第九十九話・博覧強記は発明の母(ジェラール騒動と、四人目の覚醒)
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放課後、ティータイム。
じゃない、放課後の校舎外正門横。
以前、織田が魔法の発動媒体のブレスレットを購入した怪しげな露天商が店を出しているらしい。
確か、第六課の井川巡査部長に逮捕されて連れて行かれたはずなんだけど、何故か俺の高校まできて露店を開いているんだが。
──ヒュゥゥゥゥン
俺はのんびりと魔法の箒で空から近寄る。
横には魔法の絨毯に座った新山さんがフワフワと飛んできて、二人でジェラール・浪川の露店を見ることにした。
まあ、俺たちが空を飛んで近寄るものだから、生徒たちも当然ざわつき始める。
そしてざわつき始めると言うことは、浪川も気がつくわけで。
「ヒュ〜。それが噂の魔法の箒かよ。いくらで売る?」
「18億。ビタ一文もまけないが、買うのか?」
「そうだなぁ。せめて15億なら」
「無理だね。こいつは作るのがなかなか面倒くさいんだ。今じゃ手に入らない素材もあるからな」
俺と浪川の話の最中、新山さんには露天に並んでいる商品の鑑定を頼んだ。
俺のオリジナルとは違い、サーチゴーグルに組み込んでいる鑑定スキルだから、名前とか簡単な説明しかわからないだろうけど、それで十分。
「うううむ。欲しいと言えば欲しい。しかし、金がない……そうだ、物々交換はどうだ? 俺の売っている退魔法具、どれでも一つ好きなものを選んでくれ。それと交換でダメか?」
「ダメじゃないが……ちょいと待ってくれ、新しく一本作らないとならないから」
取り敢えず、少し離れたところに着地すると、そこに錬成魔法陣を作り出す。
材料は、ウォルトコで購入した箒、あとは手持ちのミスリル鋼糸とドラゴンの牙の粉末やらなんやらかんやら。
これを纏めて魔法陣に放り込むと、ゆっくりと術式を発動する。
これでオッケー、いつもより魔力を多めに注いでいるので、完成までの時間も短縮、僅か三分。
「三分間待つのだぞ‼︎」
「そ、それで良いのか? 見た感じだと浮遊術式とミスリル鋼糸の組み合わせにしか感じないんだが」
お、流石は魔導商人を名乗るだけあるなぁ。
その二つが分かっただけでも大したものだよ。
「その二つは正解。でも他にいくつもの魔法媒体を使っているからそれは秘密という事で。それよりもさ、ジェラールさんの売っている魔導具って、どれも遺跡発掘品なんでしょう?」
「そうだよ。昔はさ、魔導職人っていって、魔導具を作る魔導師が居たんだよ。まあ、どいつもこいつも歳とってポックリいきやがってさ、後進に何も教えないで逝きやがったから大変なんだよ」
へぇ。
どの世界でも、職人の老齢化は避けられないのか。
「ジェラールさんの売り物に、封印術式と封印呪符はないのかい?」
「無いとは言わんが。完品は売り切れてもう作れない。その代わり、こいつがある」
肩から下げている鞄から、古い書物を取り出してみせてくる。
「それがそうなの?」
「ああ。これとあの箒を引き換えにどうだ?」
ニヤニヤと笑っている感じから、何か裏がありそうだ。
けれど、背に腹は代えられない。
完成した魔法の箒を魔法陣から取り出すと、それをジェラールに突き付けた。
「乗った。これが魔法の箒だよ」
「オーケィ。それじゃあ、これが巫術の術式書だよ」
よっしゃぁぁぁ。
これで魔術の幅が広がるぞ、これで妖魔相手でも余計な殺生をしなくて済む。
「サンキュー‼︎」
「まあ、その文字が読めればの話だけどな。古代チベットの、それもとある集落にしか残されていなかった魔法文字だ、それを解析して欲しかったら……」
──シュゥゥゥゥ
すぐさま書物を開いてパラパラと流し読みをする。
この時点で俺の魔導書に全ての術式が登録されていくので、試しに封印呪符を発動して見た。
すると、人差し指と中指で挟んだように、一枚の呪符が生み出されたんだけど、必要MP2500って何?
