第百十三話・天下無双は塞翁が馬(ピンチ、いや、かなり不味いです)
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週日曜日と火曜日、金曜日を目安に頑張っています。
※若干の鬱展開……のようなものあり。
読む方は覚悟を決めてください。
深夜2時。
明日の朝方には、全ての条件が揃う。
本来なら、転移門開放の条件が全て一致するまでには1年以上時間が掛かる筈だった。
だが、乙葉浩介の出現により、転移門が人間世界に出現した。
この時点で、鏡刻界にある水晶柱に魔力を集める必要がなくなった。
では、こちらから開くための条件は?
百道烈士は、大量の生贄を使って転移門を活性化させるか、もしくは乙葉浩介の魔力を転移門に集めれば開くと思っていたらしい。
いや、それでも間違いじゃないのだが、それでは俺の目的が狂うんだよ。
ダークネス神父曰く、すでに巫女の準備は終わり、あとは転移門前で儀式を行うだけ。
そこで『清らかなる巫女』を汚し、その心臓から吹き出す血を捧げることで、転移門は開放される。
「全く。こんな面倒なことしなくても、何か方法があるんじゃないかなぁ」
俺はのんびりとターゲットである新山小春の家までやってくると、空間結界を展開して彼女の家全体を結界内に取り込んだ。
まあ、取り込む人間は新山小春だけなので、もしも誰かが見ていたとするなら、目の前で神隠しにあったようになるだろうさ。
それでも、この家の住人は新山小春以外は普通の人間、それが分かったところで何もできやしないだろうなぁ。
「さて、封魔の枷を装着して……と、対妖魔結界が仕込まれているのかよ」
よく見ると、新山小春の周囲には結界が仕掛けてある。
まあ、俺の能力は結界中和、この程度の術式なら難なく消すこともできるので、両手の結界を中和してから、この封魔の枷を付けると……。
──プツッ
ほらな、この子の魔力自体を封じたので、もう魔術の行使はできないし、退魔法具の発動も無理になる。
そのせいか知らないが、腕からブレスレットが浮かび上がってきて床に落ちたけど、まあ、いいか。
「どうせ、これも乙葉浩介が作った退魔法具だろうけど、ダーク神父の封魔の枷の方が上だったようだな。まあ、あちらさんは神威により構成しているから、人間が作った程度の退魔法具は効果ないんだよなぁ」
さて、これでこの娘さんを連れて行ける。
でもよぉ、百道烈士に渡した時点で、速攻で喰らうだろうからなぁ……面倒くさいんだよなぁ。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
冬の夜。
寒い、今日は特に寒い。
そのせいか、体が細かく震えている。
いや、これは寒さのせいじゃない。
新山さんの家には先輩が向かってる、万が一のことも考えて祐太郎には先輩についてもらうように連絡も入れた。
あとは、急いで転移門を確認して、新山さんを見つけるだけ。
「……MPはまだ300ちょいか」
こんな状態で戦えるはずがない、それなら飲むしかないでしょうとカナン魔導商会でMP回復薬を全て購入。
一本10万でMPが100回復するので、可能な限り購入したいけど、チャージ残高が残り少ない。
「今のチャージなら、25本買って終わりか。まあいい」
『ピッ……魔力回復薬25本を購入しました。残チャージは1500です』
1500円で買える魔道具はない。
すぐさま魔力回復薬を次々と飲み干して、残存MPは残り2800。
「……何かアイテムをチャージしたいところだけど、もう目の前だからなぁ」
