第百話・高材疾足 、昔取った杵柄なのか?
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はてさて。
要先生の魔力回路覚醒の儀式は滞りなく終了。
あとは、先生がどうするのか、その方針を決めてから第六課も動くことになりそうでありまして。
兎にも角にも、俺たちから目線が逸れてくれればそれで良いよ。
織田には悪いことしたが、お前が魔術師に覚醒しても、術式は教えないからそのつもりでよろしく哀愁。
だってさ、確実に暴走するのが目に見えているからね。
そんなこんなで平和な土曜日。
俺はのんびりと妖魔特区に向かっております。
目的は一つ、妖魔の封印実験。
これで妖魔たちを封印できるなら、それで妖魔特区内部に残っている妖魔を一掃できるんじゃね?
そう思ってやってきたのさ。
因みにだけど、今回はちゃんとみんなに話は通してあるよ、祐太郎と新山さん、瀬川先輩は要先生の魔力回路覚醒の件で第六課に出かけることになったんだけどさ。
俺は封印と封印呪符の効果検証に行くって話はしてきたし、新山さんが心配して着いてきそうだったけどグッと堪えてどかーんと一発、やって見ようと思います。
………
……
…
大通り12丁目ゲート前。
日に日に要塞化しつつある大通りゲートなのですが、今日もあの暇なお役人がいらっしゃいましたよ。
「おお、乙葉君。ついに我々に協力してくれる気になったのだな? 機械化兵士のパーツは妖魔が回収していったんだ、あれを取り返してきてくれないか?」
「嫌ですよ。その程度のことなら、特戦自衛隊でやってくださいよ。なんで俺がやらないとならないんですか?」
「特戦自衛隊で出来るなら、とっくにやっているわ‼︎ できないから頭を下げているんだろうが‼︎」
うわぁ、逆ギレ。
こんな大人になったらいかんよ、皆んな。
「なんでできないんですか?」
「妖魔に有効な火力を有していないんだ。それぐらいわかっているだろうが」
「それでしたら、第六課に協力を求めた方が早くありませんか?」
「ぐっ……もういい、行きたまえ‼︎」
第六課には頭下げたくないのでしょ、知ってますよ。
縄張り意識じゃないけどさ、どうしてこう、協力体制を取らないのかなぁ。
そんな事を考えつつも、ゲートを越えていざ妖魔特区の中へ。
出来るなら百道烈士には見つかりたくないから、とっとと近場の妖魔でも探しますか。
そんな邪な事を考えていたのですが。
……
…
「……久しぶりだねぇ。元気だったかい?」
はい、第一妖魔発見。綾女ねーさんでした。
半年ぶりぐらいなのかな?
相変わらず綺麗なお顔立ちで。
「お久しぶりです。綾女ねーさんも、お元気でしたか?」
「元気なわけないさね。結界内部にいたんじゃ、新鮮な生気なんかお目にかかれないからねぇ。久しぶりにおくれでないかい?」
「ほいほい、そんじゃ光球っと」
──ブゥン
光球を発動して球体を維持したまま、綾女ねーさんに差し出す。
するとパカっと口を開いて、一口で飲み込んだよ。
「うう〜ん。甘露甘露。以前よりも芳醇な味わいになったねぇ、色々と熟れてきた感じだよ」
「そりゃどうも……あ、綾女ねーさんが居たならあの話も聞けるか」
そうだよ、神居古潭に封印されている封印杖の話だよ。ここで聞いておかないと、いつ聞けるか分からないからね。
「なんだい?」
「転移門を封じたいんだけどさ、そのために必要な退魔法具を探しているんだよ。それで、今度、神居古潭にある封印杖を取りに行くんだけど、何か知っている?」
そう問いかけると、綾女ねーさんは驚いた顔で俺を見ている。
「神居古潭の封印杖かぃ。あれはやめておいた方がいいよ。危険なんて言う代物じゃないからねぇ」
「え? それを守っている妖魔でもいるの?」
「違うちがう。とある魔族を封印するために、封印杖は魔族の心臓に突き刺さっているんだよ。楔のようになって、巨大な岩に魔族を固定しているのさ」
なるほど、納得。
封印杖を回収すると言うことは、その妖魔と一戦交える覚悟が必要だと。
「綾女ねーさんは、その妖魔を知っているのですか?」
「知っているも何も、神居古潭に封印されているのは私の身体だよ、羅刹さ」
「……え?」
思わず聞き返したんだけど。
それって、とんでも無く強いって事だよね?
「え? じゃないわよ。私の本体は強いわよ? 思考するべき頭はここにあるんだから、そりゃあ魔族の破壊衝動のみで暴れまくるわよ?」
「うわぁ。ねーさんの力で、どうにか出来ませんか?」
「どうにかって言われてもねぇ、わたしゃここにいて外に出られないからねぇ……まあ、やるなら構わないよ、出来れば私の本体を消滅させてほしくはないけどねぇ」
待った待った‼︎
いきなりハードル上げすぎ。
まず羅刹の頭が綾女ねーさんで、ここにあるって言うことは交渉には一切応じてくれない。
そして封印杖を楔にしてあるって言うことは、普通の封印じゃ無理って事だよね?