いきなりごっそりと奪われだぞ。
「おーおー、これが封印呪符かぁ。一度発動すると、呪符を使用しない限り魔力は持っていかれたままだし、呪符を破棄しない限りは俺の魔力も回復しないのか」
「はぁ? なんでお前が使えるんだよ? その文字が読めるのかよ?」
「ザッツオーライ。ジェラールさん、俺を騙そうとしたね?」
──ブゥン
空間収納に巫術書を納めてからニィッと笑う俺。
「……チッ。まあいいさ、これさえ手に入ったならもう用事はないんだよ、あーばよっ‼︎」
一瞬で広げてあった商品が鞄に収まる。
そして箒に跨って念じているんだけど、魔法の箒はうんともすんとも言わない。
そりゃそうだ、ジェラールの保有魔力なら、箒が飛ぶわけがない。
「お、おい、お前も騙したな‼︎」
「騙してないし本物の魔法の箒だし。ジェラールさんの魔力が足りないんだよ‼︎」
「そーかいそーかい。また大切な情報をありがとうよ‼︎」
ジェラールは鞄から黒い丸薬のようなものを取り出して、口に放り込み噛み砕く。
その刹那、大量の魔力が放出された。
──ブゥン‼︎
そして魔法の箒はゆっくりと飛び上がると、そのまま上空まで飛んでいった。
「また会うことがあるかもなぁ。ジェラール魔導商店をどうぞご贔屓に‼︎」
それだけを言い残して、ジェラールの姿は見えなくなっていった。
「はぁ。こりゃまたとんでもないやつだわ。新山さん、鑑定終わった?」
「ええ。殆どがガラクタでしたけど、『魔物寄せの香炉』と『炎術のイヤリング』それと魔獣の卵は本物でした」
「物騒なものばっかりだなぁ。まあ、要先生にでも報告しておきますか」
「そうね。それと、早くここから離れないと大変なことになりそうですし」
ふと気がつくと、眼下には大勢の生徒の姿。
ジェラールの販売していた商品が気になって見ていた人たちだらけである。
「そ、それじゃぁまた‼︎」
「さようなら〜」
そう言い残して、俺と新山さんは部室に文字通り飛んで行った。
そしてジェラールのことを要先生に説明すると、残った時間は魔導書を開いて巫術について調べてみることにした。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「魔障中毒? それって何?」
翌日の朝。
俺と祐太郎が登校した時、新山さんが俺たちに真面目な顔で話を振ってきた。
「この前、洋館のハルナさんから聞いた話なのですけど、姉小路花蓮さんの亡くなった原因が魔障中毒によるものらしいのです。それですね……」
新山さんの話によると、魔力の高い魔術師に起こるのが魔障中毒で、膨大な量の魔力によって全身が侵され、やがて死に至る病らしい。
ちょいと怖くなったので自分と祐太郎、新山さんも許可を取って鑑定したんだけど、バイタリティにはそんな症状は記されていなかった。
「成る程ねぇ。その伯狼雹鬼って妖魔が、贄を集めるために呪詛を植え込んでいたと」
「その呪詛の効果で魔力が爆発的に高まり、同時に魔障中毒を引き起こしていたんだろうなぁ。その呪詛の正体が何か調べたいところだわ」
「二代目魔人王の蘇生に必要って……ハルナさんはそれしか教えてくれませんでした。それと、本当の敵は『魔人王』でも『十二魔将』でも無いって」
「うん、此処から先は部活の時に。離れたところから織田が耳をピクピクさせているから」
相変わらず、こう言う話に首を突っ込もうとするからなぁ。
命が掛かっているんだから、好奇心で飛び込んできて欲しく無いんだよ。
まあ、織田もこの前、魔導具で魔術師になったんだから魔障中毒の症状がないか見てやるよ。
「どれ……織田のステータス……え?」
