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【書籍化】ネット通販から始まる、現代の魔術師  作者: 呑兵衛和尚
第二部・歪んだ日常編、もしくは、魔族との共存って、なかなかシビア。
122/586

第百二十話・鼓舞激励、聞いて極楽見て地獄(ハロー、来訪者)

『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週日曜日と火曜日、金曜日を目安に頑張っています。

 アメリゴ合衆国。

 アリゾナ州セドナにあるサンセットパーク。

 ここの中心地に、二月、巨大な転移門ゲートが発生した。


 すぐさま州警察からペンタゴンに連絡が届けられると、対妖魔機関であるヘキサグラムが現地に出動した。


 ヘキサグラムが独自に入手した情報では、転移門ゲートが発生するまでに、まだ一年以上の猶予期間があったはず。にもかかわらす、転移門ゲートは発生した。


 セドナには避難命令が発令し、大勢の人々が避難を開始した中で、数時間後には転移門ゲート自体が霧のように消滅した。

 ちょうど日本では、乙葉浩介が妖魔特区の転移門ゲートを封印した時間帯であり、報告を受けたヘキサグラムは避難命令を解除、セドナ住民はほんのわずかな時間であるが、緊張した時間を過ごすことになった。


 それから数日後、転移門ゲートの発生した場所に、巨大な水晶柱が現れていた。

 転移門ゲートほどの異様な雰囲気はなく、むしろ、水晶柱を中心に、草木が活性化し成長が促されているのを確認できた。

 連絡を受けたヘキサグラムが現地の調査を行ったが、何一つ情報を得ることができない。

 そして一週間の調査が終了し、ヘキサグラムが撤退する日。


 水晶柱から、一人の少女が姿を表した。


 年齢的には十代前半、金髪のロングヘアーの少女。

 一つだけ違うのは、耳が長く尖っていた。

 まるで、日本のアニメに出てきそうな、エルフのような姿の少女。

 すぐさま報道各局は、水晶柱から出てきた少女についての報道を開始したが、ヘキサグラムが少女を保護したことにより、半ば報道管制のように情報が、ばったりと途絶えてしまった。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 先日の、アメリゴの報道。

 水晶柱から出てきた少女の正体は何者なのか?

 日本でもそのニュースは大々的に取り上げられ、妖魔の進軍が始まったのか、とか、異世界からの来訪者なのか? などの噂が広まっていた。

 インターネットでも、少女の映像がアップされていたため、そちらの趣味の方々にとっては、異世界からエルフキターとお祭り状態になりつつあった。


「……エルフねぇ。異世界ねぇ……」


 瀬川先輩が卒業した数日後の朝。

 まあ、三年生は卒業しても、俺たちは変わらず授業はあるわけで、朝一番に登校したら、いつもはやかましい織田が、仲間と一緒にエルフの話で盛り上がっている。


「ニュースで見たんだが、オトヤンはどう思う?」

「あの水晶柱は、多分だけど鏡刻界ミラーワーズと繋がっているんじゃないか? そういえば鑑定していなかったなぁ」

「少し前に、築地くんが鑑定してくれたんだけど、結果がアンノウンだったそうよ」


 へぇ。

 アンノウンか。

 俺の鑑定眼のレベルなら、どこまでわかるかなぁ。


「乙葉ぁ、お前、あの水晶柱からエルフを召喚できないか?」

「できるかボケぇ。俺は召喚師じゃねーよ、魔術師だよ。会いたかったら召喚師探して自分で頼み込め」

「それじゃあ、異世界に行くための道って作れないか?」


 あ、そういえば、俺は以前、鏡を使って転移門ゲートを作ったことあったよなぁ。


「……無理だな」

「今の間はなんだよ、できるんだろ?」

「できるか出来ないかと言われたら、できるって答えてやるよ」

「俺を、異世界に送り出してくれ‼︎」


 うん、いつもの織田だよなぁ。


「帰り方もわからんし、そもそも、加護も何もない織田が、異世界に行っても死ぬだけだぞ?」

「それじゃあ、加護もくれ」

「アホか。勝手にやってろ……」


 やれやれ、朝から面倒臭い。

 そんなこんなで授業も始まったし、あと二週間で春休みだから、のんびりと頑張らせてもらうか。


………

……


「それで、なんで川端政務官が、学校にいるのかなぁ?」


 昼休み。

 俺と祐太郎、新山さんは、喫茶室に呼び出されたよ。

 急いで昼メシを食べ終わって向かったらさ、川端政務官ともう一人、見たことのないおばさんが待っていたんだが。


「今日は、私は付き添いでしかない。今まで、君たちと接触していた回数が一番多いっていう理由でね。紹介しよう、外務省、総合外交政務局、国際安全・治安対策協力室長の進藤真理子だ」