すぐさま大通り13丁目ゲートに向かいなかに入ると、再び魔法の箒を取り出して転移門のあるテレビ塔前広場へと移動‼︎
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
乙葉浩介がゲートにやってくる少し前。
「がーっはっはっはっ、でかしたぞBJ、この小娘が巫女だったとはなぁ」
新山小春を攫い、空間結界を複数展開しつつ乗り継ぐ形で妖魔特区外に到着した。
全く、いくら俺が結界中和能力が有るからと言っても、魔力は無限じゃないからな。
さらに結界中和能力で妖魔特区に穴を開けると、すぐさま内部に侵入、真っ直ぐに転移門前で待機している百道烈士たちの元にたどり着いた。
「全く、こっちは冷や汗ものだよ。いつあの魔術師に見つかるかと思ったら、気が気ではなかったからな」
「そうかそうか。それじゃあ、早速儀式を始めるとするか」
そう告げて、俺が背負っている小娘・新山小春とかい浮かび上がって巫女を受け取ると、百道烈士はいきなり彼女の着ている衣服を力任せに破り捨てた。
──ペロッ
あ〜。
俺の好みは、もっとこう、ボンキュッボンって感じなんだけど、流石に巫女の発する匂いには、百道烈士だけではなく集まった妖魔たちも股間を押さえて震え出している。
そうだよなぁ、魔障中毒によって発生する贄の術式は、そのものの魔力を増幅させるだけでなく、魔族にとっては強烈な媚薬効果もあるからなぁ。
──ズルッ……ベチャッ、ベロッ……
百道烈士はそのまま両手を掴んで目の前にぶら下げると、その顔から頬、首、鎖骨から胸、その先にある突起へと舌を這わせていく。
その都度、百道烈士の体が淡く輝くことから、巫女から発している魔力が百道烈士の体内を巡り、力と成しているのだろう。
「いいぞ、うまいぞ、これだ、これこそが甘露だ、さあ、起きろ、怯えろ、俺は意識のない女を嬲るなんて甘い魔族じゃないんだからな」
──バシィィィッ
力一杯新山小春の頬を張り倒す百道烈士。
その一撃で新山小春も意識が戻ったらしく、軽く呻き声を上げてから、悲鳴を漏らした‼︎
「え、な、なにが……あ、いや……いやぁぁぁぁ」
──ゾクゾクッ
その悲鳴だけでも、体が震えてくる。
そして百道烈士もまた、悲鳴に合わせるように股間が熱り勃ち始めた。
「いい、その悲鳴だ、それを待っていたんだ‼︎」
「やめて、やめて.…」
「そうだ、怯えろ、叫べ、そして奴を呼べ‼︎ 俺は、あいつの前でお前を犯す、孕ませる、そして配下の魔族たちに嬲らせ、その臓腑を生きたまま引き摺り出す‼︎」
「い……や……」
あ〜、泣いちゃったか。
まあ、百道烈士さんよ、そろそろ警戒したほうが良いんじゃねえか?
あんたにはわからないだろうけどさ、あの現代の魔術師って、魔力を消す魔導具を持っているの知らないんだろうなぁ。
お前の背後でよ、白桃姫がさっきからニヤニヤと笑っているのわかっているのか?
「助け……て……乙葉君……乙葉くぅぅぅぅん‼︎」
──ドッゴォォォォォォン
ほら来た。
しかも真上、上空からの誘導弾じゃねーか。
それじゃあ俺は、とっとと逃げさせてもらうぜ、せいぜいがんばってくれな、贄の百道烈士さんよ。
………
……
…
転移門まであと50。
姿は消している、魔力もマジックカッターで消してある。
このまま上空から一気に急降下して、新山さんを助け出す‼︎
そう思って転移門上空に到着したら、百道烈士によってひん剥かれたのか、全裸の新山さんが両手を掴まれて釣り上げられているじゃないか。
ゆ、る、さ、ん。
上空からの奇襲攻撃? はぁ? 知った事か!
