第百一話・千言万語は無用の長物?(嫉妬、羨望、暗躍の三連星)
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とある日の深夜、妖魔特区内転移門前。
黒い神父服に身を包んだ一人の男が、転移門に触れつつ呟いている。
「侵食度15%か。
まだ贄としては力が足りないか。
仕方ない、時間も押しているわけではないが、少し梃入れした方が良いかもしれないか」
懐からタバコを取り出して咥えると、いつのまにか灯っていた先端からゆっくりと煙が立ち上る。
「しかし、問題は巫女よりも小僧か。
まさか、人と魔族のハーフだったとはなぁ。
最悪は、二度殺す必要があるという事か」
満天の月を見上げ、口から聞いたこともない言葉を紡ぎ始めると、男の姿は静かに消えていった。
その光景を、誰も認識していない。
転移門のすぐ近くに陣取って、酒宴を楽しんでいた百道烈士ですら、その存在に気づくことはなかった。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
最近、周りが忙しそうである。
特に新山さん。
今年の冬は寒波が厳しく、大雪が続いていた。
そのせいか、普通に滑って転んで怪我をする生徒が後を立たず、部活に支障があるとかで新山さんのところに相談に来ている。
まあ、休み時間とか昼休み限定での魔法治療なので、それ程負担にはなっていないらしいが、俺としては心配なので逐次、魔障中毒のチェックは続けているわけで。
「新山さん、今、付き合っている人はいるのですか?」
昼休みに足の捻挫を治してもらいにやっできた先輩の、突然の発言。
相手はバレー部主将の男子。
祐太郎を二段回レベルドレインしたような顔と、バレーしか取り柄のないナルシストで有名な、悪く言うと女癖の悪い先輩である。
「いえ、まだ居ませんけれど」
「それじゃあ、俺が君の彼氏に立候補しようかな? 俺なら、いつまでも君の笑顔を守ってあげれるよ?」
「え?」
──イラッ‼︎
殴りてぇ。
「ええっと、先輩は、私を妖魔からも守れますか?」
「え? 妖魔から?」
新山さんが問いかけると、いきなり顔色が悪くなる。そりゃそうだ。
そして新山さんの後方支援女子担当、学年のヒロイン立花さんがやってきた。
「伊集院先輩。新山さんの彼氏候補は、単独で妖魔を撃退できますわよ? それぐらいできなくては、彼女の彼氏は務まりませんわよ?」
「立花くんか。では、君が俺の彼女になってくれるかな? 自分で言うのもなんだけど、俺、いい線いってると思うんだよね」
「Very funnyですわ。私の彼氏は、地上最強の闘気使いですわよ? そして彼女の彼氏候補は、霊長類最強の魔術師ですわ。貴方には、貴方に相応しい彼女を探すことですわ」
おおお、立花さんが煽りまくっている。
そして新山さんが真っ赤な顔で居た堪れなくなっている。
「乙葉君。貴方もはっきりとおっしゃりなさい。新山さんは俺の彼女だって」
「え、えええええ……我が魔力よ、力を集めて盾となせ‼︎ 枚数バースト5倍で……かかってこいやぁ」
何が何だか頭の中が真っ白だわ、多分顔は真っ赤だわ。
俺の周りには力の盾が5枚ほど空中に浮いて待機しているし、なんだなんだ‼︎
「う、うわぁ‼︎ 分かった、分かったからそれをしまい給え‼︎ 彼女には手を出さないから」
叫びながら、先輩は廊下に飛び出しました。
では、俺も深呼吸して力の盾を解除することにしましょう。
「あ、あの……乙葉君、ありがとう……」
「いやいや、そこは立花さんだから、俺は彼女に言われてね、勇気がなくてごめんね」
「オトヤン、勇気のない奴は魔力全開で力の盾を展開しないからな……」
ニヤニヤと笑う祐太郎が恨めしいが、今の立花さんの言葉で祐太郎も他の女子に連行されていく。
最近はずっと女性関係はおとなしくしていたらしいけど、立花さんの爆弾宣言に女子達が動揺していらっしゃるようで。
「ま、まあ、新山さんは俺が守るから……手を出す奴は、消し炭カッコ物理だから大丈夫だって」
「嬉しいけど、それはダメだから、やりすぎだからね…」
「お、おーけー」
──パチン
指を鳴らして力の盾は解除。
そして俺が魔法を使うのをみて、またしても織田が絡んでくる。
こんな日常が、いつまでも続くと良いんだけどなぁ。
後日だけど、新山さんに粉かけようとすると俺に魔法で焼かれるって噂が流れていたんだけど、何それ?