「はじめまして、進藤真理子です。皆さんの噂は、色々と伺っています」


 はぁ。

 肩書きが長すぎて、覚えるのが面倒臭いんだけど。

 しかも、なんで外務省?


「はじめまして、乙葉浩介です」

「築地祐太郎だ」

「新山小春です、よろしくお願いします」

「はい。それでは時間がありませんから、私たちが来た理由を簡単に説明しますわね」


 真面目な話のようなので、席に座って話を聞くことにしたんだけどさ。


「明日の正午、皆さんにはアメリゴに向かってもらいます。目的はですね、ヘキサグラムが保護した異世界の少女、彼女とコミュニケーションをとってもらいたいのです」

「……はぁ?」

「保護されてからというもの、その少女は一切の食事を受け付けず、水を、それもミネラルウォーターしか飲んでいません。言葉も理解できないようでして、ヘキサグラムでもどう対処していいのかわからないそうなのですよ」


 それで、俺たち魔術師なら、言葉を理解できるのではないかということで、白羽の矢が立てられたそうな。

 ヘキサグラムの魔導セクションに所属している、元機械化兵士エクスマキナのキャサリンとマックスの推薦でもあったらしく、アメリゴとしても苦渋の選択で日本の外務省に打診したらしい。

 そして、日本国政府はそれを承諾し、明日、俺たちはアメリゴに向かうことになっているそうな。


「こ、と、わ、る。では失礼します」

「そうだよな。なんで勝手に、俺たちが行くことを決定しているんだ?」

「あらかじめ相談なり連絡をして頂ければ、まだ考える余地もあったと思います。ですが、あまりにも一方的です」


 全く、日本政府はなんで相談もなく、勝手に決めつけるんだよ。


「今回の件、アメリゴが頭を下げてきたのです。ここで大きな貸しを作っておけば、今後の外交や交渉でも幾らか有利に立つことができるのですよ?」

「それはそちらの問題だよね。俺たちは、日本国政府所属の国家公務員じゃない、ただの民間人で学生ですから」

「どうせ国憲民主党の勇み足だろ? 俺たちは知らんよ」

「では、失礼します」


 立ち上がって頭を下げ、部屋から出る。

 ただ、俺たちが部屋から出る時、壁際に立っていた川端政務官がらボソッと呟いたんだよ。


「エルフの命が、かかっているんだがなぁ」って。


 大人は汚いわ。

 それでも、俺たちは部屋から出た。

 そこで立ち止まって話を聞いたんじゃ、今後も同じ手でこき使われる可能性があるからね。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯


 

 放課後、部活タイム。

 瀬川先輩がいないので、部室が少しだけ寂しい。


「参った。オトヤン、エルフの子の話、どうする?」

「いいように使われるのは嫌ですけど、命がかかっているのですよね……」

「ん〜、助けないっていう選択肢はないよ。問題は、日本国政府だよ。俺たちを外交の駒として使っていることが許せない」


 俺たちが引っかかっているのは、その一点。

 今回の件を利用して、俺たちを好きに使いたいのが目に見えているからね。

 そして川端政務官。

 あの一言は、俺たちに対する忠告なのか、それとも何かのヒントなのか。


「明日の正午だったよな。それじゃあ、わからないことは関係者に聞くとしますか」

「関係者に?」

「え? 私たちの世界で、エルフに詳しい人?」

「いるじゃな〜い。そういうのに詳しそうで、俺たちと話ができる人がさ」


………

……


 はい、やってきました妖魔特区内、テレビ塔前広場。

 鏡刻界ミラーワーズに詳しい人は、この人しかいないでしょう?


