第十一話・竹馬の友は慧可断臂(巻き込むなら大勢で)
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失言。
ああ、なんて危険な単語だろう。
多分、不良たちを相手に喧嘩して、スキルをうまく使って気分が良くなって、ついでに祐太郎ともいつもの漫才をやっていたんで口が滑ったんだろうなぁ。
瀬川先輩の合気道有段者宣言について、思わずスキルありませんよねって話したもんだから、祐太郎と新山さんに詰め寄られて絶体絶命のピンチである。
‥‥‥
‥‥
‥
「オトヤン、なんで瀬川先輩が合気道のスキルを持っていないなんて考えたんだ? そもそもスキルってなんだ。ラノベ脳が悪化してでた発言にも聞こえなかったぞ?」
「私も最近は、『孤島の鬼』や『少年』といった作品以外にもラノベというものを少し読んでいるのだが、そのスキルという概念は現代世界には存在しないはずでは?」
ああっ、江戸川乱歩の『孤島の鬼』と谷崎潤一郎の『少年』ですね先輩。
俺でもそれは知っています。BLの走りともいわれていますが、実際に読んでみたらなかなか面白い、腐女子という概念のない時代のアレですね。
しかも、新山さんに至っては、しきりに指輪を気にしているではないですか、これは実にやばい状態である。
「ま、まあ、暑かったからラノベ脳まで沸騰していてね」
「嘘つけ。あの外国のオカルトリングで暑くないだろうが‥‥なあオトヤン。俺たちは親友だよな、隠し事はしないよな? 俺の秘密も教えてやるから、オトヤンの秘密も教えてくれ」
真剣な顔で祐太郎に言われると、もう諦めるしかない。
ハァ、とため息をついてから、俺はゆっくりと魔力を循環させる。
「じゃあ話すけれどさ、ここでの話は絶対に内緒な。最悪、俺、命を狙われる可能性もあるからさ‥‥『沈黙の精霊よ‥‥我の求める空間を沈黙の壁にて守り給え‥‥‥沈黙空間』」
部室内を沈黙の魔術結界で覆う。
しっかりと詠唱したので、四方の壁と床、天井に魔法陣が形成されて、壁と床天井が淡く緑色に輝いた。
これで室外に音が漏れることはない。
ちなみに、これも生活魔術に含まれていた。でもさ、生活に沈黙空間って必要なの?
「い、今のは?」
「実は俺、魔法が使えるんだ。詳しいことは言えないけれど、ユータロなら理解できる範囲で説明するとだな」
俺は淡々と説明する。
バスに轢かれて死んだこと
そして女神の手で異世界に転移する筈だったこと。
加護を貰った段階で手違いだと発覚し、加護を貰ったまま現世界に帰ってきたこと。
カナン魔導商会っていうネットショップで、異世界の魔導具が買えること。
魔法が使えること。
新山さんの病気を治したのも、実はカナン魔導商会で購入した病気治癒ポーション、みんなが付けている涼しくなるリングも、同じく買ったレジストリングに俺が耐性を付けたものであること。
そして、鑑定眼で他人のスキルが見えること。
体調とかも見えるので、新山さんの癌はそれで判ったと告げておく。
なお、スリーサイズと処女・非処女については伏せておいた。
そこまでバレたら女性陣にマジで殺される。
ここまでの説明で、新山さんは目をキラキラとさせているし、瀬川先輩はニコニコと笑っているし、祐太郎に至ってはワクワクしているし、あれ? 誰も俺を怒らないのか?
