第一話・事実はラノベより奇なり?
というとで、新連載です。
まだ更新や予定日は固定しておりませんが、どうぞお楽しみください。
正式稼働と次話投稿予定は6月上旬です。
とある世界の日本にて。
俺は乙葉浩介、健全な16歳男子。
今年の春、北海道立の高校に入学した。
偏差値的には高くなく、むしろ三年前に完成したばかりの新設高校とあって底辺近い生徒たちもワンチャンあるんじゃね? って感じてお気楽に入学試験を受けていたらしい。
まあ、結果的にはそれなりの成績の者はそれなりの学校にというのが世の常であり、仮にもうちの高校は道立高校、やっぱり試験は難しかったわけで。
それでもなんとか合格し、今年の春からキラキラの一年生、暗かった中学生活よグッバイ、俺は明るい高校生活を送るぜ‼︎
‥‥
‥
「と、粋がっていた俺にサーセン」
中学で暗かった俺が高校デビューしたからといって、明るくなれるわけありませんでしたごめんなさい。
つまりどういうことかというと、ボッチです。
まあ、ボッチと言ってもトイレで弁当を食べたり、教室の隅で静かに座っているだけの存在というのでもなく、普通にクラスメイトとは話もするのだが、クラスの中には当然仲の良い友達同士でつるんだりするグループがある。だが、俺はどこにも所属していない。
ていうか、誰も俺を誘ってくれない。
「まあ、オトヤンには文学部がよく似合うよ。どう?一緒に文学部行かないかヤラナイカ?」
オトヤンは小学校時代からの俺のあだ名。
今俺を文学部に誘っているのは、昔からの幼馴染みで隣に住んでいる築地裕太郎、通称ユータロ。
友達の少ない俺とは違い、文武両道外見優秀、つまり勝ち組のステータスを持っている。
まあ、中身がアニオタ故に友達は少ない。
そして俺もアニオタである。
普通さ、クラスの4割ぐらいはアニオタいるよね? いない? あ、いないのか。
「文学部か、別に構わないけどヤラナイカは無しだ。部活でアッーな展開になりたくはない。それよりも相談に乗って欲しいんだが」
「そうか。取り敢えず入部したら部室のベッドに座っていてくれ、ワセリンの用意はしておく」
「誰が俺に乗ってくれと言った? それにこの時代に軽シンネタは難しいぞ?」
「はーっはっはっ。俺はタガミストだ、たがみよしひさ先生を崇拝しているからネタを使っても問題あるまい」
いや、俺も嫌いじゃないんだが。
問題はないのか?良いのか?
「それで、相談とはなんだ?」
「ああ、俺、今朝学校に来るとき、バスに撥ねられたはずなんだが、なんで放課後に椅子に座っているんだ?」
………
……
…
時間は早朝に戻る。
両親が同じ会社で共働きだった我が家。
4LDK庭付き一軒家なので、親父も社内では勝ち組なのであろう。
そんな親父たちも今年の春、一人息子の俺を置いて海外に転勤した。
まあ、俺についてくるかと言われたが俺は断固として拒否、せっかく勝ち取った明るい高校生活を言語の通じない海外で送るなんてナンセンスの極みである。
そして今朝、俺は力一杯寝坊をした。
それでも走ればバスには間に合う、焼きたてのトーストを咥えてバス停まで全力疾走‼︎
街角でトースト咥えて走れば彼女ができるフラグとなる。いや、無理なことはわかっているんだけれどね。
「おお、間に合った‼︎」
信号待ちで止まっていたバスを追い越して、俺はバス停に走り込んだ。
そしてバスがやってきた時、俺は‥‥
誰かに突き飛ばされた。
倒れる瞬間に見た光景は、黒い影の手、たぶん俺を突き飛ばしたやつ。
まあ、停車前のバスだからブレーキが間に合うだろ?
