第百四話・急転直下、危急存亡の秋(いや、いきなりなんで?)
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平和。
のんびりとした時間。
返せ‼︎
何故、俺が叫んでいるかと言うと、突然だけど忍冬師範に呼び出しを受けたのである。
当然ながら魔術研究会全員が、平日の放課後に、妖魔特区内の12丁目ゲートエリアに。
「いきなりの呼び出しってどう言うことでしょうかね?」
「要先生の精霊魔術修得の件って聞いているわよ?」
「え? そうなんですか? 俺はまたてっきり、妖魔特区内の妖魔駆逐依頼かと思ってましたが」
いや祐太郎よ、それならそう説明しているはずだぞ?
「要先生が精霊魔術を習得した暁には、私たちはようやく警察や特戦自衛隊の監視から逃げられるから」
「ええっと、先輩、私たちって監視されていたのですか?」
「聞いていないんだが?」
新山さんと祐太郎の意見はごもっとも。
俺だって監視されていたのには気付いていたけど、去年の春からずっと第六課とかの監視がついていたので無視していただけだからね。
そんなことを話しつつ妖魔特区内に入ると、既に忍冬師範以下第六課の面々が集まっている。
その中に特戦自衛隊幹部の方や川端政務官までいるのは納得いかんがな。
「よく来てくれた‼︎ それでは早速だが、我が特戦自衛隊のメンバーに魔術の継承を始めてくれ」
いきなりの川端政務官かよ。
その後ろには、しっかりと人魔・陣内の姿もある。
「あの、私たちは忍冬師範から要先生に卵の継承を頼むと言われてきたのですが?」
「ああ、それが少し事情が変わってね。急遽だが、要君ではなくこちらの用意した佐藤武志一尉に変わったのだよ」
「本当ですか?」
そう忍冬師範に問いかけるが、軽く頷くだけ。
うん、しっかりと洗脳されているんじゃ無いかな?
「要先生はそれで良いのですか?」
「ワタシニハ、マダカゴヲウマクアヤツルジシンガナイノヨ、ワカッテクレルカシラ?」
「ダウトぉ。陣内さんや、よくもまあ、ここまでしっかりと洗脳できたものだよなぁ」
祐太郎が前に出ると、後ろで困った顔で頭を掻いている陣内に向かって叫ぶ。
「あ〜、ですから、こいつら相手にはこんな手は使わない方が良いって言ったじゃ無いっすか」
「う、煩い‼︎ それよりも早く儀式を行い給え‼︎ 我々に逆らったらどうなるかぐらい、理解しているだろう?」
「理解してねーよ。風の脚っ‼︎」
「瞬歩っ」
──シュン
俺は足に風の加護を、祐太郎は脚部に闘気を集めて一瞬で忍冬師範と要先生の背後に回る。
──スパォァォァァォォァン
よく響いた。
ミスリルハリセンの強打を忍冬師範と要先生に叩き込むと、目玉が一瞬白眼に変わり、そして元に戻る。
「……はぁ。川端政務官。このことについては、あとで上に報告しますので」
「そうです! 妖魔を使って私たちを洗脳しようとしたことは、許される行為ではありません。妖魔特措法第二十五条違反にあたりますので」
よしよし、二人とも意識が戻ったな。
「ふん。証拠はあるのかな? いくら君たち二人が囀ったところで、証拠が……」
瀬川先輩が、しっかりと深淵の書庫の中からスマホで動画を撮っていますが何か?
流石にまずいと思ったのか、川端政務官の顔色も悪くなる。
「お、お前たち、あの小娘からカメラを取り上げろ‼︎」
「川端政務官さん。今の会話の一部始終、全てネットに流していますわ。しかもLIVEで……」
ニマニマと笑う先輩。
しかし、随分と準備がいいような気がするんだが?