「なるほどなぁ、しかし狡いぞオトヤン。それならそれで教えてくれれば、俺も魔導具とやらが欲しいんだが」
「そっちかーい!! 怒らないんかーい!!」
「乙葉君、私たちが怒る理由はどこにもないわよ? むしろ部員にそのような凄い人がいることを、私は誇りに思うわ」
「そっか。やっぱり私の癌は乙葉君が治してくれたんだね‥‥ありがとう‥‥」
いや、頼むからみんな、俺にキラキラした目を向けないでくれぇぇぇぇ。
そんなに俺は綺麗な男じゃないんだぁぁぁぁ。
同級生の女の子のサイズを見てニヤニヤと想像していましたよごめんなさい。
「なるほどね。つまり、前に乙葉君が話していた『紙の未来が見える魔術』というのは本当だったのですね。それは凄いことですわ」
「ええ。このゴーグルを使うと見えるのですよ」
もう速やかに、目の前の空間収納に手を突っ込んでサーチゴーグルを取り出す。
透明化していないから、今は誰にでも見えている。
それ以外にも中回復ポーションと病気治癒ポーション、そしてレジストリングも取り出して見せた。
みんな興味津々で魔道具を触っているのだが、瀬川先輩がサイトゴーグルを装備した瞬間、顔が真っ赤になっていた。
「これは、なかなか凄いわ‥‥」
「え? 何か見えましたか? それって俺以外は見えないはず‥‥」
「そうなのですか? そうならそれで良しということで‥‥‥でも19cmと20cmとは、なかなかのご立派な‥‥‥そうですわね」
「いやぁぁぁぁぁぁぁ。見られたぁぁぁぁぁ、男の純潔が見られたぁぁぁぁ」
「ん? まさかとは思うが、20cmって俺のことか?」
なんでそこを見たかなぁ。
いや、一見してもサイズまでは判らないはずなので。
それよりも、俺よりでかい祐太郎め、何か奢れ。
「まさかとは思いますが、先輩、鑑定モードで見えましたか?」
「ええ、ですが、今の言い方ですと鑑定以外のモードがあるということですよね?」
「あうち‥‥それ以上の突っ込みはなしでオナシャス」
「へぇ、オトヤン、それ、俺にも使えるのか?」
「さあ? たぶん瀬川先輩は神の加護があるから‥‥今のなし」
いかん、もうばれたんならいいかって油断した。
俺の失言パート2に、瀬川先輩も心うきうき状態である。
「私に神の加護が?」
「はい‥‥正直に申しますとですね、先輩には『貴腐神ムーンライトの加護』が備わっています。だから魔導具が使えたんだと思います」
「ねね、乙葉君、それって私にも使えるようになる?」
「俺も何か魔導具が欲しいんだが、どんなものが売っているんだ?」
矢継ぎ早に質問が飛んでくる。
いや、俺は十七条拳法が使えるって言ったけどさ 聖徳太子じゃないからね?
そして自分に神の加護があるって聞いて、瀬川先輩はご満悦の模様である。
「魔導具ねぇ‥‥今何か‥‥あ、お勧めの商品あるわ」
『ピッ‥‥ミスリルハリセン。魔法金属ミスリルで作られた突っ込み用ハリセンです。これで殴られたら、精神的混乱も一発で回復。ノーダメージ/痛打/斬撃/打撃の4つのモードが使用可能。衝撃音は心地よく、周囲の人にも聞こえる親切設計。今ならもれなく120万クルーラ』
あ、これ買うわ。
これで残高は105万20クルーラか。ちょっと最近は買いすぎたかなぁ。
ピッ、と皆の目の前で購入してみせると、今回は宅配魔法陣が見えるように可視化しておいた。
その宅配魔法陣の真ん中に置いてあるミスリル製の突っ込みハリセンに、祐太郎はどう突っ込んでいいか考え込んでしまったみたいだが、まあ無視。
「これって、私たちにも使えるものなのですか?」
「えぇっとですね。魔力を流さないと使えなくてですね。その訓練をすれば使えると思いますよ」
「乙葉君は本物の魔術師なのね?」
「いや、俺は魔法使いです、ほら‥‥光球」
掌から光の玉を作ると、部屋の真ん中に浮かび上がらせた。
それを見て、祐太郎と新山さんがさらに前に出る。
「「 教えてくれ(ください) 」」
「い、いや、教えるのは構わないけど、一朝一夕で覚えられるものじゃないから」
「ということですわ。築地君も新山さんも一度席に戻りましょう。いくらなんでも乙葉君が困っていますからね? 魔法の練習は明日にでも教えてもらえればよろしいかと思います、今日のところは簡単な質問にとどめておいた方がよろしいのでは?」
ああっ、先輩が女神に見える。
兎にも角にも、これで少しは落ち着いただろう。
「そうだな。じゃあ、オトヤン、これだけは教えてくれ‥‥」
「真剣だな。何が聞きたい?」
「ロト6当てたのか‥‥」
――ゴクッ
なんでみんな、そこで喉を鳴らすわけ?
