エリナの部隊の危機
エリナの部隊は窮地に陥っていた。
モスラスクイーンには、魔法師数人がかりの遠隔攻撃が効かなかった。
攻撃を受けるとクイーンの口からは猛毒の息吹が吐き出された。
黄色い霧のようなガス、これを浴びたら、目は焼かれ肌は爛れ、吸い込めば呼吸器がやられる。
鱗粉以上の脅威だ。
防御担当の魔法師たちは部隊の至る所で防護壁や結界を張ってしのぐ。
それだけならまだ耐えられた。
そこへ飛来して来たのである、親衛モスラスの群れが。
これまでのモスラスの倍近い大きさの魔虫、女王とともに行動しているという。
猛毒の息吹で煙る中でも平気で飛んでいた。
大半は魔法師たちが築いた防御結界にぶつかって、いったん地に落ちたが、慌てた魔法師が張った不完全な防護壁は打ち破られ、その中に身を避けていた隊員数人が襲われた。
猛毒の息吹の中、エリナは助けに行くこともできない。
剣を抜いて必死に抵抗する者もいたが、息吹の毒に苦しみ、やがて倒れた。
エリナは意を決して、
「森の精霊よ、我が身に敵の毒より守る、見えぬ羽衣を纏わせたまえ」
と詠唱し、自分がいた結界から飛び出した。
「エリナ大尉、危ない!」
そばにいた魔法師が止めようとしたがすでに走り出し、
「森の精霊よ、風を巻き起こしたまえ」
と詠唱した。
親衛モスラスに襲われている小隊に強い風を送ったのである。
「ビュ〜」
毒の息吹と宙をとぶ親衛モスラスは、いったんは退けられた。
我に返った隊員の1人が、サーベルで親衛モスラスを切り捨てる。
しかし、すぐ隣では別の隊員2人が数匹の親衛モスラスにたかられていた。
両者は噛み付かれたままやがて空中に持ち上げられた。
「助けてくれ!」
「いや〜」
宙に浮いた隊員たちに親衛モスラスが襲いかかる。
「ブシュッ」
血のしぶきが飛び散った。
サーベルでモスラスを払った先ほどの隊員は、
「うわー」
と叫んで、仲間を助けることもせずにそばの結界に逃げ込んだ。
内臓を食い荒らされる酷い光景であった。
エリナは氷結魔法を宙に浮いた彼らに放とうとしたが、再びモスラスクイーンの息吹が到達し、エリナ自身も後方へ吹き飛ばされた。
宙に浮いていた隊員2人は呻き声を上げて、がくりとうなだれて揺れていた。
徐々に高度が上がっていく。
女王に直接餌として供しようというのであろうか。
絶望感が部隊を支配しつつあった。
ここでモスラスクイーンに蹂躙されて全滅するのか?
しかし、その時、モスラスクイーンにめがけて大きな青白い光の玉が撃ち放たれたのが目に入った。
希望の光であるかもしれなかった。
それは、魔虫の女王の翅にあたり、まぶしく弾けた。




