第百十五話・夷険一節は呉越同舟なれど(元気ですか?)
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これは夢。
どこまでも真っ白な空間。
此処がどこなのか、私には理解できます。
『貴方と話すのは、これで二度目ですね』
はい、貴方が魔導神アーカムですね。
『ええ。本来なら、私が貴方に神聖魔法の理を教える筈でした。ですが、それよりも先に、wonder of the darknessが貴方に加護を授けてしまいました』
それで、私が巫女になってしまったのですよね?
『ええ。神界規定により、一人の人間に加護を与えることができるのは一神のみです。ですが、今の貴方には、どの神の加護もありません』
では、私は神聖魔法は使えないのですか?
『いえ、知識があり、魔力があるなら、誰でも神聖魔法を覚えることはできます。ですから、今の貴方でも僅かな神の奇跡は起こせます』
そうですか。
『それでですね、貴方には治癒神シャルディが新たに加護を授けます。私たちのような統合管理神ではなく、世界神の一柱ですが、それでもよろしいですか?』
は、はい、人々を癒すための力であれば。
『謙虚ですね。今、此処で、乙葉浩介の蘇生をと願っても構わなかったのですよ?』
いえ、乙葉君は帰ってきます。
そう、私と約束しましたから。
『そうですね。今、彼は、私たちの元で魂の治療を行なっています。残念ながら……は失いましたが、そのかわり……を得ることができました』
え?
すいません、うまく聞き取れませんでした。
乙葉君に何かあったのですか?
『大丈夫ですよ。もう少しだけ時間をください』
はい。
『それと、貴方の持っている『神々の書庫の鍵』は、一度、神界規定により没収します』
神界規定、そういうのがあるのですね?
『ええ。あれも、別の神の加護の塊、貴方にはシャルディの加護があるので、使うことはできなくなりましたので』
そうなのですか。
わかりました、この鍵はお返しします。
『ものわかりが良くて助かります。そうですね、それでは、神々の書庫の鍵の代わりに、シャルディに話を通して、神聖魔法以外の力も授けておきましょう』
それはなんでしょうか? 危険なものではないですよね?
『危険はありませんね。まあ、シャルディの加護の卵が孵化するまでは、楽しみに待っていてください』
魔導神アーカム様、ありがとうございました。
そして治癒神シャルディさま、これからよろしくお願いします。
………
……
…
夢を見ていました。
これは、転移門が封印された翌日の夜に見た夢。
あれから、私に加護を与えていたダーク神父の力は消滅し、代わりに治癒神シャルディ様が加護を授けてくれました。
以前のような強力な神聖魔法はあまり頻繁に使えなくなりましたが、それでも重篤な怪我や病気以外であれば、無理なく治療を行えるまでに回復しました。
現在、転移門が封印されてから、妖魔特区はまた以前のような雰囲気に戻りつつあります。
といっても、私たちの世界が戻って来た訳ではなく、百道烈士を中心とした転移門開放派の動きが消滅し、ほとんどの魔族がのんびりとした生活を始めたようです。
その中心にいるのが、元十二魔将の白桃姫さん。
乙葉君と百道烈士の戦いの最中、私を守ってくれた上級魔族です。
そう、乙葉君が転移門を封印し、命を賭けて私を助けてくれたあの戦いから、もうすぐ一ヶ月が経とうとしています。
乙葉君は未だに目を覚ますことなく、実家の自分の部屋で、静かに眠っています。
本当ならば病院に入院する必要があった筈なのですが、ご両親がツテで入手したらしい機具によって、乙葉君の生命は維持されているそうです。
私も毎日、乙葉くんの元に顔を出しています。
今日はこんなことがあったんだよ、明日はこんなことをするんだよって、毎日話しかけているんです。
瀬川先輩や築地くんも、私と一緒に乙葉君の元に遊びに行ってます。
あと少し、ほんの少しで目が覚めるような気がするから、目が覚めたら、私が一番におはようっていってあげたい。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
場所は変わって、永田町・国会議事堂。
一ヶ月前、乙葉浩介によって転移門が封印されてからというもの、臨時国会が召集されて毎日のように議論が続けられていた。
「いいか‼︎ これは日本国にとって大きな損失なのだぞ? 最高の医療スタッフを用意してでも、乙葉浩介の意識を戻せないのか?」
妖魔対策委員会では、毎日のように様々な議論が続けられている。
中でも問題視されているのが、あの転移門開放事件を未然に阻止した現代の魔術師・乙葉浩介の死亡について。
両親や関係者から聞き込んだ情報では、意識が戻らないものの生きているという報告は受けている。
