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12.婚約披露パーティー

「アリス様、今日はドレスの仮縫いが仕上がっています。またパーティーのお料理とご出席ご予定者様方のリストですが、最終確認をお願いいたします。それから、すでに届いているお祝いの品へのお礼状ですが、侯爵家では金の型押しのものを使用しておりますので、アリス様もそれに倣ってこちらをご使用ください」


 社交シーズンも終わりに近づき、今週末には私とルナ様の婚約披露パーティーが催されることになった。侯爵家の将来の女主人として、パーティーの準備を滞りなく行うことが私に与えられた課題である。マイアさんがほとんどやってくれているので、私が実際行うのは「選ぶこと」だけなのだけど、これが案外難しい。

 お料理だって、飾り付けだって過去一年の経験である程度理想形が見えているけど、その中に「斬新さ」が常に求められる。

 ドレスだけではなく、庭の花一輪にしても、私のセンスが問われるのだ。

 下手なことをすれば、「身分が低い」ことの批判材料になってしまう。

 お礼状だってそうだ。侯爵家に相応しくないような手紙を送ってしまえば、笑いものになるのは私一人で済まない。


 それでもここ迄順調に進んでいるのは、侯爵夫人とマイアさんの今までの教育の成果だと思う。あの一年間のメイド見習い期間無しでは、とてもじゃないが私がパーティーを主催することなんて不可能だっただろう。今回は王太子ご夫妻も来て下さるので、侯爵家全体でもかなり気合が入っている。


「マイアさん、本当にありがとうございます。お陰様で何とか準備ができました。どうかこれからもご指導くださいね」

 私は心からの感謝を込めてマイアさんに言った。


「アリス様、貴女様のお陰で、このハッタ―侯爵邸に沢山の喜びが訪れました。貴女が来るまでは、身体も心も弱いルナ様をご心配なさって、旦那様も奥様も顔を曇らせる毎日でした。もちろん私どもも同じです。でも貴女様がこの邸に来てくださって以来、本当にルナ様はご立派に変わられました。どうかこれからもルナ様をお支え下さい。私たちもいつでも貴女様のために何でもいたす所存ですので」

「マイアさん……」

 そんな風に思ってくれていたのね。ルナ様が変わられたのは私の功績ではないけど、侯爵邸の方々が私を心から歓迎してくれていることに嘘偽りは感じられない。私も皆さんのお気持ちに応えられるように全力で頑張ります!絶対「これだから低位貴族は……」なんて言わせないんだから!


 いよいよ当日になり、私はドレスを着て化粧を施された。奥様から侯爵家に代々伝わるティアラや首飾りのセットをお借りして、まるでお姫様の装いのようだ。

「アリス、用意はできた?」

 振り返るとタキシードに身を包んだルナ様がやって来た。いつもと違って髪をオールバックにしていて大人びて見える。その姿に以前のような可愛らしさはなく、ただただ凛々しく思えた。


「アリス、……凄く綺麗だ」

「ルナ様こそ!その髪型、お似合いですわ。いつもより大人びて見えてドキドキします」

 私が照れ隠しに笑うとルナ様も恥ずかしそうに笑ってくれた。

「じゃあ、行こうか。そろそろお客様方が到着する時間だ」

「はい!」

 私はルナ様の腕にそっと手を添えた。


 ハッタ―侯爵と夫人がまずお客様を出迎え、私たちはその横に控える。次々と述べられるお祝いの言葉に緊張しながらも無難に受け答えしていくルナ様の横で、私はただ静かに微笑んでいるだけだったけど。


 王太子ご夫妻とエース殿下がご到着され、貴賓席にご案内するのは私たちの役目。

「ルナ、おめでとう!アリス嬢、妃がいつも世話になっているようだな。これからもよろしく頼む」

 初めてお目にかかる王太子殿下はとても気さくで堂々とした方だった。やはりルナ様のことをよくご存じのようで、仲がよさそうだ。

「ルナが初恋の君を射止めたと聞いて、心底驚いたんだ。こいつのことは赤ん坊の時から知っているが、まさか自分から女性を口説くことができる奴だとは思いもしなかったよ」

 揶揄うような口調だけどその顔には喜びが滲み出ておられ、第二王子、エース殿下と同じくルナ様を弟のように思っているのが感じ取れた。


「ルナ様、アリスさん、この度はおめでとうございます。殿下もいくら幼馴染だからと言って、おめでたい席であまり失礼なことをおっしゃらないでくださいませ」

 王太子妃が窘める。このお二人も仲が良い。聞けば皆、縁戚関係にあり幼馴染だという。さすが高位貴族様は繋がっているのね。王家、公爵家はもちろんのこと、侯爵家も王国統一前は独立した領主だったのだ。今でもその家格は王家に対抗でき、下手をすれば王国離脱ということも可能だという。だからこそ、侯爵家以上の高位貴族と男爵家などの下位貴族が結びつくことは稀なのだ。伯爵家以下は云わば王家の家臣で、特に男爵家などは、日本の基準で言えば、国家公務員程度に過ぎない。


 お客様がほぼ到着されたようで、ハッター侯爵が前に出て挨拶をした。私たちも紹介され宴が始まった。

 私たちは順番に挨拶に回り、お祝いの言葉をいただいた。

 

「ハッタ―侯爵、この度は誠におめでとう!」

 遅れて高位貴族が到着したようで、ハッター侯爵と夫人が伴って入場して来た。

  白の派閥の重鎮、ラスキン公爵、そしてなぜかルイスが一緒にいる。


「ラスキン公爵、お越しいただき、ありがとうございます。ルイス殿を養子に迎えられたそうですね。初めまして、ルーイ・ハッターと申します。以後お見知りおきください」

 ルイス、ついに公爵家の養子になったのね。ラスキン公爵と言えば、ウィリアム・ラスキン様が嫡男だったが、先日お亡くなりになったと噂になっていた。


「ああ、ルイスは遠縁なのだが、ウィリアムがあんなことになってしまったのでね。こちらこそよろしく頼むよ」

「お初お目にかかります。ハッター侯爵。何分不慣れなものですからどうぞよろしくお願い申し上げます」


「ルナ、ルイス殿を殿下たちの所にご案内して差し上げなさい。私たちも後程行く」

「はい。ルイス殿、こちらへどうぞ」

 ルナ様がルイスを伴って、貴賓席の方に移動する。私も後をついて行く。


「ルナ・ハッター、僕は貴方とアリスの婚約を認めない」

 皆から離れて、私たちだけにしか聞こえない低い声で、ルイスが言った。

「……ルイス殿、貴方はアリスの幼馴染だそうですね。聞けばアリスは貴方を本当の弟のように思っているといいます。僕はアリスを必ず幸せにしますので、どうか、お認め下さい」

 ルナ様が冷静に返す。それがルイスの癇に障ったようで、ルイスの顔色が険しくなった。

「アリスを幸せにできるのは、後にも先にも僕だけだ。絶対に奪い返してやる」

 ルイスはそう言って、ルナ様を睨んだ。


「アリス!」

 エース殿下がやって来た。

「王太子妃がお呼びだよ」

 私がおろおろとして二人を見ていると、エース殿下は何かを察したように頷いてくれた。


「ルイス、あちらに君を紹介したい方々がいるんだ」

 エース殿下はそう言って、ルイスを連れて行ってくださった。


「……アリス、ルイス殿のことは僕に任せて。大丈夫だから」

「ルナ様……。嫌な思いをさせてすみません」

「アリスが気に病むことじゃないよ!さあ、妃殿下の所に行こう」

 そう言って、ルナ様は私の背にそっと手を添えた。


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