでわたしが女王の時に、こんな事が起こるのよ……こうなったら、異世界から勇者を召喚するわ、それしか道がないわよね?」
「失礼ながら女王さま。その勇者召喚のために必要な水晶柱が、今の我が国には存在しませんが?」
「分かっているわよ‼︎ だから、これからその方法を探すのでしょう? とにかく、今は、魔族の矛先がこっちに向かないように祈るしかないじゃない。その間に、勇者召喚方法を探すのよ」
女王の命令は絶対。
家臣団は一礼してから、その場を離れる。
そして、マリアも自室に戻ると、ベランダから空を眺める。
「ああ……勇者さま。願わくば、我が国を窮地から守るために、今一度、我が国に姿を表せたまえ」
両手を組み、星空に祈る。
空に浮かんでいる3つの月は、その女王の祈りを聞き届けたかのように、淡く輝いていた。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
・今回のわかりづらいネタ
あるにはあるが、かなり難しい。
ちなみに、聖戦士ダ●バインではない。




