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13.ルイスとルナ

 その後、婚約披露パーティーは恙無く終了し、いつルイスがマルスのようになるかと不安になった私は安堵した。

 ルイスの顔色は悪かったし、その目の奥に仄暗さが見えた。あれは闇落ちの兆候ではないのだろうか。ルイスがそこまで私に執着してくるなんて正直予想してなかった。ゲームのように、ルイスの心を受け入れるべきだったのだろうか。ルナ様の手を取ったことは選択ミスだったのだろうか。そんなことを考え悶々とした日々を送っていたが、日常は淡々と過ぎていく。

 ルイスはエース殿下に何かを言われたのか、学園で纏わりつくことはなくなった。 

 だけど気が付けば遠くからこちらをいつも見ている。直接話をすべきなのだろうが、今までも何度も私の気持ちは伝えて来た。そのたびに彼はそんなことはどうでもいいと言わんばかりに自分の気持ちを押し付けて来た。

 長い付き合いの中で、私が駄々を捏ねられるとつい甘やかしてしまうことを学んでいる彼は、こちらの弱みを上手に突いてくる。

 

 そんなある日、王太子妃殿下のお茶会に呼ばれた。

 王宮の庭園で薔薇を愛でながらのお茶会で、今回は女性のみの参加。王妃様もご予定がありいらっしゃらないとのことだった。


 フランシス様と一緒にこれまでも何度かお呼ばれされており、他の皆様とお話しすることにも随分と慣れてきた。

 話題は主に王都での流行ものや各領地の産品についての情報交換。単なるおしゃべりじゃなくて、各地の産業の活性化のためのプレゼンの場でもあるのよね。

 私も侯爵領で生産される銀細工のアクセサリーをご紹介する。ハッター侯爵領には巨大な銀山があり、王国銀貨の原料も提供しているが、銀製品の生産も盛んなのだ。


「まあ、素敵なアクセサリーですわね。こちらなら、サトクリフのガラス細工と合わせて、素晴らしいコスチュームジュエリーができますわ」

 そうおっしゃったのは、白の派閥の侯爵家令嬢 ガートルード・リーチ嬢だ。サトクリフはリーチ侯爵家の領地にあるガラス工芸が盛んな町で最近コスチュームジュエリーに力を入れている。


 コスチュームジュエリーとは所謂、模造品だ。金やプラチナや宝石で作るファインジュエリーではなく、アクセサリーとして気軽に使える比較的安価な装飾品を指す。

 まあ、材料が安価なだけで、出来栄えはファインジュエリーに引けを取らない。

 最近、貴族の間ではドレスに合わせてコスチュームジュエリーを作るのが流行っている。

以前は高級なジュエリーを使いまわすことが主流だったが、それではトータルとしてちぐはぐな印象になってしまうことも多い。

 そこに目を付けたリーチ侯爵領では、仕立て屋にサトクリフのガラスで作った模造石をドレスに組み合わさせて売ることを思いつき、この流れを作り出した。


 銀は加工もしやすいし、メッキの技術が進んで来たので、コスチュームジュエリーの台座にもってこいだから、ハッター侯爵夫人からガートルード嬢に売り込んでくるよう仰せつかったが、上手く行きそうでよかった。


「サトクリフ産のガラス製品と、こちらの銀細工を組み合わせたら、カトラリーなども素晴らしいものになりそうですわね」

「そうね、食器やグラスも今までのシンプルなものから、美しい装飾を施したものに変えていけば、他国への輸出産業の一翼ともなり得ますわ」

「そうですわね。お隣のニーベルンなどでは陶磁器が有名ですから、こちらは銀食器とガラス製品に力を入れていくのも良いですわね」

「ガラスなら陶磁器よりも安価に、でも豪華で見栄えもしますし、銀糸を流し込んで、他と差別化を図るのもよろしいわね」

 話がどんどん膨らんでいくよ!王妃様や王太子妃様のお役目の一つとして自国の産品を他国に売り込むというものがあるが、こういうお茶会で、戦略的に何を売り込んでいくのか検討されておられるのね。いやはや、単なる懇親会ではないのね!


