第百二十一話・有厚無厚は騎虎の勢い(利用されるのは嫌いでね?)
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はい、俺ちゃんは、自宅に帰りました。
親父に電話したらさ、晩飯だから一回帰ってこいと言われたので、祐太郎と新山さんもご一緒に我が家に戻ってきました。
「それで、今日は庭でバーベキューなのか。しかも、晋太郎おじさんもいるし」
「いや、いい肉が手に入ったからな、お裾分けで持ってきたのじゃよ。祐太郎もいるならちょうどいい、晩飯はここで食べるとしようか」
あ、祐太郎のお袋さんと、うちのお袋がおにぎり作っているし。そこに新山さんまで乱入……瀬川先輩もいつの間に?
「あ、うちの親父が誘ったらしい。美味しいものを食べるのは、大勢いた方がいいってさ」
「そうかそうか、それじゃあ遠慮なく食べさせてもらうわ」
そこから先は、大バーベキューパーティ。
それも一段落の雰囲気が出たので、親父に話を振ることにした。
「なあ親父、ヘキサグラムに連絡して欲しいんだが」
「なんだ唐突に? なにかあったのか?」
「実は……」
はい、暴露しましたよ。
日本政府のやり方とか、白桃姫から聞いた話とか、とにかく全てをね。
隠し事していても、いつかバレるだろうしバレた後が怖いから、先に全てを話しておくのが正道だよね。
「……なるほどなぁ。エルフの少女を助けたいと、それでアメリゴまで行く必要があると。だから、先に連絡してほしいというのも理解した」
そこまで告げると、いきなりスマホを取り出してどこかに連絡している。
英語で話しているけどさ、俺には自動翻訳スキルがあるから、全て日本語として理解できるからわかるよ、連絡先はヘキサグラムだよね。
「……よし、これが先方の連絡先で、向こうに着いたら、すぐにそこに連絡するといい。行き先はどこかわからないが、すぐにヘキサグラム本部からの迎えが来るはずだから」
「それで、飛行機で飛んで行くの? それとも箒?」
「あ〜。今回は、その他の手段で……かな?」
親父との話し合いも終わったので、あとは白桃姫の元に向かい、水晶柱を媒体に転移門を開くだけ。
まあ、鏡刻界に繋がる分けじゃないから、安全だよね?
………
……
…
夜。
新山さん、瀬川先輩、祐太郎は帰宅。
ええ、新山さんはしっかりと送ってきましたよ、近所に引っ越してきたからね。
瀬川先輩は、箒に乗って帰ったので問題なし、飛行中の魔法の箒は、防御フィールドが張られるから安全なんだよね。
そして夜も寝静まった頃、俺は部屋の中で魔導書を開く。
以前、学校の部室にある鏡を媒体に、転移術式を試したことがあったよね?
今なら、もっと上手く開けるんじゃないかって思うわけよ。
実際には、妖魔特区内の水晶柱を使うんだけどさ、おさらい程度に試してみたいわけよ。
「我が手の魔力よ、鎖となりて彼方の道を繋ぐべし。我が心、我が魂、力となりて道を示せ……転移門オープン‼︎」
──ブゥン
部屋にある姿見が、虹色に輝く。
これは見たことがあるやつだ、去年、白桃姫がティロ・フィナーレに来た時に開いていたやつだ。
そうかそうか、これで開いていたのか。
──スッ
鏡の中に、ゆっくりと手を翳し、そして押し込む。
すると、水の中に手を差し込んだような抵抗感と、何か柔らかい感触。
まんじゅうのような、アンパンのような。
程よい柔らかさで、弾力性もある。
なんだろ、これは?