「一撃必殺、125式光の浄化弾っっっ」
『MPが不足しています』
「うっせぇ、属性変換術式を起動‼︎ 俺のHPをMPに変換しやがれ‼︎」
『承認。変換レートは50:1です』
右手を銃の形に構え、風の魔術により作り出したシリンダーで加速。
浄化属性を纏った光の弾丸が、百道烈士の頭上から叩き込まれた‼︎
──ジュゥゥゥゥゥ
突然、頭から突き刺さるような激痛が走ったのだろう、百道烈士が新山さんを離して俺の方を向く。
だが、浄化弾は貫通する事なく頭から弾かれた。
「来たかぁぁぁ、残念だが、貴様はそこで見ていろ、今からこの女を嬲り、犯す‼︎」
「なんだと‼︎」
──キィィィィィン
急降下して新山さんを救い出そうとしたが、百道烈士と新山さんのいる場所の地面が輝き、結界が生み出された。
その結界にぶつかると、俺は内部まで貫通する事ができずに弾き飛ばされてしまった。
油断した。
あとほんの数メートルだったのに、公園の端近くまで弾き飛ばされたわ。
「はーっはっはっはっ。この結界はな、魔力も闘気も弾く堅牢な結界だ、そこでお前は黙って見て.…え?」
高笑いしつつ新山さんに手を伸ばそうとした百道烈士だが、その手前で何かによって弾かれている。
いや、正確には、結界の内部に潜り込んだ白桃姫が、新山さんを抱きしめて座っていたのである。
「白桃姫、貴様、一体なんの真似だ?」
「お前だけ、この甘露を味わうのはずるいではないか。次は妾の番じゃ、少し味見させてもらうぞよ」
「ふざけるな、それは俺の獲物だ、この結界を解け‼︎」
「ふっふーん。解けるものなら解いてみるが良いぞ、妾の無敵結界を破壊できるのならな」
そう呟きつつ、白桃姫は新山さんを抱きしめたまま動かない。
そして、俺の方をチラッチラッと見ている。
信じていいのか?
白桃姫は、新山さんを守ってくれているのか?
「……よし、自分の都合の良い方向に考える!! でも百道烈士、貴様はぶっ殺す」
魔力残量2300ちょい。
これでどこまで行けるかなんて考えない、出来るところまでやるだけだ‼︎
「貴様にこの結界が破壊できるとでも? お前たち、その魔術師をぶっ殺せ‼︎」
──ドゴドゴドゴドゴッッッッ
眼下の妖魔が次々と魔術を飛ばしてくる。
中には、体から魔力砲のようなものを打ち出すものもあれば、近くにあるベンチを掴んで投げつけてくるものもある。
だめだ、空を飛んでいると片手が使えないから中和しきれない。
すぐさま地上に降りて箒は回収、左右の手に中和結界を作り出すと、あとはローブ型魔導機動甲冑によって上昇しているステータスを信じて集まってくる妖魔は片っ端からぶった斬るのみ!
──ズバァァァァァァ
今宵のフォトンセイバーは一味違う。
魔力の足りない今は、これだけでも十分な威力を発揮してくれる。
本当の勝負は、結界の中にいる百道烈士を相手する時、それまでは余分な魔力は消費したくないからな。
………
……
…
私は攫われていた。
あの百道烈士という妖魔に掴まれて、嬲られそうになっていた。
怖い
怖い
怖い
どうしてここにいるのかわからない。
どうして私が捕まっているのかもわからない。
魔法を使って確認したいけど、魔法が発動しない。
腕にあった筈のルーンブレスレットもない。
その代わりに、変な腕枷が嵌められて、両手が使えない。
怖い
怖い
助けて
たすけて……乙葉君
声も震える。
でも、叫ばないと。
きっと来てくれる。
乙葉君は、来てくれるから。
「助け……て……乙葉君……乙葉くぅぅぅぅん‼︎」
── ドッゴォォォォォォン
突然の爆発音。
そして百道烈士の頭上から魔力の塊が突き刺さり、私は百道烈士の足元に落とされた。
すると、すぐさま白桃姫が私のもとにやってくると、私を力一杯抱きしめてくれた。
「新山こはるじゃな。妾は敵ではないから安心せい、良いか、妾の結界から外には出るでないぞ、中にいる分には安全じゃが、外には其方を喰らおうとする魔族が群れをなしておるからな」
白桃姫が、妖魔が助けてくれた。
でもどうして?
