閑話 ルナ・ハッタ―の事情 その3
本日2話目です。
お待ちかね(?)のルナ視点です!
なぜか文化発表会でアリスがディアの代役をすることになった。
確かに、アリスしか台詞を覚えている人がいなかったのだけど、できれば僕が王子の役が良かったよ!何が哀しくて好きな子と男女逆転で口説かれなきゃいけないんだ……。
そんな風に落ち込んでいたけど、アリスの真剣で真摯な演技に僕も応えようと、必死に演じた。
「氷の心を持つ孤高の美姫よ。貴女の心がどんなに凍てついていようとも、私は貴女を一目見た日から恋の炎に包まれ、片時も貴女を思わぬ刻はありません。どうかこの私の愛で貴女の心を溶かし、永遠に貴女の手を取ることをお許しください。どうかその麗しいお耳に愛の言葉を囁くことをお許しください。さすれば私は未来永劫貴女のものとなりましょう!」
僕の瞳を見ながら台詞を切なげに囁くアリスは、どこから見ても完璧な王子様だ。
僕は自分が本当に彼女からそう求められているような錯覚に陥り、何度も「もう私は貴方のものです!」と言いそうになってしまった。(そんなことしたら話が終わってしまうのに!)
そして最後の最後に彼女の手を取ってそっと抱きしめられた。演技だとわかっていても彼女に本当に愛されている気がして僕は夢のような心地だった。
舞台では恋人同士になった二人だけど、現実での距離の縮め方がわからない。
ディアとジャックには舞踏会が勝負だと発破をかけられた。ダンスに誘って、告白しろと言うのだ。
白いドレスに身を包んだアリスは誰よりも輝いて見えた。銀色のコームがピンクブロンドに映えて、後ろ姿さえも美しかった。
ミキサーの間も彼女から目を離すことができず、運よく相手となった男たちのしまりのない顔に、嫉妬で呪いそうになった。殿下なんて僕の視線に気づいて当てつけるようにアリスと密着していた。
ミキサーの後、アリスは僕の所に来てくれたけど、いつも通り側に控えるだけで、気軽に話しかけられる雰囲気じゃない。ましてや、僕からダンスに誘われるなんて全く想像もしてないのではないだろうか。多分僕からどころか誰からも声をかけられる気はないのだろう。一種異様な威圧のような雰囲気を醸し出している。
いたたまれずオロオロとする僕にディアが小声で叱ってくる。
「アリスのあのガードを崩せるのはお前だけなんだから勇気出してダンスに誘えよ」
ディア曰く、アリスは使用人オーラを自在に出せるという。そのオーラを出しているアリスにはどんな男も通用しないというのだ。完璧な使用人はたとえ誰に口説かれても流すことができる。アリスはすでにそれを身に着けていると皆が言う。
僕にはよくわからないけどね!アリスにそんなオーラが出てる出てないに関わらずヘタレな僕は彼女を口説くことができない。どうしてもその勇気が出ない。
もし断られたらどうしよう……。気まずくなったらどうしよう……。そんなことばかり考えてしまう。言わなければいつまでも思っていられるんだもの。
でもディアは痺れを切らしたらしく、今にも怒り出しそうな顔をしながらあえて無言で僕の背中を押した。もうラストダンスだ。これを逃したら一生彼女と踊る機会もなくなる気がする。僕は勇気を振り絞って、アリスをダンスに誘った。
「アリス、もう最後の曲のようだし、よかったら僕と踊ってくれる?」
「……喜んで!」
僕の視線の端でディアが小さくガッツポーズをしているのが見えた。