そんな俺の予想を裏切るかのように、運転手はアクセルをベタ踏みした……。
そして俺はバスに撥ねられた。
運転手が悲痛な顔で叫んでいたのは、今でも覚えている。
口パクしかわからなかったが、運転手はこう叫んだに違いない。
勝手に足が動いたんだと。
──キキーッ…ドン‼︎
あ、俺死んだ。
そんな感覚が身体中を駆け抜けた時、俺は静かに息を引き取ったらしい。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
何もない白い空間。
あ、俺、本当に死んだんだ。
思えば短い人生だった。
まあ、やり切った感も何もないので、できれば今すぐに生き返りたいんだが。
「って、俺、死んだんじゃなかったか?」
思わず体を起こして左右を見る。
殺風景な、何もない空間。
そこに立っている1人の女性。
服装はあれだ、テルマエロマエに出ていた女性の、ほら、古代ギリシアの女性のアレ。
『はじめまして、オトハコウスケさん。貴方はある事故に巻き込まれて死にました』
うん、よく知っているこのパターン。
あれだ、一時期世間を席巻していた異世界転生ラノベのあれだ。
「あ、なんとなく分かるので。貴方は女神ですね? そして俺は死んで異世界に行くのですね?」
『はい。物分かりが良くて助かります。では、何か希望はありますか? いくら死んだから転生と言っても、今回の件は私たちの不始末ゴニョゴニョニョ』
なんか最後の方はモゴモゴしててよく聞き取れなかったけど、このまま転生したとしても、俺はあれだ、勇者とかみたいに血腥いことはしたくないし最強魔法でヒャッハーする気もない。
のんびりと生きたいんだ。
けど、そうなるとクラフト系?
いや待て落ち着け俺。
クラフト系も最後には貴族やらなんやらに巻き込まれて楽でもないものが多いぞ?
だったら、答えは一つ。
ネットスーパーだよね。
「おれはムコーダさんのようにのんびりと世界を旅したい。でも、強さはいらない。なのでアイテムBOXとネットショップのスキルが欲しい‼︎」
『……ええっと、しばしお待ちくださいね。管理神程度の権限でそれできるのかしら?』
目の前の女神が、空を見上げて誰かと交渉を始めている。
でも、ムコーダさんの名前で理解できているという事は、この女神様は俺の世界の事も知っているんだなぁ。
『あ、はい‥‥了解しましたわ。ゴホン、おめでとうございますオトハコウスケ様。貴方には異世界のアイテムをネットストアで売買できるスペシャルアビリティと空間収納という空間収納スキルがギフトとして授けられました』
「はは〜っ。ありがたき幸せ」
まさか全てクリアとは思わなかった。
そんなに難しいスキルじゃないのか。
だったら、もう少しおねだりしてみようそうしよう。
「あ、あのですね女神様。あと少しだけグリコのオマケしてくれませんか?」
『え? おまけですか?』
「はい。私の住む世界は地球じゃないですか。これから行く世界の言語の読み書き会話が出来ないと気まずいですよね?」
『ああ、それでしたら異世界転生初期パックに網羅されていますからご安心ください』
「え?初期パック?」
詳しく聞いたところ、初期パックには異世界言語に対しての自動翻訳能力と鑑定眼っていう二つのスキル、そして初期装備一式が含まれているらしい。
「そ、そんなにくれるのですか」
『はい。では時間がありませんからこれで終わりです。貴方は大変素晴らしい魂を持って、現世界での天寿を全うする筈でした。120歳という大長寿を目の前にしての事故死、それを大変残念に思っての異世界転生です。次の人生を楽しく過ごしてください』
「へ?」
いや、ちょいと待って、おれ、まだ16歳。
この外見でわかるでしょ?