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
数日後の放課後。
部室では、俺と要先生以外のメンバーが頭を付き合わせて巫術書を読んでいる最中である。
俺が巫術によって封印術式と封印呪符を習得してから、物は試しにと祐太郎と新山さん、瀬川先輩が巫術書を読んで習得できるかどうか試しているのだが、新山さんは習得できなかったようで。
「うう.…覚えられませんでした。と言うか、この書物自体が、私を拒絶しています」
「え? そんなことあるの?」
「はい。だって……」
──パチン‼︎
新山さんが恐る恐る巫術書に手を伸ばす。
そして表紙に触れそうになると、突然静電気のようなものがスパークして新山さんの手を弾いた。
「神聖魔法習得者は、巫術の習得はダメなのかな?」
「オトヤン、俺は封印術式はダメだが封印呪符は覚えられたぞ」
「私は逆に、封印術式は覚えられましたけど呪符はダメですわ。何か法則性があるのでしょうか?」
分からん。
そう考え込んでいると、祐太郎がブライガーの魔導書を取り出した。
「しっかりと封印術式が追加されているな。それと、俺の加護の卵が90%まで進化しているんだが」
左手のブレスレット型に変化している加護の卵を俺に見せてくる。
ならば鑑定あるのみ。
『ピッ……加護の卵。現在の蓄積量は90%、現時点でのブライガーの籠手に加えて、築地祐太郎所有の魔導闘衣と融合可能です』
ほう?
進化している?
「ユータロ。卵が進化していてな、魔導闘衣と融合可能だってさ」
「はぁ? それってどうなる?」
「知らんなぁ。ブライガーの加護についてはユータロの専門だろ? 自己責任で進化しなさい」
「なんだそりゃ? まあ、試しに融合して見るか」
腕輪に右手を添えて闘気を循環している。
俺の目にもはっきりとわかるぐらい、綺麗な闘気が腕輪から溢れ出し、反対側の腕のルーンブレスレットに流れて行くと、やがて腕輪が消滅してルーンブレスレットと一体化した。
「ほう? そう来たか」
「ユータロ、どうだ? 何か変化したか?」
「変化というかなんと言うか……」
──シュンッ
一瞬で魔導闘衣を装備したんだけど、特に外観的な変化は見られない。
両腕にブライガーの籠手を装着してくれたが、形状が少しだけ変化したこと以外は特に何も変化無し。
「なるほどなぁ。近接特化兵装としては、これ以上無いか」
「よーわからん。何がどうなった?」
「闘気循環率の強化、闘気を凝縮して武器を形成できるようになった、あとは防御力の強化ってところだな」
おおう、それだけでも十分すぎるわ。
ひょっとして祐太郎の加護の卵に変化が出たと言うことは、新山さんの卵にも変化が?
そう思ってチラッと新山さんを見たんだけど、笑顔で頭を振っていたよ。
「私の卵には変化はありませんね。何かこう、目に見える変化では無いような気がするのですよ」
「私のは、既に完全覚醒してますからね」
そういえばそうだ。
瀬川先輩の加護は貴腐神ムーンライトであり、以前受け取った加護の卵は今は使われていない。
「因みにですが、以前の加護の卵はまだあるのですか?」
「ええ。でも、あの加護の卵は要先生に譲ろうかと思っています」
「魔力回路が開いている要先生なら、上手く使えるかともしれないと言うことですか。納得です」
「それにですね、乙葉君と同じく、精霊魔術師として覚醒したら、乙葉君からはみなさん興味がなくなるのではと思いましてね」
詳しく話を聞くと、この前、三人で第六課に向かった時に既に要先生には打診してあったらしい。
今は答えは保留にしてあるらしいが、恐らくは受け取ってもらえる話になりそうだとも。
もっとも、受け渡しの時点で俺にも協力して欲しいらしく、他人に譲渡できないように俺たちの目の前で契約してもらうことになるそうだ。
「そりゃあ、そうなりますよね。またあの煩いお役人たちが出張ってきそうなんですか?」
「恐らく。そうならないように、要先生に契約してもらうことになるわよ」
「それは名案‼︎ それじゃあ、今日は俺はこの辺で帰りますね。俺に客が来るらしくて、早めに帰ってこいって言われているんですよ」
そう、今日は親戚の集まりがあるんだわ。
それで従兄弟が俺に会いたいらしいから、夕飯までには帰らないとならないんだよ。
「そっか。それじゃあ仕方ないわね。要先生の精霊魔法の習得については、本人もいらっしゃいますから話を進めて見ることにしますわ」
それがいいよ、さっきから要先生がソワソワしながら話を聞いているからさ。
「そんじゃ、お先に失礼。皆さんお気をつけてお帰り下さいな」
手を振って窓から飛び降りると、すぐさま魔法の箒を換装してふわりと飛び上がる。
あとは玄関まで行って靴を履き替えてそれ行けレッツゴー‼︎
