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番外編 ルナ・ハッターの事情〜髪を切った日

 学園に入学してから数週間が過ぎた。アリスが僕のメイド見習いになったことはまだ慣れないけど、僕自身には少しずつ変化が起きている。


 まず、ジャックとディアという友達ができたこと。今まで僕が同年代でまともに接してきたのは王太子殿下と第二王子のエース殿下だけだった。お二人を友達と呼ぶのは不敬を差し引いても難しい。だって全く対等ではないから。

 年も僕が一番下だったし、背も低いので完全に弟のような扱いだと思う。

 事実、入学前後もお二人とも酷く心配してくださった。

 そんな僕がクラスメイトであるジャックとディアに()()の友達として接して貰えるまでになったことは大きな成長だと思う。


 もう一つは今まで嫌いだった闇魔法が好きになれたこと。

 僕にはちょっと普通じゃない量の魔力があるけど、属性は闇しかない。

 四大元素や光属性にずっと憧れていたけど、天才魔導師と呼ばれるディアに闇魔法の持つ無限の可能性を教えてもらい、とても感銘を受けた。

 攻撃にも向かないし人を助けることもできないと思い込んでいたけど、最近発明された魔道具には闇魔法が使用されているものが多い。

 闇の次元、空間を司る性質はマジックバッグなどに使用され有名だし、不眠や精神異常などの悩みを解消するために精神に作用する闇魔法を使用したアイテムも次々と生み出されているのだ。


 僕たちも何か人の役に立つようなものを発明できたらと日頃から色々話し合ってるのだけど、今はそれが本当に楽しい。


 そして僕の中で変わったもう一つのこと、それは見た目を気にするようになったことだろう。

 今まで目立たないように縮こまっていたけど、猫背にならないように、背筋を伸ばすように常に気にするようになったし、服装も以前は緩めが好きだったけど、ピッタリサイズに仕立て直したし、もっとカッコ良く着こなしたいと思うようになって少しずつ筋トレを始めている。


 それもこれも好きな子(アリス)が側にいるからだ。

 彼女はいつも僕を真っ直ぐに見つめる。

 その眼に映る姿が少しでもカッコ良くありたい。

 

 僕の横には本当に格好良いジャックとディアがいるから、二人と比べたらどんなに頑張ってもミソッカスだろうけど、それでも、少しでも、彼女に良く見られたいんだ。


「前髪をお切りなさい」

 日々いかにして見た目を良く見せるか格闘していた僕に、あっさり母がそう言った。

「前髪を切って、ちゃんとアリスさんに貴方自身を見てもらわないと、好きになってもらえないわよ」

 そう言って母は僕の前髪を少し上げた。


「ほら、眼は口ほどにものを言うのよ?前髪を切って眼をちゃんと見せないと想いも伝わらないわ」

 そう言って微笑んでくれた母に、僕は気恥ずかしさを覚えたけど、もっともだと思い直して髪を切る事に決めた。


 でも幼い時から長い前髪で人の目から逃れようとしてきた僕にはハードルが高い。単純に髪の短い自分を想像できなかったからだ。


 王都で一番の理髪師と呼ばれているシェヒルが屋敷にやってきて、いよいよ僕の髪にハサミを入れる瞬間が訪れた。

 

「普段よりも短くとのことですが、せっかく美しい榛色の髪ですのにもったいないですね」

 そう言ってシェヒルは僕の髪を一房取った。

「いえ、スッキリしたいので、目に髪が入らない長さにお願いします」

 

 シェヒルは諦めたようにハサミを動かし始めた。ハラリ、ハラリと切られた髪が落ちていく。

 

「いかがですか」

 鏡の中には、今までと別人のような僕が座っていた。


 翌日、学校に行くのも教室に入るのもとても気が重かった。せっかく髪を切ったのにずっと下を向いて人の視界に入らないように移動したので、本当に僕は根性がない。


 自分史上、最大限の変化でも他人にとっては大した違いはないのだろうけど、気恥ずかしくてしょうがなかった。


「ルナ、おはよう。……髪を切ったのか?凄く良く似合ってるよ!」

 教室に入った途端にジャックがそう言ってくれた。

 良かった!似合わないなんて言われたら立ち直れない。


「本当だ。えらくスッキリしたな。そっちの方が良いよ」

 ディアも感心したように褒めてくれた。

 本当に僕は良い友人に出会えて幸せだ。


「……ルナ様、おはようございます。本当に素敵ですわ。ルナ様の美しい瞳がはっきりと見えるのですもの」

 アリスも嬉しそうにそう言ってくれた。

 ああ、今の君の眼には、少しはカッコ良く写り込んでいるだろうか。


「……みんな、ありがとう。ちょっと暑くなってきたからサッパリしたくてさ」

 照れ隠しにそう言った僕の言葉を三人が真に受けたかどうかはわからないけど、皆また口々に褒めてくれたので、僕は嬉しくてずっと顔を上げていられた。


 

◇◇◇


 今、僕は二年前の今頃と同じくシェヒルに髪を切ってもらっている。


 あの時は目が見えるくらいにとお願いしたけど、今回はもっと短くしてもらう予定だ。


 学生服に合う髪型ではなく大人としておかしくないように。


 彼女の瞳と合わせた青をふんだんに使った婚礼衣装はとてもシックで大人っぽい。

 これを着てもおかしくない髪型にして、少しでも彼女に良く見られるように。

 

 僕はきっとこれからも髪を切り続けるだろう。

 彼女にちゃんと想いが伝わり続けるように。

 



お読みいただきありがとうございました!

作者マイページの方におふざけの完結記念SSも公開してます。

ご興味ある方はそちらも是非ご覧ください!

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