そして特戦自衛隊が先輩に向かって走り出すが、全て深淵の書庫によって弾き出される。
先輩の深淵の書庫は、妖魔の能力も物理攻撃も、さらに魔法や闘気も弾く代物だからね。
恐らくは10式戦車の滑空砲だって弾くぞ。
「だ、ダメです‼︎ この壁が硬すぎます‼︎」
「それでもなんとかしろ、カメラを止めさせるんだ! 陣内、お前の力でどうにかできないのか?」
──スッ
すかさず陣内が深淵の書庫に向かって右手を構えたが、すぐに手を戻した。
「ありゃ無理ですぜ。おれたち妖魔の力すら弾く神威結界ですよ。あれを貫通させられるのは、神世の力のみですぜ」
「き、貴様ぁぁぁ‼︎」
「という事で撤収した方が良いっすよ。いくら俺でも、LIVE中継を見ている国民全てに術式を飛ばすことなんてできませんからね。俺の力は、俺の目が届く範囲で肉眼視認のみ……それをお忘れなく」
ズボンのポケットに左手を突っ込み、右手をひらひらと振りながら妖魔特区から出て行こうとする陣内。
そして川端政務官も、慌て後ろから走ってて逃げていく。
特戦自衛隊もまた、川端政務官の護衛を務めつつ外に向かったので、ここに残っているのは第六課のメンバーと俺たちのみ。
「其れにしても、先輩、まさかLIVE配信していたなんてしりませんでしたよ?」
「流石にこの短時間じゃあ無理よ。チャンネル登録だってしていないのですからね。普通に動画を撮っただけですわ」
「「「 恐ろしい子‼︎ 」」」
思わず呟いたけど、この辺りの機転の利かせ方は流石である。
「其れにしても師匠、まさか操られていたとはなぁ」
「ん? 俺は操られていないぞ? 俺以外は皆操られたみたいだが、何か打開策が見つかるまでは操られたフリをしていただけだ」
流石は忍冬師範。
まあ、その辺りの話は祐太郎に任せて、俺は第六課の退魔官たちをハリセンで殴りつつ洗脳解除。
新山さんは解除された人たちを診断で確認し、洗脳が残ってないか調査。
そして全員が無事に解き放たれたのを確認したら、いよいよ本日のメインイベントが始まる。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
精霊魔術の継承。
これがどれほどのものなのか、言葉では表し難い。
ただ、俺たちとしてはここでこっそりと要先生に精霊魔術師になってもらうだけでもよかったんだけど、忍冬師範には策があったらしい。
「それで、HTN放送局の中継スタッフが集まっている意味は?」
そう、俺たちの目の前では、北海道が誇るHTN放送局のスタッフ達が忙しそうに走り回っている。
「そりゃあ、全国区で儀式を中継するからだ。これは要君からの要望でもあってね、この魔術継承の儀を持って、普通の人では魔術が覚えられないことを公表するのさ」
つまり、この儀式自体が特殊であり、条件が揃っていなければ魔術は覚えられないと言うことを公共の電波で公言するらしい。
その為に、魔力感知球による検査も放送し、俺たちに魔法を教わりたいと言う輩を排除する。
幸いなことにだけど、スキー学習のバス事故で魔法治療を受けた生徒たちの魔力については、オレがこっそりと鑑定してあるので問題なし。
魔力回路こそ開いていたけど、皆の魔力は30以上60未満。加護の卵を受け取る条件は満たしていない。
「それじゃあ、始めるとするか。浩介、済まないが適当な魔法陣を作り出してくれるか?」
「了解っす。瀬川先輩、加護の卵をここに置いてください」
コクリと頷いて、先輩が俺の前に卵を配置する。
ここからカメラが回り始め、俺は足元に巨大な魔法陣を形成した。
特に意味のある術式ということではなく、巫術による『儀式強化の術式』を起動しただけ。
加護の卵の継承は、要先生が卵に触れて魔力を注ぐだけだから、本当に意味ナーシ。
やがて大勢のスタッフや無数のカメラが見守る中、要先生が魔法陣の中央に向かい、俺の教えた適当な身振り手振り、魔法言語による『鳩ぽっぽ』を音階つけずに呟いてから、卵を手を添えた。
──キィィィィィン
そして魔力が注がれると、卵がゆっくりと要先生の体の中に沈んでいった。
そして先生の体が虹色に発光すると、魔法陣が全て消滅した。
「ハアハアハアハア……終わりました。精霊魔術の継承、たしかに承りました」
そう説明してから、先生は両手を合わせて左右に開く。
その手の間に、炎、水、風、大地の力が溢れ出し、丸い球体を形成してから華麗に散った。
四大精霊は、要先生を、主人と認めたのである。
「それでは、これで儀式を終わります……」
──パチパチパチパチ‼︎
溢れんばかりの拍手喝采。
その中で、要先生はやり遂げたという嬉しそうな表情で、笑っていた。
………
……
…
馬鹿な‼︎
なんであんな小娘に、精霊の加護を与えたんだ‼︎
我々特戦自衛隊ではなく、何故、あの第六課だけが優遇される?
我が特戦自衛隊のエースである佐藤一尉も、保有魔力は十分に高い。
それは陣内が証明してくれた。
にも関わらず、なんであの女が、第六課が魔術師を得る?
