14.真犯人
「結局、武道大会でルナ様がお怪我されたのは私の所為ですね……。申し訳ございません」
「そんなことないよ。アリスは何も悪くないよ」
ルイスをエース殿下に引き渡した後、私が居た堪れなくなって頭を下げると、ルナ様は私を慰めるように手を握ってそう言って下さった。……ルナ様、好き!
「それにしても、ルイスが武道大会の事件の犯人だったとはな」
ディアも意外そうな顔をしている。
「……船の襲撃のほうは違うのでしょうか?」
まさかあれもルイスが!?と心配になってそう言った私にルナ様は首を振った。
「あれの犯人は判明している。……が、証拠を掴む前にあの世に逃げられた」
ディアが驚くべきことを口にした。ルナ様も頷いている。
「えっ、誰が犯人だったのですか?」
ディアが声を落として囁いた。
「……ウィリアム・ラスキン。こないだ事故死した奴だ。実際は事故じゃなくて自殺だが」
ラスキン公爵の嫡男だったウィリアム・ラスキン様!?なぜ?
「動機も何もかもわからず仕舞いだ。ラスキン公爵は関わっていないようだし、何もかも謎すぎる。そもそも彼が本当に『真犯人』なのかもな。裏に黒幕がいたのかもしれないし、実行犯は特定できないままだ」
「動機が気になりますね……」
「エース殿下を狙ったものだと考えられているが、今、王宮のほうではウィリアムの交友関係を虱潰しに調べているところだ。だがいくら調べても彼と暗殺集団を結びつける糸が見つからないんだそうだ」
エース殿下を狙ったものなのか。そうすると継承権関係?ウィリアム・ラスキンは確か、第四位くらいの王位継承権を持っていたはずだ。
「まあ、船の事件はエース殿下に任せておけばいいさ」
考えても答えが出てくるはずはなく、私たちはその場を後にして家路に着いた。
「よおアリス!久しぶり!」
私が家の前に着くとチェシャ猫、トムがやって来た。
「あらトムじゃない。どうしたの?」
「お前婚約したんだって?おめでとう!はいこれお祝い」
そう言って私に花束をくれた。可愛いピンクのコスモスだった。
「じゃあ俺は行くから」
「えっちょっと!」
トムは来た時と同じようにあっという間に闇の中に紛れていった。
「もう、お礼も言う間もなかったわ……」
花束をよく見ると中にカードが入っていた。
『襲撃犯を決して探すな』
ゾッとして、鳥肌が立った。やはりトムは襲撃に関与しているのだろうか。
卒業式も間近になって、私はクローバー先生の研究室に呼び出された。卒業論文に関して確認したいことがあるとのことだった。
「失礼いたします。アリス・キャロルです」
「ああ、入ってくれ」
広い研究室にはいつもだったらいらっしゃる事務員の方は不在だった。これって扉閉めたら貴族的に不味い状況なんじゃないだろうか。
私が扉を気にしていると、クローバー先生がやって来て、すっと扉を閉めた。
「さあ、こちらにどうぞ、アリス。こうやってしゃべるのは久しぶりだね」
小さい頃からよく知っているお兄さんの顔をしたクローバー先生に、あんまり警戒するのも失礼かと思い直した。
「そうですね。学園に入学するまでは、毎週のようにお話を聴きに行ってましたもんね」
クローバー先生は色々な教会で、孤児たちに文字や勉強を教える活動をしていた。それ以外にも物語を読んでくださったり、とても人気があったのだ。
「今も教会に行ってらっしゃるのですか?」
「週末はよく行くね。アリスは最近来ないね。花嫁修業で忙しい?」
そう言って揶揄うように言うクローバー先生に私は少し赤くなって答えた。
「……そうですね。侯爵家では親切に色々教えていただいております」
「そうだね。ルナ・ハッターの婚約者だものね。あの学園一、いやハートランド一の魔力保持者だ。君はそんな彼の一番大切な者になったんだね。アリス、素晴らしい」
私は何か悪寒を覚えた。クローバー先生の目が笑っていないことに気付いたのだ。
危険だと心が叫ぶ。でもどう動こうか答えが見つかる前に私は捕らわれた。
「出して!」
彼の手の中の小さな水晶玉の中に閉じ込められてしまった私は声を枯らしてそう言うが、ただニヤニヤとした笑いだけが返って来た。
亜空間なのだろうか。光魔法をぶつけても何の反応もない。きっとクローバー先生の魔力が私を上回っているせいだろう。
「アリス、君を傷つけるつもりはないから大人しくしていておくれ。君はルナ・ハッターとディア・クロウリーを手に入れるための大事な人質だからね」
「!?クローバー先生がなぜそんなことを?」
「……私とウィリアムは同志だった。こう言えばわかるかい?」
クローバー先生のその一言に私は凍り付いた。じゃあ、襲撃の真犯人って先生だったの!?
本日もう一話夕方に投稿します。
明日はいよいよ最終回です!




