安堵と危機
タケルは地に墜ちたモスラスクイーンの姿を遠目に眺めながらしばし感慨にふけった。
黒馬ペガサスに乗り、ゴルビーたちのもとへ向かう。
ゴルビーと3人の獣人魔法師は、黄色い毒霧を風魔法ですっかり払うと、地に倒れた魔虫の女王を遠目にしみじみと眺めていた。
「ふ〜、何とか倒せたようだよ。
今回は危なかった…。
ハニーちゃんたち、助かったよ、ありがとう〜」
「ゴルビー様もお疲れ様でした」
と熊獣人ミーシャが言うと、
「タケル殿、うまく空に舞い上がりましたね〜」
と兎耳のラビーネ。
栗鼠獣人のリズは、
「うちらもタケルはんをうまく着地させたなるよ」
と。
「うん、そうだね。寝心地が良さそうな空気の褥だった。
さすがだよ〜」
と褒められて、獣人の少女たちは、喜色を浮かべた。
軽口を交えながら、お互いの労をあれこれねぎらっていた時に、馬に跨ったタケルが現れた。
タケルは下馬して、
「ゴルビーさん、ミーシャさん、ラビーネさん、リズさん、魔法での加護、ありがとうございました」
「いや、見事にモスラスの親玉を切り倒したね。
タケル殿なら倒してくれるとは思ったけれども、さすがだよ。
今日一番の功労者だ」
「いえ、そんなことはありません。
ゴルビーさんたちの魔法の加護がなければ、全くもってモスラクイーンを倒すことはできませんでした。
また、モスラスたちを次々倒していった、ゴルビーさんこそ、最大の功労者だと僕は思います。
そして、ホヤンスクの町を守った者全員が功労者ですよ」
「そうだね〜。うん、そうだ。
でも、タケル殿が一番注目されるのは覚悟するといいよ〜。
少女も淑女もいっぱい寄ってくるよ〜」
ゴルビーは笑いを浮かべた。
タケルもつられて笑う。
「タケルはんも大変なるよ、モテモテになると」
リズが言う。
タケルは、何気なく天に輝く望月を見やった。
夜鷹だろうか、空には猛禽類が一羽月明かりを浴びて飛んでいた。
「覗き魔がいるようだね〜。
ミーシャ、頼むよ」
「はい、ゴルビー様!」
と言ってミーシャは魔杖を掲げて、
「森の精霊よ、樹海の奥に君臨する御祖よ。
石の玉を以って、仇を打たん。
力をお貸しくだされたまえ」
すると魔杖の先に白い玉が現れ、ミーシャは、まるで野球の打者のように構えて、振り抜いた。
硬球ほどの大きさの白球が、夜鷹を直撃した。
鳥は地に墜ちた。
呆気にとられて見ていたタケルにラビーネが、
「あの夜鷹は使い魔のようです。私たちを見張っていたんだと思います」
「使い魔ですか!」
「そうです。きっとあの夜鷹の視覚を通じて、あるじに当たる者が今回の事変を見ていたはずですよ。
そうですね、ゴルビー様?」
「うん、そうだよ。そして、その使い魔のあるじが今回の騒擾を引き起こしている主役だね〜」
***
「ふっ、見破られたか」
ゆったりと椅子に腰掛けた男が大きな鏡の前で呟いた。
上下赤い貴族の服に身を包み、気位のたかそうな整った顔立ちをしている。
男は立ち上がると、長身だった。
そばに控えるダークエルフの女性に尋ねる。
先ほどホヤンスクから帰着したばかりのヤンだった。
「モスラスクイーンを斬り伏せた者、あの者がタケルという剣士か?」
「その通りにございます。鏡に映っていたあの黒髪の男です」
男は自分の顎を右手で軽く掴んで、
「ふーむ、あの者は確かに厄介だな。計画の邪魔になろう。
余自ら、倒しておくか」
「滅相もない、アレクサンドル様ご自身で行くなど。
私めにお任せ下さい」
「いや、あの者と戦いたくなったんだよ。
この魔剣で」
男が腰の鞘から抜いた諸刃の剣は真紅の色をしていた。
毒々しい中にも気高さの宿る長剣。
「楽しみだ、あの者と戦うのが」
アレクサンドルと呼ばれる男は、漆黒の肌に長い耳を持つ、ダークエルフだった。