だが、いつ意識が戻るのか、このまま死んでしまわないのかと問いかけても返答はもらえない。
「川端政務官、乙葉浩介の件については、あなたに全て委任してあった筈ですよね? にもかかわらず、今回のような失態、どのように責任を取るのでしょうか?」
「彼は命を賭けて転移門を封印した、それで良いんじゃないか?」
「はぁ……今回の失態を踏まえて、今一度与党の妖魔対策に対する意識を改めてもらう必要がありますね。今回の件以外にも、妖魔に関する事件などで追及したいことは山のようにありますから」
転移門が封印されてからというもの、国会での野党の追及が強くなった。
理由は簡単で、今、政権が交代したところで以前のような転移門の開放やそれに伴う事件性についての責任追及が起きないことを知っているから。
ここで攻勢に出て政権を取り戻したところで、転移門は存在しないし妖魔の対策についても自分たちで好き勝手に法整備ができるやようなることを理解しているから。
だから、以前のような逃げ腰ではなく、野党は隙を見ては重箱の隅をつつくかのように責任追及を続けていた。
「好きにすれば良いさ。私は、私の行ったことに対して間違ったとは思っていませんから。それよりも、野党の皆さんこそ、妖魔との盟約を理由に、これまで追及されなかった事についての説明をお願いするかもしれませんので……」
ふん。
俺の政治家生命を終わらせる気でいるのなら、お前たちも巻き込んでやるからな。
こっちには人魔・陣内がいるんだ、すぐにお前たちの思考を操作してやるからな。
……
…
いやぁ、ここまで予想外とは思わなかったねぇ。
俺は、ダーク神父の命令通りに動いただけ。
本当の筋書き通りなら、今頃は新山小春が巫女として贄となり転移門は開放。
その転移門を通じてやってきた3代目魔人王フォート・ノーマが進軍を開始したところで、奴の力を封魔の枷によって封印し、俺が奴を始末する。
あとは、俺の力で思考操作を行い、ダーク神父から貰い受ける筈だった『覇王の卵』で俺が魔人王に覚醒する。
「それが、たかが人間如きに、ここまで計画が邪魔されるとはねぇ」
今は国会で委員会の話し合いが行われている。
今日の俺は出番がないので、こうしてタバコを咥えながらのんびりとしているだけ。
本当に、なんであんな小さい人間にここまで邪魔されたかねぇ。
──カツーン、カツーン
ザワッ
いきなり寒気が走る。
これはあれか、ダーク神父が顔を出したんだろうなぁ。ほら、すぐそこに霧が発生して実体化を始めたよ。
──シュゥゥゥゥ
『計算違い……だな。よもや、あの少年の持つ魂の力が、あれほどとは思わなかった』
「ダーク神父、そこまでの器なのですかい?」
『普通の人間程度なら、とっくに百道烈士によって殺されていた筈。だが、あのものの血筋と、あやつに加護を与えた破壊神の力が、彼を人間外にまで成長させたのだからな』
はぁ、面倒くさい。
そんな奴相手にさせないで下さいよ。
「それで、あの乙葉の血筋ってのは?」
『母親が魔族だ……それも神話級のな。那須野に封じられていた妖、と説明すれば理解できるであろう?』
「那須野ってことは……殺生石? え? 玉藻の前様? それは本当ですかい?」
『ああ。神代の力を持つ魔族、通りで我の目からも逃れることができる筈だ。そこに破壊神の加護まで加わったとなると、この計画はもともと無理があったとしか思えぬ』
破壊神の残滓であり、この世界の神々の頂点の一つである統合管理神のダーク神父の目でさえも、見通すことができないとはなぁ。
『我はそこまで万能ではない。そもそも、統合管理神は、世界神を監視する立場であるからな。世界を見るという点においては、その世界を管理する世界神の方が強いと言うことだ』
「はいはい、それで、次の手はどうするんですかい? まさか、このまま泣き寝入りってことじゃないですよね?」
『鏡刻界を動かす。陣内は、しばらくは自由にして良い、時が来たら、また動いてもらう」
はぁ、人間で言う宮仕えの辛さがよくわかったよ。
一度でも踏み込んだ以上は、最後まで付き合えってことですよね。
はいはい、分かりましたよ。
──ダダダダダダ
お、閣議が終わったようで、川端政務官が血相変えて走ってきましたか。
『陣内、いや、BJ。新しい力を二つくれてやる、うまく使いこなすようになるのだな』
──フワッ
俺の目の前に、二つの卵が浮かび上がる。
なるほどなぁ、これをうまく使えってことですかい。
川端政務官が辿り着く前に、この卵は取り込んでしまいますか。
手を伸ばして受け取って、そのまま契約するだけで、ほい完了。
「あ〜なるほどなるほど、これが新しい力ねぇ。これはあの小僧たちも予想外だろうからなぁ」
「陣内、何を独り言を呟いているんだ、早く着いてこい。取り敢えず三人ほど、こっちに引き込まないとならないんだからな」