「……謎。これって、取り出せるのかなぁ?」
軽く握ってみた時、手の甲に鋭い痛みが走った。
「痛いっ‼︎」
慌てて手を引っ張りだすと、右手甲が爪か、もしくはナイフかなにかのような、鋭利な刃物で切り裂かれたような跡がある。
恐らくは全力だったのかもしれないが、斬耐性のある俺にしてみれば、普通のナイフではびくともしない。
傷というよりもミミズ腫れのような状態である。
「うーん。この向こう側が、何か危険な生物がいる場所の可能性が高いか。手が濡れているということは、水の中? いや、これだけで特定するには危険か」
単独での魔法実験は危険と判断。
勝負は明日の放課後にかけることにしよう。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
翌日、朝。
確か、昼に迎えにくるとは話していたけどさ、自宅なのか学校なのかよくわからない。
だから、とりあえずは学生の本分である学業に勤しむことにしよう。
今じゃあ、姿を隠すことなく、祐太郎の家の庭から空高く飛び上がるものだからさ、路上ではスマホ片手に撮影している人や中継車が俺たちを映しているわけよ。
TV局は流石にモザイク処理してくれているらしいけど、今更なんの意味があるのかと、小一時間問い詰めたいね。
「オトヤン、近所の幼稚園がさ、魔法使いさんに会いたいって子供達が騒いでいるらしいんだが」
「ほほう、魔闘家の出番じゃね?」
「魔闘家には出番がないわ。俺って、基本は戦闘職の学生だろ? 魔法職学生のオトヤンの出番じゃないのか?」
う〜む。
幼稚園は、二つ向こうの町内だよなぁ。
俺も、祐太郎も一緒に通っていた場所だからなぁ。
「そういうことなら、しゃーないか。あの幼稚園なら、昔通っていたからなぁ」
「俺も手伝うさ。子供の目的の半分は、こいつらしいからな」
そう告げて、パンパンと魔法の箒を軽く叩く祐太郎。
子供たちって、特に女の子は、魔法使いに憧れるものだよなぁ。
なにか、当日使えそうな、面白いものを作ってみるか。
そんな会話をしつつ、学校では新山さんまで巻き込んだ幼稚園訪問の話で盛り上がる。
そして昼休みになった時、校内放送で俺たち三人の呼び出しがあった。
………
……
…
無視するわけにもいかないから、とりあえずは校長室に向かう。
そこには進藤室長と、その補佐官らしい人が待っていた。
「あら? 出発するには荷物がないわよ?」
「え? 俺たちは行きませんが」
「そもそも、話し合いでなく強制っていうところが納得できないからな」
「私、パスポートありませんから」
淡々と説明すると、進藤室長の顔が真っ赤になった。
「ふ、ふざけないで頂戴。昨日、話したわよね? この件は、あなたたちの我儘が通用すると思っているの?」
「思ってますよ。じゃあ、これで失礼します」
「間違っても、力任せに連れて行こうなんて考えるなよ? その場合は、親父を通してあんたの政党と外務省にクレーム入れるからな?」
「それでは、失礼します」
そう説明して、部屋から出て行こうとした時。
「あなたたちしか、あのエルフを助けることはできないわよ? あなたたちは、それを見殺しにするのね?」
「まっさかぁ。俺が、俺たちが、そんなことするわけないじゃん」
「もう手は打ってあるんですよ。そんな情に訴えることしかできないから、あんたらの政党は、政権を取れないんですよ」
「……彼らが代弁してくれたので、私からは何もありません。では、失礼します」
──バタン
校長室を出て。
室内では、何か金切音のような悲鳴が聞こえているが無視。
まさか、ここで部屋からSP見たいのが出てきて、スタンガンで俺たちを制圧、そのまま拉致なんて展開はないよね?
………
……
…
なかったわぁ。
そんな、漫画やラノベのような展開もなく、無事に学校を終えて三人で妖魔特区に飛んできたわ。
下校時に、怪しい車に尾行されたけどさ、そんなの無視して飛んでこれるから、知ったことでないわ。
「まあ、交通法規があるから、民家の上空や私有地上空は高度制限があるけどね」
「公道上空の指定高度限界の速度なら、大体の車はついてこれないわ」
私有地の高度については、『その私有地内の建築物の最上部より十二メートル上空までが、私有地として認められる』というのがあってだね、魔法の箒の場合は、それを守れば飛行しても構わないって確認はしてあるのだよ。
まあ、道路に縛られているクルマに追い付かれることなく、真っ直ぐ妖魔特区に到着、入り口で止められるかと思ったけどさ、第六課の退魔官が警備していたからあっさりとクリア。
そんなこんなで、テレビ塔下にある、水晶柱の場所まで到着しましたとさ。
「昨日の今日で来るとはのう。それで、いくのは三人かえ?」
白桃姫がビーチベットとパラソルを広げて、のんびりと佇んでいた。
いや、今、三月だからね? いくら妖魔特区に雪は降らないからといってもさ、季節感は守ろうよ。
「ああ、俺たち三人だ。そしてオトヤン、何かいいたくて頭を抱えているのは理解できるけど、そろそろ本番の時間だ」
「そうだよね、急がないと、進藤さんとかが、ここまで来る可能性があるよね?」
あ、それもそうか。
よし、現実を見よう。
「それもそうか。そんじゃあ始めるか……の前に、白桃姫、昨日なんだが、俺がテスト用に転移門を開く魔法を使った時、どうやら水の中に開いたらしいんだけど」
「あ〜。おそらくじゃが、座標指定術式を組み込んでおらぬな? その場合は、完全にランダムに転移門は開くのじゃよ」
「ほほう。その座標指定術式とは?」
「一言で説明するには難しいのじゃが。ようは、世界線に組み込まれた四次元立体座標でのう。人間の理解できる三次元座標軸のさらに上でな?」
つまり、普通の人間には使えないのか。
ん? 新山さん、顔が真っ赤ですが何かあったの?