「次の儀式、それは必ず特戦自衛隊で押さえるのだ」
「あ〜。それっすけど、多分無いっすわ」
俺の後ろで、テレビ中継を見ていた陣内が呟く。
「何故だ? 儀式さえ行えば、まだまだ魔術師は増やせるのだろう?」
「川端さん、それは無理っすよ。あなたたち人間は、魔力回路を開くことはできたとしても、魔力弁は開かないんすから。それを開く為には、伝承級の退魔法具とか、今回の儀式で用いられた卵が必要っすから」
なんだと?
それなら、それを探せば良いだけでは無いか?
「なら探させるさ」
「いやぁ、それも厳しいんじゃ無いっすか? 俺の知っている伝承級退魔法具だと、天皇家の八咫鏡とか、イギリス王家のエクスカリバー、あとはローマ法王庁に納められている聖杯ぐらいっすからねぁ」
馬鹿な?
そんなものが、おいそれと手に入るはずがないだろうが。
それともあれか? そういったものを新しく作り出せとでもいうのか?
「何故だ……どうしていつもこうなんだ」
「知らないっすよ。そもそも、川端さんのスポンサー達が欲の皮を突っ張らなければ、こんなことにはならなかったんじゃないっすか?」
そうだ。
俺の懇意にしている企業が魔術を欲しなければ、こんなことにはならなかったのじゃないか?
それが何故、こうなったんだ?
「陣内、必ず何か策があるはずだ……探せ」
「はぁ、了解っすよ」
ボリボリと頭を掻きつつ、陣内が部屋から出ていく。
早くなんとかしないと、人魔・小澤からも陣内を貸し出せって言われているのだぞ?
これ以上の失態を続けては不味いだろうが。
………
……
…
「やれやれ。川端さんも面白いぐらいに操られていますねぇ」
陣内は川端政務官の部屋から出ると、廊下でボソリと呟いている。
そこには誰もいないように見えるが、陣内にははっきりとそこに居る存在に話しかけていた。
「此処までは筋書きどおりっすね? あんたが乙葉浩介をバスに向かって突き飛ばした所から、その彼を統合管理神が助けることも」
陣内は架空を見つめる。
「その統合管理神でさえ、思考誘導で本人の自覚なしに操るなんて、伊達に『破壊神の残滓』って事じゃ無いんすよね。まあ、此処から先の指示はまだ受けてませんけれど、上手くやってくださいね。俺たち魔族は、あんたには逆らう事は出来ないんすからね」
──ユラッ
一瞬だけ、空間が揺らめく。
そこには、黒い神父服に身を包んだ一人の男が姿を表していた。
「……珍しいっすねぇ。あまり表に出ない方が良いんじゃないっすか? ダークネス神父殿……いえ、Wander in the darkと呼んだ方が不敬では無いですかねぇ」
『ダークで構わんよ。巫女の中の澱みがかなり溢れてきた。間も無く贄としての条件が揃う、その時は、お前にももう一働きしてもらうことになる』
背中に氷水をぶっ掛けられたかのように、冷や汗が全身から吹き出している。
まともに会ったことはなく、いつも幻像でお会いできるだけ。
「わかってまっせ。俺は約束のものが頂けたら、それで十分ですから」
『よかろう。全てが終わる時、お前には魔人王としての核を授けよう』
「約束ですぜ……」
──ヒュンッ
やがてダーク神父の幻像が消滅する。
この一瞬だけでも、時間が停止していたことにあっしは気づいていた。
どれだけ屈強無比なる魔族であっても、時間を止めることはできない。
それができるのは、神もしくはそれに等しい存在のみ。
統合管理神であるダーク神父。
その正体が、あっしたちの世界で眠っている『異世界の破壊神の残滓』そのものであるなど、彼の配下しか知らないんすから。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
さて。
無事に要先生の儀式が終わった翌日からは、要先生は暫く休みに入った。
そして2月の半ばからは、要先生は教職を辞職し、第六課所属の退魔官として活動を再開することになった。
魔術研究会顧問は外部顧問として要先生が引き続き受け持つことになったが、うちのクラスの担任は変更。
一部男子からは人気のあった要先生の辞職という事で我がクラスは騒然となったが、代わりにやってきたイケメン教員を見て、取り敢えず女子だけは落ち着きを取り戻すこととなった。
俺たちの周りはと言うと、相変わらず魔術を教えて欲しい野郎は俺の元に、怪我をした生徒は新山さんのところに、体に自信のあるやつは、闘気習得希望者として祐太郎の元に顔を出している。
それでも、一時期の騒動はかなり収まりつつあり、ようやく平和な時がやってきたと思ったある日。
──バタッ……
授業中に、新山さんが意識を失った。
その全身には、見たことのない術式が浮かび上がり、まるで生き物のように彼女の身体の上を蠢いていた。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。