「分かってますって。盟約が切れるまであと4年なんですから、その間は、川端さんの命令には従いますよ」
やれやれ。
もう暫くは、この力については黙っていた方がいいようですなぁ。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
オトヤンが転移門を封印した日。
世界各地に姿を表した転移門は全て消滅した。
但し、その跡地には巨大な水晶柱が姿を表したのである。
異世界水晶柱とも、水晶柱とも呼ばれているそれは、当然ながら札幌の妖魔特区にも姿を表した。
世界中の水晶柱の大きさは、高さ20m、直径4mの六角注。先端は尖っているので、六角推とでも言うのか。
そして妖魔特区の柱は、高さ50m、直径10m。
現在、世界中の各研究機関が、この正体を必死に調査している最中である。
今、俺がいるところは妖魔特区、大通り3丁目。
以前は、ここでオトヤンがストリートマジシャン・甲乙兵として遊んでいた。
今は鬱蒼とした森林が拡がっている。
現在、俺と新山さんは定期的に此処を訪れては、白桃姫に魔力玉を届けに来ていた。
今日は、そのついでに綾女さんにオトヤンの現状を説明するのにやってきた。
「まだ、あの子の意識は戻らないのかい?」
「まだまだですよ。みんな待っているんだから、とっとと意識を戻してほしいんだけど……いや、早く魂の修復が終わらないかな….って言うところです」
定期的にオトヤンを鑑定して、ステータスの確認はしている。
相変わらず『魂の再生状態』からは変化がない。
「そうかい。まあ、もう暫くは様子見だね。けど、今更なんだけど、よくあんたらは私の本体相手に勝つことが出来たねぇ」
「勝つっていうか、もうギリギリでしたよ」
「あたしを此処から連れ出してくれれば、もっと簡単だって思わなかったのかい?」
それはオトヤンが考えたらしいけど、ここから出すって言うことは一旦、13丁目ゲートの結界を剥がす事になるんで。
飢餓状態の妖魔の相手をしつつ、結界の再構築なんて意識の集中が半端なく辛いって言うことで却下。
俺は、綾女さんを一度封印したら外に出せるんじゃないかって話もしたんだけど、妖魔を封印するためには相手を弱らせる必要があるので、綾女さんにそんなことはできないって言うことで却下そのニ。
「……って言うことなんですよ」
「相変わらず優しい事で。まあ、その優しい浩介くんは、まだまだかかりそうだねぇ」
「全くじゃ。そろそろ彼奴の魔力が欲しいぞよ」
「なんだよ、白桃姫も来たのか。あんたは昨日、新山さんから魔力玉貰ったんじゃないのか?」
「うむ。じゃから其方のは今日はいらぬぞ。今日はな、忍冬とやらと会議があっての」
転移門消滅以降、白桃姫や一部の魔族は第六課と接触している。
正確に言うと、瀬川先輩と俺、新山さんが仲立ちをして友好関係を結べるように話し合いの場を設けた。
それが上手くいったらしく、現在は妖魔特区内部の妖魔の統率を白桃姫が行なっているらしい。
「それで、何か変わった話でもあったのか?」
「近いうちに、妾はテレビに出る。日本滞在魔族に対して、妾からメッセージを伝えることになったのじゃ」
おっと!
それは凄いわ。
魔族と人間の架け橋が、本当に動き始めたのかよ。
「そりゃ良いわ。オトヤンが聞いたら諸手をあげて喜ぶんじゃないか」
「じゃろうなぁ。それでじゃが、築地、お主に当日の妾の警護を任せるぞよ」
「なんで俺なんだよ? 第六課にもいい人材がいるだろうが」
「其方だけではない。新山も瀬川も賛同してくれておる。妾に二心がない事を証明するためのパフォーマンスとやらじゃ」
はいはい。
魔族と人間の架け橋代表の一人、人間代表なのね、俺たちは。
「本当ならば、乙葉一人で十分なのじゃがな。その乙葉がまだ本勢じゃないからのう」
「全くだけどさ、俺としては、オトヤンはもう少し休んでいても良いと思うぜ。俺や新山さん、瀬川先輩も頑張ったけれど、実際は殆どがオトヤン一人で走った結果なんだからさ」
「その褒美が神化じゃからなぁ。魂の再生も理解できるわ」
「進化?」
なんだ? オトヤンは進化するのか?
現代の魔術師は、究極の魔術師の指輪でも使ってインフィニティウィザードにでもなるのか?
「ん……築地の、その顔は乙葉君の妄想タイムと同じじゃが、おそらくは違うぞよ? まあ、明日の正午にHTN放送局とやらに向かうので、朝方に迎えに来るぞよ」
「学校だわ、サボれってか?」
「公欠じゃよ、要からも話は通してあるらしいからなぁ」
こ、この悪女魔族が。
ニヤニヤと笑いながら説明するなって。
はあ、明日からもまた忙しくなるのかよ。
オトヤン、頼むから早く帰ってきてくれよ。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
・今回のわかりやすいネタ
仮○ライダーウィザード