俺をみる視線が、いつもよりも冷たいのだけどさ。
「はぁ。つまり、俺では無理と?」
「GPSの魔法で、なんとかなるはずじゃが」
「なに、その近未来魔法は」
「GPS、ゴッド・ポジショニング・スペル。神の目から見た、世界を見渡すための術式じゃよ」
何それ、カッコいい。
「それって、俺も使えるの?」
「う〜む。加護を得たのなら、その神に問いかけて使うものじゃからなぁ。ちなみに妾にも使えぬぞよ?」
「そっかぁ。まあ、それなら仕方ないから、とっとと転移門を開きますか……って、新山さん、なんで怒っているの?」
「知りません‼︎ 早く、転移門を繋いでください」
はて?
俺、なにか、新山さんを怒らせるようなことしたかなぁ?
そんなこんなで、儀式が始まる。
白桃姫が水晶柱に手を添えて魔力を注ぐと、水晶柱は綺麗な青色に輝いた。
「これで、転移門の基幹部は活性化したぞよ。あとは、柱に手を添えて術式を発動すると良い」
「それで、アリゾナに繋がるのか?」
「そこまでは、知らんわ。転移門を越えた先におる管理人に問いかけるが良いわ」
え?
また新しい単語だよ。
「白桃姫、その管理人って何者だ?」
「クリスタルゲートの管理人に決まっておろうが。水晶の精霊、時間と空間を管理する亜神。それが、クリスタルゲートを管理する白狼じゃよ」
「オトヤンが発動する転移門って、この前、ここに発生していた転移門とは違うのか?」
「あれは『大規模転移門術式』で、乙葉の使えるのは『水晶転移型術式』。そもそもの魔力制御が違うし、人間には、『大規模転移術式』は唱えられぬぞ」
あ〜。
俺がしたかった質問を祐太郎がしてくれたよ、サンキュー。
「白桃姫さん、どうして乙葉くんでは唱えられないのですか?」
「そうじゃなぁ。小春、『春よ来い』は歌えるか?」
「はい。それが何か?」
「それじゃあ『どこかで春が』と『ちょうちょ』は?」
「子供の時に習ったから、歌えますよ? それがなにか?」
「なら、その三つを一度に歌ってくれるか?」
「え? 三つの歌を一度に?」
「それが『大規模転移術式』じゃよ。発声器官が一つの人間では唱えられない。それを唱えられる妖魔が複数人必要なのじゃ」
うん、わかりやすいわぁ。
さすがに俺でも、高速思考で考えられてもさ、喉は一つだから無理だわ。
──ゴキゴキッ
軽く拳を鳴らして、水晶柱に触れる。
「そんじゃ、行ってみるか……」
水晶柱に魔力を注ぐ。
さらに、新山さんと祐太郎も手を当てて魔力と闘気を注いだのを確認してから、俺はゆっくりと詠唱を始める。
途中、後ろから進藤室長の怒鳴り声が聞こえてきたけど無視、やがて術式は完成して、俺たち三人は見たことのない空間に立っていた。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
あのガキ共。
人が優しく話していれば、いいたい放題言ってくれるじゃないのよ。
そもそも、今回のアメリゴからの打診にしても、防衛省主導ではなく、私たち外務省が先に連絡を受けたのですからね。
これで、あの魔術師とかに手綱をつけることができたと思ったら、何よ、あの態度は。
年長者を敬うとか、そういうのはないわけ?
