新派と旧派
「タケルはんは、大きな胸がお好きのようなりや」
突然リズが馬上から話しかけてきた。
タケルの視線の動向から見抜いたのであろう。
「いえ、そんなことは…」
「そうか、タケル殿は新派ではなく、旧派か」
ゴルビーが思案げに言う。
「それはどういうことですか?」
タケルは話をそらそうと尋ねてみた。
「タケル殿はエルフィニアに来て、エルフの胸の双丘が大きいと思わなかったかい?」
「思いました。僕がいた世界の異性よりも確かに大きいですね」
「うんエルフは他の種族に比して、バストが大きい。
実は、エルフィニアでは、昔から、胸の豊かな女性が人気があるんだ。
エルフィニアの大地の豊穣の象徴として」
タケルは頷いた。
世界各地の新石器時代の地層から出土される地母神は大地の恵みの象徴であり、乳房が強調されているものが多い。
エルフィニアで乳房が豊穣の象徴となっていても不思議ではない。
「しかし、ある時ヴァロア王国の使節団のヒューマンや獣人に小さい胸部のキュートな女性たちがいた。
それはもう可愛かった。
一部のエルフの男性たちは可憐さに打たれ、大きいバストへの志向を捨てて、新派を名乗ったのだ」
新派と旧派か、いずれかと問われれば、なるほど自分は旧派に属するかもしれない。
そう言えば、今の話は高齢の剣の達人が異世界に転生する物語の設定に少し似ている。
剣士の主人公がエルフの国を訪れた際に、新派が大きなバスト派という逆の状況になっていた。
その異世界ものは、エルフが薄いバストというタケルにとっては珍しい設定に思えたが、稀少なものに人は憧れるということなのだろう。
タケルも豊満な胸部だけが好きなのではない。
スレンダーにはスレンダーの良さがあるだろう。
マンガでは、非の打ちどころのないヒロインが唯一胸だけが足りないという設定に出会うが、それも趣深いとタケルは感じていたのであった。
最近だと仙台藩開祖となった武将の名前を持つ高校生の復讐劇に登場するヒロインが挙げられる。
家が名家で、裕福。
美しさも秀でて、勉強もスポーツもできる。
しかし、そのヒロインは胸の大きさだけが人に遅れをとっていた。
そこに趣深さを感じていたのはタケルだけではなかっただろう。
いろいろなものが揃いすぎてもダメなのだ。
メイド服が似合う、いつもヒロインのそばにいる側近は逆に大きかった。
実はタケルはその側近の方に気持ちを寄せていた。
その理由は胸囲だけではなかったが、それも理由だったことは認めよう。
ヒロインの設定には趣を感じながらも、結局、自分はゴルビー言うところの旧派なのかもしれないなと自嘲の笑いが生まれるのであった。
タケルはふと訊いてみる。
「ヴァロア王国の使節団の女性に感動した男性エルフというのは、もしやゴルビーさんではないでしょうね?」
「タケル殿、鋭い洞察力だ」
とあっさり認めたのはゴルビーらしい。
「ということは、新派の開祖は、ゴルビーさんということですか?」
「ははは、そーなんす」
とゴルビーが返したのは、語調で「そーなんす」という語尾になったのだろうが、タケルは幼い頃にゲームで楽しんだ、丸いボールに入ったモンスターたちを思い出した。
ゴルビーさんは楽しげな人だなぁ、この人が軍の高官とは、エルフィニアも懐が広い、とも思われるのであった。
「ところで、参謀長、本題に入りたいのですが…」
エリナの声は少し呆れた色が付いていた。