「ということで、ご紹介します。鏡刻界ミラーワーズの住民の、白桃姫さんです」

「まあ、そうだよなぁとは思ったわ」

「こんばんは、白桃姫さん」

「な、な、な、なんじゃ? いきなり訪ねて来おって。妾の家に、なんのようじゃ?」


 元、札幌テレビ塔。

 今は蔦が生い茂った巨大な城。

 白桃姫が、自分が住みやすいようにテレビ塔を改造したらしい。

 だから、テレビ塔のお土産の羽織を着ているのかよ。背中のテレビとーさんが、なんだか寂しそうだぞ。


「いや、今日はさ、鏡刻界ミラーワーズのことについて教えてもらいたくてさ」


──ゴゥッ。

 俺は、右手に魔力玉を生み出した。


「向こうの世界の、エルフのことについて教えてくれないか?」


──ゴゥッ。

 祐太郎は右手に闘気玉を生み出す。


「お願いします。エルフさんを助けたいのです」


──ヒュゥゥゥゥ

 新山さんのは魔力玉だけど、白く輝いている。

 目の前に、三つの魔法玉が並べられたものだから、白桃姫は口から涎を垂らしている。


「よ、よいぞ、なんでも聞くがよい。妾の知っていることなら、なんでも教えてやるぞよ。だから、それをたもれ。生殺しは卑怯じゃ」

「それじゃあ、お食べなさい」


 俺が右手を差し出すと、白桃姫は嬉しそうに手を伸ばして魔力玉を受け取る。

 そして口いっぱいに頬張ると、両頬を押さえて震えている。


「おーまいこんぶじゃよ」

「なんで、そんなこと知っているんだよ」

「本屋で見たのじゃ」

「あ〜、そうかそうか、妖魔特区内には、大きい本屋があるからなぁ」

「でも、もう日本語を覚えたのですか? 凄いですね」


 新山さんの話で、俺はふと疑問に思ったんだが。

 今まで忘れていたというから、当たり前のように感じていたんだけどさ。


「そういえば、鏡刻界ミラーワーズって日本語が通じるのか?」

「なんのことじゃ? 鏡刻界ミラーワーズの言語はいくつもあるが、日本語はないぞよ?」

「え? だってさ、今も、俺たちと白桃姫って話できているじゃないか?」


 ひょっとして、俺の持っている自動翻訳スキルのおかげ? でもさ、それなら白桃姫が忍冬師範と話ができていることが説明できないんだよ。


「あ〜、そこか。妾たちは精神生命体が本体じゃよ。言葉は『念話』じゃから、伝えたい言葉は『意志』として伝えられる。逆に、そなたたちの言葉は、そこに含まれている『意志』が脳内に届くのじゃ」

「へぇ。どうりで、あっちの人たちが、エルフの言葉がわからんって言っているわけか」

「それじゃ、祐太郎よ、そのエルフとはなんじゃ?」


 そこからは説明タイム。

 進藤室長の話を全て説明すると、白桃姫は腕を組んで考えている。


「なるほどのう。エルフというとは、恐らくはシャリアル王国のものか、もしくはキュレ・ハイマン大森林のものじゃろうなぁ」

「あ、やっぱりわかりますか。それでですね、エルフの人って何を食べるのですか?」

「ん? そのエルフの氏族というか、血統リネージによって変わるのじゃが」


 エルフには、血統リネージによっていくつかの種族があるらしい。

 俺たちが普通に知っているエルフは『シルヴァン』という種族で、俺たちのように肉でも野菜でもなんでも食べる。

 よりエルフの血筋が濃く、精霊の加護を得ている種族は『ルミニース』といい、血肉を持つものは食べることができず、植物を摂取する。

 そして俺たちでいうハイエルフは『エルヴァン』といい、外見もそもそも違い、世界樹が発する光魔力ソーマを食べて生きているらしい。


「成る程なぁ。そこまで違うのか」

「白桃姫さん、この写真がアメリゴで保護されたエルフなのですが、種族はわかりますか?」


 新山さんがスマホでアメリゴのエルフの写真を見せる。すると、白桃姫はマジマジと眺めてから、眉を顰めている。


「まずいのう。この娘は、エルヴァンの氏族じゃ。エルヴァン以外のエルフの耳は、人間の耳と同じじゃが先が尖っている。この娘のは、エルヴァン特有の長耳でな、他のエルフ種族とは形状がそもそも違うのじゃ」