「どうしたオトヤン、まさか織田が魔障中毒に?」
「そんな、織田君が……」
いや、そうじゃ無いんだ。
慌ててルーンブレスレットに魔力を送って、新山さんと祐太郎に念話で会話する。
『織田の魔力回路が開いておるぞ‼︎』
『はぁ? この前のブレスレットに引っ張られたのか?』
『それか、もしくは新山さんの神聖魔法による治癒の時に開いたか。可能性なら後者だわ』
『ええええ‼︎ そんなことがあるのですか?』
『ある。実は、ヘキサグラムの機械化兵士の二人、新山さんの治療を受けてから魔力が活性化して魔力回路も開いた。俺が術式を教えたら、使えるようになったらしい』
『『 な、なんだって(ですって?) 』』
綺麗なギバヤシをありがとう。
さて、これを教えるべきか黙っているべきか。
うん、判断に困ったら要先生に丸投げだ。
その後で、織田に告知するのかどうかは先生次第。
そんなこんなで、授業も終わり放課後。
部室に入って沈黙結界を発動してから、要先生にまずは一言。
「要先生、織田の魔力回路が開いたんだが」
──ブーッ‼︎
あ、お茶吹いた。
まあ、そうなるよなぁ。
「あ! あのね乙葉君。それってどうして? なんで突然覚醒したの?」
「いやぁ、これには幾つか事情がありましてねぇ……実は……」
もう、包み隠さずに説明したよ。
先輩を含めて俺たち四人なら、外部から他人の魔力回路を開くことができるかもしれないこと。
現時点で三人が俺たちの魔法を受けて魔力回路が開いたこと。
すぐさま瀬川先輩は深淵の書庫に今の会話を保存し、過去に同じようなことがなかったか調査を始めてくれている。
「も、もしもそれが事実なら、実は魔術師になる条件はそんなに難しく無いの?」
「いやいや、可能性は有りますが全てじゃなくてですね……」
「それなら、私で試して見てくれるかしら? 新山さん、どう?」
まあ、男の俺たちよりも新山さんの方が良いのかもしれない。
何よりも、新山さんのは癒しの魔力、害はないと思う……まてまて、魔障中毒の事も説明しないと。
「あのですね、実験は構わないと思いますが、魔術師になると言うことは別の意味で危険な事もありましてですね」
「要先生、魔力の過剰反応で魔障中毒になる可能性があるんです。詳しくはオトヤンから」
「あ、解説は俺なのね。それでですね、魔障中毒と言うのはですね……」
隠す事なく一通り説明。
今までなら、何も考えずにほいほいと教えたかもしれないけれど、今度ばかりは話が別。
俺たちが魔術を広めた結果、魔障中毒で苦しむ人たちが出たなんてことになったら大変だからね。
そして説明を聞いてから、要先生は腕を組んで何か考えている。
「話は分かったわ。その上でお願い、私で魔力回路の開放実験をしてくれないかしら?」
「あの、俺たちの話は聞いてましたよね?」
「ええ。でも、魔障中毒になる可能性は、『伯狼雹鬼の呪詛による魔力開放』がキーワードじゃ無いかしら? 現に、乙葉君たちにはそんな症状は無いのでしょう?」
まあ、説明のあった魔力値など、俺はとっくに突破している。
その上で威力125倍術式も乱発していたけど、それっぽい諸症状はない。
「無いですなぁ」
「俺のは闘気だし、そもそもそんなに高く無いからなぁ」
「私も神聖魔法は発現してまもないですし」
「私は深淵の書庫使いっぱなしですけど、そんなことはありませんですわよ?」
「それなら問題はないわね。じゃあ、お願いします」
ペコリと頭を下げる要先生。
一般市民相手なら断る案件だけど、要先生は第六課の退魔官。
知っておくべき情報としては、体験するのもありなのか?