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
また、百道烈士とか言う妖魔から連絡が来たわ。
今まで通りに贄を寄越せって事でしょうけれど、そうそう魔力の高い贄なんていないわよ。
それでも盟約があるから、私達は彼らに贄を送らなくてはならない。
菅野議員と同じ轍を踏まないようにしないとね。
……
…
「今日、北海道に送り出すのはこの四名なんだな?」
「ええ。全て死刑囚です。表向きには本日、死刑が執行されたということになっています」
とある議員会館の一室では、燐訪議員が人魔・小澤と話をしているところである。
二人の座っている席の目の前には、一枚の石板が置かれており、これが燐訪が小澤と交わした盟約の石板であることなど、当事者以外ではわからないだろう。
「それでいい。それじゃあ、力の貸与を行うとするか。手を置きなさい」
小澤の言葉に促されて、燐訪は恐る恐る手を乗せる。
──ジワァァァァァ
すると、右手に墨が滲むように黒い瘴気が纏わり付き、そして体内に浸透して消えていく。
「これでまた一週間、私の力を使うことができる」
「ありがとうございます。あの、小澤さんは、あの人魔・陣内のような思考誘導や洗脳といった事はできないのですか?」
「無茶を言うな。奴は全滅したはずの氏族の生き残りだぞ? お前は俺の能力をうまく使いこなせばいい」
小澤の能力はそれほど強くはない。
『利己的闘争』という、対象の負の感情を増強し操る力。
それを燐訪は上手く使いこなし、相手から失言をもぎ取ったり自分から失脚するように促すことができる。
もっとも、それの通用する議員はそれほど多くなく、結果として抵抗された『利己的闘争』は燐訪に戻り、彼女自身が常に激昂することが多くなっている。
それでも、妖魔の力は絶大であり、それを欲する議員が多くいるのも事実である。
「では、私はこれで失礼します。そろそろ陣内に思考誘導を促してもらわなければ、私自身も危ういですから」
「そうしたまえ。陣内はどっち付かずだから、報酬さえチラつかせたらコントロールは難しくないからな」
小澤の言葉に頷いてから、燐訪は部屋から出ていく。
「さて。これだけ引っ掻き回してもなお、妖魔に対する条例を撤回する気はないようだからなぁ。全く面倒臭いことをしてくれたよ」
妖魔に対する幾つかの条例の中でも、法律、特に犯罪に対する部分は厳しい。
今までのように己の本能のままに殺人を犯すことはできず、それを破った場合は問答無用で封印処分が待っている。
それでも、一度でも人間を喰らった妖魔は己の中の殺人衝動を抑えることなどできず、影でこっそりと殺人を続けている。
日に日に、第六課や特戦自衛隊が対妖魔戦術を身につけているのを小澤は議員という立場で知っている。
だからこそ、今の与党に任せておくわけにはいかないのであるが、いざ政権が変わったらどうなるか。
転移門が存在している現在では、政権を取ること自体が危険すぎる。
故に、政権を取るのではなく現与党の支持率を下げることに集中している。
彼らにとっては、日本国民の運命云々など眼中にはない。いかに与党の足を引っ張るのか、それが全てである。
「はぁ。とっとと転移門が開いたらなぁ.…」
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
死んだ。
親戚の集まりで、一体何が起こったかと言うと、親戚のおばさんが俺のお見合い相手がいるっていきなり言い出した。
なんでこの歳でお見合いなの?
そう思って突っ込んだんだが、相手は何処かの議員さんの娘らしくて、俺が魔術師なのを知っていきなり娘を差し出そうとしてきたんだぞ?
それ、異世界ファンタジーの貴族の婚姻と同じじゃねーかって断ったさ。
全力で。
そうしたら、叔母さんとしてはこのお見合いが決まると通算100組のお見合いが成立するんだとさ。
俺には関係ないし、そもそも魔術師だって知っていきなり娘を差し出そうとする人間なんて信じられるわけねーだろって断った。
そうしたら、せめて顔だけでも見ないかって言われたし、泣きながらそんなこと言われても嘘泣き乙ってバレていて。
もう面倒臭いから晩飯食って速攻で本屋に逃げたよ。推しのマンガの新刊が出ているんだよ。
大体十冊ぐらいピックアップして帰ったらおばさんたちは帰ったらしいけど、今度はその娘さんも連れてくるって息巻いていたらしい。
し、ら、ん、が、な。
そんな変なフラグを立てなくて結構。
来週からは二泊三日のスキー学習があるんだから、気分転換に遊びまくることにしたよ。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
・今回のわかりづらいネタ