第百十七話・安穏無事は、先ず隗より?(魔法について、根本から考えよう)
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久しぶりだな。
我が母校、北広島西高等学校よ‼︎
私は帰って来た‼︎
「お? 乙葉、生きていたか」
登校一発目の声掛けが、それなのかよ織田。
まあ、いきなり集られるよりはいいか。
「勝手に殺すなや。魔法使い特有の病気だ、魔力欠乏症だっただけだ。もう回復したわ」
とでも告げておけば、納得するだろうさ。
「へぇ、そりゃあ大変だったな。それで、いつから俺を弟子にしてくれるんだ?」
「しねーよ、そのうち魔法使い専門学校でもできたら、そこに通えばいいさ」
「それだ‼︎ 乙葉、俺はその学校を設立して校長になる! だから先に魔法を教えろ」
なんとまあ、とんでもない生活設計だなおい。
まあ、織田の斜め上に向かう発想は嫌いじゃない。
だが、お前にだけは教えん。
なんだか、お前に教えると俺が敗北したような気がするからな。
「こ、と、わ、る」
「……よし、今日の日課はこれまでだな」
あっけらかんと言い切って、仲間達の元に向かう織田。日課ってなんだよ?
そう頭を捻っていると、新山さんも到着。
首からタオルを下げている、一汗かいた感じの祐太郎も新山さんのあとにやってきた。
「おはよう、乙葉君」
「オッス、祐太郎もオッス。朝っぱらから精が出ますなぁ、体育館で闘気訓練?」
「ああ、闘気値40オーバーの子も出始めたからな。魔導書登録はできないから、技として修得させると覚えられるみたいだし」
「へぇ。俺の魔法は魔導書ありきだからね、人に教えることは……あ、出来るわ」
そうだそうだ、魔力値が低くてもMPがあればゴリゴリのゴリ押しでいけんじゃね?
モリモリのアイテムブーストとバッキバッキのボッキボキでいけんじゃね?
機械化兵士のお二人さんみたいにいけそうだよなぁ。
そんな事をのんびりと考えているとホームルームも始まったし、久しぶりの授業でのんびりとする事にしますわ。
………
……
…
「はっはぁぁぁぁ、頭から煙出るわ」
放課後一時間の補習。
のち部活に向かうが、久しぶりの授業+補習で頭の糖分が足りないんだよ。
「乙葉君、大丈夫? 回復魔法いる?」
「新山さん、そこはオッパイ揉む? でフベシッ‼︎」
──スパァァァァァン
「アホかぁ‼︎」
「そうですよ、ハレンチですよ‼︎」
「いや、新山さん。漢ってのはな、それで元気にフバシッ」
──スパパァァァァァン
「そんな事で元気になる訳ないです‼︎」
「別のものが元気に嘘ごめん俺が悪かった。という事で、俺は部屋の隅っこで魔法の勉強するから」
「オトヤン、カナン魔導商会見たいから画面だけ貸してくれ」
「自分のを開け‼︎」
「そっか、カナン魔導商会オープンって、できるかよ」
──ブゥン
あ、招待枠で追加登録ユーザー登録してあったの、教えるの忘れていたわ。
それよりも、今まで気が付かなかったのが驚きだわ、なんで?
「うぉわぁ、オトヤン、俺にもできたぞカナン魔導商会。どうしてだ?」
「俺が死んだ時にな、万が一のことがあったらと思って追加でユーザー登録しておいたんだよ。ひと枠だけだったから、まあ、祐太郎で良いかなって」
すぐさま祐太郎の前に瀬川先輩と新山さんも移動するのだが、あちこち弄って色々と試しているらしい。
「オトヤン、俺が買うときはどうするんだ?」
「いつもニコニコ現金払い、チャージ査定不可。購入できるのは月に一度だけど、纏めて買えば一回として計算される……だったかな?」
まるでスーパーのレジを通す感じ……じゃない、本当にネット通販で物を買う時と同じなんだよ。
欲しいものをバスケットに纏めてから、纏めて支払いできるんだよ。
だから、欲しいときは一回で。
ご利用は、計画的に。
「へぇ。新山さんも先輩も、オトヤンの手が回らないときは俺に言ってくれれば代わりに買うからな」
「そのときはお願いするわね」
「わ、わたしは、乙葉君の手が空いている時にお願いします」
うむ、新山さん。
私は一向に構わん‼︎
「それで、オトヤンは何の魔法訓練?」
「各属性弾の威力検証。どれだけ強くなったか見てみたいんだけど、まさか適当な的を作って街中で試す訳にはいかないだろう?」
「あの、今更のような気もしますよ? どっちかと言いますと、それは、乙葉君が魔法を使えるようになった時に試すべきだったのでは?」
先輩、その通りなんですよ。
操作系や盾、壁、結界はストーリートマジシャン・甲乙兵とそれとなく実戦で試してはいたのですけど、流石に攻撃魔法は何が起こるか分からないから試してなかったんですよ。
そういう理由で、俺が戦闘時に使っていたのが力の矢と光弾だけなんですよ。
「そこなんですけどね。なんだか色々とありすぎて、手が回らなかったというのが本音です。だから、平和な今のうちに、もう一度魔法と向き合ってみようと」
「俺もチャンドラ師範との訓練は続けているし、闘気の練り上げも順調だからな。それと、人に教える事で、自分の勉強にもなるんだ」
ほほう、流石は祐太郎。
もう立派な闘気使いじゃないか、お兄さんは嬉しいよ。
「そこなんだよなぁ。人に教える……か」
「私は、神聖魔法を教えて欲しいっていう友達には、基礎訓練だけは教えてますよ。でも、神聖魔法は神の御技ですから、使うためには神様に認めてもらわないとって話はしています」
なんと、新山さんまで。
そして瀬川先輩を見ると、深淵の書庫の中でニッコリと。
「これは、私限定のユニークマジックですので、人に教える事ができないそうです。でも友人には、新山さんのように魔力循環の技を教えていますよ、魔力回路が開かないので、まだ無理のようですけど」
「そうだよなぁ。魔力回路を開くためには、加護の卵とか魔導書が必要……あれ?」
ちょいと待て、それじゃあ何でキャサリンとマックスは魔法が使える?