必死に叫んでみるが、俺の全身が光り輝いて声が届いていないみたいだ。
そして目の前の女神は、嬉しそうに手を振っているし。
『では音羽浩輔さん。お元気で』
それ、人違いぃぃぃぃ。
明らかに判ったぞ、それ、俺じゃない‼︎
そう叫んでいると、目の前の女神の後ろに別の女神が現れた。
──スパァァァァァン
どこから引き抜いたのか知らないが、ハリセンで目の前の女神の後頭部をぶん殴っている。
『何してんのよ、彼は違うわよ、事故は事実だけど人違いよ‼︎ まだ死ぬ時期じゃなかったって冥王からもクレーム来てるわよ‼︎ 破壊神の残滓が起こした事件なのは事実だけど、彼はまだ死なないの‼︎」
『え、あら?ならすぐに戻しますわ、ごめんなさいオトハコウスケさん、貴方は生き返りますから、事故も巻き戻しますから』
「ちょい待ち、加護あげたまんまじゃダメって遅かったぁぁぁぁ」
後ろの偉そうな女神が頭を抱えて崩れ落ちたぞ?
あ、あれか、これが女神式漫才か?
そんなことを考えていると、俺の意識はどんどんと薄くなっていく。
………
……
…
そして気がつくと放課後なんだが。
よく考えてみても、こんな異世界なんちゃらな出来事を話しても厨二病認定されるので話さないほうがいいか。
多分夢だ、死んだという実感がない。
「それで、オトヤンが普通に登校して授業受けて飯食って昼寝して寝過ごして廊下に立たされて今放課後なんだが、なんかおかしいのか?」
「いや、今朝のバス事故でな、俺撥ねられて死んだだろ?」
──プッ
俺の話に祐太郎が吹き出す。
「ああ、脚がもつれてバスの前に飛び出したって言ってたな。でも、停車前のバスだったからギリギリで止まったし、死ぬどころか無傷だったから良いんじゃね?」
「え?あ、そうか、そうだったよな。俺、混乱して1日過ごしていたんだな、ありがとうな」
「ああ。そんじゃ部活行くか。今日こそ入部申込書提出しろよ」
ほら、やっぱり夢じゃないか。
そのままずるずると祐太郎に引きずられ、文学部に半ば強制的に入部した俺はその日は自宅へと帰ることにした。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
なんかよくわからないが、散々な1日だったような気がする。
風呂に入ってから宅配サービスの食材で晩飯を作り、のんびりと居間でテレビを見ながら食事タイム。
画面に写っているのは俺の好きな異世界ラノベ系アニメ。残念女神とその仲間たちが繰り広げるドタバタコメディー。
「はぁ。なかなか今回の演出も良かったわぁ。キャラデザインが違う回だったが良しだ、やっぱり演出は最高だな……爆裂はやっぱり芸術だよ、チッパイ万歳だ」
そんなことを呟きつつ、ふと今日の出来事を思い出す。
「異世界転生かぁ。夢じゃなかったら良かったんだけどなぁ……まあ、ステータスって叫んでみますか‥‥ステータス!! なんてね」
──シュンッ
目の前に見たことない画像が浮かんでいる。
ラノベでよく見るあれだ、ステータス画面。
それを見た瞬間、俺は寒気が走るのと同時に鼓動が高まっていくのを感じた。
「え? いや、嘘だろ? だってあれは俺の見た夢じゃないのか?」
この場にユータロがいたら、あいつの頬を張り倒して確認するところだが、取り敢えず自分の頬……は痛そうだから左手の甲を抓ってみる。
「いてっ‼︎ え? 夢じゃない?」
これは現実だ。
ならばとステータス画面を両手で押さえて、俺は隅から隅まで確認することにした。
初期画面を、じっくりと確認する。取説の端から端まで読むのは基本だよね?