「な……」
「何故? どうして妖魔が助けてくれるの? と言いたいのじゃろう? ここで其方を見殺しにするとな、後から乙葉浩介に怒られる! ここで貸しを作っておけば、またあの甘露が食べられるからのう」
不思議と、白桃姫の言葉に安心する。
どうしてだろう。
「しかし、この封魔の枷が厄介じゃな。これは妾では外せぬから、今しばらくは妾の元でじっとしておれ」
──コクリ
頷くことしかできない。
けど、私は、この妖魔を信じる。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
数が多すぎるわ‼︎
転移門前の百道烈士の元まで向かいたいんだが、妖魔の数が多すぎる。
ここ一番と言わんばかりに、妖魔の軍勢が俺を転移門まで近寄らせようとはしない。
あと50mも無いんだよ?
しかも、後ろからも妖魔が襲いかかって来るんだよ?
多勢に無勢って、まさにこれだよな。
「機甲拳・一の型改・拡散型インパクトドライブっっ‼︎」
「泣き叫べ焔猿っっ」
──ドッゴォォォォォォン
俺の後方からやってきた妖魔たちが爆散し、俺の真横に炎に燃える猿が姿を表す。
そして猿は、口を開いて咆哮を上げると、近くにいた妖魔たちが突然燃え上がった‼︎
「祐太郎、そして要先生が‼︎」
「お待たせだ、先輩の護衛は忍冬師匠に任せてきた」
「遅くなってごめんなさい……あとは任せてください」
『乙葉君聞こえるかしら、今、第六課の退魔官12名が向かっているので』
先輩の念話も届いたあ。
泣けて来るわ、いや、泣くには早い。
ここにいる妖魔を全て駆逐して、新山さんを助ける。
そして転移門を封じる‼︎
「任せるぞ」
「応‼︎」
魔導機動甲冑・零式起動に必要な魔力は僅か。
そもそもチャージしていないから、俺の魔力を引っ張ってもらって無理矢理動かすしか無い。
「零式起動‼︎」
『ピッ……カウントダウン。16、15、14』
足元に魔力を集め、一気にジャンプ。
眼下の妖魔なぞ全て無視して、百道烈士を包み込む半球状結界まで一気に間合いを詰める。
「きたか乙葉浩介ぇぇぇぇ‼︎」
「属性融合術‼︎ 闘気と魔力を融合……神威型・125式力の矢っっっっ」
『ピッ……魔力不足です。生命力を魔力に変換します』
──ドッゴォォォォォォン
着地寸前の上空から、渾身の一撃。
それで百道烈士の周囲の結界が吹き飛んだ。
剥き出しになった百道烈士の全身も隆起し、両手の拳に魔力と闘気を発生させている。
「これで終わりだっ、神威型125式・光の浄化弾っ」
『ピッ……魔力不足です。生命力を変換します』
「吐かせ、もう限界じゃねえかよ、これで終わりだ‼︎」
──キィィィィィン……フッ
『タイムアウト……零式を解除します』
なんだと?
零式が時間切れで解除されると、つい今し方まで練り上げていた神威型125式・光の浄化弾もスッと消えた。
しかも、着地した瞬間に魔力酔いが発生した。
──ドッゴォォォォォォン
そして、俺に向かって百道烈士の魔力砲・改が直撃する。
たった一撃、それで俺は全身を魔力砲によって焼かれ、その場に崩れ落ちた。
「……残存MPは5……」
「どうしたどうした、その程度かよ現代の魔術師さんよぉ‼︎」
百道烈士が倒れている俺の右手を掴むと、力一杯握りしめた。
──ゴギッ
右手の骨が砕けた。
「ぐ、ぐぁぁぁぁぉ」
「ん〜いい声だ。そうだ、その声が聞きたかったんだよ。次は左手だな」
──ゴギッ
左手も砕かれた。
もう指先の感覚もない。
「ほらよ、お前のボロボロな姿を、お前の彼女にも見せてやれよ!」
──ブゥン
俺の腕を掴んで、百道烈士は俺を白桃姫の結界に向かって投げつける。
距離が足りなかったのと方向がブレていたので、俺は結界にぶつかることなく横のあたりの地面に叩きつけられた。
「くっそぉぉぉぉ」
どうにか体を起こすが、両手が使い物にならない。
足も諤々と震えていて、体の自由が無くなった感じだ。
何か手は無いか。
このままだと、殺される……。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