これで外したなんて言ったら、嘘だってばれるじゃない。
「4億4千万だ。夏休みに親父と一緒に換金してくる」
「‥‥おう、じゃあオトヤン、次の宝くじの当選番号、今度教えてくれ」
「次は明後日か。一度うちに帰ってからなら教えられるな、それでいいか?」
「ああ構わないさ。持つべきものは友だよなぁ」
まあ、祐太郎は昔からの友達だし、別にいいか‥‥って、新山さん、そして瀬川先輩、物欲しそうにこっちをチラツチラッと見ないでくださいませんか?
教えられても、うちまで来ないと無理ですからね。
「じゃあ乙葉君。私とLINESのアドレスを交換しませんか。私は来週ので構わないので教えていただきたいですわ」
「わっわたしも交換する。私は再来週でお願いします!!」
「お、おおう。ま、他言しないっていう約束だし、いいかぁ」
この後は、みんなに色々と話をしていた。
一番気になっていたのは、やっぱり魔法の行使について。
問題は魔導書の存在。これがないと魔法は使えないので、これをどうやって手に入れるかが勝負だろう。
魔導具については、一つ一つが高額商品なため、ロト6の当選金で何とかする方向で話はまとめられた。
「あ、ユータロ、俺の秘密を告げたんだから、ユータロの秘密も教えてくれな?」
「ああ。別に構わないぞ。この前、俺は魔法使いになる資格を失ったって話したよな?」
ちっ、このリア充がと思う。
昔からモテてていたので、まあ、祐太郎ならありかとも思うが。
「そういえば、そうだったか? 俺聞いたかなぁ。それで彼女は誰なんだ?」
「特定の彼女はいないよ。まあ、うちのクラスの女子の半分は摘み食いして美味しかフベシッ」
――スパァァァァァン
ユータロの顔面を、ノーダメージモードのミスリルハリセンでブッ叩く。
実に小気味よい音が室内に響く。
そしてユータロはその場にノックアウトである。
「あ、成程ね。こうやって使うのか」
「いたた。痛くないけど心が痛い」
「うっさいわ、摘み食いってなんだよ、クラスの女子を飲み屋でいっぱいみたいに食べるんじゃねーよ‥‥って、まさか新山さんも?」
「わ、わたしは違いますよ、私はす、好きな人がいますから!!」
「おう、青春しているねぇ。でも、新山さんの好きな人って誰なんだろう。俺だったらラッキーなんだけどね、そんなわけないよなぁ‥‥」
とりあえずミスリルハリセンを空間収納に放り込んで装備欄に登録。
これでいつでも換装で取り出すことが出来る。
そのままスキルとかの話だったり、カナン魔導商会の商品だったりで話が盛り上がってしまい、その日はまともな部活動が出来たとは言えなかった。
〇 〇 〇 〇 〇
さて。
帰宅したらいつもの日課。
最近は少し余力を出すのに、届いた宅配の食材は一気に調理してまとめて空間収納に仕舞っておくようにしている。
それ以外にも、緊急時持ち出し袋だったり予備の工具だったりと、とにかく万が一に備えたアイテムは全て空間収納に放り込んである。
これはあれだ、俺のこのスキルが国家レベルで狙われたときの対応として‥‥っていう厨二病を少しこじらした感じで仕舞い込んである。
事実、今日のようにどこで何がばれるのか分かったものではないからね。
それに、あの不良たちがあっさりと引くとも思えないし。
こういう時の俺の予感って、高確率で当たるんだよなぁと思いつつ、今日はゆっくりと寝ることにした。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
・今回の判りずらいネタ
孤島の鬼/江戸川乱歩著
少年/谷崎潤一郎著
・カナン魔導商会残チャージ数
105万20クルーラ