そんな暴君宜しそうな羅刹相手に、出来れば消滅させてほしくないと。
無理ゲー。
いや、身動き取れなくして、楔を奪い取ってまた別の手で封印するしかないよね?
手順を考えるなら、まず楔を引き抜いて自由になった羅殺を弱めて、再封印もしくはなんらかの手段で行動を封じるしかない。
うん、一人じゃ無理だわ。
これはチーム・魔術研究会の出番だよなぁ。
そもそも、なんでも一人でやろうとしていた俺様、皆んなにサーセンだよ。
「……妄想タイムは終わりかい?」
「あ、待っててくれたんですね。お陰様で、俺一人じゃ無理なのは理解できました。改めて何か方法をみんなで考えて見ることにしますよ」
「その方がいいわね。それじゃあ、あたしゃそろそろ行くからね」
「はい、また何かありましたら来ますから」
空をふわふわと飛んでいく綾女ねーさんを見送ってから、近くの朽ち果てたベンチの横あたりに腰掛ける。
本来の目的は妖魔の封印実験。
そのために適切な妖魔を探さないとならないんだけどなぁ。
「餌……巻いてみるか」
右掌に魔力を集中。
さっきよりも高濃度に練り上げた光球を生み出して、それを目の前に放り出す。
光量が高まり、光の到達点もかなり伸びているが、それを球体内に押しとどめて外にもれなくしている。
結果、とんでもない密度の光の球が出来上がっている。
「うん、術式の応用はそんなに難しくない。魔障中毒の症状もないから、やはり伯狼雹鬼の呪詛でのみ発症するのかなぁ」
「ま、りょ、く、じゃぁぉぉぉぁ」
──チュドーン‼︎
いきなり上空から白桃姫が飛んできたぞ。
本当なら、中級妖魔あたりから封印実験したかったんだけど、まあ、しゃーないか。
「白桃姫、ちょいと実験に付き合ってもらうな。『我が魂より生まれし神世の祈り。此処から其処へ、過去から未来へ、その魂を封じる力なりや』」
──ゴゥゥゥゥゥゥ
右掌に術式が生み出されると、それが鎖に変化して白桃姫に向かって伸びていく。
「な、なんじゃ、神威封印術式じゃと‼︎」
「神威だかなんだか知らないけど、封印術式の実験に付き合ってくれな」
「アホかぁぁぁ、そんな危険な魔術に、はい分かりましたって付き合う阿呆がいるかぁ‼︎」
そう叫んではいるが、既に白桃姫の全身は鎖に絡め取られている。
「この後は、この呪符を貼り付ける?」
「にょ? なんじゃその呪符は? 悪魔でさえ閉じ込めそうな魔力を込めおって……」
──ペタッ
なんか叫んでいるけど無視。
そのまま白桃姫の額に呪符を貼り付けるが、全く何も起こらない。
──シーン
「……のう、乙葉浩介や。そなたひょっとして、封印術式の使い方を知らぬのではないか?」
──ドキッ
やべえ、当てられた。
それを知るために、ここに練習しにきたんだよ、悪いかよ。
「知らない。だから練習しにきたんだが」
「そうか、そうじゃろうなぁ……フンッ‼︎」
──バギィィィィ
神威封印術式の鎖がいとも簡単に砕けて消滅する。
流石に封印呪符は俺の手元に飛んできたけど、白桃姫って封印耐性でもあるのか?
「あうあうあう……俺の術式が破られた」
「あんなもの、下級妖魔でさえ封印できぬわ。どうじゃ、そこの魔力球をくれるなら、其方に封印術式の使い方を教えるぞ?」
「マジ? ってちょっと待った、魔族が自分を封じる術を教えるわけない。何か企んでいるだろう?」
危ない危ない。
危うく騙されるところだった。
「そんなわけあるか。そもそも、今の妾は怠惰モードじゃ、封印など受け付けるはずもなかろう」
「マジか。怠惰モードパネェなぁ」
もし白桃姫の言葉が事実なら、俺が完全に術式の使い方をマスターしても白桃姫には効果ないのか。
それなら、変に敵対するよりも味方につけておいた方が良いんだけど。
「どうじゃ? 妾に教えを乞うか?」
「なあ白桃姫。お前は、俺たちの世界に来て、どれだけの人間を殺した?」
ここ重要。
妖魔が人の生気を得るためには、単純に憑依すれば良い。
けれど、より濃厚な生気を欲するなら、対象者に様々な感情を植え付ける必要がある。
人を殺すときの恐怖や、愛欲などがその代表格であるらしい。
では、白桃姫は?
お前は、こっちの世界でどれぐらいの人間を殺した?