「ということは、その、光魔力ソーマしか食べないのかよ? それはどこにあるんだ?」

「この世界に世界樹はあるか?」


 いや、ない。

 世界樹なんて、伝承とかファンタジー小説の世界だよ。実在するはずがないんだよ。


「俺たちの世界じゃ、世界樹なんで存在しない。それ以外には、なにか食べられるものはないのか?」

「囀るな、祐太郎や。もう少し落ち着くが良い。乙葉は、何か考えているようじゃぞ?」

「え? 俺? 何も思いついてないよ? アメリゴまでどうやっていくか、考えているだけだよ」


 そんな、俺を万能生物のように見ないでくれよ。

 魔法が使えること以外は、普通の高校生なんだからな。


「……助ける気、満々だったか。具体的には、どうするつもりなんだ?」

「ん〜、日本政府を介さないで、直接、ヘキサグラムのある場所に行ってくるさ」

「ヘキサグラムがあるのは、アメリゴだよね? それに、向こうに知り合いでも……いますね?」


 その通りだよ、新山さん。

 ヘキサグラムのことなら、うちの親父に聞けばいいのさ。

 

「それで、話がついたとして、移動方法はどうする? 俺はパスポートあるけど、オトヤンは持っているのか?」

「親父たちがアメリゴに出向する時、ついでに作ったから問題ない。新山さんは?」

「ないですね。これから申請して、どれぐらい掛かりますか?」

「申請してから六日ぐらいだったけど。何も食べられないのなら、急いだほうがいいよなぁ」


 そこだよ、問題は。

 そもそも、エルヴァンの食事に必要な光魔力ソーマを、こっちでは用意できない。

 それなら、素直に帰ってもらうのが一番なんだけどさ、どうやって帰したらいいのかわからんわぁ。


「移動手段、食料事情、この二つをクリアしないとならないのか。魔法の箒で飛んでいったとしたら」

「オトヤン、それは密入国だな。アウトだ」

「ですよね〜。かといって、飛行機だととんでもない金が……金はあるか。でも、時間が間に合わないからなぁ」

 

 頭をひねってしまう。

 もっと簡単に、魔法でシュンッて移動できたら。

 そうだよ、転移魔法だよ。


「転移魔法か。そうだよ、その手があったよ」

「転移魔法はな、原則として、一度行った場所でなくては、行くことはできぬぞ?」

「白桃姫、マジか?」

「言葉の意味は知らぬが、意思だけは理解できるぞ、マジじゃ」


 今日は、よく詰むなぁ。

 すると、白桃姫がニマニマと笑っているじゃないか。


「のう、乙葉や、妾には切り札があるぞよ?」


 ほほう。

 その切り札とやら、教えてもらいましょうか。


「切り札って?」

「情報には代価じゃよ? 築地の闘気玉と、小春の魔力玉もたもれ」


 そういえば、二人とも、ずっと手の中で魔力玉を弄んでいたよな。


「これでいいなら、くれてやるよ、ほら」

「どうぞ。その代わり、ちゃんと教えてくださいね」


 祐太郎と新山さんが闘気玉と魔力玉を手渡すと、白桃姫は、それを一気に飲み込んだ。


──ゴクッ……。

「ふぁぁぁぁぁ、もう、今日は何もしとうない。じゃが、約束じゃからな。水晶柱を使って転移するのじゃ」

「はぁ? どうやって?」

「この世界のあちこちに、水晶柱は発生しておるじゃろう? あれは、全て繋がっておるのじゃ。こっちの世界でいうネットワークじゃな」


 はぁ?

 つまり、水晶柱を媒介にして転移術式を起動して、目標のアメリゴの水晶柱に出ることができるのかよ。

 なんてチートだ。


「ははぁ。その手があったか。でも、密入国だよ?」

「行って、すぐ帰ってきたら良いではないか。必要なら、エルフを連れてくるが良いぞ、この妖魔特区内は、鏡刻界ミラーワーズと似たような環境じゃからな」


 それだ‼︎

 今日は冴えているな、白桃姫。

 かなり見直したぞ。


「それじゃあ、親父に連絡して話を通してもらうわ、少し待っていてくれ」


 そこまで決まったなら、親父から連絡先を聞いて、あとへ実行あるのみだ。

 

誤字脱字は都度修正しますので。

その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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