‥‥
‥
名前:乙葉浩介
年齢:16歳
種族:人間(転生処理済み、バグ)
レベル:1
体力:72
知力:73
魔力:1000
心力:1000
HP:160
MP:16000
・スペシャルアビリティ
ネットショップ・カナン魔導商会
空間収納
自動翻訳(初期セット)
鑑定眼 (初期セット)
・固有スキル
一般生活全般 レベル16
「?????」
ステータスの基準がよくわからない。
まあ、一般人の基準が分からないからおいおい調べたほうがいいな。
そしてレベル。
経験値って必要なの?そもそもレベルが上がると何ができるの?
さらによく分からないのが魔力と心力。
あれだろ?
魔力って魔法だろ?
じゃあ心力ってなんだ、魔力と同じ数値だから対になる能力?
んん?
「俺たちの世界でいうところの、オーラ?闘気とかそういうのか?」
──シュンッ
その疑問にステータスはすぐに答えた。
一瞬で心力が闘気に書き換えられたのである。
「おおお、変わったぞ、じゃあHPとMPって、これはまあ、よくあるゲームのやつと同じだと思うか。でも、MPおかしくね?」
なんかよく分からないが、まず桁がちがう。
それに、いきなりそんなこと分かっても、この現実世界でMPが高くてなんになる?
「いや、俺は異世界転生者扱いだから、魔法が……あれ?」
問題はここ。
スペシャルアビリティ。
まあ自動翻訳と鑑定眼はラノベで見るからよくわかる。
ついでに空間収納ってやつも、アイテムBOXとかだろ?
「どれ、空間収納っっっ」
──ブゥン
おっかなびっくり叫んでみると、目の前に黒い球体が浮かび上がる。
「こ、これか?」
恐る恐る指先でつつく。
なんとなく感触は感じる。
そのままゆっくりと手を入れるが、どこまでも手が入っていく。
「うわあ、本物かよ。でも何も入っていないのか?」
そのまま何か入っていないか探すと、頭の中に空間収納に納められているものの一覧が浮かび上がった。
「……収納バッグが一つで、その中に保存食やら着替えやら、ロープと松明?お?」
リストを一つ一つ確認するが、まともに使えるのは収納バッグとこれだけ。
多分初期セットなのだろう魔導書が一冊。
「魔導書か。どれどれ」
まさかのマジックアイテムきました、キタコレ‼︎
ソファーに座ってページを開く。
目次に書いてあるのは、ただ一言。魔力を落として読みなさいと。
「???魔力を落とす? へ? 魔力ってなんだ? 俺の中にあるやつか?」
そのまま1時間。掌をかざしてうんうん唸ったり、座禅して瞑想したりするが魔力の魔の字も感じられない。
「ま、まあ、これはこれでよし。俺には魔力はあるからそのうち使える、そう考えよう。では本日のメインイベンター、ジャジャジャーン」
ゆっくりと呼吸を整えて、俺の持っているオリジナルの能力を確認する。
「ネットショップ。俺の能力。これがあれば、ネットで買い物して胡椒や塩を売って金貨がザックザックって現代じゃあ意味ねぇぇぇぇ。スマホと同じじゃねーかよ、なんで現代のネットショップを使えるスキルが手に入るんだよぉぉ」
その場にガックリと跪いてしまう。
ああ俺のばか。
あの時女神に、世界最強の魔法とか勇者の力を望めば、こっちの世界でも最強ヒャッハーだったのに。
なんで異世界の物を売買できるなんていう、使えないネットショップスキルをもらったんだろう。
まあ、ネットショップなら買ったものが目の前に現れるだろうから困ったときには使えるレベルか。
でも、これで荒稼ぎすることはできない。
それでもいいか、鑑定眼と空間収納だけでも、色々と使い道はあるだろうからなぁ。
気がつくと夜も更けていた。
俺はあまり夜更かしは苦手なので、0時を回る前に寝ようそうしよう。
そのまま布団に潜り込むと、死んだように眠りについた。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
なお、舞台は異世界ライフの楽しみ方より、マチュアの世界の一つとなっております。
・今回の判りずらいネタ
軽井○シンドローム/たが○よしひさ著