何か、俺は根本的な部分で間違っていないか?
慌てて本棚から『魔導大全』を取り出して開く。
「オトヤン、突然どうしたんだ?」
「機械化兵士の二人には、俺は魔力弁の話はしていない。光球の術式は教えたけど、それは練習になるかなと思っただけだ」
「でも、その二人は使えるのですよね?」
「新山さんのいう通りなんだよ、どうしてそうなったのか分からなくなって来たんだ」
慌てて魔術素養についてをもう一度見る。
そこに書いてあることは俺の知っていることばかりで、みんなに教えたことがあるものしかない。
魔力回路に魔力を循環する。
でも、魔力弁が閉じているので、それを開くためには発動媒体がいる。
もしくは、加護により解放するか、魔力を循環して開く。
つまり、ここが間違っているのか?
「乙葉君、その本を貸してもらえるかしら?」
何か思いついたかのように、先輩が手を差し出してくる。では、あとはお願いします。
「おなしゃす」
「はいはい。深淵の書庫、魔導大全と私たちの世界の魔法法則について精査してください」
『ピッ……魔導大全に記されている魔術法則は、我々の世界には一部当てはまりません』
「……乙葉君、聞こえたかしら?」
「なぁぁぁぁ、根本が違ったのかぁ。そうだよな、カナン魔導商会って俺たちの世界じゃないんだよな、そりゃあ違うわ」
カナン魔導商会のある世界は、俺たちの世界とは異なる、本当の異世界。
そりゃあ魔法体系も術式もことなっていて当然なんだよ。
まあ、それでも部分的な違い程度で、俺の説明も間違いではないとも言えるレベル。
「……闘気法は変わらないようだから、魔術についての違いのみか。オトヤン、カナン魔導商会には闘気法についての本は……って、自分で調べられるか」
「癖になってますなぁ」
「少しは慣れてみるさ……あ、あるか。でも、これを買うためには現金なんだよなぁ」
「だから緊急時のみ使って、普段は俺のを使えばいいと思うが?」
そう説明しておいて、祐太郎の欲しそうな闘気の研究書をお気に入り登録する。
相変わらず査定システムは停止しているのか……あ、再開している。
「おや? 査定システムは回復してますな。宝石貴金属の買取は停止のままだけど、それ以外は普通にオッケーのようで」
さらに発注も届いている。
これは、大量チャージの予感がしますね。
「そういえば、新山さんのルーンブレスレットはまだ行方不明なの?」
「あ、はい。私が攫われた時から、もう一ヶ月の間も消息不明なのです、ごめんなさい」
「いや、謝られても気にしないけどさ、あれって魂登録処理してあるから、新山さんが念じれば戻ってくるはずだよ?」
「え? そうなの?」
あ〜、そう言えば、帰還の術式を教えていなかったか。
ということでだね、もう一度全員に帰還の術式を教えてあげると、新山さんはすぐに術式を唱えて念じた。
──ヒュンッ
すると、一発で新山さんの右手首にはルーンブレスレットが戻ってきた。
「……良かった。ありがとう乙葉君」
「いや、教えてあったと思ったけど、忘れているものなんだなぁ。一応、機能チェックと収納バッグの中身も確認しておいてね?」
うんうんと頷いてから、新山さんはルーンブレスレットの確認を開始。
あ〜、本当に普通の日常が戻って来たんだなぁと、改めてホッとしたよ。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
東京・市ヶ谷駐屯地内、特戦自衛隊本部詰所。
そこには、日本各地から搬入された様々な退魔法具が集められている。
殆どは遺跡から発掘したものであり、本来ならば陰陽府の管理財産であったものであるが、例の陰陽府解体に伴い、当時の野党が管理部門を設けて厳重に保管していた。
特戦自衛隊が設立してからは、その管理運営は特戦自衛隊が行なっていたのであるが、未だ一つとしてまともに扱うことができていなかった。
「片山君、まだ解析が出来ないのかな?」
退魔法具解析研究室では、研究主任である片山義彦が防衛省政務官の一人、田名部勢一郎議員から吊し上げを受けている。
「いや、そもそも解析に必要な機材も、人材も、そもそも魔術を使える人がいません。今回受け取ったあのブレスレットも、金属は未知のものですしてからは解析どころか透過撮影も出来ないのですよ?」
「必要な機材については、追加申請したまえ。人材についても補充するように伝えておきます。ですが、魔術については無理です」
田名部政務官は、釣り上がった目で片山を睨みつけながら、そう呟くしかなかった。
そもそも、魔術師なんてどうやって補充しろと?