 話も弾み、お茶会がお開きになって、私は侯爵家の馬車に向かった。馬車に乗り込もうとした時に「アリス!」と呼ばれ、振り返るとルイスが立っていた。


「王太子妃様の所に行っていたの?偶然だね。僕も王宮に呼ばれてきたんだ。僕は王太子妃様と従姉弟になるからね。王太子殿下がお目をかけて下さってるんだよ。

「ルイス……、それは良かったわね。元気そうで何よりだわ。じゃあ、私は行くわね」

 そう言って馬車に乗り込もうとすると腕を掴まれた。

「痛いわ。離してちょうだい」

「ごめん!でも二人きりで話したいんだ。時間を頂戴よ」

「駄目よ。貴方公爵になるんでしょう。ルナ様のことが無くても私は身分が合わないわ。もう関わっては駄目よ」

「そんなことない!僕は、僕は……、アリスのことを諦めるなんてできないんだ!」

 押し殺すようにそう言ったルイスの顔は苦痛に歪んでいた。

 私はルイスの頭をそっと撫でた。

「ルイス、私にとって貴方は大事な弟も同然よ。でも貴方を選ぶこともないし、選ばれることも無理なのよ」


 私は茫然としたルイスを置いて馬車に乗り込んだ。彼の瞳に浮かんだ絶望の色が脳裏に焼き付いて消えなかった。



「おい、ルナがルイスに呼び出されたみたいだぞ」

 お昼の食事の後片付けをしていると、顔色を変えたディアがやって来た。

 私とディアが駆け付けると、ルイスがルナ様に魔法攻撃をまさに仕掛けようとしているところだった。ルイスの手に赤い炎が見える。だめ!


「やめて!ルイス!」

「アリス、ディア、大丈夫だから僕に任せて」

 ルナ様はそう言ってじっとルイスを見据えていた。


「僕にはできないと思っているのか?僕が本気になればこの学院ごとお前を消し去ることなんて簡単なんだよ!」

 そう言ってルイスが炎の魔法をルナ様に向けて解き放った!しかし、ルナ様が手をかざすと炎がその手のひらに吸い込まれるように消えていく。

「なんでだ!くそ!」

 もう一度ルイスが、攻撃するが結果はやはり同じだった。


 ルナ様、闇魔法でルイスの魔法を吸収しちゃったよ!さすがラスボス!そうだよね。ゲームではルナ様の魔力は王国最高という設定だった。ルイスも相当な魔力持ちなはずなのだけど、ルナ様の前では全く歯が立たないのも当然だ。


「ルイス・ラスキン殿、貴方がアリスを大切に思っていて、頼りない僕をアリスに相応しくないと思っているのは分かってるよ。でも僕は、アリスを心から愛しているし、アリスも僕を受け入れてくれたんだ。僕は貴方にも、認めてもらいたい」

「黙れ!お前なんてあの武道大会で死ねばよかったんだ!なんで生き残ったんだ!」

「まさか、あの弓に火をつけたのはルイスなの!?」

「そうさ!だってアリスにずっと引っ付いて目障りだったから……」

 私はルイスの傍に駆け寄るとその顔を思いっきりビンタした。


「あんたねえ。あの時ルナ様は死ぬところだったのよ!自分が何したか分かる?大体ルイスは子供の時から我儘で考えなしなのよ!ヘンリーとお隣のお家に悪戯した時もそうよ!怒られて当然のことをしたのはあんたたちだったのに、逆恨みして……。あの時私と親達がどれだけ迷惑被ったか分かってんの!?」

 そう言って私がヒステリックにクドクドと説教していると、途中でルナ様が止めに入った。


「アリスもうその辺で終わりにしようね」

「……お前、本当にうちの乳母そっくりだわ」

 デイアが呆れ半分にそう言った。我に返った私はいたたまれなくなって小さく「はい……」と答えた。


 ルイスは頬を抑え、ヒクヒクと泣き出した。

「だって……、だって……」

「だってじゃないでしょ!こんな時はなんて言うの?」

「……ごめんなさい」

「私にじゃなくて、ルナ様にでしょう!」

「……ルナ・ハッター殿、申し訳ございませんでした……」

 子供のようにえぐえぐと泣きながらそう言ったルイスを呆れたように見つめるディアと、憐れんでいるルナ様の対比が何とも言えないわ。


 結局、武道大会とピクニック火事の犯人はルイスだったと判明した。ルナ様に対する傷害は未成年の犯したことだし、今はラスキン公爵の跡取り息子という確固たる地位を得たルイスが改めて罪に問われることはなかったが、エース殿下監視の下、高位貴族としての責務と自覚についてミッチリ教育を施されることになった。


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