魔虫の女王の骸へ
町の中央部にホヤンスク防衛臨時司令部が置かれていた。司令官のグスタフに魔虫の女王討伐の詳しい報告が入ったのはモスラスクイーン墜落後一刻ほどを経たときであった。
早馬で伝令が伝えたのである。
「助かった。クイーンばかりか他の魔虫どもも死んだようだな。
それにしてもタケル殿は、一体何者だ。
巨大な魔虫を剣一振りで屠るとは。
神が喚び寄せた勇者なのか?
今は感謝だけだ。
それより、これからやらねばならぬことは…」
司令官であるグスタフは、戦闘終了後の処理と次の襲来への準備を思案した。
負傷者の治療
町の内外の解毒
モスラスの死骸の処理
特にモスラスクイーンの死骸の処理
死者の葬送…
次は今後の魔虫や魔獣への備え。
警戒網を広げ、人員と資材の充実を図らなければならない。
参謀総長のゴルビーとの打ち合わせが必要だろう。
まずは部隊や武人たちへの明確な指示が必要だ。
エリナとゴーリキーには、様々な想定における行動指針は示してある。
グスタフは、軍令に部隊や城壁を守る武人たち、救護班、一般住民への伝達事項を伝えた。
健闘への感謝とともに
第1に負傷者の救命と治療を最優先すること。
第2に町の内外の解毒に当たること。
第3に死者を手厚く弔えるようにすること。
これに基づいた具体的な指示が伝達された。
グスタフ自身は司令部を動かず、腰を落ち着けて、指示を下すことが求められる。
今後の対応は、ゴルビー参謀長との打ち合わせが特に待たれるよう。
防御ばかりでは、犠牲が続くだけだ。
凶事の大本を叩かないといけない。
調査隊の帰着を待って、北方へに遠征が必要だ。
別の伝令には、エリナへの指示として、ゴルビー参謀長を同行して司令部に来てもらうように依願する旨を告げた。
ゴルビーの方が上官であるが、来訪を願うのは、グスタフは、今、司令部を動けないからである。
今後の対魔対応の打ち合わせのためにも早く協議を行いたい。
伝令が臨時司令室からでるとグスタフは麦珈琲を飲みながら、ホヤンスクの今後について思慮を巡らせるのであった。
***
タケルとゴルビーと獣人少女たちが、モスラスクイーンの骸のそばに来ると大勢の武人たちが地に墜ちた女王を遠巻きに眺めていた。
毒気がまだ漂っているので、解毒結界や防御魔法がなければ、近寄れないのである。
それでも解毒結界や防御魔法が使える者は近くで骸を眺めていた。
タケルたちは、防御結界に包まれているので、近づいても大丈夫だ。
タケルとゴルビーの姿を見つけると武人たちから歓声がおこった。
「あれゴルビー様とタケル殿じゃないか!」
「町を救ってくれてありがとう」
「ゴルビー様〜」
「タケル!」
男女の声が飛び交う。
ゴルビーは慣れているのか、称賛の声をあげる者たちに手を振っていた。
タケルは馬上からお辞儀してみせた。
その後ろには栗鼠型獣人のリズが乗っていた。
ゴルビーがリズはタケルの後ろに乗せるように言って聞かなかったのである。
リズもゴルビーのように手を振っていた。
モスラスクイーンはやはり巨大だった。
翅を地に広げていると小さめの野球場ぐらいの面積はあった。