この科学文明で解析できないものなど存在しない。
機材が足りないなら、予算はどうにでもするから注文をかけろ。
人材が足りない? 給料を高額に設定しておけばいくらでも集まるだろうが?
それよりもだ、そのブレスレットは川端政務官に回してもらったものだぞ?
しかも、あの現代の聖母・新山小春の所有していた伝承級退魔法具だ、それを解析すれば、ひょっとしたら俺たちも神の奇跡が使えるようになるのかもしれないのだ。
「わかりました。では、引き続き調査を続行します。ですが、正式な解析は機材が集まってからです、現時点での解析はもう不可能ですから」
「分かっている。時間はあるが、急いだほうがいい、何が起こるか分からないからな?」
「はい。それでは失礼します」
……
…
退魔法具の解析なんて、どうやったらいいんだよ。
今のところは、魔法は超能力の延長っていう可能性を考えて、鉛の箱の中に納めてはあるけれど。
成分分析、元素分析装置もエラー反応。
水素、元素、熱量解析も解析不能コード。
唯一の金属標本との比較検査では、ミスリルという表示があったものの、この特戦自衛隊にはミスリルのサンプルは存在しない。
イングランド政府に根回しして送って貰ったミスリルの剣はあるが、貴重すぎて解析なんかに回すことはできない。
「いや、本当に解析できません、終わりって言いたくなりますよ。これ、どうしたものですかねぇ」
「ブレスレットですから、腕に巻きつけると反応があるとか?」
「その程度で反応したら苦労は無いよ。こんな感じか?」
研究員の言葉をまに受けて、自分の腕に巻きつけてみる。
──キィィィィィン
すると、突然ブレスレットが淡く輝いた。
「い、痛みはない熱も感じない。これはどういう反応なんだ?」
「わかりません。固有振動も音も熱量も反応がありません。ですが、明らかに輝いて……」
──フッ
あ、消えた。
これが本当の、音もなく消滅するということなのだろう。
「き、消えた……何処だ、何処に消えたんだ‼︎」
「分かりません、ですが、確かに目の前で……」
「探せ、こんなことが知られたら始末書どころじゃない、早く探すんだ……」
そこから先は、何があったか覚えていない。
始末書の提出、責任問題ではあるが、何分、相手は未知の退魔法具。
研究設備の不備という事でお咎めはあったものの、停職三日でどうにか収まった。
ただ、田名部政務官は胃薬を飲みつつ、川端政務官に頭を下げに向かったらしいが、笑い話で終わったという話は聞いている。
「退魔法具か。制作方法が分かったら、俺も作ってみたいよなぁ。国産初の退魔法具って新聞を賑やかせたいよ」
いつかそんな日が来ると思うが、それはいつの事だろう。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
さて。
寝坊した。
いや、今日は土曜日だから休みさ。
だから寝坊は構わないんだよ?
「そんな言い訳があるか。早く朝食を食べてしまいなさい、母さんが片付けが終わらないって困っていたぞ」
「サー・イエッサー」
それはまずい、急いで食べなくては。
今日は午後から、久しぶりに妖魔特区内のティロ・フィナーレにみんなで向かうことになっているんだから。
三ヶ月以上放置していたから、大掃除も兼ねて周辺環境の調査をしたいんだよ。
という事なので、一気に朝食をかっこんでパンを咥えて行って来まーす‼︎
いっけなーい、遅刻遅刻ってパンを咥えたまま、魔法の箒で空を飛んでも曲がり角がないからぶつからないし、トキメキの出会いもないよね。
久しぶりに妖魔特区内にも行けるから、ワクワク感が止まらない‼︎
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