このまま、何もできませんでした、彼らは独自に動くそうですだなんて報告、できるはずないじゃないのよ。
いいわ、どうせ海外に行くとしても、全ての航空会社に一報入れておけばいいのよ。
その上で、彼らがアメリゴに向かう時は同行して、こっちで主導権を取れるようにすればいいだけじゃない。
どうせヘキサグラムに向かうにせよ、対妖魔研究機関の場所なんか知っているはずもないし、そこに向かうための手段だってあるはずないじゃない。
「あの、進藤室長。川畑政務官の報告書には目を通していないのですか?」
「ハァ? なんで私が目を通す必要があるのよ? そういうのは秘書の仕事、そこから大切な部分だけこっちに報告してくれればいいだけじゃない」
このSPも、あまり使えないわね。
乙葉浩介たちを、力づくでも連れてこられたら問題はなかったのよ。
「乙葉浩介の両親は、元・ヘキサグラムの研究員です。確かセクション・ワン、『妖魔生態部門』の主任クラスだったはずですが」
「なんで日本人が、海外の対妖魔機関の主任やっているのよ? 外患誘致罪を適用してでも、その両親を逮捕できないの?」
「元・陰陽府ですよ? 進藤室長たちが、過去に事業仕分けと称して、内閣府から切り離した部門です。そこでの研究ができなくなったので、アメリゴに向かったそうです」
つ、使えないわね。
燐訪、あなた、何をしでかしたのよ?
こういう時のために、貴方たちは妖魔と手を組んで、色々と暗躍していたのでしょうが。
「ま、まあ良いわ、この話はここまでにしましょう。急いで千歳に向かって。あの子達がアメリゴに向かうのなら、成田から行くしかないからね」
「いえ、あの子達でしたら、先程、上空を通過しましたが。方角的には札幌市の中央区へ向かっていると思われますが」
「どうして? エルフの子供を助けるのでしょう? 中央区に何があるというの?」
この疑問に、運転手は頭を左右に振っている。
「妖魔特区には、あの十二魔将の白桃姫がいるのよ? あんなところに向かって、どうやってエルフを助けるのよ?」
「わかりません。ですが、彼らは魔術師です。注意をしたほうがよろしいかと」
「分かったわよ。妖魔特区に向かって頂戴」
そのまま車は中央区に向かう。
そして妖魔特区に向かい、乙葉浩介たちが入ったというのを確認すると、テレビ塔下まで急いで向かった。
「おや? そなたらが進藤とやらか?」
初めて見た、妖魔。
それも、十二魔将第四位の白桃姫。
普通に考えて、あの十二魔将が、こんな場所にいるはずがない。
「そ、そうよ。あなたは白桃姫かしら?」
「うむ。それで、我が家になんの用事じゃ?
「乙葉浩介たちが来たわよね? どこに行ったのかしら?」
「知らんなぁ。そもそも、そんなことをお前に報告する義務があるのか?」
なっ、なによこの妖魔は。
私が誰か知らないの?
野党第一党・国憲民主党の進藤真理子よ。
外務省、総合外交政務局、国際安全・治安対策協力室長よ。
その私に対しての、この舐めた態度。
「私は外務省から来たのですよ? その私に対して無礼と思わないのですか?」
「ほざくなババァ。貴様こそ、誰に向かって舐めた口を開いておる? 妾は三代目魔人王、フォート・ノーマが十二魔将第四位、怠惰のピグ・ラティエじゃぞ? 爵位は侯爵、その妾に、そのような口をきくとはなぁ……」
あ、これは不味いわ。
相手が悪すぎるのよ。
「そ、そうね、乙葉浩介が居ないのなら、また出直すことにするわ」
早く、ここから立ち去るのよ。
さっきから鼓動が高まったままだし、全身から変な汗も流れているわ。
これ以上は無理よ、殺されるわ。
早く、このことも報告しなくては、この妖魔は危険だわ。
川端政務官のところの、確か陣内とかいったわよね?
あいつにどうにかしてもらわないと。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
・今回のわかりづらいネタ
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。