「乙葉君、いいの?」
「神聖魔法なら問題はないし。そもそも、先生が覚醒してくれたなら、今後の説明も先生からして貰えば良いからなぁ。ゴーだ‼︎」
そう告げたら、新山さんが要先生の両手をそっと掴んだ。
自分の体内の魔力を回路を通して循環する訓練、これを先生の体内にも巡らせて循環させる。
新山と要先生の魔力回路が、一つの輪になるようにイメージ。
「ん……少し詰まってます。乙葉君、魔力弁は私が開ければいいの?」
「開けられるなら。本来なら……あ、今のなし」
加護の卵なりなんなりで開けるんだけど、今回はこのまま新山さんに開いてもらいましょう。
「身体の中がピリピリするわね。これって正しいの?」
「さあ? 今までは命の掛かっている状態でしか試したことはありませんから。新山さん、どんな感じ?」
「今、私と先生の回路が繋がりました。循環をはじめます」
──シュゥゥゥゥ
「え? なにこれ? 何かが私の中で動いてる……これは?」
「それが魔力です。先生、今度はそれを自分の体の中で、自分でやって見てください」
新山さんが手を離しつつ告げる。
すると、要先生は両手を組んで輪を作り、そこに魔力を集めて循環しようとしている。
「……オトヤン、どっちの適性か分かるか?」
「分からんなぁ。そもそも加護なしだから、機械化兵士の二人と同じパターンだよ。魔術素養じゃないかなぁ」
「どれどれ……ああ、そんな感じだなぁ」
両目に闘気を集めて要先生を見ている祐太郎。
もう、お前も十分に凄いと思うぞ。
「では、最後は瀬川先輩にお願いします」
「了解。深淵の書庫と私のルーンブレスレットをリンク。鑑定……」
うん。
瀬川先輩、深淵の書庫を通じてルーンブレスレットの鑑定スキルを発動したのですね?
それで要先生の魔力回路を確認しているのですね?
こわ‼︎
「……要先生の魔力回路は覚醒してますわ。ただ、闘気と魔術どちらにも適性があるようですので、今後の修行次第でどちらかを修得する形になります」
「先輩、保有魔力量は?」
「502。闘気は198。魔導書の適性あり……って、凄いですね」
まじか?
完全覚醒してますなぁ。
「MPが118ですので、魔術を覚えても使えるかどうか……どうですの?」
「そこは専門家の俺から。力の矢で必要魔力100なので、一発撃ったらおしまい。魔力量は多いけど、闘気となるとまた保有闘気が少ないなぁ」
「オトヤン、それでも闘気は常人の10倍あるぞ?」
「え、え、え! つまり、私はどうなるのかしら?」
「魔力回路は開いてますから、訓練次第で魔術師には成れますよ。ただ、発動媒体とか秘薬がないとあまり実戦向きではないです」
「闘気については、常人の10倍。武術系を極めて闘気使いになるのもあり」
「深淵の書庫は私専用ですので、これは教えられるものではないのです」
「ええっと、神の加護がないので神聖魔法は使えません」
ほら、腕を組んで考えはじめた。
そうなるよなぁ。
「つまり、魔術師にも闘気使いにもなれるけど、どちらも修行が必要なのね?」
「「「「 はい(ええ‼︎) 」」」」
「……少し考えてみるわね。今日の話も一度まとめておく必要があるから。それと」
「今、ここで起こったことはこの五人の秘密ですよね? 大丈夫です」
さすが新山さん察しがいい。
こんな事がバレでもしたら、新山さんが今度は狙われるから。
そうなる前に、早いところ色々と決着つけたいところなんだよなぁ。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
・今回のわかりづらいネタ
けい○ん
MM○
伏せ字にすると、分からん組み合わせですなぁ。