「..妾は、まだ殺してはおらぬぞ?」
「なんだと? お前、俺を初めて見た時は餌だって言っていたよな?」
「妾は怠惰の氏族じゃよ。取り憑いたものが怠惰な生活を送れば送るほど、妾はより芳醇な生気を得ることができるからのう」
はあ?
それってあれか?
アニオタヒキニートに憑依したら、白桃姫に取っては天国だってことか?
「……あの、人を恐怖に陥れたりして感情を高めた時が美味しくなるとか?」
「氏族が違うのう。そもそも、十二魔将の爵位持ち氏族はな、自身の氏族名が力の源じゃよ。例えば……」
具体的には百道烈士。
奴は侯爵級階位妖魔であり、現十二魔将『第三位』。グウラの異名を持つ『暴食の氏族』。
それ故、食らえば食らうほどに奴は強くなる。
しかも、魔術師を喰らうと、その力を自分のものにできるらしい。
だから、奴は無差別に喰らう。
人を恐怖に叩き込むのは、そのためのエッセンス付けに過ぎないらしい。
「肉体構成をしておるから、喰らうの意味が広義なのじゃよ。だから奴は女も犯す、魔力が高ければ犯して喰らう」
「……やっぱり、速攻で封印するしかないか」
「其処で、わらわが其方にレクチャーして差し上げようぞ、だから、これをくれたもれ」
ツンツンと魔力球を指先でつついている。
あ、外殻が硬すぎて食べられないのか。
「成功報酬でどうだ? 俺がちゃんと封印術式を覚えられたなら、それはやるぞ」
「よかろう‼︎ ではまずは、百道烈士から身を隠すとするか」
──ブゥン‼︎
突然、俺と白桃姫のいるあたりの空間が虹色に輝いた。
これはあれだ、空間結界だ。
流石は十二魔将の一角、無詠唱で発動するとは恐ろしい子‼︎
「では、レクチャーを始めるとするかのう」
……
…
そこからは、兎に角詰め込み授業。
妖魔、魔族は簡単には封印出来ない。
まずは弱らせるところから始める必要がある。
幸いなことに、俺は妖魔の残HPがサーチゴーグルで確認できる。
自分の魔法の威力をしっかりと調整しつつ、対象妖魔を弱らせなくてはならない。
おおよその目安は、残HPが1割以下。
そこで初めて妖魔は封印耐性が極度に低下するらしい。
そこで封印術式を起動するのだが、封印媒体となるものを手に持っていかなくてはならない。
封印術式は、対象妖魔を封印するだけでなく、手にした封印媒体を封印のための器として作り替えるのだそうだ。
そして封印術式を起動し、妖魔を媒体に閉じ込めたら封印呪符を張り付けて完了。
封印時間は術式と呪符の強度に左右されるらしいが、俺がやると大体1000年は眠りにつく。
妖魔によっては、封印されていても自我を保ったまま、怨念を増幅する者もいるから厄介だそうだ。
最後は、封印媒体の保管。
大抵は妖魔に奪われないように結界の中に保管するらしいが、俺の場合は空間収納に放り込んだらもう何人たりとも手出しすることはできない。
……
…
「とまあ、駆け足じゃが、大体こんな感じじゃ」
「あとは実践ですか。まあ、妖魔のステータス程度なら、俺の目で確認できますからなんとかなりそうですね?」
「鑑定眼所有者とはまた、面白いのう。じゃが、鑑定眼では見えない者もあるから、はよう昇華するのじゃな」
「はぁ、そんじゃあ実践で試してみますか……」
そこからは、俺の無双モードに突入するかと思いきや、俺は封印媒体を持っていない。
「あの、封印媒体ってどんなものが良いのですか?」
「妾達の世界では、ターコイズや水晶が一般的じゃなぁ。あ、魔晶石はダメじゃぞ? あれは逆に妖魔を活性化することもあるのでな」
白桃姫曰く、封印媒体として有名なのは『魔を退ける石・ターコイズ』や浄化を意味する『水晶』が一般的らしい。
なるほどなぁ、と、カナン魔導商会を探したが在庫無し。ついでにウォルトコには、他の宝石貴金属は数あれど、アクセサリー用に加工されたものしか売っていない。
試しにそれを買って見せてみたんだけど、大きさや純度が足りないそうだ。
「……そろそろ良いではないか? 妾はもう限界じゃぞ? そなたの、硬く熱く沸ったものを妾によこすのじゃ」
「エロいわ‼︎ ほら、よく味わって堪能しろよ……お前が人間を殺していたなら、絶対にやらないところだったんだからな」
──ゴクッ‼︎
「ふわぁぁぁぁぁ。甘露じゃ、其方の熱い迸りが、体の中を駆け巡るようじゃ」
「だからエロすぎるわ‼︎」
さて、それじゃあそろそろ帰るとするか。
封印媒体をどこかで手に入れないとならないし、要先生の方の状況も確認したいからなぁ。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。